エイボンの作品である魔道具『波乱』
通称"BREW"の在り処を


アラクノフォビアが嗅ぎつけ、同時に
その情報を死武専もキャッチした





「これを取られると死武専にとって
まずいことになる」





死神は、大部隊でのBREW争奪戦を予期し


それに備えるべくシュタインへ 対抗授業の
加速化を促していた





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木々の生い茂る高台となっている第弐校庭は
野外での訓練に適しており


広い敷地のそこここで、生徒達は軽い準備運動や
イメージトレーニングなどを行い


指定のチームで各々の波長を合わせてゆく





そんな中…切り立ったガケに作られた堤防の上で





「妖刀―…オレの魂に応えろ…」





ブラック☆スターは、武器化した椿を手に
妖刀の魂へと語りかけている


白い白い心象風景の中には自らと椿、そして





何用だ…小僧 何故そこまで力を求める…』


禍々しい刺青に縁取られた、巨大で圧倒的な魂







おーいブラック☆スター…あ、いたいた」


呼びかけるリズの声の反応し





「いつもの「チームで魂の波長を合わせる」
練習だ 集まれってよ」





二人は、冥想から現実の世界へと引き戻された












Il secondo episodio 風向き×殺伐











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ブラック☆スターが以前の修行の際に手渡した
"吸魂水"を飲み干す、などという


