―マリー/死武専廊下―





ようやくケガから復帰した矢先のその命令は

私自身でさえ、信じたくなかった





「楽なミッションだったな」


「お前は村で暴れただけだろ…」


「始末書が…」





シシェパ村でのスカイホイール猟の助力任務を終えて
戻ってきた四人へ大慌てで駈け寄って





「マリー先生どうしたんですか?」


「落ち着いて聞いてね」







クロナが死神様のリストに登録された事





「そんな…!」


スパルトイに処刑命令が下された事を、告げる





「それ…本当なんですか、マリー先生」


「残念ながら本当よ アナタ達にとっても
とても辛いでしょうけれど」


「待ってくれよ、いくらなんでも急じゃねぇか?」





やっぱりというかなんというか、この知らせに
皆は辛そうに顔を歪めて反論してくる





そうですよ!悪いのはメデューサでクロナは
操られてるだけかもしれないのに…」


「だとしても死神様が命じた以上、これは決定事項よ」


「だからって納得できるわけ」


「気持ちは分かるけど落ち着きなって」


「あのなぁ、お前はクロナの処刑をしろと
言われて黙っていられ…」


ソウルがそこまで口にして


私は四人のすぐ後ろに佇んでいた彼に
やっと気づいた





「「「いつからいたの!?」」」


ははっ久々だなーこの感覚」












L'undicesimo episodio
 Se un eroe scappa che lotta












何とも言えない笑みを浮かべたの背中を
すかさずブラック☆スターが叩く





輪をかけて冴えねーツラしてんな!景気づけに
オレ様のBIGな飛行武勇伝を聞かせてやるぜ!!」


「へーそりゃ楽し…飛行?え?飛んだの?」


つぶらな目を更に丸くする彼へ、椿が
困ったように笑いかける





…まあ報告を聞く限りでも、アレは"飛ぶ"っていうより
"伸びる"とかが正しいわよね?





