甘ったるく粘っこい女の声に、三人は合わせてた
波長を解いて身構える





「この声…魔女何でアンタが!?」


『やぁん覚えててくれてたなんてお姉さん
感っ激うぃいぃん!ベェ〜』



「貫け椿ぃ!」


『はい!』


林の端々を次々と飛び回る紙の鳥を 瞬時に
視界に捉え、ブラック☆スターが動き


狙い違わず鎖鎌の刃は 鳥の胴体を木に縫い止める





だが、紙の鳥の鷲ほどの大きさの身が自ら裂けて
二つに分かれ 宙を舞って 再び一体の鳥へと戻る





んもぅ!待ちきれないからってジレてそんなに
目クジラ立てちゃいやあぅあんv』



近くに魔女の反応は無い…ソウルプロテクトを
施して近くから見ているのか」





キッドの呟きを、が首を振って否定する





「多分それは無い アイツはきっと
下僕を介して、安全なトコで見物してる」







遠くからのいくつもの悲鳴や騒音に重なるように


木々を飛び回る紙の鳥の声も、ダブって響く





『と・り・あ・え・ず一度したかったのよぉん
宣戦布告ってヤツぅ?ま、アタシは派っ手に
ヤりたいから参加するだけなぁんだけどvV』


「宣戦布告…ってコトは お前もBREWを!


