一撃の下に切り伏せられたミシェルカは驚愕に
目を剥いた表情を浮かべて…


倒れていくつもの紙屑に戻る巨人と共に


身体を雲散霧消させ、一つの魂として留まる





バランスを取り床へと着地したマカから少し離れて

ベテ、と無様な音を立ててツナギ姿の少年が
床へと落ちて悶え転がる





「あ痛たたた…」


『お前、あんなスゲェ技使ってたくせに
また着地失敗してんのかよ』





鎌から半身を出したソウルから白けた視線を
送られ 彼はやや憮然と言う


「苦手なんだよ着地…それにアレ撃った後って
筋肉痛がヒドいし」





そこで彼女はあの時見た光景を思い出す





「そうだ!魂に刻まれてたアレはなんなの?
それに職人がいないのにどうしてあんな技が!?」








強い口調で詰め寄られ、ビクリと肩を
縮こめながらはおずおずと答えた





「ごっゴメン、僕にも理屈は分かんないんだ
技を教えてくださったのは死神様なんだけど…」


「死神様が?」


「うん…あの、それより僕の魂に
なにか変なものでもあったの?」





不安げに問われ、逆にマカは戸惑ってしまう












L'ultima storia 終わり、或いは始まり











とりあえず魂に目を凝らしてみるも





(やっぱり何の変哲も無い、普通の魂にしか
見えない……アレは見間違いだったのかな?)


と自ら目撃したものが怪しくなって首を傾げる


そんな彼女の姿は余計に彼を不安に陥らせた





「え、あの…なにかあったの?」


ご愁傷様って奴か?ギャハハ』


「笑いゴトじゃないよソウル君!」


からかいへ少しばかり泣きそうな声が上がり





パチパチと、場違いな拍手の音が鳴り響く







あぁ〜んスゴイ!一気に形勢逆転するなんて
あなた達強いのねぇん?」





天井から三人の少し上くらいまでに降りてきた
魔女の存在を改めて思い出し、三人は身構える





「まだ戦うのぅん?若いって素っ敵ねぅえん」


艶っぽい目で微笑む相手へ、やはり真っ先に
反応したのは





「余裕ぶってんじゃねぇぞ…媒介の紙がなきゃ
真っ当に戦えもしねぇ腐れ魔女が」





フラフラと立ち上がる彼へソウルがため息をつく





『オイオイ、筋肉痛がどうたらとか言ってたのに
まだやる気かよお前』


「…殺すにしても逃げるにしても アイツが
ちょっかい出したら戦うしかないだろう?」


「出来れば、あんまり戦いたくないんだけどね」





身構える彼らへ対する彼女はというと…





「あらぁん魔女と死武専生3対1だなんて
とっても素っ敵な4Pフォーメーション!

めくるめく暴力プレイにゾクゾクしちゃうぅ!」


顔を真っ赤に紅潮させ、目を潤ませて口を
物欲しげに開けて悶えていた


ハァハァと息を荒げ身をくねらせる姿

健全な常人には 到底理解も実行も
出来かねるようなモノである事を付け加えておく





「『き…きっっっしょお!!』」


「OK、楽に殺してやるから降りて来い!


サブイボ立てる二人と怒りが再燃した少年とを
交互に見やってはクスリと笑う





イヤーよ、紙も無くなったし退屈嫌いだもん
だからアタシ退散しちゃうねぅえん♪」


「させて…たまるか!」





傷だらけの身体に鞭打って彼女へ突進し

ハサミの片刃が袈裟に鋭く閃くが


待って君!その魔女は…」





寸前で気付いたマカが叫ぶが一足遅く


斬りかかった彼の目の前で、派手な姿が
あっという間に白い紙の束に変わって散り失せる





「身代わり…くそっ、逃げられた…!


