巨人達はバイク顔負けのスピードで
町の通路を抜け 郊外へと進んでいく
相手から一定の距離を取りながらも
「くっそ…姿が見えづれぇな…
魂の方はどうだ!マカ!!」
「大丈夫、そのまま地形に気をつけて直進!」
「あいよっ!」
景気のいい受け答えでバイクを狩るソウルに
身を任せながら、マカは闇に目を凝らす
"魂感知"の力を身に着けている彼女の目には
しっかりとの魂が見えているのだが
(…なんだろう、アレ)
サイズこそはありふれた普通レベルながら
彼の魂の端に時折見える うっすらと
小さく刻まれた"何か"が気になっていた
何匹かの白い巨体に抱えられたまま
もまた、進行方向へと目を凝らす
町から郊外の森へと入った巨人達は
闇と化した道を迷い泣く進み…
やがて森の奥から、砦にもにた尖塔の無い
頑強そうな城が垣間見えた
Quarto episodio 巨人の砦
「この城…似てる、やっぱり…!」
苦々しい呟きと共に彼は眉を潜める
白い山羊の従僕達は歩む速度を緩めないまま
閉ざされている門の前までやってくる
…と、内側に控えていたらしい巨人が門戸を開き
拉致した相手と共に外の同胞達を導き入れる
「さ…さすがにこれ以上は、やばい…!」
動かずにいれば恐らく 拉致を命じた画家と
"魔女"と対峙する羽目になる
されどここで暴れても、マカとソウルの二人が
見えない現状では意味が無い
(囮じゃなくマジ拉致になっちゃうコレ…!)
戸惑う合間も巨人は自分を主達の元へ
運ぶ為に廊下をずんずん進んで行き
堅牢そうな扉が外部を遮断するように下がり…
「そこの扉ちょっと待ったあぁぁぁ!!」
閉じるギリギリで、身を低くしたマカが
スライディングで滑り込み
鎌へと変化したソウルで側の巨人を切りつける
見事に裂かれた一体が紙の塊へ散り戻って
「ごめん待たせた!」
抱えられた彼へと、マカが笑いかける
「よかった…間に合わなかったら
どうしようかと思ったよ」
『悪ぃーな、バイクの駐車に手間取っちまってよ』
元より眼球や意志が無い異形達だが
邪魔者の排除程度は命令に組み込まれているらしく
残りが一斉に二人へ顔を向け 取り囲む
その隙を、彼は見逃さなかった
巨大なハサミへと完全変化したが
山羊姿の巨人の腕から抜け落ちて
完全に地面につくより早く人型へと戻る
「―あ痛っ!」
但し着地に失敗し、軽く尻餅をついていたが
『ギャハハだっせーお前着地下手くそ』
「しょ、しょうがないだろ武器化久々…って
うわわわっ!!」
身を起こしかけていた彼の頭上を、白い腕が
スレスレで掠める
巨人達は完全に三人を"敵"と認識したようだ
「もう!真面目にやりなよ二人とも!」
『ヘイヘイ』
「僕はふざけたつもりないんだけ…ど!」
両腕をハサミの片刃へ変化させたが
床を勢いよく蹴りつけて圧し掛かる巨人の懐へ
潜り、腕を交差させて胴を切り落とせば
身を低くして突進する巨人を寸前で踏みつけ
高く跳んだマカの一振りが、サイドから
迫り来る異形の首を刈り取る
…程なくして群がっていた山羊頭の従僕は
元の塵芥へと変わり果てて廊下に転がった
「あ゛ー疲れた…どうやらこの件
魔女絡みなのは間違いなさそーだな」
剥き出しの冷たい石壁に囲まれた廊下を
歩きながら呟くソウルへ頷き
「君、どうしてこいつらの正体を
知っていたのか教えてくれる?」
彼女は足を止め 問いを再び投げかける
真っ直ぐな緑色の瞳に射抜かれ、彼は
困ったように亜麻色の髪を掻き揚げため息
「"イタリア"って聞いた時から正直
イヤな予感してたんだよね…大当たりだよ」
更に問い詰めようとした所で
感知の力が働き、マカはハッと眼を見開く
「どうしたマカ?」
「……この城の上階に魂の反応が二つした
しかも、一つは「魔女だろ?」
二人の顔が瞬時に発言者へと向けられた
「ってお前武器なのに何で…!?」
「僕だって分かんないよ、でも忌々しいコトに
奴の存在だけは肌で感じ取れるみたい」
「その魔女のコト、知ってたならどうして…」
痛い所を突かれたと言いたげな呻きがもれる
「知ってるだけで確証もなかったし
ヘンな疑い持たれるのもいやだったから…
もしかして今疑われてる?僕」
「え!?いやそんなつもりじゃ…」
とはいえ少しそう思っていたのは事実で
彼女は直球の質問に、図星を突かれてうろたえる
と…向こうから微かに白い山羊頭の軍団が見えた
「げっ…また巨人どもが来たぞ!」
「ウソっ、もっかい戦うの!?」
身構えるマカへ寄りながらソウルが再び
鎌へと変化を…する最中
「二人とも こっちの部屋へ!」
近くのドアを開けが手招きする
両者は一瞬だけ顔を見合わせるが