『まぁねん、アラクネちゃん達も狙ってるしぃ』


その場にいた九人全員に、緊張が走る


彼らが表情を固くしたのを見計らって
鳥は 堂々とその姿を現した





『それじゃ魔女代表アイサツはこれくらいに
しておくわあぁん?ま・た・ねぇんvV





言葉が終わると同時に、鷲に似た鳥の胴が膨れ


弾けて出来た紙吹雪の破片が 弾丸のように
彼らの周囲へと降り注いだ












Terzo episodio 俺軍の兵隊











破片が落ちきって、シュタインが訊ねる





「…全員無事か?」


「はい みんな大したケガもないです」





マカの答えから数瞬遅れて、彼らの近くにいた
オックスチームが血相を変えて現れた





シュタイン博士!今、魔女の攻撃が!」


「ええ、おそらく今回はただの挑発でしょう
警戒を怠らず 授業を続けてください」





後からやってきた他のチームに対しても


彼は、同じようにその言葉を繰り返した







――――――――――――――――――――





余計な茶々は入ったけれども、それで死武専内の
士気が下がることはなく





「それで、他チームとの共鳴は
どうだった?上手くいったのか?」


「うん 中途でいきなりだから不安だったけど
なんとか気合を入れたら、一発共鳴出来たよ」





月と星と町明かりに満ちた路地で 八人は
今日の授業の感想を言い合った





「そっか〜おめでと♪けどウチらも
合格もらえてよかったね」


「マジ泣きされたときはぶっとんだケドな」


「ああうん、僕も少し驚いたね」


「女の子は色々考えてるんだよ」


イヤッ!あれはほえただけ!!
誰が人前で泣くか!みっともない!!」


力いっぱいその事を否定しておいてから





「そんなコトよりブラック☆スター!!」


何?と振り返った彼に、マカは左手親指で
自らの顔を指しながら言った





「殴って」


「あぁ?」





名指しされた当人だけでなく 周囲の六人も
言葉の意図をすぐには理解できなかった





「お前それ、あの変態魔女と変わんね…
ジョークだよ と一緒んなって睨むなって」





謝るソウルから 向き直って彼女は続ける





「さっき私が殴った分の借り…
このままじゃ気持ち悪い」





椿は止めようとしたけれど、こうなったら
テコでも動かないマカの頑固さを知っているので





「ハンパにはやらねェぞ」


「それじゃあ意味ないからね」







みんなが黙して見守る中 二人は向かい合い





「くいしばれよ」





ブラック☆スターは手加減なしの一発を繰り出した





その強烈な右フックは、死武専生といえど十代の
少女の頬と身体で受け止めきれる威力ではなく


マカは数メートル先の通路の壁に二度ほどぶつかり


地面にものすごい音を立てて、墜落した





お前…少しは手かげんを……」


「あ〜あ〜スマートじゃねェな……」







半数は唖然とし、姉妹と殴った本人…そして


殴られた本人は 清々しく微笑んでいる





「いてェ…」


「うわホッペ真っ赤…女の子なんだから
無茶しすぎちゃダメだよマカ」





駆け寄り様、差し伸べたの手に捕まり
立ち上がったマカの頬へ


追いついた椿が冷やしたハンカチを当てる





大丈夫!?痛くない?」


「痛いけど平気、ありがとね二人とも」







――――――――――――――――――――







地底と闇に沈むアラクノフォビアの拠点
ババ・ヤガーの城内には





「"BREW"は波乱を起こす者にこそ
ふさわしい…皆の者 よく聴け」



ギリコを引きつれたモスキートが、居並ぶ
黒尽くめフード白仮面の兵隊へ呼びかける





「魔道具"波乱"はアラクネ様のものだ
死武専には渡さぬ」



相手も総出で挑むこと それを踏まえてなお

再び、モスキートは繰り返す





「"BREW"は波乱を起こす者にこそふさわしい」





その言葉にか それとも兵隊達の様子にか


"まったく愉快だ"と言わんばかりの笑みを浮かべ


黙っていたギリコが、天を見上げて叫ぶ





「戦争だ!!!」







―その声と 漏れる歓声に耳を傾けながら





うふふぅ…この戦争、勝者ももちろんだけど
お姉様の陣営がどう出るのか楽っしみぃん」


紙を食む、濃い紫に彩られたの唇が

笑みの形に釣り上がっていく





BREWの争奪に興味を持ち始めてはいたものの


彼女の目当ては あくまでもたった一つ


それ以外は全て、己の欲望と成り行きに従って
現れ訪れるただの副産物に過ぎない





「ああぁ〜ん、逢・い・た・い・わ
そして踏まれたいわんメデューサお姉様ん…!