「それで、そっちの首尾はどーだ?」


「難航してるよ…あの女の居場所にしても
まだ特定には至ってない」





"球体"の一件から 目立った事件はいまだになく

目撃情報などもあまり集まらないとか





「そういえば、児童失踪が起きた村の近辺で
ノア一派と交戦したって報告があったけれど」


「ええ…現地調査してたら、途中でノアの側にいた
あの気持ち悪い奴を見つけたけど 逃げられまして」


「おいそれマジか」


「間違いないよ、黒髪でジトッとした目でおまけに
ニチャッとした油が身体中はい回るみたいなあの波長は」


うぇ…聞いてるだけで身体カユくなってきた」


「あ!ちょっとドン引きやめて!僕だってあんなの
感知したくてやってるワケじゃないんだって!!」


情けない声を上げるには悪いけど

いやそーな顔して一歩退いたマカ達の気持ちも分かる





「そーだそーだ、オレ様の信者の唯一の取り柄を
あんまりけなしてやんなよカワイソーだろ?」


「別に取り柄ってほどじゃ…てかフォローしてないそれ」





すねる彼を見て ブラック☆スターと一緒にみんなで
笑い合っているこの時だけは


辛い現実がほんの少しだけ 和らいだ気がした







―オックス/ミーティングルーム―





"クロナの処刑命令"の報告を受け、ほぼ全員が
集まった室内の空気はやはり重かった


全員が 歩き回ったりソファに腰かけたりと落ち着かない





死神様もひどすぎる いくらなんでもマカ達に
クロナを殺す命令を出すなんて…」


キムやブラック☆スター、キリクは明らかに憤りを隠せず





「けど私たちの知らない所でクロナの処分が決まるのも
嫌だ まだ私達の手で…」


ソファに座したマカは そう言いながらもどこか
覚悟を決めかねているようにも見える





「すまない…今戻った」


「キッド あんたも死神でしょ
だったら死神様に話をつけてきてよ」






駆け付けたばかりの彼へ、矢継ぎ早に言葉を並べる
キムの気持ちも分かるけれど





「クロナのやったことは許されざることだ」


僕も キッドの意見に同感だった







メデューサに操られていたとしても、事実上
デスサイズを殺し一つの街を狂気に飲み込んだ所業は


処刑される理由としては十分すぎる





「クロナの処分はやむをえまい」





直後 やっぱりというか何というか
包帯だらけの腕がキッドへと伸ばされた





「ブっ…「そんなつまんねぇこと言いに来たのかよ!」


「人の話を最後まで聞け」





彼らが殴り合いになった時に備えてか、椿と
がすぐ傍へ寄って様子を見ていたが


襟をつかまれても、アゴへ拳を当てて引き離しながら
そう告げる彼を睨みつつもブラック☆スターが離れたので


ホッとした顔をして二人も 先程いた場所へ戻っていく





「たしかにやむを得ん処置かもしれん
だが、絶対的な「規律」などないと言いたいのだ」


「しかし…ここにいるスパルトイのメンバーだけでも
国籍はもちろん人種も違う、みなそれぞれの
価値観を持っている」





そんな人々を繋ぐ唯一のモノが「規律」であり


自らが人間味を主張できるのも、その「規律」ありきだと
ハーバー君が自分なりの理論を口にしていた





「「規律」の象徴たる死神(きみ)が「規律」を
ぼかしてしまっては 人はバラバラになるぞ」






…その意見は僕も全面的に賛同したいけれど


自分のパートナーが 自らをそんな風に思っていた事に
少なからず驚きを隠せなかった





「しかしこのクロナ処刑命令 納得いっていない者もいる」





答えるキッドは死神様のこの命令が


我々が「規律」に捕らわれず
クロナとどう対峙するかを問うている
、と告げる





「我々がどう対峙すべきか、ですか…」







重い沈黙に耐えかね 黙っていられなくなったのか





「そういや聞きそびれてたけど
お前はクロナの処刑についてどう思ってんだ?」


何気なくキリクが視線が合ったへと訪ねる





「んー…僕はね、どちらも賛成でどちらも反対」


「どういう意味だい?」


「僕だってクロナの処刑に納得はしてないよ、けどさ
規律が大事なのも 彼がしでかしたコトの重大さも分かる

そんな仲良くなかったけど、ほっとけなくてね」


「で?何が言いたいのよ」





ツッコまれて、彼は気まずげに咳払いをした後で


僕らをぐるりと一瞥しながらこう言った





「僕がみんなと仲直り出来たようにクロナにも一度だけ
ここに戻れるチャンス、あげられないかな?」







それは意見というより願望に近い
人任せで無責任な問い





けれども彼の表情は何よりも真剣で


こちらへの信頼と どのような結果も受け入れる覚悟が
鳶色の瞳から垣間見えた






訪ねた当の本人が、ふはっと息を吐き出して笑い
彼のツナギめいた肩をヒジでつつく





「ズッリーだろその答えはよ」


「ズルくて結構、僕は正しくも賢くも有能でもない
どこにでもいる凡人だからね」





君みたいな男はそうそういないだろ


そう思う一方で、その一言に納得もしてしまうのは

波長以外に特出した部分が無いせいだろうか?





「その考え方は嫌いじゃないぞ…とにかく下を向いても
しょうがない 「規律」も我々も進まなくては


「立派になっちゃって」





若干 空気は軽くなったようだが


処刑を行うにしろ、彼の提案を飲むにしろ
まずはクロナを見つけ出さない事には始まらない







…今まで黙っていたマカが顔を上げたのはその時だった





「ソウル、協力してくれる?」


「構わねーが 何をする気だ?」


「出来るかは分からないけど…
魂感知を全開にして、クロナを探してみる









―スピリット/DEATH ROOM―





『鬼神は"月"にいる可能性がある』





ジャスティンに肉体を滅ぼされ
魂だけを鏡に移して戻ってきたテスカが


奴を追っていた際に感じた"月"からの微かな反応を
報告するのと、ほとんど同じタイミングで





「死神様!!
鬼神阿修羅の居場所が分かりました」



マカとソウル、そしてキッドがこちらへ駆けて来た





テラスで互いの魂を共鳴させ 世界中の魂を頼りに
狂気を追えるまでに強くなった感知能力にも驚いたが





「マカちゃんの魂感知でも"月"に鬼神を感じたか…」


「お手柄よマカちゃん」


「いえ…クロナを探していた時にたまたま…」





昼間のクジラ漁の時点で、上空の狂気濃度が濃い事を
感知していたとは…流石はオレの娘!





