入り口を出て、僕らは中庭を突っ切って
ホテルの堀を沿いながら裏口側へと進んだ
細いスキ間を通り抜けた先へたどり着くと
サビだらけの柵が一部壊れていて
工事中だったのか 急ごしらえの足場が堀へと
渡されていて、タテ長の窓枠がぽっかり開いていた
「まさか、こんなトコから入れるなんて…
どうしてご存知だったんですか?」
「なぁに、老いたメンドリからはよくダシが
出るって言うだろ?」
"これくらいお手の物"って態度で笑いながら
さんは足場を渡って手招きする
こわごわ窓枠まで歩み寄って 室内を探って
縁に足をかけて身体をもぐりこませる
う…やっぱり今の僕だとこのサイズは少し
つっかえるみたい…キッツ…
幸い変につかえることなく窓枠を通りぬけ
倉庫らしい部屋から、警戒しつつ廊下へと出て
ガレキがあったあの場所までたどり着くけれど
あちこちがヒビだらけの通路には 誰もいない
「おろ?ブレアちゃんがいねぇ…」
待ってろって言ったのに…どこ行ったんだアイツ
「行きましょう、ここにいても安全とは言えませんし
早いトコ他の二人と合流した方がいいでしょう」
「お、おぉ…やっぱよしときゃよかったなぁ…」
とことん弱気なセリフを後ろで聞きながら
僕は、黒く変色している階段を踏みしめる
Quarto episodio 了然なる豹変(狂犬かつ猟犬)
二階でも お化け屋敷顔負けな風景が広がってた
破損のせいなのかわかんないけど 開かないドア
無理やり開けても ガレキで通せんぼされてたり
奴らの待ち伏せなんかがあるから意味ないし
てゆうかそもそも敵の外見がコワ気持ち悪い
ぬめぬめした粘液にまみれた、頭のない
1mほどのムカデみたいな虫とか
飾ってある薄汚れた絵画から
表面のいたるトコロに目玉を生やしながら
絡みつこうと迫る大量にはみ出た触手とか
授業で慣れっこな僕だって、悲鳴を上げたくなる
…それでも立ち向かえてるのは
"頭痛"をともなう感知があるのと
「うお気色悪っ!こっちくんな!おい兄ちゃん
そこの掃除機でそいつら吸い取って放り捨てろっ!」
「壊れてるし無理です、あと落ち着いてください」
僕よりパニくってヘタれまくってるさんが
すぐ側にいてくれるから、かもしれない
「あーマジどこ行ったんだよ神父の兄ちゃんと
ブレアちゃん〜本当キツい帰りてぇマジ帰りてぇ」
「だったらなんでついて来たんですかアナタは…」
―またぐらりと揺れる視界が 檻と魔女を映して
魔女の姿が忌々しいあの腐れ女に
鳥かごくらいの大きさの檻が…見覚えのない
スーツの男にすり替わって現れる
古めかしいスーツっぽい格好で、俺と同じか
ちょっと高いくらいの背の丈
顔だけが、歪んだ曇りガラスを通したみたいに
ぼやけてねじれてハッキリしないのに
アイツと同じか それよりもイヤな雰囲気がして
「おい兄ちゃん!そんな物騒なモン出して
またどっかから化けモンが出てくんのかよ!?」
呼びかけられて、自分がいつの間にか両腕を
武器化しているコトに気がつく
「大丈夫です、最近目まいがするみたいで」
「またかよ頼むぜ?こちとらさっさと魔女
ぶっ倒してあったけぇベッドで眠りてぇんだからよ」
苦笑しながら手を元に戻しつつ、ふと思う
この人 被害者にしてはあんまり眠そうなトコ
見てないな…個人差でもあんのかな?
