―ソウル/死武専―





キッドの救出と、ノアとの戦いが終わって





先生達とマカを筆頭にケガ人は全員

死武専に戻り次第 保健室へとぶち込まれた





『お咎めはないけど療養は必要だからね〜
しっかり休んでケガ直しなさい?』


こ、困ります!バイト減らされたら
今月の生活費が 生活費がぁぁぁ〜…!!」


「「泣くほど困るのかよ!?」」





帰ってきたオレ達は本から出た後の
全てを報告すると共に


エイボンの書が燃えた


死武専で起きてた"洗脳騒ぎ"

涙目になってるバカの ケガの理由を知った







「洗脳された人達は?」


「どういうワケか元に戻ってたみたいだけど…
アンタ一体あの時何やったの?説明しなさいよ


「それよりエイボンの写本から空間を
超えたアレはどーやったワケ?」






キムとジャクリーンに詰め寄られた
わたわたしながら、やや自信なさげに返す





「こう差しこんでガーっと魔力の放出方向とか
なんとなく意識しながらやってみたら出来た」


「「なにその超理論」」


「いや僕だって感覚的にしか分かんないし
…それより、あの時は本当にゴメン」


「気にする事ない、だって
あの魔女に洗脳されてただけだったんだから」





包帯多目のツナギもどきに詰め寄ってたキムが
その一言で、オックスへと矛先を変えた





甘い!もしあの時エルカが殺されてたら
本の中にいたみんなも危なかったんだから!」


「アナタの言う事は正しいですが、彼も
反省していますし 今更責めてもどうしようも」





糾弾する相手をなだめる秀才を横目に

オレ達は死武専での一件を考える





「しっかしあの変態女、何が目的なんだろーな」


「さぁね?分からないし知りたくもない」


「案外、第二のメデューサ枠狙ってたりしてな
したらコイツが次さらわれるヒロインか」


「え〜地味なヒロインなんてつまんな〜い!」





パティの一言に納得して、ゲラゲラ笑う
オレらとは対照的に


黙って聞いてた当の本人は
すっげぇ嫌そうに歪んだツラして





「…Una testa non decomporsi,
o tutti i membri, per favore muori」





あ、こいつなんかいらねぇ事呟いた


イタリア語だからバレねーとか思ってるトコが
わりと姑息っつーかヒネてんな












Nono episodio
 Il mondo non ha cose misteriose












その辺りをさらにツッこもうと
握りこぶし用意しつつ近づいたトコロで





"伯爵"の術式は伊達じゃないワケか」


キッドの言葉が、間へ割り込んだ





何それ?ハクシャクって誰?」


「旧支配者から少しな…は」


知ってるよ、博士が教えてくれたんだ
僕の力の由来も…名前も」







そっから、キッドが博士に呼ばれて
DEATHROOMへ行くまでの合間





その力の大本の原因である魔導師"伯爵"


ソイツがにやった事、そして





『魔力を制する波長、君のご先祖の異名にちなんで

"制魔の波長"(リスポンデ)






ハッキリとした効果と名前を 聞いたまま
は自らの口でオレ達に語った









―インデックス/"エイボンの書"内―





"強欲"のノア…全てを欲し、集める偶像
ただそれだけの存在


だが ノアは仕事を果たしてくれた…





『"強欲"をもって「BREW」を手に入れた』





本の中にいながらにして私には全て見える





『エイボン様は自分を封印なさった…

だが私は違う…教えたい


知恵の木の実の下、本を持ち出した傀儡が
ノアを想い涙している





『人間は知識を手に入れ 楽園を失った』





いかにもたこにも この"エイボンの書"
この世のすべてを知る可能性を持つ


だが…すべての"知識"の前では
人は考えを止める


ゆえに必要以上の知識を知ってはならない





"知識"の狂気 "力"の狂気
そして…"恐怖"の狂気





『しかし「狂気」とは何なのか…』


自問自答を続けながら、私は力を放出する





「ノア様…誰だお前は!?


