早くも中央情報局は、今回の事件を起こした
魔女についてのアタリをつけていて


地元警察などから聞いた"被害者"の居場所を元に





ソイツが潜伏している可能性の高いカナダ
海に面した都市へ、僕らは足を踏み入れていた





うー…ここ、結構サムいニャ」


「ロスト島に比べりゃマシだろ」





足元にいるブレアから伝わってくる肌への
不快感をガマンしつつ、僕は訊ねる





魔女の潜伏先と予想される場所については
見当がついてるんですよね?だったら早くそこへ」


君 神のためはやる気持ちは
わかりますが、まずは被害状況の確認が先です」





…こうしてジャスティンさんと肩を並べられる
自分の背丈にも状況にも、違和感しかなくて


考えないようにデスルームで聞いた話を思い返す







魔女の名前は"ディーテ" 使う魔法は
被害にあった相手の証言などを考えると


"相手の精神に干渉する類"と推測されている





術にかかると眠ったままスゴい速度で年を取り


どうにか目を覚ました人も、強い眠気に
襲われて寝てしまえば


二度と起きるコトなく 老いて死ぬ





『た〜だここ最近の間に色々変わったみた〜い』





被害者激増はもちろん、中心地のカナダでも


"眠ったままの人間"以外の 魔女の仕業としか
思えない破壊や出来事が起きているらしい












Il secondo episodio 放任相違(老人と海)











さあ行きましょう!神の御心のままに!」





いつも聞いてる爆音のせいもあって、彼は
こっちに構うことなく意気揚々としていた







本当なら死人先生と行動するハズだったのに


なぜか積極的に志願してきたので、この人と
カナダへ行くコトになってしまった


…先行きが不安すぎて仕方がない





「ニャんだか浮かない顔してるね」


「ほっといてくれ」





吐き捨てて、僕はジャスティンさんの後へ続く







中心地だけあって眠り続けている人は多かった





「数日前にお隣さんが亡くなってから
今度はこの子が、目を覚まさなくて…」





情報通りに、ベッドの中で寝ている人は
見る間に少しづつ年を取っているようだった





目を覚ました人は老化こそしていたけれど


年を取っていくコトはなく、強い眠気
必死で抗っているみたいだ





「おかしなカッコした女が…夢に出…て
起き…たら、こんなおバアさん…に…!





やっぱり あの魔女は"夢"を通して
おかしなマネをしてやがるのか







「ジャスティンさん…もういいでしょ
一刻も早く魔女をブチ殺りに行くべきです


「焦ってはいけません、新たに入手した愛車の
調整が済むまで時間が必要なのです」


そんなの果てしなくどうでもいいじゃないか





「そんニャのどうでもいいんじゃニャい?
君だってヤる気満々なんだし」





思っていた言葉を、ブレアが代弁する





「…分かりました、それでは少しお待ちなさい
魔女の潜伏先までは距離がありますから
一人で行ってはいけませんよ?」











車を取りに行ったジャスティンさんを待つ間





「ニャんか眠そうね〜寝ちゃダメよ?」


「やかまし、こんな時に寝れるか」





やたらと話しかけるブレアへ、面倒くさいと
思いながらも適当に返事してたら





ワザワザこっちにちょっかいかけに来やがった





くーん、もっとちゃんとお話してよう
ブーたんつまんニャ〜い


「肩に乗っかろうとするな、足元に身体を
こすりつけんな もっと離れろ」


「だって寒いんだもん」


あんなカッコでいるからだ…つか今は
猫の姿なんだから平気だろうが」







それでもしつこくすり寄ってくるから、俺は
離れつつ…目に入った店で


ホットのココアを買って手渡す





「おごってやるから、コレでも飲んどけ」


「わーいありがと君」





変身して受け取り、チビチビ飲み始める
ブレアの様子に息をついて







視線を感じて顔を向ければ、ひょろりとした
おジイさんがクマの濃い目を見開いている





ヤバっ…見られてた!