「鬼神が月に潜んでいる可能性は濃厚になりました」


「どうします?」


オイオイそんなもん決まってるじゃないか





我が娘のおかげで鬼神の場所がわかったと言うのに
お父さんのオレがほっとくわけにはいかない
我が娘のためにも」 「ウザっ」


「…鬼神討伐隊を編成しましょう」





オレの言葉を引き継いでシュタインが

デスサイズスの全員召集キッドの参入を提案する





「そうだね月での戦闘となると空中戦はやむをえなく
なるしねー…キッドのスケボーテクは必要となる」





スパルトイの任務から外れる事に思う所はあるだろうが





「これは「規律」を取り戻す闘いだ」


だからこそ…この闘いを避ける事は出来ないのだと





「すまない 父上は月に行くことができない

オレは死神として
この闘いに行かなければならないのだ



死神様の言葉で キッドも気づいている





「無責任だがクロナはマカ…君が止めるべきだ
クロナを任せたぞ」


「うん…わかってる」


「そっちの作戦の方が危険なんだ 死ぬなよ


「はは、その時はブラック☆スターに仇を取ってもらうさ」





なんてソウルへ軽口を叩いてはいるが

声や瞳に一瞬、どこぞの地味なガキと似た憤り
チラつくのを見逃さなかった





「くやしさか…前はブラック☆スターも
そしても、こんな感情を持っていたんだな」





正門前での二人の決闘も、選抜メンバーの奇襲騒ぎも
今となっては懐かしさすら感じる


だがそれを乗り越えて こいつらはここにいる





「だがオレもこのままではない!
またあいつを超えてやるさ!」






"ブラック☆スターには言うな"と決意の口止めをして
右と左の拳を打ち合ったキッドとソウル


その様子を眺めて小さく笑ったマカが部屋を出て





死人やシュタイン達も各々の分担へと取り掛かり







残ったオレは 死神様へとこう言った





「もどかしいですね」





そうでもない、とこの人は答える


キッドはもう立派な死神さ キッドが完全な死神に
なれば私が動けなくても問題ないでしょ」





死神様にとっては…この後の事よりも
最近のキッドの目が冷たい事の方がショックらしい





「キッドが真の死神になった時分かってくれます」


「そうだといいねぇ…けど」





いずれにせよ 時間はもう残り少ない





「どちらにしろ二度と笑顔は見れそうにないね…」





オレ達は、ただただそこに立ち尽くしていた











―ナイグス/デス・シティー―





鬼神討伐作戦に参加する隊員の選出から、各部隊と
デスサイズスとで行う鬼神討伐への行動計画


月へ行くための魔道飛空艇の設計


…全ては着実に進んでいる





EAT及びNOT生は一時帰宅や寮内での待機という形で
職人・武器それぞれの安全を確保し


スパルトイの面々にも任務を控え、地上での有事と
処刑の件について備えてもらっている





だが 彼らも落ち着いてはいられないらしく





「ブラック☆スター お前も鬼神討伐の方に
加わりたいんじゃねーの?」


そうだな あっちの任務の方が目立てそうだしな
だけど脳筋のオレ達が考えてもしょうがねぇしな」


ブラック☆スターと椿はキリクを誘い


鍛錬の一環として、街中でランニングを行っているのを
外に出た際によく見かける





様子見がてら三人と軽く話をして別れた後


カフェテラスで紙とペン片手に眉根を寄せる
トンプソン姉妹に声をかける





「お前達、討伐へ行くための遺書は書けたのか?」


「いや全っ然」 「一文字も思い浮かばないもんねー」





残す相手がいないから書かなくても、と口にする
二人へ首を横に振って説得し


死武専へと戻って仕事を続ける







ひと段落ついた辺りでテラスへと足を運べば


マカとソウルの二人も、いまだにクロナの魂を探そうと
探知による捜索を続けていた





「ダメだ、ここにもいない…!」


