―キッド/月面―





博士がジャスティンを倒してから間を置かず


駆け付け様に現れた隊員から父上直々の帰還命令が
あるから飛空艇へ戻れと言われ、耳を疑った





「何を言っている!?今この状況で戦場を離れろと言うのか!?
どんな理由であれそんな命令を聞くわけにはいかん!」






現在進行形で道化師どもと交戦している最中の戦場を
放棄するなどいくら父上の命令と言えどありえない





…聞くつもりも退くつもりも毛頭なかったのだが





「死神様の命令に従え!ここにいる負傷者と一緒に戻れ!」


背を合わせ共に前線で戦う博士が
ヤツらの猛攻を凌ぎながらもこう言ったのだ





博士やデスサイズスを信頼していないわけではないが





「この戦争は規律の戦い…
死神のオレが下がるわけにはいきません!!


確固たる意志で撤退を拒否するオレへ


博士はこちらへ向かい来る道化師を一掃し


オレをかばうようにして佇み なおもこう答えた





「オレたちのような普通の人間にはできないことが
君にはできる キッドにしかできないことをしなさい!」






今の一撃で"雷綱"を使うのも限界だったらしく


共鳴を解除し、人の姿に戻ったマリー先生へ
オレと負傷した兵士を連れて飛空艇へ行くよう促す





「オレは大丈夫だ」


「……わかった、行きましょうキッド」


「…すぐ戻ります」







もどかしさを抱えながらもマリー先生と船へ帰還し


父上と交信を行い…魔女との交渉の一件と





『魔女側はこの交渉の場に死神が魔女界に直接来ることを
交渉を始める絶対条件としている』






デス・シティーを離れられない父上に代わり

オレが魔女界へ行かねばならない事態を知った


しかも魔女達はオレが月にいると知っていて
この無理難題を突き付け


こちらはそれを飲むしか道がない…





『このまま月にいても道化師の無限増殖を
止めることはできない、一時帰還するんだキッド』



「他の方法はないのですか…?」





無意識に拳を握りしめて訊ねるけれど


父上はそれ以上 何も答えてはくれなかった





『世の中って、時に、ザンコクだよね』





…今になってあの時のの言葉が脳裏に強く蘇る





しばし呆然としていたオレを他所に





「状況はどうなっています?」


「負傷者と遺体の収容は完了 離陸準備に入ります!


デッキからの梓先生の呼びかけに合わせて
喧噪へ包まれてゆくブリッジの様子が耳へ流れ込む





「こんなにたくさんの道化師がいるんだ
撃ち落とされるぞ!





突入時の乱戦を思い出して叫んだオレへ





「大丈夫、安心しなさい」


側へ歩み寄ったマリー先生が力強く答えた





「デスサイズスは伊達じゃない」












L'ultima storia La prossima tenda apre











―キム/イタリア―





マカが死神様への報告を終えた後


空を飛ぶことのできる四人はそのままクロナを追って月へ


残るメンバーは死武専へ帰還するよう命じられた





特にキムと、君達二人にも重要な任務がある
戻り次第私のところへ来るように』







月まで行く手段のない他のメンバーはともかく


なんで空を飛べる私まで死武専に戻るのか

どうしてと二人で個別に任務があるのか





よくわからないまま連絡は終わり





「死武専で足見つけてオレ達も月へ向かうからな」


「オウ 待ってるよ」





私たち八人は死武専へと…ってアレ?


はドコいった?「ちょっと待ってくれ!」





地味男は 何でか知らないけどこっちに駆け寄って来る
ソウルと椿のやや後ろにいた…いつの間に





「ワリィワリィ、ちょっと手間取っちまってさ」





三人が手に持った紙袋から黒いバンドを取り出すと
みんなへ一つずつ行きわたるように渡してくる





「マカちゃんが死神様に報告してる時に
そこの露店で買ってきたの」


「髪がうっとうしくてヘアバンドでもあればって
思ってみてたら椿が…」


「確かに ちょっと前の信者ほどじゃねーが伸びたな」





ちょうど店にキッド達を含めた分のバンドがあったのも
理由のひとつらしいけれど


"みんながバラバラになるからせめてお揃いのモノを身に着けたい"

