―ゴフェル/月面内部―





月へたどり着いてから、ヤツらと死武専の連中の気が
逸れるまで実に長かった…全く腹立たしい





オイ!死武専の奴に先をこされたじゃねぇか!!」


「申し訳ありません!」





くそ!

鬼神の手下どもの邪魔を避けるため待ってるこちらを差し置き
ノア様よりも先に入りやがって死武専の連中め…!





もう待ち切れるか!このスキに乗じて月の中に行くぞ!」


ようやくノア様が鬼神を手に入れるチャンスがやって来た





と、湧き上がる興奮とこちらの意気込みは
見知らぬメガネと黒いフードのガキに水を差された





「何だお前ら…「お前らこそ何だ!!
邪魔する気ならやってやんぞオラァアア!!」



「ちょっとノア様!
そんな大声出したら気づかれてしまいます!!」



慌てて口を押えたらゲンコツをくらった上
余計に怒られてしまった…死武専のガキどもめ





「ちっ…今は死武専の奴らとやりあってる場合じゃねぇ
行くぞゴフェル」「はい」







おまけにせっかくノア様とオレが見逃してやったと
言うのに、ガキどもが後ろからついて来る


こんな状況でなければ殺してやるのに…!





ノア様も同じお気持ちのようで、叫ぶ声を諌めても
さっきからご機嫌がグッと右肩上がり





「オレの怒り肩の肩がグングン上がっちまうぜ!!」


「その分オレの口角は下げますから、鬼神を手に入れたら
オレがヤツらを殺しますからご安心を!」


ああ、なんか…サポートしてる感じだ…





幸福感に思わず口角がちょっと上がってしまい

お叱りの言葉と共にノア様のおみ足がオレを踏みしだく





だがその痛みは通路の奥からにじみ出る鬼神の狂気と
相まって、何とも言えない心地よささえ感じる





「これが鬼神の狂気…とてつもなく大きい…
人を狂わせる魂の波長…」


『今更ながら、大丈夫なのか?死人先生…』


ガキどもは怯え竦んでいるようだが…留まる事を知らない
この狂気がノア様のモノになると思うと心が躍る












Quindicesimo episodio
  uno solamente semplice risposta












―椿/イタリア―





スペインでの児童救出任務を終えた二人と無事に合流した
私達は、廃病院で起きた事の全てを聞いた


血の繋がった姉の魔女へ刃を振り上げたけれど


最後の最後でやっぱり彼は、当初の予定通り
魔力を全て奪い尽くして拘束する殺すかで迷い





「―で、カッコつけといて結局逃げられたのか
なんつーかしまらねぇな お前らしいけど」


「うっうるさいな!次は絶対返り討ちにするさ…」


「だな、まさか左腕ぶった切られた状態で悪あがきすると思わなかったが
今度会ったら逃がしゃしねー!





