鎌の刃が体内へ潜り込み続ける現状でなお
鬼神は平然と問う





自らオレの中に入る気か!?お前一人でこの恐怖
いざ どうする!?」


「お前の恐怖が人間と死神と魔女も
あとよく分からねぇ奴の
バラバラだった魂を一つにしたんだ!!」






マカは臆する事も迷いもなく言い切り





「神様でも「塵も積もれば山となる」ぐらい聞いたことあるだろう!!

人間(ゴミ)のことわざだ 今からわからしてやるよ!!



黒血を通じて、ソウルと共に鬼神の体内へ侵入する







圧倒的な黒に満たされたその場所で


ソウルは自らが逃げた過去…

ピアノと喝采する人々を垣間見る





けれども軽く目を閉じ 抱いていた恐怖を乗り越え


ピアノを通じて自らを知ってもらう為

心の中にうっすらと五線譜を思い浮かべる





「ソウル、ソウル 大丈夫?


「ああ問題ない」





いつも通りの微笑みに少しだけ緊張が和らぐも


辺りを見回す 普段通りの制服姿のマカの視界も

ラフな格好をしたソウル以外は黒に覆われている





「黒血の海…ここが…?」


「鬼神の中みてぇだな
感じるか?クロナの波長」


「うん…やってみる…」





二人が意識を集中したのに合わせ、鬼神の狂気が
"精神的恐怖"の形を取って襲いかかる





けれども歯を食いしばり 勇気を振り絞る彼らへ応えるように


黒血の海に…鬼神の言うゴミクズボケカスの魂が
無数に現れ、瞬きをみせる





「案外 誰の魂か分かるモンだな…オックス達や
も、結構近くにいたんだな」


「あの一際強いカスはブラック☆スターとキッドの魂か…」





すぐ側にある仲間達の魂と


辺りを照らす世界中の人々の魂の光を指針として
二人はより深い闇を見つめる





「行こう この中にクロナはいる」





――――――――――――――――――――――





無事、鬼神の内部へと入っていった二人を見送り





「は…はは行ったか…
聴いたかキッド?マカのひでぇピアノ」


「ははは…ああ…ひどすぎて虫唾が走ったわ」


ブラック☆スターとキッドが、笑いながら軽口を叩く





「いつまでこびりついている」





力任せに鬼神が少年二人を身体から引き剥がすも


彼らの顔から 笑みは消えない





何故この段階で笑うのだ!?真に怖すぎる」





元より理解する気などない鬼神は
眼前の二人を潰すべく自らの力を振るい





「さーて、アイツらが戻ってくるまでもうひと踏ん張りだ
全く大物は辛ぇな」


「そうだな…オレ達にはまだまだやらねばならん事がある」





二人はマカとソウルの帰還を信じて立ち向かう












Nono episodio Risonanza dell'anima!!











狂気に…闇に魂を喰われたクロナは
ただ一人、答えの出ない自問自答を続けていた





どうしようもない恐怖から抜け出したくて


自ら最低の道へ進むことで、最低でない事を
証明しようとして…けれど結局は無意味で





「ほんと 何の意味もない事だ…」





メデューサも死に


すがるものも縛るものも何もかも無くなってしまって


それでもなおクロナは
自らを終わらせる事が出来ず





その様子を自嘲しながらも 涙をこぼして彼女を呼ぶ





「もう一度会いたいよ…マカ……」







答えなど、あるハズが無い闇の中で







「クロナ…」





不意に その願いがマカとソウルの姿を伴って
叶えられたため、クロナは自身の正気を疑う





「さすがの僕もこれで終わりか…
マカの幻覚が見えだした…「マカチョップ」





本で頭を叩かれる痛みと 色素の薄いツインテールを
揺らして微笑む笑顔に


マカが現実にそこにいると認めて クロナは手を伸ばす





「もしも君が本物のマカなら
マカの執着心もよっぽどのものだ」


「執着心?」


「だってそうでしょ?