って思い立って買った辺りは椿らしい





離れていても魂は一つ!!なんちゃって」


「いいですね…とてもアナタらしい」


「ん?ソウルのだけ何か描いてあるじゃん」





ホントだ、ブラック☆スターの言った通り

ソウルの持ってるバンドだけ
魂を模したっぽいマークが描かれてる…なんかカワイイ




「さっき自分でな」


「何だよ じゃあオレ達も描こうぜ」





その一言をきっかけに みんなは片手に自分のバンド


そしてもう片方の手へ白いペンを握る





「芸術オンチのマカ画伯はどんなのができっかな」


「〜〜〜〜〜〜…描いて!!」「お…おう」





絵なんて描き慣れなくてパートナーに描いてもらったり


下手なりに自分で描いてみたけれども


曲線が全くないカクカクだったり、目がちょっと
変な風に飛び出てたり線が歪んでたり





お!結構うめーじゃん」


「バイトで慣れてるから、こういう作業とか」





かと思えばさらっと真似してるヤツや 星を入れる
オリジナリティーを出すのもいたりして


なんだかんだ楽しみながら 全員で同じマークを描いていく





「ちなみにコレ、いくらしたの?」


「みんなの分合わせてもそんなにしなかったけど
のおかげでもう少し値引きしてもらえたの」


「値引き交渉のせいで渡しそびれるトコだったけどな」


「悪かったよ、店のおにーさんがかなり粘ったもんでさ
観光客だと思われてボられるのもシャクだったし」


ホント、いい根性してるわコイツ…







「ついでにキッドたちの分も持って行ってちょうだい」


「じゃーオレが預かっとくわ」





まっさらなバンド三枚を キリクが椿から受け取って





「じゃあ…任せましたよ」


「もちろん!」


マカ達へのエールをそれぞれ送り


私達は今度こそイタリアを後にする





「重要な任務って何かしらね…悪い予感がするわ」


「僕を見ながら言わないでよ」





私もジャッキーと同じ感想を抱いてるけど

どういう理由や意図があるのか今の時点じゃ見当もつかない





…とりあえず 色々モヤモヤするし戻って時間があるなら
シャワー浴びて頭をスッキリさせたい









―テスカ/死武専―





魔女の放つ邪悪な波長すら外にもたらすことなく
シャットアウトできるソウルプロテクト


こいつを道化師へかけ 鬼神の狂気の波長による
無限増殖を止める…





理論として間違っていないと答えた魔女は


一人二人じゃ到底無理だとも叫んでいた





だからこそ 魔女界側の協力が不可欠と考えた
死神様が交渉を続け どうにか交渉の場は設けられたが


死神様かその代理人を代表として魔女界へ寄越すことを始め

こっちへいくつも条件を突き付けてきやがった





その内のひとつに"魔女の身柄及び魂の引き渡し"も
含まれていたワケだが


確保に失敗した事を告げると

ヤツらは何てことないようなツラしてこう言ったのだ





と言ったか…あの女の身内がいるのだろう?
代わりにそいつを寄越せ


あの子は別に関係ないでしょ?
寄越してそっちに得があるとも思えないんだけど?」


『それはこちらが決める事だ』





すました態度が気に入らねぇが…


死神様だって腸が煮えくり返りそうなのをこらえてる以上
オレが口を挟む道理じゃねぇ







ある程度の通信が終わり 息を一つ吐き死神様は言う





「そいじゃー今のうちに三人の魔女と狼男を
ここに連れて来といてくれるかな?」


『了解しました…行くぞ猿里華』


「がう!」





かざしたデカめの手鏡へオレが移ったのと同時に猿里華が駆け





リサとアリサの二人を連れ、牢獄部屋のエルカと
待機させてあるフリーの元へと移動する





「うっわ魔眼じゃん!マジョでとっ捕まってる〜」


「エルカを助けに来たらうっかり捕まってしまってな
ああ!目立っちまったのさ!!


