―マカ/第六章―





「ようやく見つけたんだ…この800年の
殺意をぶつける場所を」





体を入れ替えるほどの執念を持った
ギリコの殺意と攻撃が、襲いかかってくる





「見えねぇか!?オレの股間にそそり立つ
でけぇーノコギリがよオオって!!

今 オレは女だったなァ ぎゃは!?






魂のアダージョでもう一度沈めようと
ソウルと意識を集中させても


強すぎる殺意の波長に
ピアノごとソウルが吹き飛ばされて


魔女狩りでも受け止めきれない刃に


ズタズタにされて…立ってられなくなって





「そんなもんで800年分の殺意を
受け止められるわけねぇだろ」






この時ばかりは、本当に殺されると思った





「こんなクソガキがアラクネをぶっ殺して
むちゃむちゃ魂を喰ったっていうのかよ…」


頭をつかまれて宙吊りにされて





「ああぁ…あ…」


もういいよな?
もう殺っちまってもいいよな?」


ソウルの抵抗もむなしく、いよいよトドメを
さされそうになった







「やっぱ首を絞めんのが一番気持ちいいかな
よ〜し決めた…んぐ…!


「オイ…何か様子がおかしくねぇか?」





そこで限界が来たらしく





ギリコの魂が 殺意に耐え切れなくなった





「いくら体と魂を新調しても 800年分の
波長をつめこむには器が小さすぎるのよ…」


お前だけ殺せればいいんだよ…後は
どうだっていい…お前を殺したいんだよ…」





私への殺意できしんでいく魂が見える





「オレはアラクネがてめぇーに
ぶっ殺されてる時バカみてぇに寝てたんだぞ

もう怠けるわけにはいかねぇだろが」





…収まり切らない殺意に魂を壊されながら





「ここまで追い詰めたんだぜ!?
ぜってぇ殺してやる!!

あと一発かますだけなんだよ!!」






それでも床へ腰を落とした状態から
動けない私を殺そうと近づくこの女が





「わざわざおっぱいぶらさげてまでして
ここまで来たんだ…殺してやる…」


何だかバカらしくて…哀れだとさえ感じた





「それくらいにしたら…
それ以上殺そうとすると…!」


「殺してやる…うるせぇんだよ もつよ!


叫んだ瞬間、殺意がはじけて





ギリコは私の目の前でヒザを突いて死んだ





「…ハハ!爆発しやがった」





ぼんやりと しばらくぼんやりとしていたけど





少しずつ頭の中が落ち着いてきて、傷だらけの
身体のあちこちが少しずつ痛み出す












Settimo episodio
 Il tuo sentimento solamente esso!?












と 武器化を解除したソウルが
へたりこんだままの私の側で屈みこんだ





キツいだろ?負ぶってやるよ」


「…ありがとう」





軽く笑いあって温かい背中へ手をかける


もう、妬むコトも休む必要も無い





「椿や辺りがこのキズ見たら
うるせぇだろうな」


「そうだね、ボロボロだもんね私たち」





二人でなら どんな困難だって乗り越えてみせる









―キッド/異章―





『我は平等に"力"を与える者!

お前の求める"力"とは何だ?』






横から水を差すような旧支配者の問いへ





「オレにとって"力"とは何だとかどうでもいい
オレはただ誰にも負けたくないだけだ」





"力"に説明などいらないと、実に
アイツらしい答えが返ってきた





「相手が神であろうと関係ねぇ!!
ひゃは!!全部はっ倒す!!」



言葉と同時に放たれる蹴りを防ぎ





「フン 単純なヤツだな…」


「シンプル・イズ・ビッグって知らねぇのか?」


「それを言うならベストだ!」





両拳をかち合わせて距離を取り、改めて
目に星を宿すブラック☆スターと向かい合う





「オレのコト単純だとかいいやがって…

全てを無にするんだぁ!?
オレと大して変わんねぇじゃねぇか」


「お前と一緒にするな!!」





"規律"があるオレに雑な"力"で対抗するクセに





「結果が同じなら過程なんて意味がないぜ」





死神体術「狂罪」の構えで、幾度も打撃を
叩き込んで地へと落としても





「すべてを無に帰す"力"がお前と同じはずがない」


「"シンメト"はいいが"無"は気に入らねぇんだよ

"無"の力で相手を"無"にかえして―…
お前は何も感じないのか?そこも"無"の感情か?



