紙を引き破る音が 虚空へと響いて溶ける
「出来ない…ダメだ、これもダメだ!」
その嘆きはまるで世界の不幸を一身に
背負いでもしたかのように重くまとわりつき
続いて新しく、空間を引き裂かんとばかりに
両手をかけ 一気に手にした用紙を裂く
千々に分かれたそれらをぽいと中空に放り出し
「ああ…創作の神が降りてこない…!何故だ!?
新しいモチーフに見合う、贄が足りないのか…」
胡乱な瞳で遠くを見据え 男は手入れもろくに
されていない髪を乱雑に掻いて苦悶する
その服装と向き合ったキャンバス
側のスケッチと様々な絵の具等といった
いかにもなアイテムの数々が、男の職業を物語る
…だがその両手も まとった服にも
ついでにアトリエと自称する一室の
壁や床のいたる所までもが
どす黒く粘り気のある"赤"に染まっている
唸り続ける彼の前に、カツカツとヒールを
鳴らしながら一人の女が現れる
「あらあらぁ〜これまた派手にやって
せっかくの紙もモデルも勿体ないわねぇ」
亜麻色のショートをオールバック気味に
後ろに流したその面は不自然に白く
クリっとした銀色の瞳を縁取るのは
大きく盛り上がった睫毛と濃い色のシャドウ
笑みを象る唇も艶やか過ぎるバラ色
服装も、彼女のド派手なメイクに見合った
奇抜さと露出度をしていた
Primo episodio 巨人のウワサ
「芸術家も損な性分ねぅえん、ここに
アタシっていう素っ敵なモデルがいるのに」
「…お前では 私の意欲は満たせん」
素っ気無く言い放たれた一言にため息をつき
それでも"彼女"はしな垂れるように言葉を紡ぐ
「調達と始末はお任せしてちょぉだぅい?
そ・の・代わりぃ〜」
「ああ…分かってる、これが目当てだろう?」
半ば投げやりな口調で差し出された
"ソレ"をしっかり手に取って
「そうそうこれよぉんvV
分かってるじゃなぁーい、天才画家さん?」
彼女は 蟲惑的な笑みを一層深くした…
――――――――――――――――――――
廊下の先で、二人と一人が顔を合わせた
「あれ?君も」
「え、うん…もしかしてマカさん達も
死神様から…?」
「まーな つか相変わらずツナギかよお前」
「あー…動きやすいし、生活ギリだからね」
微苦笑する彼の顔半分は常に亜麻色をした
前髪で隠れているけれども
その一言だけで十分、相手の生活レベルを
切実に垣間見せていた
「バイトと両立しての暮らしって
やっぱり、大変なんだね…」
「正直ギリギリかな アパートの家賃は
安いけど言うほどゼータクできないし」
「なるほどな…他人事じゃねぇけど
オレらにはまだ先の話だな」
などとお互いに軽く会話を交わしながら
彼らは"DEATH ROOM"の扉を潜る…
――――――――――――――――――――
「「"白い巨人"…ですか?」」
そして呼び出された馴染みのフロアで
マカと、二人の言葉が期せずハモる
「そう!最近イタリアで目撃されてて
結構有名になってるみたいでさ〜」
ぴょこぴょこと身体を左右に揺らしながら
特有の軽いノリで 死神は続ける
「元々あそこでは悪人リストに乗ってる
画家の男が、拉致を起こしてたのよ」
その男の名は"ミシェルカ・ラバッジョ"
かつては数々の絵画で名を馳せ、栄誉を
欲しいままにしていた天才の一人…だった
ある時を境にスランプに陥り
抜け出せぬままパタリと創作活動が止まり
徐々に周囲から、彼の名は忘れ去られた…
「と〜ころがどっこい ミシェルカは
夜な夜な街を徘徊しては、気に入った相手を
手当たり次第にさらって国中騒がせたらしいよ」
言葉巧みに、或いは力ずくで自分よりも
弱いと定めた相手を連れ去り
彼は自らのアトリエへ何人もを引きずりこんで
犯行が発覚されるまで 拉致が行われていた
地域では一時期ウワサになっていたとか
「何だってその男はそんなことを…?」
挙手して訊ねるマカに、死神は頷く
「辛うじて助かった人によれば、奴は
"次の作品のモチーフ"を求めていたらしいね」
実質、彼に拉致されたと見られる人間は
ほとんど帰ってこず
警官が駆けつけた空のアトリエには
何人もの犠牲者による血と、グロテスクな
オブジェが遺されていたとか
聞いた瞬間 三人の顔が嫌悪に歪む
「芸術の為に人殺しってか?
