―道化師/ウクライナの森―
「どう思います?」
「この球体は「黒血」ですね」
魔女メデューサが造った「黒血」が注入され
封印が解かれた、だからこそ
鬼神様は同じ「黒血」で出来た黒球に反応した
「私は黒血を持っている人を
他に二人知っていますが…」
「エエ…おそらく魔剣でしょう」
職人と武器を一体化した人間については
側にいるジャスティンも内部資料で知っていた
「しかし資料で見た時に比べ
とてつもなく力が成長していますね」
目の前の黒球から目を放さぬまま
「処・刑しておきたい シュッと」
ジャスティンは 自らの首を斬るマネをする
が、鬼神様を狙う魔女メデューサを
追おうとした我々の前へ
「自分も追われる身だと言うことを忘れんじゃねぇぞ」
木陰から現れた、奇妙な被り物の男が立ちはだかる
「お前を止めに来たんだ ジャスティン」
「と、言ってますよジャスティン」
形だけ聞くが、男と対峙する彼の答えは決まっていた
「止める?何を止めるというのです
鬼神様への信仰は止まるワケがない」
「何もかも変わっちまったってことか」
「あなたの口唇が読めないので
何を言っているのかわかりません
あなた、生きてたんですね」
不協和音に似た、かみ合わない会話
「知った?鬼神様の居場所」
「お前の魂を追い続けていたが 奇妙な所でロストした
たいがいどこにいたかわかるんだが、まさか…」
「テスカさん あなたは鬼神様の安息を脅かす」
満ちていく殺意と狂気の何と心地いことか
「道化師 狂気融合」
相手の断末魔を聞くため、イヤホンを取った
ジャスティンと狂気融合を行う
Il decimo episodio
Per tenere fuori una mano a Lei
「やめろ!まだ間に合う、罪を重ねるな!!」
「罪?では罪とは何なのです!
ギルティ オア ノット ギルティ!!」
射出されたギロチンの刃がテスカの胴体を貫くけれど
光がまたたき、次の瞬間
テスカの体が空中に何体も浮かびあがる
「光の乱反射による分身か…
ならばすべて消すまでだ!」
両腕を断罪の刃に変え、ジャスティンは次々と
テスカの体を割いていく
「すべて消し飛べ」
狂気の波長を乗せた刃がほとんどの分身を吹き飛ばし
残っていたテスカも、頭を断ち割られて倒れる
「今ので最後ですね この中に死体はあるか…」
しかし時を置かず
バラバラにしたはずの体のパーツが集まり
腕の数も足の位置も首の向きも、到底人間とは
思えないような形にくっついてまとまった
楽しむ私とは反対に
ジャスティンは仮面の下で顔をしかめる
「化物め」
「お前もな!!」
ああなんて愉快なんだろう、絆にすがる男と
信仰にすがる男の口ゲンカは!!
…おやおや?