さほど間を置かずに 開いたドアへ滑り込む
瞬時にドアが閉じられ、彼はしばらく側に
張り付いたままでじっとしていたが
…ややあってドアを開けて外へと出た
見れば廊下には 一体も巨人達がいない
どうやら、三人は気付かれずにこの場を
やり過ごせたようだ
「奴らは主がいる限り無尽蔵に生み出されるんだ
一々相手するだけムダだから、避けるのも手だよ」
「でもこの程度でやり過ごせるって…」
「あいつら、マジでバカだな」
「主の頭の軽さを反映してるからね…さ二人とも
早いトコロ奴らの魂を狩りに行こう」
声をかけるも二人が微動だにしないので
彼は力なく肩を落とす
「やっぱ信じてもらえないか…「おい」
顔を上げれば ジッと自分を見つめる
赤い瞳とかち合った
「とりあえず町とさっきので二度借りがある
…今のトコロはオメーを信じてやらぁ」
「あ、ありがとソウル君」
そのまま彼は横に立つ相棒へ視線を寄越す
「おいマカ お前はコイツのことが
信じられねーとかダセェこと」
「言うわけ無いでしょ!」
憤慨したように言い切るマカへ、二人は
ニコリと安心した笑みを見せた
外の月明かりと壁に点在する灯りだけが
ボンヤリと内部を移す薄暗い城内を
時折やって来る山羊を或いは倒し、
「肌がヒリつく…そっちから来るっぽい」
或いは彼のアドバイスに従って
上手くスルーしながら三人は駆け上がり
辿りついた奥の間の大扉を勢いよく開け放つ
「ふん…来たか、無粋な死神の手先どもが」
そこにはキャンバスや画材道具と幾つかの棚
無数の死体と悪趣味なオブジェ…そして
胡乱な瞳で睨む画家が存在した
「人さらい画家ミシェルカ・ラバッジョ…
お前の魂 いただくよ!」
宣戦布告を告げるマカだが、彼の態度は崩れない
「愚かな…貴様らは贄に過ぎない」
「そぉうよん♪」
続いた女の声に反応して 彼が背後を見やる
「マカさんソウル君、後ろっ!!」
振り返り様に接近した巨人の腕を避けながら
アトリエの内部へと転がり込む二人
告げた当人も同様に入り口から距離を取り
程なくそこは群れる異形達で埋められる
「ベェ〜アタシの可愛〜い下僕達を
蹴散らしてくれたのはあなた達ぃ?」
やや遅れて死角になっていた物陰から、巨人を
操っていた魔女も姿を現す
「ずいっぶんと若くて可愛いじゃなぁい
このままモデルさせるの勿体なぁい位だわ」
オールバックの亜麻色ヘアーに派手な化粧
服装も顔に負けない位 奇抜で露出度が高く
ピンヒールに至るまであしらわれたラメが
周囲の灯りをギラギラと照り返している
ムシャムシャと口に含んで飲み下しているのは
いくつもの白い上等の…紙
「うわケッバ…!」
「つーか、紙食ってるぞあの魔女…」
若干引き気味になる二人に構わず
クリッとした銀色の瞳をちろりとツナギ姿の
少年へ向け 彼女は淫靡に笑う
「あらあらぁどこの地味っ子かと思えば…
ずいぶんと、ひさっしぶりねぇ?」
(ん?今コイツ 舌打ちしたぞ?)
「お前やっぱりこの魔女と「他人かつ
無関係だよ縁なんて一欠けらもない!」
その即答ぶりもさることながら
普段の彼らしからぬ強い語気と
あからさまな否定がソウルを瞠目させる
「え、知ってるみたいなこと言ってたじゃん」
「魔法とやり口だけはね」
すげなく言葉が返されるけれども
「あぁん冷たぁういーまた昔みたいに
おネェちゃんって、よ・ん・でv」
身をくねらせながら魔女は甘ったるい口調で
信じられないような発言をかました
三人の周囲が ピキリと凍りつき―
「ゲロカスな台詞ぶちまけてんじゃねぇぇぇ!
その厚化粧ヅラズッタズタにブチ刻んで
豚に食わせてやろうか売女が あ゛ぁ!?」
次の瞬間、は物凄い凶相浮かべながら
ドスを聞かせた低い声で吼えた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:今回から次回辺りのキャラが
若干崩壊しますが、あくまでも彼は普通です
マカ:どこが!?武器なのに感知系っぽい力が
あるみたいだし魂もちょっと変わってるっぽいし
ソウル:魔女が姉貴ってどーいう家庭事情だよ
狐狗狸:上記の質問は今後に関わるから伏せます
が、基本スペックとかは普通なんですよ
ソウル:書かれるキャラもお前も大抵どっかが
おかしいのに、普通の奴が出せるのか?
狐狗狸:う…それ言われると否定は出来ないかも
マカ:魔女は変わったカッコの人が多いけど
あそこまで派手なのは初めて見たわ…
狐狗狸:アレは彼女の好みが多段に含まれます
姉と名乗る"魔女"と彼の因縁…そして
狂気に彩られた画家との対決!
様 読んでいただきありがとうございました!