―ハーバー/死武専門前―





スパルトイが結成され、職人は二つ星に昇格


先生たちの指導の下 それぞれに適した
本格的な訓練も始まったが





「オレたちは、実習なしか…」





同じく待機状態でフリーとなってる椿が


ファイアー・サンダー、アンジェラの
面倒を見ている光景を目の前にして


オレは、実質ヒマを持て余していた





「食べちゃうゾ〜♪」


「食べ物ならあるよ〜」







動きを止めた彼女らと共に


紙袋をかかげ、ひょっこり現れたへ視線を向ける





あら!何かしら?ソレ」


「手作りのお菓子 リズとパティにも
差し入れしてきたからエンリョなくどーぞ」


「射撃訓練所にも寄ったのね
二人の様子はどうだった?」


「元気そうだったよ、先生は困ってたけど」





微妙な表情とあっけらかんとした口調から考えて


あの二人…特にパティの対応が死人先生を
困らせているのだろう、きっと





「さ、冷めないうちに召し上がれ」


「わーいビスケットだ!ありがとチャイロ!」





若干、彼を警戒して椿の後ろに
隠れていたアンジェラは


あっさり細長い焼き菓子を受け取りぱくつく


その横で、菓子を取り合って
ファイアーとサンダーが争うが





ほらケンカしない ちゃんと二人の分も
ビスケットあるから仲良く、なっ?」





あまりにも簡単に納める彼の態度は

どこか手慣れてる感じさえあって





意外だ、と考えていると目があった





「…ハーバー君、僕の方を見てどうかした?」


「いや、このトコロ変化は多かったけど
君も相当変わったんじゃないか?」





白を基調としたスパルトイの制服


女子はほぼ全員同じデザインだが


オレたち男子は、それぞれの好みや個性に
合ったデザインや着こなしをしている





のは…ツナギとコートを混ぜた
感じの格好のせいで事務員っぽいが


今は休学中だからなのか


ボレロっぽいジャケットに黒いシャツ


青いジーンズの裾をロングブーツに入れた
割合オシャレな格好で、やっぱりと言うか





「以前(まえ)と比べれば まるで別人だ」


「否定しないけどさ、そー言う君こそ
バイザーからグラサンにイメチェン?」


「オレも変わるコトにしたのさ」












Il secondo episodio
 Esso quello che se non comune?