「そうだ」





無駄な言葉に反論しても、アイツは
諦めることなくオレの前へと立ち上がり


強烈なアッパーと 台詞をお見舞いしてきた





ふざけんな!!
それじゃリズもパティも消すっていうのかよ!!」






そうしなければバランスは取れない





だが…二人の顔が浮かんだ途端、どうにも
息がしづらくなる感覚に襲われる





「それがお前の出した究極の"力"か!!
究極のバカの間違いだろ!!」






叩きつけられた拳や蹴りよりも
胸に突き刺さる言葉が痛い


この痛みは 二度ほど味わった覚えがある





どこか捨て鉢なと…弱さをさらした
かつてのブラック☆スターの叫びが脳裏を掠めた








「オレがとち狂って死神のお前に死を望んだ
でもお前はぶん殴って生かしてくれた」


「ぶん殴ってはいない 「かかと」を入れたんだ」


「そうだ…キッドはそういう細かい奴なんだよ」


同じように降ろしたかかとを受け止めて





「死神のダンナが言ってたぜ…死神は
生物の"生"と"死"を司るってな」





"無"を求めたオレの解を


狂気を抑えてブラック☆スターは
"あきらめ"だと否定する





「そんなもの究極でもなんでもねぇよ」







最強になるために 狂気の力を利用しようとも
負ける気はない、と豪語したコイツと並んで





「オレは見つけたぜ

究極の力を手にいれ…何がしたいか





『お前達が出した
"力"の答えを聞かせてもらおうか…』





再び問いかける巨大な闇を前に 思考する





左右対称を超える左右一体…





言われて気づいた、確かに違う
ブラック☆スターの言う通りだ


"無"ではただ"生"を否定するだけだ


そんなもの…死神ではない!!





左右対称、それこそがオレの美学であり
追い求める価値のある バランスの取れた世界


究極の"規律"…それがオレの"力"への答えだ







さっきまでの重苦しい思念が収まって


隣を見やれば、友がにやりと
いつものように笑っていた





「帰ってきたな死神」


「お前のおかげだ…借りが出来たな」


「みずくせぇな、職人と武器はもちつもたれつ
仲間だって同じだろ?


ああ、全くもって同感だ







―パティ/第七章―





お金が振る世界で、私たちはずっと
二人の帰りを待っている


椿もキリちゃんも 外で待ってるみんなも

きっと君だって心配してるだろうけど





キッド君を一番心配してるのは、お姉ちゃんだ





「お姉ちゃん…」







ニューヨークでギャングから逃げてたトコを
助けられてから、ずっと一緒だった


お姉ちゃんが"いい金ヅル"だから
言うコト聞いて大人しくしてた…けど





『君たちは美しい!!』





ほめてもらえたのがうれしくて


強いクセに細かいコトこだわったり
すぐへこんだりして面白くって





気が付いたら…お姉ちゃんと一緒に笑ってた


それからはキッド君とお姉ちゃんと
たくさんの友達が出来て 毎日が楽しくて


お姉ちゃん以外に味方が、仲間がいるのが
お金よりも大事だって知った



みんなに教えてもらった







「椿…私、まだ…お礼言ってないの…





だから泣いてるお姉ちゃんを、椿と二人で
しっかりと抱きしめてあげた





「きっと二人とも無事で戻ってくるわ」


「そーだよ 安心してお姉ちゃ…わわっ!?





ぐらぐらと地面が揺れ始めた





「オイオイ、ここが終点じゃねぇのかよ!」


叫ぶキリちゃんへ目次ヤローは言う





「いかにもたこにも…どうやらエイボンの書は
君達を外へ出そうとしているようだ」


はぁ!?ちょっと待てよ!
キッドとブラック☆スターはどうなんだ!」



「それにマカ達がまだ来てないニャ」


ワケが分からず戸惑うみんなや、目の前が
ぼんやりと白くなっていく中





どっかで聞いた耳鳴りが聞こえた









―キム/死武専―







何かの間違いだとしか思えなかった





あのうるさいくらいの耳鳴りもなく


ダッサくて地味なアイツが
魔法陣のすぐ側に立ってるコトも





、アンタ…何やってんのよ…!





