まわりはとても派手に壊れていた





どこかは分からないけれど、よく見知ったトコロで

死人が出ててもおかしくないぐらい崩れてて


僕の目の前には少しボロボロになったマカたちと


応援に駆けつけてくれたらしいクロナ君や
シュタイン先生やマリー先生の姿と


僕らで倒した、とても強い敵の死体があった





『私たちが無事にアイツを倒せたのも
君がいてくれたからだよ』


《そんなコトないよ!僕はただ》


『オイオイ謙遜すんなって!』


成長したなお前が友達(ダチ)で
オレ様も鼻が高ぇーぜ!!』






ブラック☆スターを皮切りに、みんなが笑顔で
肩や背中を叩いて僕をねぎらってくれる


助けた人たちの中にも 僕を見て"カッコいい"とか

"さすが死武専の生徒"とか口々に言うのが聞こえる





『これからも、頼りにしてるぞ?


隣にいるキッド君の一言に 思わず身体が震える


まるで夢のような光景…いや、まさに
夢だからこその光景は 僕には薄気味悪かった







"自分が夢を見ている"と自覚するコトは珍しくない


起きた後も うっすら内容を覚えてるコトもある


だけど、こんな風に分かりやすくて素敵で
心地のよい光景なんて一度としてありえなくて


おかしい なにかが、なにかがズレている





―直後 目の奥がズキリと痛んで


背筋に走った悪寒にしたがって振り返れば





そこには見覚えのない派手な女がいた












Primo episodio 転進(変身)











あら、アンタずいぶんひねてんじゃないの』





これは 僕の…いや俺の夢が作り出したものじゃ
間違ってもありえない こいつは、魔女だ





俺は普通だ そっちこそふざけたマネしやがって》


『言うじゃないの、大人しく夢を楽しんどけば
いいだけの雑魚の分際で 気っ持ち悪ぅーい


《なにがどうなってるか知らねぇが、人の夢にまで
勝手に入りこんでくるんじゃねぇ!》






迷いもためらいもなく、変化させた腕を
魔女の喉笛目がけて突き出す


よけもせず刺された魔女の身体が一瞬で黒く染まり


弾け散ってあふれた黒い煙が俺を飲みこむ





《っくそ!こそこそ隠れてんじゃねぇぇぇぇぇ!


思い切り腕を振って煙をはらおうとするけれど
どんどん視界は真っ暗になって―









…気がつけば そこは僕のアパートの寝室だった


寝たりないのか、妙に眠気が残っている





そう言えば昨日は遅くまでバイトしてて
疲れてたから着替えずにそのまま寝たっけ





だからってあんな夢を見るなんて


「ああもう、なんなんだよ一体…」





あれ?なんか声がおかしいていうか

いつもより低いような…んん?





首をかしげてベッドから出て立ち上がると


なんだかいつもより天井が低いし、手の形も
どっかおかしい 身体もヘンに重いな


けど視界はやけにハッキリしてるってどゆコト?


不安を感じながら洗面台の薄汚れた鏡と向き合…





「Ma…Ma、Mamma mia!(なんてこった!)





信じられないものを見てしまった









『…そうですか、それじゃ
よろしく伝えといてください』


「ええ、それでは失礼します」





バイト先への連絡はこれでよし…と


けど、問題はこっから





眠さでふらつく足をどうにか動かし外を歩く





今 僕がアテにできそうなのは死神様か先生の
誰かだけど、さすがに直接会って話さないと
信じてもらえる自信がない


だからこっそり死武専へ向かったけれど





「誰だアレ」


スラっとしてて男前〜、どっかの俳優?」





うぅ…なんか、いつもより見られてる気が…









時間をズラして階段を登ったおかげで生徒には
ほとんど合うことなく門前に着いたけど


こんな緊張するのは、始めて入学した時以来だ





あくびをかみ殺しながら通り慣れた廊下を歩…





リズさんとパティがめっちゃこっち見てるー!!