「そっか…で、他のメンバーは?」





訊ねつつ人一人分の空間を開けて座る
へ オレは答える





「どちらもデス・シティー周辺で訓練中だが

…内容によって二か所に分かれている」





ブラック☆スターとキリク、オックス君は
シュタイン博士と組手


マカとデスサイズになったソウルは


スピリット先生とマリー先生に連れられ


キム・ジャクリーンペアを講師に
波長コントロールを兼ねた飛行訓練の最中


飛行って…ソウル鎌なのに飛べるの?」


「マカの魂が天使型(エグリゴリ)という
特殊な性質を持っているから出来る芸当さ」


はぁ〜なるほど」





感心顔で説明を聞いてた彼は


ふいに空を見上げて、ちょっとだけ黙りこむ





…ここから二人が見えるかどうか
気になったのだろうか





「ああそうだ、どっちかでいいから後で
マカたちにもコレ渡しといてくれるかな?」


「いいけど…またバイト?」


「博士のトコでの波長訓練なんかも
キチンとやってるって、本当だって」


「言い訳しなくても、君が真面目なのも
魔女に対して恨みがあるのも知ってるから」


「ちょっとハーバー君!」





口にして、しまったと思った





「…チャイロは、アンのコトきらい?」


上目づかいで見つめているアンジェラへ





「安心してよ 僕がキライなのは君じゃなく
とっても悪い魔女のコトさ」





失言したオレに変わって


やさしく答えるの、ニコニコと
貼りついたような笑顔は





悪いマジョだと、どーするの?」


不安そうな幼い魔女の更なる問いで







ギィっと悪意のこもったモノへと変わる





「そりゃ紙をノドに詰めて童話のオオカミみてぇに
腹かっさばいて石くくりつけて殺」



…ぽろり、とアンジェラが食べかけの
お菓子を口から落とした


間髪入れずにサンダーとファイアーも泣き出す





「うわわわわっ!ごめんジョーダン!!」





……とてもじゃないが、そうは思えない


取り乱し、子供らをなだめる彼に対し


顔を見合わせたオレと椿はおそらく
同じコトを考えていた









―ゴフェル/???―





何が気に入らない、と聞かれれば


ノア様以外の全てであり


ノア様の機嫌を著しく損ねるものだと
オレは迷いなく答えるだろう





勝手な真似をするな!!死神…」





ノア様の本を許可もなく整理しておいて





「オレを閉じ込めておきたければ、中身を
きっちりかっちりしてもらわねばこまる」


のうのうと口答えをする死神へ
更に制裁を加えるけれども





ゴフェル!!これ以上
私のコレクションにキズをつける気か?」



「…申し訳ありません」





ノア様の所有物である死神への苛立ちは
より強く増すばかり





「いいねぇもっとやれ」


あぁんゴフェルちゃんカワイそうぅんv
アタシでよければ殴っていいのよぉん?」


「そうカッカしても身体に毒ですよ」


好き勝手にノア様の側にいる
この連中も気に食わない







…だから、ノア様の命令通り


マカ=アルバーンを殺して
ノア様への想いの強さを示してやる






「貴様ッ!マカに手を出してみろ!!
ただでは済まさんぞ!!」






すましてた死神が 怒りを剥き出しにしたので





「動かなくなった仲間の骸なら
神経質な君を逆なでる事もないでしょ?」



憂さ晴らしに言葉をぶつけてやった







―ソウル/野外訓練場上空―





高い"魂感知能力"を持つマカが


"鬼神"探索の切り札にもなるからこそ


標的として敵に狙われやすくなるのは分かっていた





『死武専は何としても
マカを守り通さなければならない』






あのダメ親父が必要以上に真剣になんのも


"親子だから"ってだけじゃない





…けど、そんな親父にヘソ曲げるマカは


オレがデスサイズになって安心したのか

"天使"っつー響きに酔ってやがんのか


明らかに 浮き足立ってやがる







『悪いが、オレには
そんな心構えに見えねぇケドな…』



「何なの?さっきから!!
はっきり言えばいいでしょ!?」






ああもう、メンドくせーなコイツら!


ふざけた羽で飛びながら 何度目かの
空中口ゲンカをかわして





いたら…急に、マカが黙りこんで





キム…ジャッキー…先に死武専戻ってて
私たちに付き合ってると遅くなるでしょ?」





前を飛んでた二人を、先に帰す







二人の姿が消えてから、オレは訊ねる





『…何か感じたのか?』


「うん 明らかに
こちらに殺意のある波長―…」





にわかには信じられなかったが

マカが言う通り、ソイツは空から


正に"いきなり"現れた





「死ね マカ=アルバーン」





黒い翼みてぇなのを左腕から生やした
変なカッコの男から


出会い頭の一撃をもらい、マカがよろける


『マカっ!』





体勢を立て直したトコロで奴が放った
黒い羽の弾丸を、飛びながらかわすが


カウンターの蹴りを食らって


近くの岩場に オレたちは諸共吹っ飛ばされた





どうだ?魂を狙われる立場になったのは…」


「クソ…はっ!?





ニヤニヤと笑ったソイツの腹が上下に裂け





「ノア様ァアア!!」


奇妙な叫び声と…魔法陣っぽいものが
裂けた腹の間からハッキリと






大きく横に距離を取った直後


今までめりこんでた岩場にデカい風穴が開く





「何だよ避けるなよ」


何もんだこいつ!?フツウじゃないぞ!!』





正体は知らねぇが…少なくともコイツは
強い魔力を持っている


魂はマカしか見えねぇけど





「こいつ…
私と同じ天使型(エグリゴリ)…!?





"魔導の力が埋めこまれた魂"と聞いて


オレは即座に、あの狼男
頭ん中に思い描く







―クレイ/デス・シティー―





別に意識して隠れてたわけでもないのに


勝手知ったる街の中に溶け込む


ひたすらに、地味で普通な先輩発見に
ちょっとばかし手間取った





いたいた!先輩!!」


「あれ?クレイ君に茜君…どしたの」


「急ぎなので、アパートを訪ねたんですが
お出かけとは…空を見つめてどうしました?


「い、いや何も…ええと、僕に何か用?


うわ、あからさまに不信感持たれてるぅ〜


そりゃそうか…一応スパルトイの一員とはいえ
表向き彼は"休学処分中"