「にしてもここ、結構いいホテルですね」
「あぁデカい事故だかで派手に燃えちまって今は
このザマだが これでも建った当時は上流の連中も
お忍びで来てたっつー話だぜぇ?」
窓の外からチラっと見えた、時計塔の
角らしい部分を指してついでに聞いてみた
「あの時計塔もホテルの備え付けで?」
「いやアレは前からあったらしくて、殺人現場に
使われたってんで目玉になってたな」
商魂たくましいけどロクでもないな
「いやそうなツラすんなよ兄ちゃん、オレだって
こんないかにもなトコ長居したくねぇんだよ
出入りしてた古株のジジイもここでくたばったとか」
鼻がひん曲がるほどの鉄くささを嗅ぎ取って
その場でさんと床に伏せれば
隣の壁がいきなり裂けて、さっきまで僕らの頭が
あったトコ貫通し 衝撃波が窓から外へ飛んでゆく
舞い上がる煙の奥でけたたましい金属音がつんざいて
「チッ、避けやがったかクソが!」
とがった髪の変な男が蹴りかかって来た
交差させた両腕を武器化して防いで、そこで
男の足がチェーンソーに変わっているコトに気づく
「さっきからオンボロホテルで暴れてんのは
テメーらだろ?探しモンの邪魔なんだよバラすぞ」
大きめの背丈とガッチリしたガタイ、ファーつき
コートがガラの悪い人相と口調にハマってる
…話で聞いてはいたけど 大体特徴合ってるし
恐らく、間違いなくこいつは
「魔道具が狙いか、アラクノフォビア」
読みはあってたようで ヤツはイカクするように
ノコをうならせてがなり立ててくる
「だったらなんだ?アレは元々こっちのモンだ
グダグダ抜かすなら八つ裂くぞツナギ野郎!!」
「あ゛?やって見ろやクソノコギリ野郎がぁ!」
アラクネの手下だからってのも、マカや死武専へ
たびたびちょっかい出してるってのもある
ついでに気持ち悪いニオイもしてるけど
それよりなにより個人的に こいつは虫が好かない
「おっかねぇのが出てきやがったぁ〜…」
「さん言ってる間に逃げ…てるー!早す
「ヨソ見か?余裕コキすぎだな」
すんでのトコで首をかばって、カカト落とし気味の
タテ攻撃を右腕で止めながら左の両刃を突き出す
胴体狙いの挟撃は 寸前で感づかれてかわされ
皮一枚の浅い刺し傷になってしまった
「やってくれるじゃねぇか…そうこなきゃ
面白くねぇ!肩慣らしにゃ丁度いいぜぇ!!」
楽しげに笑って、ノコ男が踏み込む速度を上げる
「クソも凍るクソ寒いトコに長居したくねーんだよ
とっとと刻まれちまえ!テメェはよぉ!!」
「黙れそのドブくせぇ口切り取られてぇか!」
叫びながらカウンター狙うけど かすりっぱなしだ
こいつの攻撃は重いし速い、足技が得意なのか
鋭い蹴りが連続でおそってくる
それでも…この身体のおかげでほぼダメージを
受けずにどうにか立ち回れてる
納得のいかない悔しさをかみ締めていたら
強烈な一撃をもらって、ガードごと押されて
ノコ男が出てきたホールに吹っ飛ばされる
「げほっ…」
「無事か兄ちゃん!」
ヤバイ…場所が広くなったのはいいけど
後ろにこの人がいたら巻き添えになる
深手負う覚悟を決めて 両手を武器化し身構える
釣り目気味だったノコ男の目の色が変わった
「なるほど…そのナリじゃ気づけねぇワケだ
テメェが"伯爵"の"双剣"かよ」
あのシロアリ悪魔や"結社"の連中以来の
その言葉を、ワケ知り顔で口ずさむ
「お前が何を知ってるって…ぐっ、うぅぅ!」
言葉半ばで目の奥を刺すようなキツい頭痛が走り
「あら、人の根城で騒ぐなんてアンタら
マナーがなってないんじゃないの?」
夢で聞いた、胸くそ悪い女の声が廊下に響く
「ベアベーアロビンソン ウーフディントンパ」
不快な感覚と直感を頼りに、床を蹴って後ろに飛ぶ
間を置かず 一階で見た壁と同じ感じで
でかいホールを二つに分割するぐらいクソ巨大な
偉人っぽい彫像が生えてきた
「次から次へとうざってぇぇ!鋸足3速!!」
耳障りな音がしたけれど、像は壊れたりせず
向こう側からはノコギリ男の悪態だけが聞こえ…
「ぼーっとしてんな!上っ上っ!!」
背中越しのしわがれ声に指摘されて見上げれば
ホール天井に届くほどの彫像の頭がごろりと取れて
像の足元に地響き立てて落っこちる
けど…頭が再び動き出し
凶悪なツラでこっちをにらみつけて来た
「にっににに逃げんぞ兄ちゃん!!」
言われるまでもなく同意して走り出した俺らを
直径二メートルほどの頭が床を飛び跳ね
あちこちにキレツとヘコみを造って追ってくる
どんどん跳ねる回数と速さが増えてきて
追いつかれて潰されそうになる度に叩き返すけど
切りつけても、叩き切っても切っても
「まだ追って来やがる!いい加減にしろよぉぉ!」
ごもっとも つかあんだけ跳ねてよく床が抜けな
…まてよ、確かこの先って
「げ!階段トコまで戻って来ちまった!