ばつが悪そうなの肩を組み、意気込むキリクに
周囲の緊張がちょっとだけほぐれた気がした





「てか案外元気そうねアンタ」


「そんなワケないだろ、またアバラいかれてたし」


「しかし合流した際の足取りがしっかりしていたトコロを見るに
"魔力の吸収"が身体に何らかの影響を及ぼしているのでは?」


「…オックス、それ博士には絶対言うなよ」





道中で他愛のない会話を挟みながら

マカちゃんがクロナの波長を捕えたらしい通りへと到着する





クロナの処刑について…私達はいまだ迷っていた





友達を殺すコトに納得していなかったキムだけじゃなく


「生々流転」と死神様の規律を口にするハーバーでさえ


"死を拒否する事は出来ない"と割り切るために
自分に言い聞かせているように聞こえた





…どちらが正しいとか 言えるほど私は大人じゃないけど





『今回の任務はターゲットがいるから殺りにいく
そんなシンプルな任務じゃねぇ』



ブラック☆スターやキッドが言うように、クロナを
どうするのかは私達が決めなくてはいけないのだ







「見つけたかマカ、この近くなんだろ?」


「うん…いや…わからない、人が多過ぎて…」





彼女は自信なさげにそう答えるけれども


辺りを見回すオリーブグリーンの瞳は
"見つけた"と告げた時と同じ 強い意志を宿していた





けれど私も彼も、その場ではそれを指摘しなかった





「でしたら手分けして探しましょう」


「そうだね…じゃ、いこっか」


「おー…任務終わったってのにまーたお前と一緒かよ」


「しょうがないじゃん僕単独行動出来ないし
探知の効率とか考えたらこうなるのは当たり前だって」





やがてオックスの提案に従い、チーム全員は個別に別れて
それぞれの探知能力でクロナを探しに行くコトになり


その直前にとマカちゃんの目が合って





お互い無言でうなずいているのを ハッキリと見た





「…やっぱり、気が付いていたのかしら」


「かもな」


他の人のは聞こえない小さなささやきを拾って
ブラック☆スターは口の端を軽く持ち上げる







マカちゃんとソウルの後をこっそりと追いかければ


やっぱり…二人は迷うことなくあの場所へと向かっている





「みんなで押しかけても動揺させちゃうかもしれない…
一人で大丈夫」


「何かあったらオレ様を呼べよ」


「ブラック☆スター」


「いるんだろ…」





短くひとつ頷いたマカちゃんは


宣言通りたった一人で
サンタ・マリオ・ノヴェラ教会の扉を開けて入ってゆく





「マカの奴…大丈夫か」


「信じましょう、きっと大丈夫よ」





私達三人に今出来る事は
彼女を信じて 油断せずに外で待ち続けるだけだ









―シュタイン/月面―





倒しても倒しても、際限なく再生する鬼神の手下ども


道化師連中や巨大なデク人形でさえその様子では
いくらキッドでも厳しいモノがあるだろう





「これが鬼神様の狂気
あがくのをやめろ!!狂気に堕ちなさい!!」






奴もまたギロチンの刃を次々とこちらへ飛ばしながら





無駄よ!ジャスティンのとろい罠などに
シュタインが捕まるわけがない』


「はははは何を言う!!もう貴方達は捕まっているのですよ
そうですこの月こそ!!そうこの月こそ!!
貴方達をおびき寄せる巨大な罠!
この月こそ私の巨大なギロチンです






左顔面からの出血にも構わず、月からの狂気を固辞し続ける





「お前にいつまでも構ってやれない
とどめをさしてやろう」


「私を殺しても戦況は変わらない!!貴方達は負けたんですよ」





それが正しかろうが間違っていようが、答える義理は無い





「好き放題やって好き放題発言をして
意見が合わなきゃ殺せばいい その方が自然でしょ!?
死神の規律がそんなに大事か!!」



「死神様の規律はそこまで言っていないだろ」





マリーと魂を共鳴させ、波長を限界まで高める





「だがシュタインあなたの中の狂気は
死神の規律にはあってはならないものだろ!!」



「今はぶつける先があるからな!」


地を蹴り頭上へと飛びかかるオレへジャスティンはなおも
オレの中にある狂気をどうするのかと呼びかけるが


そんなモノに耳を貸す余裕も義理もない





『BJの敵!!』





雷と波長が交差して絡み合うトンファーの一撃を
まともに身に受け、倒れ伏したジャスティンは


粉々に砕け散り消え失せる最後まで 狂った笑みを浮かべていた





「だが安心しなさい…貴方の時代が来ますよ
規律は崩壊する 規律は崩壊するんですよ







孤独だったお前は、結局規律に潰され狂気に堕ちた


規律を通した先に何も想像できなかったからだ


それに―





『ジャスティンも…みたいに誰か信頼できる
相手がいたのなら、こうはならなかったのかしら』


「…さあな」





たとえ規律が崩壊したとしても


それはオレの望む世界ではないよ









―マカ/サンタ・マリオ・ノヴェラ教会―





もしかしたらクロナも迷っているのかもしれない


だからこそ始めに見つけた時も、そして今もなお
教会で私を待ち続けていたのかもしれない


そう思って私は一人で中に入り クロナと対峙した





今だって変わらない クロナとラグナロクの2つの魂





だけど…この押し潰されそうな暗い眼をした
目の前の男の子は 本当にクロナなの?