「ねぇねぇお姉ちゃん!そこのヤツ
あの店のマスターにすっげー似てね?」


んん〜?おっ、ホントだ あのヒゲ面の
マスターに似てんじゃん 声かけてみっか」


似てないから、あんな威圧感出せないから僕





早足で立ち去ろうとしたけれど 二人の
コンビネーションと運動能力に勝てるはずなく


あっさり捕まり、両側から挟まれて尋問される





「おいそこのツナギ男、ひょっとして
あの店のマスターの親戚かコラ?」


「え、い、いえ違いますけど…あのマスターと
お知り合いの方なんですか?」


「いや私ら その店でホゴカン受けたモンだから
アンタの面見てたらちょいと懐かしくなってな」


「ハハ、そうなんですか まあでも僕の顔なんて
どこにでもあるような面構えですから」


「きゃはは、あのマスターよりアイソいいな
やっぱ親戚だろ白状しろやオラ


いつものように笑って答えるけれど、リズさんと
パティが放してくれる様子はない





てゆうか いつもよりガラ悪すぎない?


保護観察(ホゴカン)とか言ってたし…あ





そういや、あそこのマスターの店で一時期
元ヤンっぽい美女二人が働いてるって聞いたっけ





「そっか…あれリズさんとパティだったのか」


「はぁ?なんでアンタ私らの名前知ってんの?」


しまった!つい声に出しちゃっ…こ、ここは
どうにかごまかすしか、ああでも眠い…いやいや
こんなトコで寝てたらマズいって!





頭を振ってる間に、キッド君やソウルやマカも
二人を見つけて集まってきた





「ちょっと二人共なにして…誰?そのヒト」


「見かけん顔だな 新しい清掃員だろうか?」


「そ、そうなんです僕新人として配属されたばか」


ムズがゆい感覚が身体を駆け巡って


眠気がとんだ僕は、感覚にしたがって振り返る





そこにはやっぱり 廊下からやってきた
キムとジャクリーンの二人がいた





「ちょ、なにガンたれてんのよオッサン
アタシの顔に文句でもあんの?







ああもうだからなんでみんな近づいてくんだ…!


これ以上メンドくさい事態を増やしてたまるか





「す、すまない…このカワイらしいお嬢さん方だけでなく
妖精のようにカレンな少女たちと会えた感動を
どう言葉にしようかと」


とっさに気取ってそう言えば、つかつかと
歩み寄ってたキムがピタっと足を止める





はあぁ?そ、それどういう意味よ」


「おや?自覚がない アナタ方ですよ」


「ペラペラ口やかましいわね、謝りたいって
気持ちがあんなら出すモン出しなさいよ」



「キム、それ恐喝になっちゃうから!」





胸ぐらつかまれて思わず悲鳴が出かかるけど





「ああ、せっかくの美しさを持つのです
どうか粗暴な振る舞いは納めて?レディ」



抑えながらほとんどヤケでその手をとって
手の甲にキスすると、キムがたちまち赤くなる





「ちょ!きき、キムになにするのよアンタ!」





キムの手を離し 燃やされるよりも早く





「ああ健気なお嬢さん、アナタが怒るのも当然だ
失礼なコトといえどついカワイらしい手に
口付けずにいられなかったのです お許しを


ジャクリーンの耳元でそうささやいてみせれば

同じように湯気が出そうな顔色に





…注意、スピリット先生の見よう見まねホメ殺しは


使用者にもそれなりの精神的ダメージがあります







僕が恥ずかしさでもだえ死にするより先に





この状況に耐え切れなくなったキムが、必死で
その場から逃げ出してくれたのが幸いだった





「ま、待ってキム!!


眉を下げたジャクリーンがあわててそれに続く







僕の時じゃ効果なかったのに、この姿だと
面白いくらい顔真っ赤にしてたな


…案外おだてに弱いのか あの二人





照れてるキムとジャクリーンのあの顔は
ちょっと、いやかなり可愛かったかも







「なんだコイツ、お前のオヤジの親戚か?」





ソウルの一言でハッと気づいて振り返る





うあーマカにメッチャにらまれてるー目つきが
女の子らしからぬ険しさでコワいよー





「って、この魂反応はまさか!」


マズ!そういやマカは魂感知に長けてたっけ





腕をがっちり捕まれ、二度目の逃亡も失敗に終わる





「待って君!なんで逃げるの!!」


へ?!ちょっと待てマカ、今お前
こいつがって…ええ?!」


「ああ、間違いない…この男はだ!





魂の感知で、二人が間違うコトなんてなく


僕はさっきの血迷った言動を人生で一番
後悔しながら "その通りです"と認めた





他の三人はそれでもまだ信じられないらしく
今朝の僕みたくポカンとしてる





でも僕としても理由なんて分かんないから


内容は伏せて、夢に魔女が出てきたコト

起きたらこの姿になってたコトを話した







君てオッサンになっても
ツナギのまんまなんだね〜」


「いやコレはたまたまで…そんな老けてる?」


「逆逆、むしろイイ感じで年食ってるから
戻らない方がいーんじゃねぇの?」


「笑いゴトじゃないよリズさん、この姿で
授業なんてムリだしなんでか眠気キツいし
なによりコレじゃロクに仕事出来ないじゃん!