今、この瞬間


地球のどこかに身を潜めていた当のメデューサは
とてつもない悪寒に襲われた事であろう







――――――――――――――――――――





そして…来るべき運命の日はやってきた







「"BREW"が眠るアラスカの北にある島―…「ロスト島」
過去に魔女たちの魔道具開発施設が存在していた」





いつになく真剣な声音で 語った死神いわく


施設は事故によって壊滅、その二次災害で島の中心に
人を寄せ付けない特殊な魔力の磁場が発生し


中に残された"BREW"を今も護っている





長い時間いると磁場によって身体を破壊されるため


磁場の中にいられる限界は、敵も味方も20分





"BREW"争奪戦!
これは時間との戦いでもあるね」








豪雨と吹雪が吹き荒れる北海に浮かぶ、天高く
巨大な渦巻きが突き刺さったような島


その島を目指すいくつもの船のうち


ある一団の先頭には、防寒用の衣装を
身に着けた死武専の教師二名と


生徒が十数人ほど乗っていた







「今回の戦いは"BREW"を取ったモン勝ちよ」





船頭を務めながら マリーは彼らに続けて言う





「作戦は先日話した通り 覚えているわね」


「はい」





すかさずリーダーシップを発揮し、マカが答える





「死人先生が率いる部隊がアラクノフォビアを
押さえている間に 私たちは魔道具が眠る
磁場の中に向かう」


一つ頷いてから 磁場の中に入るのは自分と
マリーだけだとシュタインは補足する





生徒である彼らに与えられた任務は、磁場の外で
待機し二人の帰りを待つこと





「これはとても大きな戦いだ しかし君たちは
一つ星の武器・職人の中でも選ばれた精鋭」





自信を持って戦いなさい、と力強い激励に


二つのチームと…約一名の生徒がそれに
負けないくらいの返事をした







「へへ、ビリビリ燃えてきたぜ





ゴーグルの奥の目を楽しげに光らせたキリクが
武器であるを装着した両腕をかち合わせる


しかし逆に 相方の角灯(ランプ)を掲げる
キムは不機嫌な顔つきになる





「むしろ寒いんだけど、てか任務とはいえ何で
こんな寒い島に…しかも、余計なオマケつき」


「それは僕が聞きたい」





首を竦め、声と身体を震わせて言う





…もっとも彼の身体が震えているのは


寒さだけでなく磁場の"魔力"による影響もある





だが、それに気づいているのはマカチームと
大雑把にシュタインから事情を聞いてるマリー


そして彼を任務に選出した、シュタイン当人のみ





先生方、何故わざわざ君を救護班として
この作戦に参加させたのですか?」


『僕もオックス君と同意見です、それに確か
彼は他の部隊の船に搭乗する予定では…』


「今回はどんな不測の事態が起こっても
不思議じゃないから 応急処置の出来る人が
いた方がいい、ってシュタインがね」


槍職人コンビへなだめるように言う
マリーの視線に反応し


シュタインが苦笑交じりに それに、と続ける





「万一魔女との乱戦になった時、共鳴できる
戦力は多いに越したことは無いだろう?」


なーるほど!要するに補欠か」


『身もフタもねぇ言い方だな…』





が、未だに不満が残るキムに同調するように
ジャッキーが食い下がった





『だとしても、こんな普通のヤツがいたら
逆に足手まといになると思います』


「そうなったなら無理せず船に帰らせればいい
…ただし、その後の扱いは保障しないがね


「あ、足引っ張んないようがんばります!





さらりと圧力をかけられ、真っ青になる
魔鋏を他のメンバーはおかしそうに笑う







彼に顔を向けたそのままで マカとキッドが
こそりと言葉を交わす





「博士が君をここに連れてきたのって」


「…ああ、きっとあの魔女を警戒してだ」







魔女らしく 自らの理に従う


行動に予想がつかない分、彼女の魔術の特性も
相まって アラクノフォビア以上に厄介な存在だ





先日の"宣戦布告"ではあくまでアラクネ側とは
無関係そうな口ぶりだったけれど


本人がそう言い張っているだけで


アラクノフォビアの軍勢と手を組んで
奇襲を仕掛ける可能性も考えられる





…だからこそ、念のためが呼ばれた





恐らくは"魔力感知"によるアンテナ役として







『けど…大丈夫?君』





船が島に着くまでの合間に聞く椿へ、彼は
見慣れた曖昧な笑みで返す





「平気だよ、博士の訓練のおかげで
今のトコロはまだ十分耐えられそうかな」





超スパルタな個人レッスンの甲斐あって


魔力の磁場による影響を、自分の波長を駆使して
弱めることで若干緩和出来ているらしい





「まっ、最強無敵なオレ様にかかりゃー
悪いがお前の仕事は一つもねーな!」


「あー…うん、そうなるといいね」







適当な相槌に満足して彼が島へ目を向けた直後





さり気なく長い前髪の隙間から
マリーの様子を伺って、は頭を振る





まただ どうして…いや、絶対気のせいだ」





しばらく前から…今も時折彼女の側で感じた

ありえない感覚を 必死に振り払おうとして








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ぶっちゃけ彼の参加理由(表向き)が
原因で話ストップしてました!


生徒全員:そのカミングアウトいらない!


ブラック:にしてもあの変態魔女、死武専に
堂々とちょっかいかけて目立ちやがって!


オックス:…君の怒りのポイントは理解不能です


キム:それを言うなら、あんな地味男
作戦に参加してるのも理解できないわよ…


シュタイン:彼は普通なだけあって、集団との
波長に無理なく合わせられるからね


マリー:だからって応急処置まで覚えさせて
無理に参加させなくたって


狐狗狸:きっと経験を積ませたいんでしょう
魔力に対しての波長コントロール含めて)


キリク:けどアイツ ドンくさそうだし、先行き不安だな




次回…BREW争奪戦 開幕!!


様 読んでいただきありがとうございました!