激しい爆音にヘキエキしながらも、どうにか
魔女が潜伏しているホテル跡地へ到着した
「うぅ〜…耳がキンキンするぜ 神父の兄ちゃん
もうちょいボリューム下げてくれよぉ」
「あー…スイマセン、この人徹底的に
自分を貫くタイプなんで」
一つあくびをかみ殺しながら僕はあやまる
「ツナギの兄ちゃん腰低すぎだろ、もっと
胸を張れよなっさけねぇなぁ」
ごもっとも、でもあんだけ悲鳴あげてた人に
言われたくないんだけどなーそれ
「君、近くに魔女か魔道具と思われる
反応はありますか?」
「え!?あ、はい今調べてみますっ」
不意に声をかけられて戸惑いながらも
目を閉じて…塀の内側にある館にあるだろう
"魔力"の気配を意識する
大人の姿になっているせいなのか、普段よりも
ずっと波長の調整が楽になってるようで
範囲も 心なしか少し広がっているみたいだ
「…館にはいくつか魔力反応が出たり消えたり
してますけど、強いモノはないみたいです」
「魔女や魔道具と思しきものは無いのですか?」
問われて、僕は首をタテに振る
魔道具の波長はよくわかんないけど
あの魔女の波長だったら、一度対面してるから
間違いなく断言できる
「ってコトは館の一番奥か…隣に建ってる
あの時計塔に魔女がいるかもね?」
呟くブレアにつられるようにして、時計塔を見る
Terzo episodio 願いと檻(狙い通り)
ツタが絡まり ススと土ほこりとで薄汚れて
あちこちにヒビが入った外見はホテルと同じで
いかにもな雰囲気に 思わずツバを飲みこんだ
「ここって地元でも"出る"って有名なトコだぜ
うへぇ…ここに入るのかよぉ〜」
「あ、じゃあ棺桶に入って待っててもらえれば」
「いやいやいや!冗談だとしてもそりゃ
笑えねぇって兄ちゃん センス悪ぃーぜ!!」
文句言いながらも、おっかなびっくり
さんがぴったり後ろについてきて
サビの浮いた鉄門を潜った俺たちは
ホテルの両扉を軋ませて、中へと踏み入る
―ほんの少しだけ 視界がぐらりと揺れて
一瞬 夢に出てきたあの魔女と
側にある檻のような物体が見えた
「おい、大丈夫か兄ちゃん」
呼びかけられ、意識が現実に戻ってくる
「あ…スイマセン、ちょっとボーっとして」
「しっかりしてくれよ 神父の兄ちゃんと
ブレアちゃんは先に進んでんぞ?」
やれやれ、と言いたげな老顔に苦笑を
返しながらも同時に確信する
今回の件にも魔道具が関わっていたコトを
魔女"ディーテ"がある魔道具を使って
力を増幅している可能性は高く
道具についても 既に見当はつけられていた
魔道具の名称は"代償の檻"
対象とする"何か"を檻の中へ捧げるコトで
使用している間のみ、所持者に力を与える
『対象として奪われているのは…恐らく
術をかけられた人間の"時間"だろう』
嫌悪をふくらませながらも、僕は先生に
言われた言葉を頭の中で復唱する
『、お前は魔女と魔道具の発見に
徹してくれ…絶対に無茶だけはするなよ?』
分厚いホコリの積もったカーペットを通り
端々が欠けてる真正面のデカい階段を
登りながら上を仰ぐ
古ぼけた柱時計を堺に、通路の両端に
二階に通じるだろう扉がある踊り場があって
"キッド君が気に入りそうな並びだな"なんて
のんきなコトを考えてしまった
先頭切ったジャスティンさんの数段下で
人の姿になったブレアが立ち止まって呼びかける
「く〜ん早くしニャいと置いてくよ〜」
「待ってくれよブレアちゃ〜ん今行くぜぇ〜」
ヒイヒイいいながらも顔をニヤつかせて
さんが僕を追い越して
鈍い包丁の刃で殴られたような頭痛が走る
「危ない!止まれっ!!」
叫んで その場の全員の動きが止まった直後
斧に似た巨大な二つの刃が階段を貫通する
「うおあっ!?な、なななんだ!!」
「ニャっ!あっぶなー」
二人はスレスレで避けたみたいだ、よかっ…
いや待て待て待て!貫通したトコからの
ヒビが広がってて…間に合わないっ!!