「だから落ち着けって、絞ったっつっても
探すトコ多いんだから根詰めすぎると」


「うるさい!わかってるよそんなの!!」


息を切らし 汗だくになりながらも彼女は

側にいるパートナーの方でなく空を睨んでいる


あの夜からずっとこんな状態のようだ


…あれではいずれ 身も心も持たなくなる





休むよう声をかけるべきか、と踏み出した足は


二人に近寄る人影を見て止まる





「狂気に引っ張られる偶然なんて
早々ねーんだし、少し休憩しよーぜ」


「そんなのいい!今はクロナを…ひゃっ!?


横から伸びた缶が頬に辺り、マカが声を上げ


振り返った二人の視線の先には 両手に一つずつ持った
缶の片方を差し出すがいた





「あまり無理しちゃダメだよ、君が倒れたら
元も子もないしね…これでも飲んで一息入れな」


「おっ悪いな…て、何だよその手」


おごるなんて言ってないぜ?友情価格で半額ね」


本当にたくましくなったものだ





呆れ混じりに硬貨を支払いながらもソウルが問う





「お前こそ、こんな所にいて大丈夫か?」


「言伝はしてあるさ、こっちも調査は頭打ちだし
オックスとハーバーにもさっき差し入れしてきたから」


「そっか…あの二人にも 迷惑かけちゃったかな」





冷静なあの二人は資料室にこもり 過去のデータから
メデューサとクロナの行動を割り出そうとしているものの


こちらもロシアの一件以降 手がかりはないらしい





飲み物を口に含みながら、やや弱々しく笑うマカへ
ため息交じりに苦笑して





「メーワクぐらい今更じゃない?
僕らもう"家族"みたいなもんでしょ」


「…いきなりそんなコト言うなんて珍しい」


「いや、まー大事なコトは言える内に伝えとこうと
思ってさ…この先何があるかわかんないし」


地味なクセにあんまカッコつけんなよ
マカのオヤジみたくウザい奴になっちまうぞ?」





軽くおどけながらも場を離れた


すれ違い様に小さく告げる





「仲間を気づかうのもいいが、お前にも
やるべき事がある…あまり気負いすぎるなよ?」


「分かっています、先生も無理しないでくださいね」





気遣わしげに微笑む相手へ頷いて

少しだけ伸びた亜麻色の頭髪を見送る







…同じくスパルトイのメンバーではあるが


特定のパートナーがいないの場合、処刑命令は
あくまで補佐の形でしか関われない分


地上での任務と調査協力に集中してもらっている





魔力感知の能力を生かし、メデューサやクロナだけでなく


"白い巨人"の目撃例や児童失踪のあった国や街で
魔女の足取りを積極的に追っているが





アイツも…内心ではクロナを案じているのだろう





上空を飛行する二名の目撃情報、か…」





先日も報告にあったノア、そしてゴフェルという男も
いまだBREWを持ち逃走を続けており


上記の三名と並んで鬼神討伐への懸念材料となっている





「これ以上、妙な事態にならない事を願いたいものだ」





呟いて私は 小さく息を吐いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この後の展開をどーねじ込むか考えてたら
あっという間にこんな月になってました


スピリット:ました、じゃねーだろ
明らかに筆が遅いのと集中力不足が原因だっつの


マリー:ゲームに浮気するなんて不誠実よね


目次:いかにもたこにも、私の出番が削られた事
対してもまとめて問い質したいのだが?


狐狗狸:先生二人にはかないませんでゲス
目次さんは憤怒ノアんとこ帰ってください


ナイグス:それにしても"家族"か…
まさかアイツの口からそのセリフがでるとはな


キリク:いままで印象うすかった分ビリっとくるな
けどジュースのアレ、キムの守銭奴うつってねぇ?


キム:どーいう意味よそれ




月への進軍はもう間近 彼と彼女の邂逅もすぐ間近


様 読んでいただきありがとうございました!