見慣れてるから忘れてたけど、変身したブレア
はち合わせた市民に騒がれたら厄介なコトに


おっほぉ〜こいつぁ驚いた!
猫がボイン美女に化けちまうたぁな!」



「…へ?」





こっちの予想に反して、おジイさんは


逃げるドコロかむしろ笑いながら近づいてきた





「アンタここらじゃ見ねぇ顔だが、街に
住もうとやってきた魔女かぃ?」


「ブレアは魔女じゃなくて魔女猫だニャ」


魔女猫!へぇ〜そいつぁ知らなかったな
けどアンタみてぇな いい女ははじめて見たぜ?」


ニャ〜んホメてくれてありがとおジイさん♪」





なんだこのおジイさん…いやそれより!





「魔女に会ったコトあるんですか!?」


「ああ、オレの知ってる魔女ってなぁ
もっとおっかねーのばっかだけどな」





おざなりに答えて、彼はすぐブレアへ向き直る





「そんなコトよりブレアちゃん、よけりゃ
上手いメシ屋に案内してやろうか?」


「でもブーたんお仕事で来てるしニャ〜」


いーじゃねぇか メシの時間は大事だぜ!
ここは海に近いから魚も絶品だよ?」





なんかうさんくさい人だな…てゆうかコレ
単にブレア口説きたいだけじゃね?





正直 悪シュミだと思いながらも


視線で訴えると、目の前の猫は気がついて
おジイさんへこう聞いた





「ねぇねぇ ひょっとしておジイさんも
夢で魔女に会った人ニャの?」


お!よくぞ聞いてくれました!
実は何を隠そう オレも魔女の被害者なんだ」






目をショボつかせながら 胸を張って彼は言う





「いい気分で海の夢を見てたら変な女が
出てきてよぉ、起きたらこのザマだ」


「へ〜夢に見るほど海が好きなのね」


「ああ、こーして組織を追われた今でも
日に一度 海を見に出ねぇと落ち着かなくてな」


「それで今日もお散歩に出てたの?」





ブレアの言葉に おジイさんは首を横に振り


声を潜めて…こんな一言を口にする





「いやいや実はここだけの話、その魔女を
一丁とっちめてやろうと向かってたトコなんだ」


「う、ウソでしょ?!」


「ナメんなよ兄ちゃん!今はハゲかけジジィだが
イタリアで修羅場見てきたオレにかかりゃ
魔女なんてあっと言う間にケチョンケチョンよ!





なんだろ、どうしてか懐かしい感じがする


しょぼいチョロひげにガリガリにこけたほほ


引っかかるいくつかの単語にこの大口っぷり…







『そこいらの三下とオレらを一緒にすんな
イタリアで男見せてるヤツぁな、カタギや
ガキにゃ軽々しく手ぇあげねぇんだよ』





不意に、あの人の面影が頭をよぎって







アンタ…ひょっとして、どっかで会ったか?」


「い、いや 初対面ですが?」


「そうか…っかしーな、どーも兄ちゃん
こー 懐かしい感じするんだよなぁ」





同時にアゴに手を当て、下から見上げるように
覗きこむおジイさんにドキリとする





「こんなの どこにでもある顔ですから」


「謙遜のつもりか知らねぇけどそいつぁダメだな
男は安く見られちゃシメーだぜ?兄ちゃん





ニッと笑う顔がますます記憶と重なる


僕の中で、疑問は段々と確信に変わっていく







マンマの家族はとっくにいなくなってて


父親の家族は知りもしないし、知りたくもない





だから消えてしまった…置き去りにした
苗字(ファミリーネーム)の変わりに借りた


忘れられない "呼び名"の持ち主―









「ニャんかカッコいいね〜」


だろ?あ、でもブレアちゃんみたいな
カワイイ子は別「きゃああぁぁぁぁ!!」





つんざくような悲鳴と 妙な頭痛が起こって


少し先の通りまで走れば、へたりこむ女性へ


たくさんの木の杭を刺された 四つんばいの
骨と皮みたいな2mの男が這い寄っていた





有無を言わずに駆け出そうとして





「うぎゃはわぁぁぁぁぁ!?」


後ろから聞こえたおジイさんの叫び声に
驚いて足が止ま…ってついて来てたの?!