「どわああぁぁぁぁぁぁー!!」
ボロだった階段の崩落に二人が巻き込まれ
こっちも危うく落ちかけたから、手すりから
ギリギリ飛び降りて一階の床へと着地する
…けどちょっと勢い余って、つまづいて尻もち
「惜しかったですね、もう少しでしたよ」
「言わないでくださいよ…って
ジャスティンさん!両側から来ます!!」
上の踊り場に退避したジャスティンさんが身構え
両方の扉を突き破って突進してきた
頭のない上半身同士がくっついた女のマネキン二体の
攻撃をかわして反撃へ移る
続く頭痛をこらえながら二人が落ちた辺りへ
駆けつけざまに、斧の刃から生えた気色の悪い
トゲだらけの犬もどきが迫ってきたから片づける
「二人共!大丈夫「うぎゃああぁぁぁぁ!
痛えぇぇひぃぃいぃ死ぬうぅぅ!!痛ぇよぉ!」
…大声でのたうち回ってるさんは
案外大丈夫そうなので、ブレアの方へ視線を移す
「ブレアは平気だよ〜…イタっ」
「足をやったのか?」
「んー、ちょっとくじいたかも」
舌打ちをして、上にいるジャスティンさんの
様子を見ようと顔を上げたら
「待ちなさい!神の裁きから
逃がれられるとでも思っているのですか!!」
「いやあのそっちが待ってジャス…ああ!!」
彼は化け物を追って、破壊された右の通路へ
駆け出して行ってしまった
「本当に神父の兄ちゃん人の話聞かねぇな!」
「でもクチビルは読めるんだって〜あの人」
「マジかよ!いやでもそんな余計な能力が
あんならイヤホン外せよ…イダダダ!!」
「それは本人に言ってください」
言っても多分、聞かないと思うけど
ため息つきつつ二人に応急処置を済ませる
ブレアは軽い捻挫 さんは大げさに
痛がってた割に打ち身とすり傷だけだった
「いや〜助かったわーしっかし兄ちゃん
その手ぇ便利だな、何の武器なんだ?」
「君はね〜ハサミニャのよ」
「ハサミ…」
「ニャ?どうかしたのさん」
「いや、昔の地元でハバきかせてた一家が
魔女とつるんでるだの ハサミの化けモン
飼ってるだのってマユツバ話を思い出しただけさ」
また一つ大きくなる心臓を抑えて、訊ねる
「その魔女には…会ったんですか?」
「いいや、生憎見かけたのはその魔女の
化けモンってトコだな」
「へ〜それでその人たちってどうニャったの?」
「カタギにもさんざ手ぇ上げてマフィアの風上にも
おけねぇ商売してた連中だったからな
ゴタゴタの末 死武専に狩られたって聞いてるぜ?」
…それは、おぼろげには知っていたけれど
適当に感心しているフリだけしておいた
ケガ人もいたし少しの間、待機していたけれど
ジャスティンさんが戻る様子が一向に
見られないみたいなので
合流するために 別の階段を探すコトにした
やっぱりくじいた足が痛むのか、ブレアは
ちょっと動きづらそうに顔をしかめる
こんなトコで立ち止まられるのもイヤだから
「足元、崩れてるから気をつけろよ」
少しだけ、体勢を整える間だけ手を貸してやった
「ありがと〜君やっさしー♪」
「別に…今回だけは特別だからな?」
イヤな肌のざわつきさえなければ…コイツが
魔力を持った猫じゃなければ
なんて、ほんの一瞬ちょっとだけ思った
きっとこの柔らかい手の平と、人懐っこい笑顔を
絶やさないブレアの態度のせいだ
じゃなきゃ俺はこんな間違ったコト考えない
クソッ、早いトコあの魔女ぶち殺って
元の姿を取り戻してや…ん?
「どうかしたんですかさん?」
「まーちょっと耳貸せよ兄ちゃん」
手招きされて、少し屈むようにして耳を近づけた
僕へあの人はこうささやいた
「C' una relazione sessuale con quella strega?
(あの魔女のネェちゃんとはもうヤったのか?)」
あんまりな発言に 吹き出しながら全力で否定
「Assolutamente diverso!
(絶対ありえません!)」
「お、南部訛りか けど生粋の南部出じゃねぇな?」
図星突かれて怯んだ僕に、いやらしい笑みを
返しながらさんは続ける
「Ma pensi che una persona esperta e migliore di
un amatore se tu l'esperimenti una volta?