こっちを覗き見しているとは
ずいぶんといい趣味の魔女がいたものだ
―茜/魔女対策本部―
魔女シャウラの"前例"と
死武専内部で起きた事が幸いしてか
洗脳された人々の確保やその後の対応は的確だったが
やはり後手に回った感は否めなかった
しかしオックス君から聞いた情報も照らし合わせれば
どうやら、かけられた術は解除されたと考えてよさそうだ
…だが元凶の魔女はいまだどこかに潜伏中
今回のような奇襲も鑑みて、警備も固めるとともに
洗脳されていた人々の経過観察も注意深く行っている
「あの後、記憶が不自然に飛んだりとかしてません?」
「それは平気…っつってもあの女が死んでない以上
僕の言葉はあんまりアテにならないか」
「…オレは先輩のコト、信用してますよ」
真剣なクレイの言葉に 僕も同意して頷く
「そう言ってもらえると僕も心強いな」
「ただ以前の件と 魔女の存在がありますので
最悪 収監される事も覚悟しておいてください」
「分かってる」
テーブルを挟んで座る先輩へ頷いて
死人先生が、ボードに書かれたの似顔絵を
叩いて示しつつ言葉を紡ぐ
「手口こそはシャウラ・ゴーゴンと酷似しているが
あの魔女の狙いは、単純な破壊だけじゃなさそうだ」
「ええ…標的は間違いなく 先輩でしょう」
「正確には、僕の魂に刻まれた
"制魔の波長の術式"…でしょうね」
創立祭やロスト島、ババヤガーの城での作戦でも
魔女の術はたびたび彼に集中していた
おそらく今回の騒ぎで魔女を殺して
引き起こされた混乱に乗じ、罪悪感と疑惑で
孤立した先輩を裏切らせる手ハズだったのだろう
「魔力を通じて、魔術のリンクを切れる程の波長なら
確かに魔女にとっちゃ脅威だもんなぁ」
「…メデューサ一派捜索の弊害にもなるし
再び襲撃が起こる前に潜伏先を見つけるべきだね」
「だな 最悪メデューサや鬼神と手を組む可能性も」
「それはない」
割って入った先輩のセリフは確信に満ちていた
「たとえ組んだとしてもはガマンできず
近いうちに何かやらかす、断言してもいい」
「何故そう言い切れる?」
鋭い指摘にも揺るがず、彼は鳶色の瞳を真っ直ぐに
死人先生へと返しながら答える
「一番長くあの女の側にいたからか 分かるんです」
退屈を嫌い、単独での表立った行動を好み
余計なひと手間を仕込み逃げ道と小細工を用意した上で
事の大詰めには必ず自らの足で現場へと赴くクセに
その場の流れと勢いに任せて突き進む刹那的な性分と
洗脳された魔力を通して
大がかりな術を使うため、大量の知識と紙を
溜め込んでいた様子が垣間見えた点から
彼女がまた何か事件を起こす腹積もりだ、と
「マジすか!他には何が見えました!?」
そこでテーブルから身をせり出したクレイに驚いて
先輩が椅子から転がり落ちそうになった
「落ち着けクレイ、思い出せるならそれに越した事は
ないが焦る必要はないからな?」
「大丈夫です先生…聞いていただけますか?」
「情報収集は信頼の元、粘り強く行う
オレはそういう男だった そしてこれからもだ」
室内の造りや 部屋の位置関係、調度に至るまでを
記憶の中から振り返る先輩と
それに根気よく付き合う先生を眺めながら
僕らは視線を交わして呟く
「…もしあの時、波長が使える先輩がいたら
死人先生 ゾンビになってなかったかもな」
「上手くやればシャウラを早い段階で捕えていたろうね」
今更ながら、固定のパートナーがいないのが不思議だ
―テスカ/ウクライナの森―
いつも一人で戦って、授業でもポツンと一人であぶれてた
こいつは…こんな時でさえ一人か
「お前の持ってる鬼神の情報を死神様に渡せば 処罰は
免れないにしても、減刑ぐらいは考えてもらえるはずだ」
神は思想や生活であって、友じゃない
「お前が死武専へ帰って来られる
最期のチャンスなんだよ」
「何故そうまでして私に執着する」
だからこそ死神様は お前をデスサイズにしたのに
人からの信頼を集めるどころか
「周りの声を聞きやしない
お前は死神様の信頼を裏切ったんだ」
こいつにとっては死神様も鬼神も同じ
「そんなの人間の生き方じゃない 猿以下だ」
「ならばどうする!?山に籠り情報を断ち
我は何かと何年も問い続けるか?
おのずと悟りが開かれちゃいますか?」
見当違いの事を好き勝手わめくジャスティンに
いい加減腹立ってきた
「オレが言いてぇのはそーゆーこっちゃねぇんだよ!!」
「せっかくイヤホンとったのにジャガーの被り物で
声がこもって聞き取り難い!!
つまり何だと言うのです!?」