あんまりにもあんまりな級友の豹変振りに
目を丸くするマカとソウルだが


暴言吐かれた当人は頬を赤く染めて身悶えている





あぁんステキぃ〜!昔よりもぉぉっと
言葉攻め上手くなってくれて感激ぅいvV


「気色悪いんだよ身をくねらせるな豚女!」


険悪な言葉に、一々身を震わせて喘ぐ様は

ぶっちゃけ痴女以外の何者でもない







健全な少年少女は 思った事を口にする





「あー…本当かどーかはさて置き
アレが姉貴なら まぁイタリア逃げるよな」


「うん…私でも言い出せないかも」


「聞こえてるよ二人とも、頼むから俺と
あの変態アバズレを一緒にくくんないで」



顔半分が隠れている割に分かりやすい彼の態度は
あからさまな嫌悪を剥き出しにしていた












Cinque episodio 紙喰いの魔女











「てゆうかアンタ魔女よね?
本当に…君のお姉さんなの?」





問われて彼女は、マカへニコリと微笑みかける





って呼んで?腹違いだけど
ちゃあんとだって繋がってるんだから」





手にした紙を軽く食んで


「優しいアタシがあの女と路頭に迷うアンタを
引き取って不自由ない生活させてたのに

恩を忘れて、どこへ脱走したかと思えば…」





殺気立つ亜麻色髪の少年へ向ける視線は

途端に、蔑視を含んだ冷たいものに変わる


「まさか死神の犬に成り下がってたなんてね」


黙れクソ女 人を奴隷か実験動物程度にしか
扱ってなかったどの口が恩着せがましくほざく」


「そっちの因縁はどーでもいいけどよ…アンタ
なんだってそこのオッサンに手ぇ貸してんだ?」





突き放すように言うソウルへ、魔女の表情は
再び媚びるような人懐こさを帯びた





「あらぁん可愛い坊やね〜アナタ、私に
仕えてみる気はな・あ・い?」


「人のパートナーに勝手な事言わないでよ!」


「あら焼きもちなんてカワいぅい なんなら
アナタも一緒にどぅお?優しくしてあげるわよ」


「生憎だが勧誘お断りだぜ?オレらの目的は
そこのサド画家くずれの魂だ…

ついでにCOOLな男は浮気もしねぇ」





つまらなそうに溜息をつき、魔女は肩を竦めた





「ベェー連れなぁうい…理由なら特に無いけど?
強いて言えば退屈しのぎと報酬の紙がお目当てv」


「…なんか一々イラっとくる魔女ね」


「まともに相手するだけムダだよ…
お前らには地獄がお似合いだ!


片腕をハサミと変えたの台詞を合図に


押し黙っていたミシェルカが ようやく口を開く





「そうとも、ムダ話は後だ…
贄の息の根を止めてしまえ、作業が出来ん」


「あーアタシのお仕事はモデルの調達と始末だけど
直接対決は柄でもタイプでもないのよねぇ」





画家はすぐさま側のパレットナイフを握り
剣呑な目つきで派手な女を睨む


巫戯けるな 契約を結んだのならキチンと働け」


「ベェ〜モテる女の宿命ってヤツかしらぅ?

ケプストゴート ベェトゴトー





軽口叩きながらも、唱えられた
呪文に周囲の異形達が反応し


画家を取り巻いて群れ固まると…城の天井に
スレスレで角がつく"白い大巨人"一体に変化した






「その子は特別サービスしとくから
死なないようにガンバってねぅえんv」


それだけ言うとどこからともなく
白いホウキを取り出し、彼女は空中へ舞い上がる







「逐一感性に合わぬ女だ…まあいい」





禍々しい角を持つ異形の額から生えたような顔が

遥か下方の三人を順繰りに眺める


「手始めに男二人は皮を剥ぎ…女は腸を取って
絶叫と苦悶の顔を見ておくか!」



「歪むのはテメェの顔面だろ?悪趣味オヤジ!





啖呵を切って鎌へ変化したソウルを手に、マカは
高く跳んで巨体の腹へ狙いを定める


同時にも挟み撃つ形で背後へと駆けた





…だが振り上げられた刃は、どちらも鈍い音を
響かせて白い表面にかすり傷をつけたのみ





「ウソ…っきゃあ!


頭上から降ろされた手の平を寸前で避け

彼女は半ば吹き飛ばされるようにして距離を取る





『なんつー硬さだ…あのデカブツ巨人
明らかに今までのと段違いだぜ…!』





彼の呟きに、観戦する魔女が答えた


「紙だって密度を変えれば立派なになるのよぅ
素早さも画家さんの意志に応じて動く特別仕様!

正直抵抗しない方が楽になれるわぅあん?」


「高みの見物っ…決め込んでんじゃねぇぇ!!





壁際の棚と振り下ろされた巨人の腕を足がかりに


中空へと飛び上がったのハサミが
一直線に魔女を貫こうと突き出される





「ケプストゴート ベェトゴトー…」





しかし唱えられた呪文の直後に出現した"白い盾"が

すんでの所で向かい来る凶刃を防ぐ


あら過っ激ぃ♪でもそれじゃ私は刺せないわぅん」





次の一瞬で巨人の手の甲が直撃し、彼は
床へとナナメに叩き落された







君!?」


『お前なに一人で突っ走ってんだ!』


うるさい!アイツは…あの女は俺が殺すんだ!」





彼の言動には既に普段の目立たなさは失せている





「生きがいいだけの贄は邪魔だ…大人しく
口をつぐんで私の芸術の糧となれ!」



巨人の振り下ろす腕にも怯まずに突進して足場にし


口から吐き出されるパレットナイフを弾き返しつつ
勢いで床へと落とされるも





「テメェはだぁあぁぁまっとけぇクソジジィィイ!