うるせぇ!!黙ってオレについてこい」


生み出された"憤怒"の偶像に掴みかかられ





「ワイルドな ノア様…」


傀儡…ゴフェルは、再び配下へとつく





行く先ならば当てがある







「みんなを騙す形になっちまって
わりぃことしたな…」


死体をダミーに幻術を見せ、規律を破り

自らのパートナーをも裏切ったデスサイズは





「こうでもしなけりゃジャスティンの
本当の足跡をつかめない」



奇妙な被り物をして裏切り者を追う







「うぅえんテスカちゃん被り物だっさぁい
半分壊して蔑んだ目で見下ろされたぅいvV


それを紙越しに見つめながら





「やんヨダレが…集中し・な・い・と♪」


規律などを気にもかけない魔女は

ある一室にて書を漁り 知と紙をむさぼる







それでいい、知るために動くがいい


私もまた 規律などでエイボン様の
知識の放出を制限させるつもりは毛頭ない





人間に新たな知識を…エイボン様の偉大さを
知らしめるために









―クロナ/モスクワ―





寒いはずのこの場所も、襲ってくる
デスサイズ以外の人達もどうでもいい





「君達じゃ黒血の実験にならないよ

メデューサ様のいいつけを守らなきゃ…


死武専の東ヨーロッパ支部にいるデスサイズを
黒血を使った攻撃で固める


黒血を成長させる それがこの訓練の目的





「あの子供か…?」 「はい…間違いないかと」


今回のターゲット、デスサイズスの一人
「ツァーリ」を見つけた





狂気融合 実験を開始します…」





ニードルの攻撃を避けられ、蹴られて


吹っ飛ばされた先にいた砲弾の攻撃をガード





魔砲弾ツァーリ・プーシュカ
同志の借り 返させてもらおう」





ビックリしたけど そんなの知ったこっちゃない


ラグナロクを使えない事なんかおかまいなしに

職人の攻撃が僕の身体を蹴り上げ
蹴り続け、雪の中に叩きのめしていく





体術はブラック☆スターなみか
だが一撃が軽いな』





何だろう、ラグナロクのその名前


聞いてると…昨日も見た夢の事を思い出すよ


ぼんやりしてたら 砲弾の一撃を
胸にもらって壁に叩きつけられた


抉られた胸から、黒い血が煙を上げている






『彼はマカ=アルバーンと同じく
"退魔の波長"の持ち主よ』


「だからこそこの実験に選ばれたんですよね
これを乗り越えなければ黒血の完成はない





危ない危ない…さっき切った腕の血を
目にして僕は笑った





「黒く染める」





そうさブラッディランスで串刺しにしなきゃ







『お前をいじめる奴がいたら遠慮なく言えよ
オレ様がぶっとばしてやる』



賑やかな場所で、肩をつかむ頼りがいのある男も





『何かまた困ったコトがあったら気にせず先生に
言いなさい 力になるから、「道」以外は!!


迷路みたいなトコで一緒に迷って

それでも導いてくれた、金色の髪の女の人も






『出来るコトからはじめていこうよ?
こうやって 普通に話をするとか…ね?』


テーブルを挟んだ向こうで 一緒にごはんを食べた

ぎこちなく笑う亜麻色の髪のヤツも






『友達になって下さい、お願いします』


手を差し伸べてくれた…あの子も?





「白いキャンバスを塗りつぶさなきゃ…」





槍を蹴り飛ばしてデスサイズを足に装着した
職人が僕へと向かって突進してくる







「ふざけんなよ!!何だその光は!!
僕への当てつけか!!真っ黒な僕への!!!