つかあの先はどん詰まりじゃねぇかっ!?」
見覚えのある床の大穴と階段 遠くに通路の壁が
うっすらと見えてくる
ここでデカ頭とやりあっても 物量差で穴に落とされて
潰されるのがオチだ、けどどうにか穴を越しても
どん詰まりの壁に挟まれちまう
ああもうこれならウチのアパートのがまだ頑丈…
ご丁寧に穴を避けて歩いてるヒマなさそうだし
一か八かやるしかない
小さな身体を左脇に抱えて僕はつぶやく
「さん、じっとしててください」
片刃に変えた右腕へ 意識して波長を集めて
「罰殺っ!」
床を叩き割る一撃を放ち、同時に
崩れかかる足場を踏み台に階段へと飛ぶ
階段手前の廊下一帯が大穴と化して
そこへ突っこんで来た頭が 足場を失って
一階に沈み、かわいた陶器みたいに砕けた
「ぎ…ギッリギリだったなオイ」
「生きた心地しませんよねホント」
階段まで崩れなかったのと、ちゃんと
登り階段の方へ着地できたのは幸いだった
あーでもコレ帰りどうしよ…いいや後で
急いで三階へ上がって、辺りの波長で敵が
いないのを確認して近くの部屋へ駆けこんで
中へ入ってドア閉めて ようやく一息つく
「おい兄ちゃん早く下ろしてくれよ
これじゃカッコ悪ぃったらありゃしねぇ」
「あ、ゴメンなさい」
それもそうだとさんを下ろした直後
「「ふわぁぁぁ…」」
口から出たあくびが、二人分重なって響く
「ったく、こんな時に限って手元に酒がねぇなんざ
やってらんねぇや なぁ兄ちゃん?」
「ですね でも今眠ったらヤバいですから
かえってよかったのかもしれませんよ?飲めなくて」
もっとも僕は未成年だから大っぴらにのめないが
けどジャスティンさんの爆音か…悔しいけど
ブレアがいなきゃ この眠気をすっとばすのはキツ
背中の毛が逆立つような気持ち悪さが立ち上がって
「も〜君たらこんニャかわいいネコちゃん
ずっと一人にしとかないでよーどこ行ってたの?」
いつの間にか頭に乗っかってた黒猫を、すかさず
両手でつかんで引っぺがし床に落とす
「それこっちのセリフ、待ってろっつったろ?」
「アイツらが急に襲ってきたのが悪いんだモン
モテすぎる女もツラいトコロだニャ♪」
「イヤッハー!
会いたかったぜブレアちゅあ〜ん!!」
両手を広げ、人の姿に化けたブレアへ抱きつきに
行ったさんだが あっさり避けられた
「おろろつれねぇぜ、心細くて震えてた哀れな
ジイさんをやさしく受け止めてくれよぅ」
「ごめんね〜ブーたん忙しいから
このお仕事終わってからサービスしてあげる♪」
「おっほぉー楽しみにしてるぜ!」
なにやってんだか…とため息をついた直後
抗いようのない波の中へ落ちて二人の姿が消える
かわりに見えるのは 粗末な墓石と刻まれた
懐かしい名前をながめる 顔の見えないあの男
顔を合わせて話すさっきのノコ男とジャスティンさん
言葉は途切れ途切れでよくは聞こえないけど
あれは…少なくとも敵対してるように見えなくて
『アンタは知らなくてもいいコトよぉん?』
甘ったるくて吐き気のするあの女の声と顔の向こうに
円柱みたいな形のあの檻と、その中で秒針だけが
動き続けている丸い時計を目にして
「君?「ふおっわ!」
「っだー兄ちゃんびっくりさすなっての!」
我に返るとブレアの顔が目の前にあったもんだから
ビックリして声上げたら さんに叩かれた
「んもー考えゴトしすぎてブレアのコト
見落とすニャんて冷た〜い〜」
「わ、悪かった それはあやまる…から離れろ」
「そんな枯れちまってる兄ちゃんよか
オレを見てくれよぉ〜」
さっきのは夢…だよね?いや、そうに決まってる
どんどん眠気が強くなってるし こっからは
気を引き締めてかからないとヤバイな
「そういえば二人を見つけるまでの間に
イヤホン神父さんに会ったよ〜」
「マジかどこで?つか一緒に来れなかったのかよ」
「んーニャんか他のとバトってたし、他にも
変ニャの入りこんだからそっち追っ払うって〜」
「そいつならさっきまで戦ってたから知ってる」
とにかく今後の方針と定期連絡のためにも
鏡を探さなきゃ…この部屋にあればいいけど
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:えー今回の反省点は、夢主の名前が
二度しか呼ばれてないのとオッサン出張りすぎ
ブレア:あと当然更新遅延があるニャ♪
ギリコ:後でテメェ八つ裂きの刑な
狐狗狸:それだけは勘弁してつかーさい
ギリコ:ったくあのディーテって女、こんな
クソボロイ便所ホテル根城にするとかありえねー
狐狗狸:そこは本人の感性というか…つか
城の外観とかはババ・ヤガーもどっこ「あ゛?」
スイマセン調子こきました鋸足止めてください
ブレア:死武専らしい舞台だけど、このホテルも
モデルがあったりするの?
狐狗狸:まーね、ホラゲ由来なんで分かる人には
もうバッレバレなんですが(笑)
個人差もありますが夢主はアレの影響で眠気強め
ただし"魔力感知"の副作用で±0に
様 読んでいただきありがとうございました!