「マジョで?ウケるー」





呆れ果ててる職員一同と 道中いい加減まで
けらけら笑う魔女二人を意にも介さず







「忘れたのか?ソウルプロテクトを使えば
このくらい容易い御用だ」


「それを言うならお安いでしょ…てかソウルプロテクトを
使ったからってそんな簡単なわけじゃない ここは死武専なのよ」


「そんなことはどうだっていい さっさとここから出るぞ!!」





枷付きで連れられたこの狼男は、当の助けようとした
魔女のいる部屋の前でも自信満々な態度を崩さねぇ


コイツもコイツでどーいう神経してんだよ





「あんたも捕まってんじゃない」


「ああ!!助けに来たついでにな!!」





ドアが開き 笑顔から一転して呆れっツラしたエルカへ
フリーが魔女達の解放を伝えた所で





『これで全員か、死神様の所までついて来てくれ』


猿里華を先頭に魔女どもを連行してゆく





「ついてけってのか?
犬猿の仲って言うだろ…オレは猿が苦手だ」


「知らないわよバカ犬、それにしても今度は私達に
何をさせる気なのかしら?」





何ともマヌケな話をしてるコイツらも含めて


今更ながら、魔女や魔術師のもたらした影響は
計り知れないと痛感する





それはアイツの姉や…"伯爵"の術式にも言えるだろう







魂に刻まれ、魔力を糧に魔力の流れを感じ取り
意のままの制御を可能にする魔法陣


もしもソウルやデスサイズスクラスの力を持つ魔武器が
その力を使えたならば ソウルプロテクトも意味をなさず
鬼神の討伐をも容易にしてしまうだろう





だが強大な力、まして魔力を扱うのならば
より強い狂気を相手に呑まれない強い自我が必要となり


下手を打てばパートナーである職人をも狂気に巻き込む





…むしろそれこそが"伯爵"の狙いだったのかもしれないが





そういう意味では、魔法陣を刻まれたのが

普通()でよかったと言うべきなのかもしれない





背後の連中に気を配りながらも そんなとりとめの
ないコトを考えていた











―ブラック☆スター/イタリア―







死武専へ帰る小物どもと同じように





「何かが違えば、僕もクロナみたくなってた」


もまた月へ行くオレ様達へエールを浴びせる





「だから分かるんだ、きっとアイツは変わってない
ただ構ってほしいだけのガキのままだ





生意気にも信者なりにマカの背を押そうとしてんのが
突き出した拳と ニッと笑ったツラから分かる





「月に行ったら一発きっついのお見舞いして
目ぇ覚まさせてやってよ?」


「「言われなくてもそのつもりだバーカ」」





まるで示し合わせたみてぇにぴったりのタイミングで
セリフがハモって、オレとソウルは更に笑い合う







「さーて…キリク達も行ったしオレ達も行くか」


「だな!「待って!待って!」またぁ?今度は何だよ…」





ちょいちょい腰を折る椿へ さすがのオレもちょっと
げんなりしつつ視線を向けると


やたらデカいバッグをマカへと差し出してんのが見えた





「クロナ処刑命令」…この任務の結果次第では規律に
背いてしまう、クロナのしたことは許されることではない」





さんざ悩んで実際会って


やっぱりクロナを殺せない

言いながらマカが路面に置いたバッグから取り出したのは





「そうするとこのスパルトイも背負ってはいけない
だから



「それは…」


「マカちゃんと話して持ってきてたの
みんなのもありますよ」





なーるほど…こいつぁ気が利いてやがるぜ





オレ様達が始めて組んだあの伝説の補習授業


その時に着ていたコスチュームで鬼神どもやクロナと
ケリをつけに行くってのは中々にBIGだぜ!







着替えも終えて調子取り戻したマカが左手を腰に当て
右手を天高くあげて叫んだ





「よし!!行くぞ!!月はどこだ!?

あそこだ!!






指差す先でビビる月へ オレ達も狙いを定める





これで存分に戦える!待ってやがれ鬼神ども!!





それにいつまでも悲劇の主人公気取ってんじゃねーぞクロナ!


テメェだって どこにでもいる普通のクソガキだ!!








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:これにてスパルトイ編は完全終了となります
よーやっと最終章へのお膳立て 整いました!


ソウル:ホントに書くのか?最終章


ハーバー:書く気はまだ残ってるみたいだよ、ただし
今年中に終わらせるつもりも自信もないみたいだけど


リズ:いつものこった、何にせよ早いトコみんなと
合流して月でひと暴れしたいな


パティ:ネタが腐る前に暴れさせろコラー!


ジャッキー:…最後までこのノリで大丈夫なの?


椿:イイと思うわ、ラストへ向けて気合一杯って事で


スピリット:ホント頼むぜ〜最終章の月面でずっと
シュタインと待ちぼうけは地獄だしな


狐狗狸:…ういっす努力します




長編拝読ありがとうございました、最終章の始動は
年内に間に合わせますので何卒お待ちを…!


様 読んでいただきありがとうございました!