エルカを殺そうと刃を振り下ろし







その刃が…アイツ自身の左腕に食いこんで
血を流しながら留まってる現状も





「…ロス、殺す殺スやめろ殺す魔女を
繋ガ魔女魔女ヲヲ
ヲを…

あ、あ゛あぁぁ!


言葉の合間に、ぶるぶると頭が震える度


一枚、また一枚との服から
紙で出来た鳥や蝶が飛び出してくるのが分かる





まるでそれらが 意思を持って剥がれたみたいに





「俺の中からっ…とっとと、出てけ」





うつむいたアイツが 引っこ抜いた切っ先を
自分の左肩へと突き立てる


その瞬間…傷口から青白い光が瞬いて


痛いぐらいの耳鳴りと共に


うっとうしく漂ってた白い蝶や鳥が
全て一斉に破裂していった








室内を埋め尽くしていた紙や音が全て消え去って


軽く目をしばたたかせていたら





「全員無事か!!」


「キム!大丈夫!?」


駆け込んできたハーバーと、ジャッキーや
オックスの心配そうな表情が見えた





「私たちは平気、だけど…!?





息つく間もなく エイボンの写本が反応を示す





「な、何コレっ」


「そんな、本から強い魔力が…演算魔法を
無視して中の子達が出てこようとしてるの…!?」





何が起きているのか、理解が追いつかない


魔法を安定させようと四人で制御に集中するけど


本の魔力が強すぎるのと さっきまでの騒ぎで
うまく座標が固定できない





そのケガは大丈夫なの?お願いだから
何があったのかちゃんと説明して!」





そんな中…黙ってジャッキーの追求を受けてた
から 高く澄んだ響きが聞こえてきた





きゃっ!この音、さっきも…!」


「この甲高い耳鳴り…あの時と同じだ!


オックスたちはそう言うけれど 全然違う


この耳鳴りはまるで

私たちを受け入れているような






じゃり、と床を踏む音がする





「止めてくれてありがと…
メーワクかけてゴメンな、みんな」


待ってくれ!そんな状態でこれ以上何を」


「決まってる…今からヤな魔力全部ぶち切って
友達を助けに行ってくる」






止めようとするハーバーたちよりも早く


魔法陣へ、魔術の領域へのハサミが
触れたその途端





演算魔法の力が 強さを増した





「何コレ…本から出た魔力だけが…
のハサミに 吸われてく…!?