マカはこんな所までこんな僕に会いに来た
僕も僕で醜態をさらし君が来る事を待っていたんだ」





伸ばされた手を取り、そっと握りしめたまま


マカは"執着心"を"信じる事"だと口にする





「クロナと私は一度分かり合えたんだよ!
二度目が無い事なんて無い!!」






むしろクロナも自分を信じていた事をマカは喜び


そんなマカと共に、自分達もクロナを信じていたと
ソウルも言葉を続ける





「キッドやが信じた魔女のように
自分が理解出来ない相手でも、大切な相手を通せば認められる

お前が不安なモノ…マカを通せば少なくならないか?


「そうだよ 猜疑心の強い鬼神には絶対出来ないこと

これが人間の強みだ






二人の言葉と、マカの手の平から伝わる温かさが
クロナの心へと届く





外へ行こ!みんな待ってる」


「そと…」







短い間でも 楽しかったデス・シティーでの思い出と


マカを始めとした、見知った人の笑顔が頭に浮かび








ダメだ 戻るワケにはいかないよ」





自らが取り返しのつかない罪を犯したコト

やるべき事を自覚しているからこそ


クロナはマカの説得と 手の平を振り切る





「嬉しかった…本当にこんな所まで
僕の為に来てくれて

マカにもらった勇気で 僕にしか出来ない事があると思う」


クロナにしか出来ない事?何をする気?」





鬼神と一体化した事でクロナは


鬼神が恐怖そのもので殺せず さりとて野放しにも
出来ない事に気づいていた





「さっきマカチョップした本どこで?
貸してくれる?」


「ここに来る途中で拾ったけど」





手渡された本…エイボンの書と、開いたページから
現れたBREWを手に取り


その二つもまた外に出せない事を口にして







「僕の狂血で鬼神と共に すべてをいい感じに封印する」





確固たる決意を持って、クロナは言った





待って!!それじゃあクロナは!?」


「マカに恩返しがしたいだけさ、君には勇気を
もらってばっかりだからね…ソウルも分かるだろ?」





訊ねられ、彼は照れくさそうに頬を掻く





その仕草に小さく微笑んでから


クロナは、マカを抱きしめた





「マカは僕と接してくれた初めての人だ」





世界は二の次で、償う罪も分かってはいないけれど


マカの為に戦えるなら…恐怖も狂気も、鬼神すらも
抑える事が出来るとクロナは告げる





「それには鬼神を出血させる必要がある

これはマカにしかできない やってくれるね マカ





身を離し 両肩へ手を置いて真っ直ぐに見つめるクロナへ


真っ直ぐにオリーブグリーンの瞳を返して
マカは力強く頷いた









『そう易々と逃がすと思うか?
この暗黒世界で出口を探すのは不可能』








黒血を通して響く鬼神の声に


ニヤリとソウルが口の端を上げる





「こんな事もあろうかと…」





すっと右手の人差し指が持ち上げられると同時に


魂を音符として配置した五線譜が、闇の中から浮かび上がる





「これは魂の音符の楽譜?」


「魂を繋げて道標代わりにな」


五線譜の出だしを指差し、ソウルはクロナへと言う





「クロナの為に最初の音を空けておいた はめてくれ」





戸惑いを浮かべ 世界中の人々の魂を繋げたその楽譜に
自分が入る資格はないと一度は拒否をするけれど


仲間がどうとか気にする事は無い

とりあえず中に入って考えればいい、とソウルの言葉に
背を押され クロナは自分の魂を五線譜へ納めた





完成 最高の曲だ」


「絶対に戻ってくる!だから待ってて!!」


「信じてるよ」





クロナに見送られ、ソウルはマカの手を握り五線譜をなぞる







後ろ髪を引かれながらもマカは


奏でられる曲とソウルの手…

そして鬼神を内から出血させるべく
外へ出る事へと 意識を集中させた













―内部での三人の行動は


ブラック☆スターとキッド、そして月や地上の面々の猛攻を
あしらい続けている鬼神にも影響し始めた





「塵も積もれば何になると言った!!
塵にしかなっていないぞ!!」






力を持って人間達の抵抗を吹き飛ばした直後


胸に現れた、光り輝く蜘蛛の巣の様な紋様に阿修羅は気づく