すごく悔しかった、濁らせて一切の光を
遮断する黒へ染めてやりたい







何故か夢の中でも見た女の子のあの笑顔が
またちらついたけれど





「真黒な僕には染めることしか出来ない…

JET−BLACK



にじみ出る黒血は止まらない


退魔の真っ白な光をまとった白い長帽子を
狂血で染めてやる





そう…僕の血は黒いんだ









―シュタイン/死武専ロシア支部―





"魔剣がデスサイズを襲撃した"と報告を受け


スパルトイ四名とオレはモスクワへ





「ここに?」


「同志ツァーリとフョードルが…」





案内された厳重な扉の向こうからは
確かに、強い狂気が伺えた





「二人を運んだ者達も狂気に当てられ…」


「キム、診てやってくれ」 「はい」


拘束された感染者の治療を彼女に任せ

マカとソウルへ扉の中へ入るよう命じる





「君達は大丈夫か?」


「微弱ながら退魔の波長を持っていますので」





共鳴をした二人が扉の中へ入って







「気がついたみたいね」


「あ…お、オレは…?「今 拘束を外しますね」


キムの治療魔法により、狂気に陥っていた
感染者は正気を取り戻したが





「マカ達はまだですか…?」


「中に入ってしばらくたつんだがな…
やはり難しいのか…





扉が開き、マカのお下げを引いて
出てきたソウルは明らかにおかしかった





「胸の傷が…疼くんだよ…」


「黒球に触れた瞬間、ソウルが…」





乱暴に髪から手を離してマカを扉へ叩きつけ





「疼くんだよオオォォォォォォ」


叫んだソウルの胸から、狂気の目が開く





「何アレ、洗脳されたと同じ
…ううんそれ以上にヤバイかも」


「博士…」


「キムは下がって
ジャクリーンはオレが使います


「りょ…了解…」





あの位置は、クロナに斬られた箇所





ソウル!!バカが、どうしたのよ!!」


「どうしたもこうしたもねぇよ…疼くのさ
今まで堪えてきた…吹き出した…





笑みを貼り付け、飛びかかったソウルの刃を
武器化したジャクリーンの鎖で受け

刃を巻き取って床へ叩きつける





だが オレの胴とジャクリーンの肩にも
僅かな切り傷が刻まれていた





『ああっ』


「ジャッキー!」


「これがオレか…デスサイズの"力"か…」


『武器としてのレベルが格段に違う』


「すいません 大丈夫でしたか」





まさかここまでとは…といい
彼といい 生徒の成長を間近で見るのは





「やはり面白いですねぇ 解体したくなる







―小鬼/死武専ロシア支部―





オレは何だ?お前にとって何なんだ?







「ふざけんな こんなのオレじゃない」


「あ?ふざけんな、じゃあお前は何なんだ
お前はどんな奴だ」



「テメェ何デカくなってんだよ」


「話変えんなチビが!答えろくそチビ」





部屋でソウルと向き合う間、外では
狂気を得て本気になったソウルが戦っていた







「音で狂気を伝え
引きずり込もうとしてくる…」





アラクネ仕込みの技をシュタインにお見舞いするが





ちょっとキム!何やってんのよ』


「私の"魔法"でシュタイン先生の中の
狂気を薄めます」


『だからって抱きつくコト…』


「職人同士じゃ伝わりづらいですが
私の"退魔の波長"でもサポートします





キムとマカが前後に抱きつき、魔法と波長の
サンドで狂気を薄めやがった


うらやましいねぇ…くくく!





腕の鎌へ鍵盤を具現化させ、かき鳴らし
衝撃波をぶつけて


三人まとめて吹っ飛ばしてみせる





音の衝撃で攻撃か…ソウル単体でも
これだけの音を繰り出せるとは…」





二人の女、いや三人か…抱きかかえて戦える
アンタも相当なモンだぜ?


続く攻撃を 女を持ち上げてかわし


目をこっちから逸らさないまま
あの男は右腕に抱え上げた娘へ訪ねる





「マカ…
ソウルの魂はどうなってると思いますか?」


「えーと完全に狂気に堕ちているわけではなく
魂の奥では、まだソウルは戦っている…」





嬢ちゃん…マカは"帰ってくる"と信じている







これだけ本気で思われてるってのに
コイツと来たら どうだ?