構わず本へと近づいて、無造作に腕を
一振りして切り裂いた空間へ


アイツは 迷わず飛び込んでゆく





「な…何、あれ…





空間の裂け目が閉じたのと同時に


本を通じて"何かが切られた"感覚と


私達の魔力を無視して、"中にいた何かが
射出された"
感覚とが伝わってきた







目まぐるしく色んなコトが起こりすぎて





もうワケが分かんなくて、疑問をまぜこぜに
大きくなった不安を吐き出した





「私達の演算魔法を無視して強制射出した!
キリク達は大丈夫なの…?それに」



「わかりません、ただ 交戦中としか…」





でも、同じように悩んでるオックスは


みんなの顔を見回して…優しく私へと
笑いかけながらこう答えてくれた





「ただ彼らはそう簡単には負けません
それだけは信じられます」










―ナイグス/ノアのアジト前―







朽ちた聖堂へ入ろうとしていた矢先





床下から現れた魔法生物が、テスカの胴を
食いちぎったのが見えた






「テスカ・トリポカ!!」





身構える間もなく三体の生物に囲まれ


手傷を負ったシュタインと、マリーを助け
左腕を犠牲にした死人へ





「死武専の精鋭もこんな程度ですか…」


闇に紛れてせせら笑うノアの術が襲う





「鬼神が復活して"狂気"が蔓延した世界で
"狂気"を抑えて勝てるわけがないだろう?」






倒れる二人の側へと向かう私とマリーの前へ


狂気に魅せられ裏切った
ジャスティンが立ちはだかった





「神よ 愚か者に制裁を…」


「やめなさいジャスティン
どれだけ罪を重ねれば…」





容赦なくアイツは 腹を殴られうずくまる
マリーの頭へ首枷と化した拳を叩きつけ





「この野郎!」


飛びかかる私も、その一撃で地へと沈める





どうにか起き上がろうとするも 白い蔓が
足や腕へ絡み付いて邪魔をする





「もう少っしおねんねしてればぅあん?」





くそ、慎重さが裏目に出たか…!


せめてキッドが人質から解放されているか
の魔力感知があれば状況は違ったはず





「私はこの世の全てを手にいれ世界を支配する
コレクト対象外のモノは私の世界では廃棄する





ロクに動けぬ私達を喰らうべく





「マンティコア」


新たに呼び出された魔法生物がこちらへ迫り





…その足を、本の中から伸びた
包帯だらけの腕がつかんだ







/写本→???―







現実は、いつだって残酷だ


成長したつもりだった僕は全く成長がなくて
ドコロかみんなの足を引っ張って


今だって間違ったコトをしてるかもしれない





だけど 後悔はしても迷いはしない





本越しに"魔導師"や…敵になったあの人に
苦しめられてる先生や


中で散々闘ってた皆が見えたから


これ以上、見てるだけはイヤだから

思い切って飛びこんだ







「っだああぁぁぁあぁぁぁっ?!





…そしたらまさか怪物に
丸のみされるだなんて思わねーよ!





どーにか出ようと胃袋を突き刺せば


飲まれたデカブツの腹から、本から外へ
出て戦っているマカたちが見える


よく分からん原理だが便利な反面歯がゆい


こうしてる間もあの女やこの魔導師が
魔法でバカバカ邪魔してるってのに…!





かかる胃液に痛みを感じながらも必死で辺りを
蹴飛ばし、刺して暴れ続けていると


浅黒い魔導師の声が聞こえてきた







『抵抗するなら仕方ない
殺して素直にするしかないですね』






殺すだと…?何言ってやがんだこのクソ男は


気づけば腕に、腹に、魂に力をありったけ注いで
デカブツを内側から解体していて





「俺の、友達にっ…ナニしようとしてんだ
こんのクソッたれ野郎ぉぉぉぉ!






切り開いた先で 腐れ魔導師と目が合った





「…なぜ貴様のような不要品がいる!


「知るか!俺は―







九人目のデスサイズと職人の友で


神を超えるため進み続ける男の信者で


死神様とその息子に救われた男で


魔女どもの敵で


カッコいい男の魂に約束したヤツで


どこにでもいる なんの変哲もない






「―ただの"普通"の魔鋏だっ!!」


死武専の家族(ファミリー)になりたい一人





だから、家族を傷つける野郎は絶対に
絶対に絶っ対ぇに許さない









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:魔女四人の部分がとっちらかってるのは
洗脳騒ぎと奇襲のダブルパンチ→ウチの子の豹変
→強制射出とウチの子の行動のせいです


ハーバー:原作通りあの部屋にオレがいたなら
こんな事態は防げたハズだったんだが…


ジャッキー:キムが無事だったのは何よりだけど
どういうコトか説明が欲しいわホント


狐狗狸:次回以降には全部分かりますよ
ハーバー帰還のタイミングも含めて、ね


旧支配者:まさか書の魔力を利用するとは
"伯爵"め小癪な術式を…


狐狗狸:ネタバレ禁止ですよ、そこの偉大なお方


ゴフェル:やっとあの変態色情魔痴女を
吹っ切ったのに出番が無いなんて!


ギリコ:直前まで絡まれてたからだろ、つーか
あのガングロヤローにべったりなテメェが
言えるかよヘニャチン野郎


ゴフェル:性を変えてまで浅ましく生き続けた
貴様にオレのノア様への愛は分かるまい!



マカ&ソウル:いやそいつ死んでるから




次回、キッド救出もようやく大詰めへ!!


様 読んでいただきありがとうございました!