前代未聞の荒行に素で驚く一幕はあったものの





「おしゃべりはこの辺にしておいて
早速授業を始めましょう」





集まった七人に対し、シュタインは普段の
落ち着きを取り戻して言葉を紡ぐ





「ちらほら皆で波長を合わせられるチームも
出てきている 君たちも遅れをとらないよう
あせってもらいた「あのー博士…」


が背後から呼びかけられ、彼は眉を寄せ振り返る





オカッパを思わせる、切り揃えた前髪に隠れた
くりくりの瞳を若干泳がせながら


片手を上げたが申し訳なさげに呟いた





「僕、相変わらず一人のまんまなんですけど」







基本、対抗授業は武器と組んだ三人の職人の
チームにて行われるのだが


クラス内の人数やパートナーの有無などにより
チームに加われない生徒も出てくる





いまだフリーの魔武器であるもそのクチで


けれどもシュタインが現在受け持つクラスでは

欠席者などの関係により、あぶれているのは
彼一人という状態になっている





「うわー…マジかよ、ついてねーな」


「今回 信者が出る幕はねぇってコトじゃねーの?
大人しくオレ様の活躍に期待して待ってやがれ!」


「きゃはは、ぼっちカワイソー


「こらパティ笑ってやるな」





面倒くさそうに頭を掻いて シュタインは答えた





「あー…じゃ君は他のチームを見学
もし空きが出たら、適当なチームに入れるから」


「…分かりました」





不承不承が邪魔にならない位置まで
引っ込んだのを確認してから


改めて彼は、マカチームに再度説明を行う





「ここ一週間、教職員総出でアラクノフォビアに
対しての"対抗授業"を進めてきたが

戦いを前に全生徒を見ていては効率が悪い…」





活発化しているアラクノフォビアとの抗争が
すぐ側まで迫っている事実を示し


故にこその厳しい現実を、宣告する





「今日中に波長を合わせられないチームは
オレの授業からはずす…いいな…」








その一言で、全員が改めて気を引き締め





各々の武器を手にしたマカとブラック☆スターと
キッドが正三角で結ばれるポジションへと並ぶ





「ちゃんとやってよ ブラック☆スター」


「いつもやってんだろ…」


一言二言を交わし、三人は目を閉じて…


互いの魂の波長を伸ばし 繋げてゆく





けれど、マカとキッドは難なく波長が合ったのに


ブラック☆スターとの波長が上手く合わず

乾いた破裂音が二度ほど空中に響き渡った





「ダメか…」





もう一度、とシュタインが指示するも結果は同じ





魂の波長が見れないでさえ、今の音と
三人の様子とで 彼らの失敗が分かる


更に言うなら…何が原因かも





「ブラック☆スターの波長が…大きすぎるんだ」


一度"共鳴"を行ったからこそ、彼は
その膨大な波長と扱いの難しさを知っている





それに気付いてはいても 苛立ちと焦りが
募るあまり、業を煮やしたマカが言う





「もっとちゃんとやってよ!!」


「やってんだろ」


「いつも勝手なコトばかりしてるから!
少しはみんなに合わせてよ!!」






彼女なりの言い分に、自分なりの努力を
否定されたと思い 彼も思わず言い返す





「何でオレがのろまに合わせないといけねェんだよ
クソみてェな馴れ合いは御免だね」



「んだ!?コラ!!」


「やめんか」





険悪な両者の合間にキッドが割って仲裁に入り





「今日はまだ長い…少し休憩にしよう
話し合いでもして頭を冷やすといい」





マカチームに休憩を与え、シュタインは七人から
背を向けて林の奥に消えて行く







争いはどうにか免れるものの マカと
ブラック☆スターの合間に流れる空気はいまだ険悪


そんな中…椿が不安そうにポツリと呟く





「シュタイン博士…今日は何だか顔色が
よくないみたい、大丈夫かしら?」


「確か マリー先生もなんだか最近だるそうに
してるって言っていたような」





会話に入り込もうとしていたの目の前を





「…ソウル、私ちょっと行って来る」


「オイちょっと待て、どこ行く気だよ」


パートナーの魔鎌を放り出して マカが通り過ぎる


ソレを彼が止めようとする間もなく、別の方では





クソ、やってられっかよ行くぞ椿」


「おい待てよブラック☆スター!」


ブラック☆スターも別行動を取ろうとチームから
離れかけ、トンプソン姉妹に引き止められる





「落ち着けブラック☆スター お前達は何を
そんなに焦っているんだ?」


「うるせぇよ オレ様の歩みを止めようってんなら
かかってきやがれ、お坊ちゃん」



「…何だと?





にわか起こりかけた二人の小競り合いを止めたのは







「ほんっと、恵まれてるね君たち」





―突き放すような、ツナギ少年の一声





「「何が言い(たい・てぇ)、」」


「だってそうじゃない?真剣に向き合う
相手がいなきゃ、ケンカなんて出来ないもん」





気炎を上げる少年二人にたじろく事なく正反対に


抑揚の無い表情と口調で彼は、木々の遥か
向こうを指差しながら素っ気なく続けた





「バトってうさが晴れるなら好きなだけどうぞ?

ただし、僕らに一欠けらたりとも見えず関係せず
メイワクかかんないトコでお願いします」






どことなく棘のある…彼らしくも無い言い方が


逆に両者の怒りを削いでいった





「…とりあえず、波長を合わせる方法を
前向きに検討した方がいいな」


「だな、ケンカなら後ででも出来らぁ」







話し合いが出来る空気になったのを見て
は、一つ息をついて





木に背を預けたその肩を ソウルが軽く叩いて笑う





「お前にしちゃ上出来にCOOLな言い回しだな」


「ちょっと君のマネ、後は経験則かな?」


君もパートナーがいれば、私たちと
チーム組めたかもねっ にししし!


「いや…それはムリかな」





複数の魂と波長を合わせるのは並大抵ではない


今、組まれているチームは 現在考えられる限り
最大限の状態となっているので


"もう一人"が挟まる余地は 今の所ゼロに等しい









ともあれ一旦はまとまりを取り戻し、試行錯誤を
メンバーと話し合っていたキッドが気付き


釣られるように全員が 戻って来たマカを見やる





張り詰めるような両者の視線が絡み合い…







こそこそ博士に告げ口かよ 勝手なこと
やってんのはお前も同じだな!!」





挑発に、彼女は距離を詰めて右腕を振りかぶる


しかしブラック☆スターは左手で軽くいなすと
勢いを利用して足を払い、投げ技を繰り出した





「同じワケねぇよな…オレはこんなにヘボくねぇ」


「オイ 二人とも…いいかげんに…


「好きにやらせとけ」





再び仲裁に入ろうとするキッドを、ソウルが制し


立ち上がったマカの拳が 彼の左頬を撃ち抜く





勢いで後退り、土煙が収まるのを待って

ブラック☆スターは口を開いた





「これで満足か?」





避けれた一撃を敢えて喰らい、それ以上は
"決闘の意思あり"と見なす発言の後





「オレは本気でぶっつぶす!!」


これ以上無い敵意を持って 彼女を見据える





全員が見守る中…マカはうつむいて相手の前を
通り過ぎてチームに背を向け―







「クソッたれェ!!!」







心からの 魂からの叫び声を張り上げた





泣きじゃくりながらあらん限りの呻きと悪口を
悪口を吐き出しながら駆けて行く姿は


他者から見たら、ただならぬ気色(けしき)で





「何だ?仲間割れか?」


通りかかったオックスチームの一言がピタリ
ハマって外れない様相を呈していた







直後、咎めるような椿の拳骨を喰らって





「ごめん椿―…頼んだ…」


すまなさそうな顔をした彼は 自らの
パートナーにマカの説得を任せた





同時に、も木から身を離して動き出す





「あんだよ、信者は出しゃばんな」


「言われなくても無関係だし、僕は僕なりに
行動させてもらうよ…OK?