「本気になるのが怖いか?
マジな自分を評価されるのが怖いんだろ?





規律だの何だの理由をつけて 黒血を狂気を
抑えて耐えて我慢しやがって


兄貴からも家柄からも逃げ回って


「だがよぉ今はどうだ?
マジになってるテメェはよぉ これが力だ」






"狂気"を恐れ 必死に抑えるのが"勇気"だと
思ってるこのガゼル野郎が





「狂気を抑えるんじゃねぇよ!

狂気を手に入れてみせろ!!」



本気になってみせろ!と噛み付く勢いで叫び





「チッわかったよ、そういうコトか…」


目を開けたソウルが ようやくオレを見つけた





「お前デカくなったんじゃなくてハリボテかよ」


「ちげーよお前がそうさせたんだ」


狂気を恐れず向かい合った結果だ、と

言いながら ハリボテから降りたオレへ


アイツは勘違いするなと口にする





「「エヴァンス」の姓を捨てたのは
逃げたワケじゃない、けじめさ」


「じゃあお前は何もんだ?」







指を差したオレを見据えて


テメェの中の狂気を見据えて…奴はこう返す






「魔鎌ソウル=イーターだ」


「まったくしまらねぇな
もっと見栄張って声張って名乗れよ」





あのってガキみてぇに無様によぉ





悪いね それができねぇのもオレなんだ」







ニヤリと笑ったソウルは 次の瞬間

腹を立てたマカにボコられてやがったが


…カッコつけもそこまでいきゃ
上等じゃねぇか、ソウル









―死神/DEATH ROOM―





ノアとの戦いで、キッドの頭の線も二本に繋がった





「心配をおかけしました父上」


「キッド 無事で何よりだね」





魔女の洗脳も君のおかげか解け
騒ぎも収まったので 本格的な鬼神捜索を再開する







しかしモスクワでの魔剣襲撃の後


シュタイン君達の報告により 確認された
黒球の危険度を「A」から「S」に引き上げ


モスクワのロシア支部を閉鎖し総員退避


だが直後ウクライナの街でも魔剣が現れ

その地には…とても巨大な黒球が残されていた





相手も手段を選んではいられないようだ







「父上…少しやり過ぎじゃありませんか?」





バグダード制圧の記事を見て、キッドが問う





鬼神隠匿の確証はなかった これでは始めから
反死武専派を潰すのが目的と見られても仕方ない」


「バグダード側はこちらの鬼神捜索の要請に
応えなかった、横暴だと思うが黙って
引き下がるわけにはいくまい」





代弁してもらってばかりもアレなので


振り返らぬまま 私は答える





いや〜居ると思ったんだけどね〜」


背に感じる視線が、強さを増した気がした





「父上 ロスト島に行ってまいります」





口を閉ざす私の代わりにスピリット君が答える





「エイボンか?」


「はい エイボンも旧支配者の一人…
鬼神の事で何かつかめるかもしれません」





止める事は…出来そうになかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:リスポンデの綴りはrispondeです


博士:彼の母国語で"返答する者"、退魔には
威力が劣るものの中々使いでのある波長だよ?


マカ:そういえばドイツでの任務で
と共鳴したって言ってたような…


ジャッキー:にしても、重い二人を両手に抱えて
動き回れるなんて博士スゴいよね


キム:重くないわよ!でも博士に抱きつけて
ちょっと役得だったかも♪


オックス:なっ…まさかの伏兵!?


ソウル:けどあの博士だからなぁ…付き合えんの
マリー先生ぐらいじゃねぇか?


フョードル:台詞が一言ぐらいだった…


狐狗狸:ゴメン、本当にゴメンなさい




世界に広がる黒球 そしてクロナの行く末は…


様 読んでいただきありがとうございました!