死武専に戻ろう!!みんな待ってる
クロナには何もさせない、絶対私が守ってあげる!!」


「…もう無理なんだ」





メデューサに記憶をいじられて私達との…


私との記憶が曖昧になっているのは
ブラック☆スターから聞いていたけど


右腕を抑えたままのクロナの言葉は 表情は





これが僕が最後に守った規律―けじめ
それをマカに伝えるためにここで待っていた」


何もかもを諦めきっているように思えた





「ソウルもブラック☆スターもキッドも椿ちゃんもリズちゃんも
パティちゃんもみんな…クロナは仲良くなれたじゃん
マリー先生やとだって…」





ギリギリまで仲直りが出来る、殺さずに済む可能性にかけて
説得を続ける私へ





「僕は母親を殺したんだ」





クロナはあくまで無感動に 自分の手でメデューサを
殺したコトを告白した





「何とも思わなかった
そればかりか解放された気分だった…」





同じような境遇のはずなのにみたいに
恨みや決意が現れてもいない


キッドやオックス、ハーバーみたいに考えた末での冷静さとも違う





ひたすらに重く冷たく
吸い込まれてしまいそうな闇しか感じない





「もう 僕の歯車はガタガタだ…何者ともかみ合うことはない」







言葉と同時に噴き出した、狂気の波長の圧力に
怯んだ私の側をクロナが通り過ぎる


それを止めようと伸ばした指が左腕へ触れた瞬間





クロナの身体と影から生えた"黒血の茨"へ弾かれる





茨で周囲全てを拒絶しながらクロナは扉の前までたどり着く





「僕は規律を守れない規律アレルギー
僕にはこの世界すべてとの接し方がわからないんだ」


だから月へ向かい―鬼神を手に入れる、と続ける





「その狂気で世界を歪ませ すべての歯車を狂わせるんだ」


「そんなコトない!!またやり直そうよ!!」


どうにか止まってほしくて、考え直してほしくて
声を張り上げるけれども





「ここの扉…たしか内側に開くんだよね?」





止まるコトなくクロナは内開きの両扉を
片手で外へと押し出すようにして吹き飛ばした





「クロナ!!」


あらゆる規律を守らない―…初めて僕が決めたことなんだ」





外で待ってたブラック☆スターが戦闘態勢を取ろうと
椿ちゃんへ呼びかける





「待ってクロナ!!」


「寄るな!!」


駆け寄る私の身体は 黒い茨に弾かれてしまう





痛みよりも恐怖よりも…だんだんと腹が立ってきた





「この波長は!?」


「クロナを見つけたの?」


声と波長を察知して駆け付けてくれた他のメンバーも





「…また裏切ったまま逃げんのか!?ふざけんな!
僕はまだ君とちゃんと仲良くなってないんだぞ!!


苦しそうな顔でこっちへ走って来るの呼びかけも
何もかも、気にかけるそぶりすらなく





「もう誰も傷つけたくないんだ」


背中から黒血の翼を生やしてただ月を目指すクロナ





「待てコラ!まだ話がついてねぇんだろ!!
戻れよ!!



より高く跳んだブラック☆スターの右の蹴りを





「傷つけたくないって言ってるだろ!」





茨で防ぎながら相手の身体ごと地面へ押し返して
勝手なコトだけ言って 空の彼方へ消えた







私達の、こっちの気持ちを知らないで!





すぐにソウルと追いかけようとしたけれども
それはハーバーとオックスに止められた





待て!!月は今…死武専と鬼神の戦いの最中だ
そこに最危険人物のクロナが向かっているんだ…
死武専に報告するのが先だろ!!」


それに単独でクロナを追うのは危険です

私はもちろんスパルトイの中で一番クロナと戦える
ブラック☆スターの足ではクロナに追いつけない」


「う…うるせぇ
時代がオレに追いついてねぇだけだ!!」





二人の言葉は正しいけれど


追いかけるコトが出来ず待つしかない状態に苛立ちが募る





じっと空をにらんでいた私へ ソウルが問いかける





「それでマカ…答えは出たのか?





決まってる、クロナをあのままにしておけるわけない


「準備が整い次第 私達も月に行くぞ!!」


「決まりだな、キッドの所へ行こう!」


「オレは最初から月へ行きたかったんだ」





鬼神を手に入れる前に追いかければ間に合うかもしれない


…それだけじゃない





クロナの馬鹿野郎が!!処分がどうとか規律がどうとか
面倒くさい とりあえず一発ぶっ飛ばしてやる」


みんなの気持ちを無視したアイツに一発かまさなきゃ
こっちの気がすまない!