四つんばい男の動きが止まって


こっちへ目玉のない、黒いくぼみを向けて
異様な速さで迫ってくる





「ふひゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!」





うるさい悲鳴を無視して 俺はその場を
駆け出しながら片腕をハサミに変えて横に振る





軽い手応えがして…男が真っ二つになった


「「…え?」」







あっけなさに思わず腕を見れば、普段は片刃
ハサミになってるハズのソレは


西洋の剣に似た"平たい両刃"に変わっていた





「な…なにこ「兄ちゃん、前見ろ前っ!





言われて我に返ると 細長い腕をバネにして
男の上半身が女の人へと向かう


マズい!この距離じゃ間に合わ


「パンパンプキン、パンプキン♪」





呪文が聞こえた次の瞬間





「カボチャスマッシュ!」


デカいカボチャが 上から男を押し潰す







土煙が上がり…カボチャが消えれば


四つんばい男の上半身と、下半身も通りから
チリひとつ残さずに消えていた





「気を抜いちゃダメよ君?」


…まあ、感謝はしておく」





女性には幸いキズひとつなく、あの化け物も
いきなり現れただけだと聞いた







お礼を言って逃げるように立ち去った彼女と





入れ替わるように、ジャスティンさんが現れる





お待たせしました さあ今こそ共に
神の敵を滅ぼしましょう」


「ええ、そうでs「ちょ、待ってくれ兄ちゃん!





爆音の嵐に負けないくらいの声を張り上げて
おジイさんが僕らへすがりつく





アンタら死武専のモンだろ?どうせだから
オレも連れてってくれよ!」


「罪のない者を危険に晒すのは 神の教えに反します」





もっともな言葉にも、しかしめげずに彼は言う





いやいやいや連れないコト言うなよぉ!
気味悪ぃ人形だけならともかく、あんな化けモン
出てくるなんて生きた心地しねぇんだよぉ〜」


「あのー…魔女なんてケチョンケチョンにしてやる
って言ってませんでした?」


バッカ野郎!あんな勝ち目のねぇヤツに
立ち向かうマネがか弱い老人に出来るかよ?」





言ってるコト180度変わってるし、さっきの
ビビりっぷりから見ると…こっちが本音か





「つーワケでコレから先、アンタらに
ついてくからよぉ〜しっかり頼むぜ?美男美女っ


しかも勝手に付いて行くコト前提になってるし





弱き者を護るのも、神の与えたもうた試練
…いいでしょう 来る者は拒みません」


「って連れて行くんですか?!」





どういうつもりなのか、同じ魔武器ながら
この人の考えてるコトは全く分からない







…あきらめてバイクのサイドに乗ると


猫の姿に戻ったブレアが、おジイさんへ
楽しげに笑いかけていた





怖がりニャのに大胆ニャのねおジイさん
そう言えば、ニャまえはなんて言うの?」


「あーオレかい?そーだなぁ…
""って呼んでくれ





僕は、自分の直感が正しかったことを知った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:別に死人先生でも良かったんですけど
今後の展開を考慮し処刑人さんが出張りました


死人:脇を固める仕事は得意だ、オレはそういう
男だった…が やはりもう少し出番欲しかった


狐狗狸:ゴメン死人先生!この話でも出番は
一応ちゃんとあるから許してください!



ブレア:あのおジイさん面白いね〜でも
ニャんでって言うの?


狐狗狸:酒の席で仲間にからかい半分の冗談
つけられて、仲間ウチに広まったから


ジャスティン:何か意味のある呼称なのですか?


狐狗狸:あるけどデフォ名なら手が早い
(特に女)なんで、ぶっちゃけ悪口に近いです


ブレア:うわー、それ君が知ったら
すっごくショック受けそうだニャ〜




被害者の症状は、NOTのゴーゴンの魔法と
真逆(もしくは別口)と見られてます


様 読んでいただきありがとうございました!