「お前の危機感ポイントそこかよ!」


当たり前だ、生活かかってんだから


このトコロかなり厳しいシフトの中で"親戚"って
ごまかしながらどうにか休みもらったんだし





「とにかく、その姿が魔女の仕業と関係があるのは
間違いなさそうだが だけに起きたとは
考えにくいな…他にも被害者がいるんじゃないか?」


「だよね じゃ今から先生に相談しに行ってくる」


「きっと元に戻る方法も見つかるよ!ガンバって!





僕はうなづいて、マカたちと手を振って別れた





こんな時にシュタイン博士がいてくれたら
どんなに心強いだろうか なんて思いながら











―キッド君の予想はやっぱり的中していた





ある場所を中心にアチコチで 僕みたいな
状態の人とかが出始めているらしくて


引き起こしてるのは…アラクノフォビアの影響で
活発になりやがってる魔女だ、



鏡に映っている死神様が教えて下さった





『魔女単体の能力にしては範囲も広いみたいだし
た〜ぶんアノ魔道具がからんでるんじゃないかな?』


「そうなるとかなり厄介ですね…」





ひとしきり死人先生がうなって、それから
死神様とのいくつかの会話が重ねられ


主犯格の魔女がいる場所までのサポートとして
先生と組んで僕も現地に行くコトが決まっていた





「本来のお前ならば同行はさせないんだがな
その肉体年齢(すがた)なら生存出来るだろう」


「でっでも僕の"探知"なんて役に立つかどうか」


「"魔力探知"は今回の作戦の大きな力になるハズだ
オレは生徒を信じる!そういう男だ、今もな」






僕はああ、とかうう、とかしか言えなかった


前髪がないのが…とても不自然で落ち着かない


そんな場違いなコトを考えている僕へ
更に思いもしなかった事態が転がってきた





『あ、でも現地に行く前にパートナーは
同行しなきゃダ〜メよ?』



「え?」









―…一つ星の武器だけでは心もとないって
お言葉は 異議ないし当然だと思う、けど





魔女には魔女ってコトで ものは試しに♪』





だからってよりによって魔女(ブレア)と一緒に
魔女討伐なんて!ああぁマジ最悪最悪最悪だ!








「あきらめニャよ〜他に組める人いないでしょ?
それにもう決まっちゃったんだから」





それでも気に食わなくて目をそらしてると





「んもーこんニャ魅力的なパートナーを
ムシするニャんて魔武器失格だゾ?」





ニヤニヤと挑発的な笑みでブレアが覗きこんでくる


こっちが無視も突っぱねもできないって
知っていながら、ムカつく言い方しやがって







でもこの事実はどうやってもくつがえらない…なら







「…セント」


「ニャ?」


「一時間12ドル45セント」





時給制の平均金額を口にしながら





「丸一日働いた換算で約99ドル6セント!」


きょとんとしたブレアに構わず、俺は続ける





「これ以上グズグズして生活費と信用が
失われんのはゴメンだし…協力、してやる







二度目のヤケで腹をくくれば、目の前の魔女は
クスクスと楽しそうに笑っていた





「必死ニャのね〜
いいよ♪ブーたんも一緒にいってあげる








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大人verは、アゴヒゲありですが
NOTにでるマスターにはよく見ると似てません


リズ:いやいやいや!アイツ年喰うと
あんな渋くてカッチョよくなんの!?



狐狗狸:イタリア人だからね、あと彼は
中年期からモテるタイプの男です


ソウル:解説するつもりあんなら働けよ
あとのキャラまた崩壊してんぞ


狐狗狸:魔女とかについては二話目から語ります
キャラはまあ、テンパってたので仕方ない


パティ:けどブラック☆スターがもしいたら
『信者のクセに目立つなー!』って蹴られてたね


キッド:十中八九間違いないな…だがしかし
給与の計算はアレで本当に正しいのか?


マカ:そこは触れないであげようよ!




かなり稼いでるように見えますが八〜九割方
家賃・食費・授業料等で消し飛びます


様 読んでいただきありがとうございました!