「それよりさ…何があったのか教えてもらえる?」





怪我の具合を見ながら 心配そうに訊ねるキムへ頷いて


まだ事態を察知していないキリク達を待ちながら
みんなへ教会で会ったコトを手短に話した







「てゆかキリクと一緒に行動してたのに
何でアンタだけ先に来てんのよ?」


「偶然ってヤツだよ」





言いながらがおデコに張り付いた前髪をかき上げる

…フリしてジャクリーンから視線を反らした


ひょっとしたら彼も すぐに駆けつけられるように
この近くにいたのかもしれない





深く息を吸い込んで気持ちを落ち着けてから


私は 死武専へと報告を行った







―死神/DEATH ROOM―





月面からの梓の報告で、現在交戦中のメンバーが
鬼神の道化師軍団の狂気による無限増殖で苦戦している現状を





『キッドのライン・オブ・サンズは2本までつながりましたが
未だに覚醒までは…』


「う〜ん…"BREW"がなければ難しいのか…」





イタリアからはスパルトイがクロナの接触に成功するも
月へ逃亡、鬼神を狙っていると告げられ


事態が良くない方へ傾いている事を理解する





「エイボンの書と"BREW"を持って逃げた
ゴフェルという少年も気になる…

鬼神をめぐって四つ巴になるかもしれないねぇ





鏡の中のテスカに 彼女らの死武専への帰還命令を出したか訊ねる





はい 第5勢力との交渉準備は整えてあります』


「立て続けに色々頼んじゃって悪いね〜」


『まあ、交渉自体は合間を縫って勧められましたから
…ただあの魔女を取り逃したのは手痛かったですが』


「全くもってその通りだね」





あと一歩の所で身代わりを使い逃げおおせるとは
そのしぶとさだけは称賛に値する


せめて本人の魂身柄があれば話は早かったのだが

持って行った左腕では材料として弱かったらしい





「あまり子供らには負担をかけさせたくないんだけどね…」


『今はアイツらを信じるしかありませんよ…ん?


一瞬だけテスカが鏡の中から消えて、再び現れる





『どうやらデス・シティー内でうろついていた魔眼の男を
職員が発見し、交戦の末捕獲したようです』






話を聞けばこちらで捉えている魔女エルカを助けるため
プロテクトを使って侵入したらしいけど


大きいし目立つ姿形の上 迷子になっていたから
あっさり見つかったとのこと


死武専への連行を条件に捕まり


今も大人しく牢へ移送中らしい





「ふーむ…じゃあ手土産ついでに彼も連れて行っとく?」


『ですね、一応向こうにも伝えておきましょう』







…ほどなくして梓からの通信が届く





『デス・ザ・キッド 戻りました』


『何でしょう父上』


「無事でよかったキッド」『挨拶はけっこう早く用件を』


差し迫る状況による殊更硬い対応に若干へこみつつも


私は月面戦争を開戦する前、秘密裏にある勢力

魔女と交渉を続けて来た事を告げた





魔女と?
魔女とは十年一日の敵同士…その魔女と何を…?」





始めは驚いていたキッドだったが、鬼神討伐に
全デスサイズスを投入し戦力を月へ割く事


それによる手薄になった地上にて残る一番の脅威が
魔女である事を口にすれば


交渉の目的が"魔女に対する抑止"だとすぐに飲み込んだ





「鬼神を復活させ今この窮地を作ったのは悪名高き魔女
メデューサだがそれは魔女の総意ではない…
魔女にとっても鬼神の狂気は脅威でしかないからね」





月面戦争中の一時休戦を承認させるのは難しくはなかった


けれど問題は、もう一つの交渉の内容





「狂気は連鎖する…これから行う交渉次第で
道化師の無限増殖を止めることが出来るかもしれない」


『もしかしてそれができるのが…』


「そう、魔女だ」





まさか死武専が一番手を焼いた魔法…何人もの魔女の
侵入を許したソウルプロテクト


この戦争の もう一つのカギになるとは思ってもみなかった





―同時に魔女どもが交渉の場へキッドやキム達魔女

そしてを連れて来るよう要求する事も









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:そろそろスパルトイ編も終わりに…てか
終わらして最終章入っときたいです!


マカ:書く気あったんだ!けどもし順調に書いてたら
去年で最終章終わってたかもしれないんだよね


ブラック:まーオレ様の活躍をその分たっぷり
見れるって考えりゃ得したってモンだぜ!


キッド:いよいよこっちでもみんなと合流か…
しかし最後のアレに関しては色々と無理があるような


狐狗狸:そこに関しては次回以降(&最終章)で
語りますが、簡単にネタバラシしときますと廃病院の
任務辺りでの彼女の処遇もそこに関係してました


テスカ:ガキども二人は知らんが、仮に撤退となっても
奴の無力化と今後の関係でオレらは行動するよう
死神様から密命を受けてたんだよ


死神:ま〜さかああいう結果になるとは予想外だったけどね


狐狗狸:後付け設定万歳(夢小説故致し方なし)


スパルトイ組:おい本音出てんぞ




次回、そして彼らは行くべき場所へと…


様 読んでいただきありがとうございました!