Lei completamente e una persona esperta」
「Per favore perdonalo…」
「Non lo tiene su, e sara una bugia per
non fare passione a lei?」
「Sara un cattivo scherzo?
Ad una strega come per la passione!」
「ねー二人してニャに話してるの〜?」
横から覗きこむようにして割りこまれ、俺たちは
思わず肩を震わせる
「な、なんでもねぇよ!」
「そうとも、男同士の会話ってヤツさ
ソイツを聞くのは野暮だぜ?ブレアちゃん」
「えーブーたんだけ仲間ハズレニャんて
つまんニャ〜い、一緒にお話しようよ〜」
意味深にニヤニヤしてる顔から距離を取りつつ
僕はジャスティンさんがいなくてよかったと思った
…あの人いたら、多分注意されてた
外見同様にホテルの中は相当ボロくなってて
程度の違いはあれど、壁や床にヘコみや亀裂があり
壊れた破片がホコリやゴミと一緒に散らかってる
眠気を伴う頭痛のせいか室内の空気のせいか
気分が悪くなってくのをこらえながら
廊下の先を曲がったトコロに…階段はあった
「おいおいマジかよ、ロビーんトコにあった
案内図じゃここが唯一の階段だぜぇ?」
さんが嘆くのも無理はない
廊下の先に現れたガレキの山の、上の方に
二階へ続くだろう階段がチラッと覗いている
ガレキはいくつかの柱と調度品とソレがあった
上の階の床とかで構成されてるようだ
「コイツを退かしてオレらが通れるように
するにゃ、ちょいと骨が折れそうだなぁ…」
「ブーたんならコレぐらいスルリと抜けれるよ〜」
言うが早いか、猫の姿になったアイツが
するするとガレキの隙間に潜りこんで見えなくなり
間を置かずに 向こう側から声が響く
「じゃーブレアの術でこのガレキどかすから
二人ともちゃーんとはニャれてね〜♪」
「はあっ!?ちょ、ちょっと待てよ正気か!
こっちには一般人が…アレ?」
側にいたハズのさんが見当たらず
辺りを見回せば…少し離れた後ろの曲がり角から
顔だけ出してるのを見つける
「よ、よーし行けブレアちゃん!ぶっ飛ばせ!」
本気で調子がいいなこの人は、つーか
老人状態のクセに逃げ足速っ!
驚きつつもその場から退こうとして…頭が痛む
反射的にガレキの側から離れれば、下から
黒くて分厚い壁みたいなモノが生えてきた
「ニャっ!ニャニよ邪魔しないでよ!」
立て続けにガレキの向こうとこっちへ
天井の穴から不気味な化け物が飛びかかってくる
クソっ!こっちはこの人を護るだけで精一ぱ
「おい兄ちゃんっ一旦外に出んぞ!!」
「はぁ?!こんな時になに言ってるんですか!」
「思い出したんだよ!外からあの向こうに行ける
ルートがあんだ!いいからついて来い!!」
真剣な顔つきで腕を引かれて、迷った末に
俺は向こう側にいるだろうブレアへと叫ぶ
「後で必ず落ち合うから、そこで待ってろよ!」
「うん、君もさんも気をつけてね♪」
「また後でな〜ブレアちゃん…
じゃ行くぜ兄ちゃん!」
うなづいて、僕らはホテルの外へと目指した
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:強引ながらも分断展開です…でも
ブレアは早めに合流させる予定です
ブレア:それもだけど二人共、やっぱり
やらしー話でもしてたの?気になるニャ〜
狐狗狸:猥談なのでお察し下さい、ついでに
いつも通りフリー翻訳で変換してるからサイト内の
イタ語表記は某T先生並に信用ならないよ?
ブレア:けどブーたんの事話してたんだよね〜
ふふっ、人気者ってモテモテでつらいニャ〜
狐狗狸:まあ間違っちゃいないけど…で、なんで
猫の姿で擦り寄ってくんのかな?嬉しいけど
ブレア:やっぱりニャニ話してたのか
気になるんだもーん教えてよぉ〜いいでしょ?ねっ
ジャスティン:いけませんねぇ…そんな淫らな話を
このような場所で話すものではありませんよ?
狐狗狸:いやアンタ聞いてたのかい!
魂喰では基本は全員ナチュラルに共通語だけど
自らの意志で母国語会話可能、と考えてます
様 読んでいただきありがとうございました!