とんだサド野郎だな、その画家」
「同感…」
「あの、死神様 そのミシェルカって画家と
白い巨人に何の関係が…?」
「いー質問だねマカちゃん!」
再びの問いかけにビシ!と指を差して
あっさりと彼は、とんでもない返答を返した
「実はその男がいつの間にか行方を晦まして
代わりに、"巨人の拉致事件"が起こるように
なっちゃったのよ〜イタリアで」
成りを潜めた画家と入れ替わるように
夕暮れ時から夜にかけ、街角から"白い巨人"が
現れては住人をさらって行くようになった
狙われるのはそれこそ老若男女の区別が無く
範囲も特定地域から、ある島の町や村を
順繰りに巡って起こるものに変わり…しかも
目撃談によれば"巨人"は複数存在するらしい
「そりゃ怪しい…間違いなくその画家と
あと、もしかしたら魔女も絡んでるかもな」
「まぁ、可能性は高いだろうね〜」
ソウルの一言に頷き 死神は彼らへ向き直る
「そんなワケで現地に行って事件を
解決してきてもらえるかな?三人で」
「「「え」」」
上げた声は同様に戸惑っていたけれども
ただ一人は…その戸惑いの種類が違っている
「あの…死神様、それって僕も一緒に
行かなくてはならないのでしょうか?」
恐る恐る手を挙げて 発言したのは
―本来、"任務"及び"課外授業"は
職人が武器を育成すべく
定められた悪人を狩りにいく為のモノで
その難易度はピンキリではあるものの
大抵は一組ないし二組ほどのペアで
行動に当たれば事足りる
が、彼は…今の所フリーの武器であった
持ち合わせた能力も"人並み"である事を自他共に
認めているので同行の必要性が見当たらず
何より本人自体 話の始めで今回の任務を
どこと無く"避けたい"と感じている
…ソレを感じ取っていて、尚も死神は答える
「まあ確かに魂感知に目覚めたマカちゃんと
ソウル君のペアで十分イケるだろうけど」
「だったら僕は今回辞退させてい」
「でーも一辺は他の相手とタッグ組んで
行動する事も経験しとくべきだと思うのよ?」
遮りつつキッパリ言ったその発言は軽くも
どこか逆らいがたい気迫を帯びており
「う、死神様がそうおっしゃるのでしたら…」
彼は了承せざるを得ず 弱気に頷いた
まさかの組み合わせに驚きながらも
相手の様子があまりにも頼りなげに見え
視線を寄越しながら、冷淡に言い放つソウル
「オイオイ大丈夫かぁ?
オレ達の足手まといだけは勘弁しろよな」
「ちょっとソウル!」
「はは…努力してみるよ」
笑い返す声音は少しばかり乾いていて
ズレた前髪からチラリと覗いた鳶色の瞳が
どこか虚ろっぽく見えたので
「本当に平気?別に無理して一人で
任務に参加しなくても…」
「だっ大丈夫だよ!もう決まったコトだし
それにある程度なら協力出来ると思うし!」
心配するマカに、彼はやや無理矢理
明るさを引き出して返答した
「君は無茶せず普通にサポートに
回ればいいから、がんばんなさいね〜♪」
こうして…若干の不安と当惑を残しながらも
三人のイタリアでの任務が決まったのだった
――――――――――――――――――――
「イタリア…かぁ」
DEATH ROOMを出て、二人と別れたその後
デス・シティーの空を見上げては呟く
「白い巨人っておっしゃってたけど…まさか
アイツが出てくるんじゃ無いよな…」
前髪に隠された鳶色の瞳に
す…と、暗く深い影が差した
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:オリストながら捏造長編始めました
(時期は多分、クロナ登場話より前?)
…とりあえずコンパクトにまとめるつもりです
マカ:コンパクト…ってどのぐらい?
狐狗狸:理想は五話くらい、でも万が一
長くなったら十話までをリミットにするつもり
ソウル:そんな予定通りに上手くいくかぁ?
狐狗狸:…まあ、善処して行こうと思います
マカ:それより何で死神様はこんな変則的な
ペアでの任務を命じたんだろう…
ソウル:ここの管理人の都合じゃね?
狐狗狸:内部事情はさて置き、一応展開的に
理由はあるので…次回を楽しんでください
次回、降り立つ異国は…因縁の地?
様 読んでいただきありがとうございました!