「魂の反応が無かったからおかしいと思ったけど
いつの間にすり変わってたんだろう…」


「下手にちょっかい出されずにすんで
よかったじゃねぇか、さっさと魂回収して戻ろうぜ?」







こうしてイタリアでの任務は無事に完了し

白い巨人による拉致事件が起こる事は無くなった





画家・ミシェルカの魂はソウルに加算される事となり


デス・シティーに戻った際は罰と
療養を兼ね、二日間ほど自宅謹慎をしていたが…









お?ようやく謹慎解けたのか?」


普段通りの目立たなさを発揮して教室に溶け込む
ツナギ姿を見つけ、ソウルが寄ってゆく





「まあね…自分の勝手で二人に迷惑かけたし
謹慎のおかげで少し身体は楽になったよ」


「そっか、それならよかったけど…」





僅かばかり逡巡し…意を決してマカは言う





「言いづらいかもしれないけど…あの魔女と
何があったのか、聞いてもいい?」


「…どうしても聞きたい?」


頷きに 小さく溜息が零れた





「僕は…本当にただの一般人だったんだよ」





違うのは武器の才がある事と父親がいない事ぐらい


その父親の名を知ったのは、現れた
二人の前で口にしたから…と彼は語った


「病気で倒れたマンマと途方にくれてた僕を
"姉"と名乗ったアイツは引き取ると言い出した」


「それであの魔女の事に詳しかったのか」


「そう…あんな生活させられてれば
イヤでもあの女のコトを知らされるよ」





悪事の片棒担ぎに魔法の実験体と最低の生活を
強いられてしばらく苦しんだ


口調は軽いけれども、言うその様子は

"吐き捨てる"といった表現がピッタリだった





「でも、それならママはどうしたの?
一緒に引き取られて生活してたんだよね?」





嫌気が差してイタリアを抜け出したとしても


母親を置き去りにする点だけは
どうしても腑に落ちず彼女は訊ねる







は たった一言だけ答えた





「保障されてたのはね…僕の生活だけだった」





寂しげな笑みを浮かべた彼の目は髪に隠され
何を思っているかは読み取れない


それでもたった一言だけで


二人はあの魔女に激しくぶつけられた
怒りの理由に、少しだけ気付く






「後はまあ想像の通りだよ…片親が死んで
乞食同然になりながらデス・シティーに辿りついた


多分探せばどこにでもありそうな
普通の、いたって普通過ぎる悲劇だよ」


「だから…あの魔女に復讐をってか?」





皮肉染みた一声に、肯定も否定も返さずに





「嘆いても後悔してもマンマは帰らない

けど僕は 決意せずにはいられなかった」





彼は言い聞かせるように低く呟いた





「普通の武器らしくデスサイズになるコトを
……"魔女"を殺すコトを」







重たい沈黙が降りて 語り終えた
途端に戸惑いを浮かべる


「あの…なんかゴメン、暗い話しちゃって」


「ううん、聞いたの私だから気にしないで」


「つかよー あん時のマフィアも言ってたけど
イタリアじゃ母親は"マンマ"っつーのか?」





思っても見なかった質問をぶつけられ

更に彼の戸惑い具合が大きくなる





 変かな…僕は普通だと思ってたけど
直した方がいいの?」


「直せ直せ、そんなカマくせぇ言い方」


「ちょっとソウル!友達で遊ばない!」





クツクツと笑うソウルと憤慨する
マカの合間で対応に困りながらも


彼は…少しだけ笑ってもいた







――――――――――――――――――







「課外授業、またイタリアなの?」





通りかかった彼に頷いてから、マカは返す





君はまたバイト?」


「うん…まだちょっと傷は痛いけど
あまり休んでたら干上がっちゃうからね」


「世知辛ぇなオイ」





同情めいた赤い瞳に、当人も乾いた笑いしか
返せない所がいよいよである





「なんかブラック☆スターも近場で
魂狩りやるらしいけど…」


「アイツらじゃいつも通り0個だろ?」


「あー、実力はあるんだけどね…」





自分とは対極にいるかのような存在の級友は
目指すベクトルが明らかに違っていて


それ故に"補習マニア"と不名誉な呼び名が
ついているのは死武専内の語り草だろう


三人は 彼の相棒の椿に心の中で同情した





「それはそうと、今度はどこに行くの?
場所もまたシシリア?」





マカは緩く首を振って答える


「フィレンツェだって」


「そっか…がんばってね、二人とも


「ありがとう」


「お前に言われるまでもねーけど
まっ気持ちだけは受け取っておいてやらぁ」







笑って別れたも、応援をもらって
少し気持ちが上向いたマカとソウルもまだ知らない





その授業の後に起こる ある"事件"が自分達を始め


死武専全てを巻き込む大事に発展するなど








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:これで始めの長編は終了です、もち
マカ達の次の"授業"に起こるのがクロナ遭遇です


マカ:結局彼の素性とかほとんど不明じゃん


ソウル:これから先、地味ーなアイツの過去
チマチマ引き出して話作るつもりか?


狐狗狸:まー過去は今後も絡むけど
そっちは後の方で書く長編で全部語るよ?


マカ:後って…この次に書く話?


狐狗狸:いや、次の次 だって次の主役は


ブラック:ひゃっはぁぁ〜!待ち侘びてた
画面のテメェら!次はオレ様の登場だぜっ!!


ソウル:ってお前かよ!


椿:ああっ、ここでは出番はまだだから
出てきちゃダメよブラック☆スター…




長編拝読ありがとうございました、次回は
なるべく来月に出す…つもりです


様 読んでいただきありがとうございました!