身構える先輩に対して、どう切り出すか
迷っているオレを無視して


どストレートに茜がこう言った





「先輩の"魔力波長" 職人との共鳴で
範囲の拡大やターゲット特定など可能ですか?」






いきなりの質問に やっぱり
少し戸惑ってはいたけど


何かを察してか、先輩は
真剣に考えて 答えてくれた





さあ?やったコトはないけど…
距離や精度は、より高くなるかもね」


「単刀直入に言います こちらの調査
ぜひとも協力してください」





有無を言わさぬセリフに


言いかけた何かを飲みこんで…


鳶色の瞳が 少しだけ鋭さを増した





任務、だとしても…目星はあるの?」


「勿論 詳しい話は場所を変えてからで」





彼は こくりと頷きオレらの後を着いていく





…個人の勝手な感想ではあるけど





探すのに手間取った目立たなさといい


資料で読んだ限りの、土壇場での
肝の据わりっぷりといい


この地味な先輩は、中央情報局(オレら)
仕事に向きがいいような気がする









―ゴフェル/野外訓練場上空―





魔女アラクネを倒した職人、とノア様から
聞いていたのに


遅いし弱いし てんであの方の
コレクション対象になど程遠いじゃないか







…さっきまで本気でそう思ってたのに





「こんなふざけた羽で戦えるか!!」


ボロ雑巾みたいだった女が叫んで

デスサイズと"魂を共鳴"させた途端





さっきと比べ物にならないほど


キレイな羽と、波長を出しやがった





「これがノア様のコレクション対象か…」





妬けるなぁ!!





こっちの攻撃や"弾翅(だんし)"
ちょこまか避けて


霊長類ヒト科雌野郎は好き勝手に


殴る斬るを繰り返し…





「魔女狩り!!」





あげくノア様が開発してくださった
オレのこの身体にキズをつけやがった






「グロテスクな分際でノア様の
コレクションにノミネートされやがって…
オレだって…オレだって…


コレクションにされてしおりをいつも
はさまれたいんだよぉぉおおお!



「…うわ、何コイツ」


の姉貴とベクトル近い変態だな』





雌クソ豚どもの台詞なんかどーでもいい





やばい またあの砲撃だ!距離を置くぞ』


「うん!!」


テメェバカ野郎何退いてるんだ!!

俺のノア様への想いを受け止めないで
コレクション対象になりやがって!!」






ありったけのノア様への想い
オレの怒りを込めた魔法弾は放たれ


恵まれたバカ野郎を、追いかけ続ける





「行け行け…追い詰めろ…
逃げろ!追い詰めるよ





ノア様のために殺したいけど


ノア様のコレクションになれる
コイツの魂が心底妬ましい


うらやましいぃいいぃぃいいい!!







…あれ?魔法弾の上で止まった?





「どうした?諦めたのか?」





その程度でノア様のコレクションに
なろうだなんて本当に本当に厚かまし


「魔人狩り!!!」





あの雌…オレのノア様への想いを
気持ち悪いとか言いやがった!!






波長が斬られ、あまりにもショックで


避けきれず一撃を食らい


羽が散らされて…オレは落ちた







―ジャスティン/???―





狂気(ながれ)に身を任せての顛末とはいえ
彼女の暗殺失敗と





「敵前で私の名をボロボロ出すのは
いただけませんね」


魔導師の不興を買った事は


逃げ帰った彼には、この上ない
屈辱の上乗せとなっただろう





監禁してあるキッド君へ八つ当たりをする

口汚い愚痴と暴力のハーモニー


扉の側で、イヤホンを外して耳を澄ます





「こういう音には耳を傾けるのか…
いい趣味してるぜ…」





そういうギリコさんこそ、とても
楽しげな声色をしていらっしゃいますよ?


思いつつも 面倒だから口には出さない





んもぅキッドちゃんもゴフェルちゃんも
二人だけお楽しみなんてズッルいぃん!


あぁ今すぐにでも混ざりたいわうぁ〜』





と、いつの間にか側に漂っていた紙の蝶が

聞くに堪えない豚魔女の声を垂れ流す





ひねり潰そうかと思ったけれど


すぐさまギリコさんへ飛び、彼の手を
おちょくるようにすり抜けているので放置





「おやおや、ふしだらな魔女は
どのような不埒を企んでおいでですか?」


イ・イ・コ・トvよかったら
ジャスティンちゃんも一緒にどっおぅうん?』





どうせ、君を引きこむ手だてだろう





特に興味もないので 聞こえないフリで
部屋の中の暴力に再び集中した





だぁあウザってぇ!おいクソ神父
テメェもこの蝶八つ裂くの手伝え!!」






この喚き声も、中々いいアクセントだ♪








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:本当はスパルトイ初任務〜黒の道化師
撃破まで書きたかったんだけど、ねぇ?


ゴフェル:何だその目は!?こっちこそ
オレのノア様に対する想いが勝手に削られて
気分が悪いってのに!大体あの雌魔女も勝手に
ノア様にすり寄って吐き気


キッド:それに関しては同意だな


ギリコ:あの痴女、化粧クセぇ
どーも肌に合わねぇんだよな


ゴフェル:その上 誰が殴ろうが蹴ろうが
喜びやがって節操がない!



狐狗狸:いっそ正座で説教しますか?
子供ら泣かした後のウチの子みたく


ジャスティン:おや、それは微笑ましい


キッド:…流石にあの変態魔女は
椿には荷が重いんじゃないか?




スパルトイの初任務 同時多発に超展開!


様 読んでいただきありがとうございました!