傷だらけの身を起こしながら 眇めた
鳶色の双眸に爛々と殺意を宿し





「あんのスベタが片付いたら一緒に消してやる
手ぇ組んだ時点で俺の中でお前ら死刑決定確定執行
ブ チ 殺 る ッ!!



ハサミの片刃に変えた腕で、巨人の首を
掻き切るような仕草まで行ったが放つのは


常軌を逸しかねない激しい怒り





ひたすらに魔女だけを狙って突っ込む彼を中心に





「哀れな贄よ…心地よき激情からの願望を
果すことなく無残に血と肉を撒き散らせ!」



ミシェルカは握られた拳を乱雨のごとく降らせる





ギリギリで懐へ潜り込んだ相手に、巨人は
その巨大な口を開いて―







「はあぁぁぁぁ!」


遅れて嵐を抜けたマカが彼を引き倒して入れ替わり


パレットナイフの礫を弾いて、横薙ぎに胴を切る





「くっ…!」


僅かに亀裂が走り、巨人が後ろへと退る







『ちっ…今のでやっと薄皮一枚かよ!』





倒された位置のまま荒く息をつき彼は激昂する





「なんで邪魔するん…うぎゃあ!


が、即座に繰り出された本の角で
涙目になりながら脳天を押さえ沈黙し





「バカ!考えナシに突っ込んで勝てるのは
ブラック☆スターぐらいでしょ!!」



「そ…そんなの分かってるけど!」


『テメェは何の為にイタリアに来てんだよ
あの変態魔女に挑みかかって死ににか?

…違ぇだろ オレらと任務を果しにだろーが!





二人の一喝が 彼の表情から"怒り"を消し去った





「……ゴメン、僕が悪かったです」


『男は常にCOOLにいかねーとな』





マカとソウルがニッと笑うも束の間







「安い友情譚よりも悲鳴と絶望を漏らせ!
贄の苦痛が新たなる作品の糧となるのだ!!」






苛立った画家の攻撃が再開され、三人は
慌てて距離を取りつつ言葉を交わす





「やっぱりあの巨体を切り裂くには…
魔女狩りクラスの大技しかないかも」


『あの硬さは厄介だな…一発でいけばいいが』





職人と武器が"魂の共鳴"を行った時に使える
伝統の大技"魔女狩り"


それを使える事は職人としての優秀さをも表すし

二人の実力はその技を使うに値する程ではあるが


いかんせん、若き故に不安定な部分も多い





「本当に撃てるんだ…でも、一発でダメなら
別の攻撃と併用したらいけるかな?」


『そりゃオメーにブラック☆スターや
キッド並の火力があるっつーなら別だけどよ』


「第一職人もいない上に傷だらけの君に
あの巨人へ対抗する手段があるわけ」


一つだけある、って言ったら?」





真っ直ぐ放たれた言葉にマカが驚いた一瞬





「まず僕がかましてくるからスキが出来たら
すかさずミシェルカに魔女狩りお願いします!」



それだけ言って 彼は巨人へと突進していく





「あっ…ちょっと!」


『平気だって、言い切るぐらいなら少しは
自信があんだろ?信じてやろうぜ





揺ぎ無い言葉を"仲間"として信じた相棒に頷き


彼女もまた、ソレを信じる事にした





「そうだねソウル…私達もいくよ!


『ああ!!』


「『魂の共鳴!!』」


両者の魂の間に電流が奔り 同調し増幅される力が
鎌の刃へと込められていく





「魔女狩りが撃てるなんて小さくても死武専ねぇ

けど…しがないハサミに何が出来るのかしらぅ?」





嘲笑混じりの銀眼にこみ上げる怒りを我慢し





「懲りずに来るとは愚かだ…実に愚かだ!


自らを潰し、引き裂き、砕き、屠りにかかる
巨体の猛攻を耐えかわして


頭へと到達したが吼えた





「完魂総殺(カンコンソウサイ)!」





光を帯びた両腕の刃が口元を突いて引き裂き


流れるようにカブト割りと横薙ぎの刃を

連続で繰り出しヘコミと切り傷を増やしてゆく


そして広げた両腕が一回り大きな光るハサミを
開いたような具現化を経て 首を絶つ





「ぐぅぅっ…!?」







大きな裂け目が首に刻まれた、ほんの一瞬

マカの目は、ハッキリと捉えていた


技を繰り出した際に膨れ上がったの魂に
うっすらと小さく刻まれていた"何か"が


複雑な模様の魔法陣として現れたのを







『今だマカ!』





けれどソウルの呼び声で我に返り、彼女は
倣って巨人の腕を足場に首へと続き


完成された破魔の波長を解き放つ





「魔女狩りっ!」





三日月型の波状が空を駆けて、裂かれた首と
傷つけられた頭を捕らえて


巨人の脳天ごとミシェルカを断ち割っていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:彼の一人称は基本"僕"ですが、特殊な
条件により"俺"となることがあります


マカ:ソレ所じゃないくらい変わってるから!


ソウル:つかあの変態魔女、魔法で紙を
操るとか無茶苦茶だな…


狐狗狸:モチーフ山羊なので、紙を食べて取り込み
自分の魔力で操るんですよ〜ついでにこの話の
サブタイが長編タイトル和訳ですし


マカ:かなり曲解した和訳だよね?


ソウル:あの姉ちゃんとアイツの豹変が
インパクト強すぎて画家、ほとんど空気じゃね?


狐狗狸:…画家は犠牲になったのだ(ボソ)



巨人と画家とを打ち倒し、魔女と再びの対峙…


様 読んでいただきありがとうございました!