相手が頷いたのを見て、彼はついでとばかりに
オックス達へシュタインの居場所を訊ねるが





教えようとしたキリクの口を片手で遮って


キムが手の平をツナギ少年の前へと差し出した





い゛!なにソレお金取るの?!」


「タダで言うほど好きじゃないの 特にアンタは


「「ちゃっかりしてんなぁ〜」」







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程なくしては、木に寄りかかって
息を整える教師の姿を見つけた





大丈夫ですか?博士」







シュタインは 目だけを開けて答える





「ああ…二人の魂がぶれた時もそうだが
君は存外、修羅場に強いんだな


「慣れですよ」


放たれた一言には妙な説得力と重みがあった





「誰も話を聞いちゃいないし、それだったら
流れに任せようかと思いまして」





己の内にある不安や狂気と戦いながら
生来の彼が持つ好奇心は


メガネを通して、目の前の少年を探る





君は今回、オレの授業から外されるかも
しれないというのに
…余裕なんだね」


「板についちゃいまして、やせガマンてヤツが」


曖昧に笑って はその瞳を受け止める





「それでも僕は、まだ出来るコトがあると
考えてますよ…心から、ね」





役にも立たず消えるとしても、簡単には
消えてやらない
…と言った負けん気が


珍しくの言葉と表情から にじんでいた







パンパン と軽く白衣の裾が叩かれる





「…さて、少し体調も落ち着いてきたし
授業を再会するとしますか」


「僕も 見学してて構いませんか?」





微笑をたたえたシュタインの頭が 縦に振られた





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椿と会話を交わすうちに解決の糸口を掴み


恥ずかしながらも、彼女と迎えに来た
ソウルに連れられてチームの元に戻ったマカは





ごめん!!空気 悪くした!!」


一番初めに 素直に謝った







残る六人とシュタイン そして見学の
微笑んで彼女を出迎え





「うおっしゃああ!!

早速始めんぞォオ!!」






景気づけに、ブラック☆スターが気合を入れて
授業は仕切り直しとなり


目を閉じて 正三角形の頂点まで距離を取った
三人が波長を流し込んでゆく







……今度は 弾かれたりしなかった





空気を通して伝わる、三人と武器達との波長は





「すごい…!」


「まだ荒削りだが―合格点」





感知できるものだけでなく その力が無い
魔武器や職人でさえも肌で読み取れるくらい


内に潜む"小鬼"をソウルが笑い飛ばせるくらい


強くて真っ直ぐで…調和の取れた力だった





「このチームのリーダーは マカだな」


満足そうなシュタインの笑みの隣で





「僕も、あんな風になれたら…!」


も期待と憧れを 授業に抱いて臨もうと
ぐっと拳を握り締めて







ハァッロォウ〜ン!プリティー・マッドな
死武専のカワイゥイ チェリーちゃん達ぃん♪』






そこへ野暮で無粋な乱入者が唐突に割って入った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回、マカと椿ちゃんとの掛け合い
書くかどうか悩みましたが 雰囲気を壊すのも
アレなんで割愛しました


キッド:筆が遅いのはもう呆れるしかないが
、性格変わってないか?


パティ:きっとムシされすぎてキレたんだよ!


狐狗狸:まあ…その辺は放置で(笑)


マカ:てゆうか最後のアレ、またあの魔女が
死武専に乗り込んでくるとかじゃ…!


ブラック:心配すんな!オレ様にかかりゃー
あんな変態魔女 一発でけちょんけちょんだぜ!


ソウル・リズ:あっさりその魔女の罠にハマった
バカはどこの誰だっけ?



椿:それは言わないで二人とも…




彼女の乱入も交え、いよいよ舞台は吹雪の北島へ!


様 読んでいただきありがとうございました!