―出口を目指し奏でられる曲に耳を傾ける内





「この曲」


マカは、それが二人が出会った時に聴いたモノだと気づく





「この曲こそオレの勇気の始まり
オレを外の世界に導いてくれる」


『無駄な事を…狂気は人の魂を飲み込む!!』





五線譜を辿る二人を追って黒血の波が押し寄せ







鬼神は紋様を力尽くで抑え込んで 体内へと納める





「マカ達が出てこようとしているのか!?」


「せっかく入って来たのだからなぁ
すぐ出て来られたらビックリしてしまう」


「出口を塞がせるな!こじ開けんぞ!!」





影の刀四本を具現化させ ブラック☆スターは
真っ直ぐに鬼神の胴体を目指す





伸ばされた包帯が脇腹を掠め


顔面に袈裟懸けの傷を刻んでも 彼の眼は
屈する事無く目標だけを睨んでいる





「何だその目は恐ろしい!!何故折れない!
最高潮の恐怖だぞ!!」



「うるせぇボケ!!
テメェみたいなバカにわかるか!!」






左拳をモロに顔面で受けながら食らいついたブラック☆スターは





「強えぇだけのザコが!!」


振り上げた刀と影刀を全て鬼神へ刺す





彼の背後から飛び出したキッドが援護射撃を繰り出し


左肩を包帯で貫かれながらも、鬼神の胸に再び
光る蜘蛛の巣の文様が浮かび上がるのを確かに目にした







「見えた!あの光だ!!」


クロナの狂血を力にして 人々の魂を繋げて生み出された
ソウルの曲もフィナーレを迎えようとしていた





武器化したソウルを握りしめ 黒血のドレスをまとって


マカは全員の魂を一つにする





『魂の共鳴!!!』





自分達の…全員の魂の強さと勇気を持って


出口の光へ、鎌の刃先を掬うように刺しこむ






「これがお前に負けないという証明だ!!」





だが…彼らを出すまいと鬼神の抵抗も激しさを増す





『決して恐怖から逃れることは出来ない』





同じ黒血で出来たドレスへ狂気の黒い手が伸ばされ

絡めとったマカを黒血の海へと引き戻す





『飲み込まれひたすらに ただ闇をさまよえ』


「くっ…うおおおおお!!こんな事でぇ!!





諦める事無く抵抗し、前へと進むマカとソウルから
黒血の鎧が引き剥がされてゆく





『オレ達には覚悟がある!!!』





なりふりなど構わず 勇気を持って進む二人を眺め


ソウルの中に宿っていた小鬼は 崩れる自らの世界を
受け入れながら、どこか愉し気に呟く





『寂しくなるぜ』













外と内 七人の攻撃によって傷をこじ開け


全ての黒血を剥がされ 白無垢のドレスとなったマカが
鬼神の身を大きく抉り裂きながら飛び出す





「おぞましい程に恐ろしい!!

こんな恐怖初めて味わっているぞ!」






恐怖のあまり けたたましく笑う阿修羅の黒血を通し







『また会おうね マカ』





彼女はクロナの声をはっきりと聴いた







――――――――――――――――――――――





「パパ ママ あれ見てー」


「どうしたのレイチェル」


「まっ黒」





幼子に指摘され、訝しんだ親子だけでなく


空を見上げた全世界の人々が


鬼神の黒血によってすっかりと覆い尽くされた
黒い月の不気味さを 無意識下で恐怖する





「ボク見たんだ、月が黒いのにのまれたんだ!」


「こわいよ…」





廃病院から保護され 正常な意識を取り戻した子達も
施設の窓から見える月の異様さに怯えている







…事情を知っている、地上に残っていた死武専の面々は

目の前で起きたあまりの事態に尚の事
余計に血の気が引いていた





「ウソ…そんな、あそこには死人先生達がいるのに」


「マリー先輩…!」


「マジかよ、せっかく鬼神を倒せたってのに!」





月に残された死人や茜達 スピリットやマリーが
鬼神の黒血に丸ごと飲まれてしまった事に


呆然とし、或いは憤りを隠しきれない彼らへ







「…大丈夫、だよ」





弱々しくもそう答えたのは…


ブレアに支えられた 満身創痍の





「マリー先生やスピリット先生達も、絶対に生きてる
生きてまた会える」


「何でそんな事が断言できる?」





信じたい気持ちと、到底生きていると思えない絶望とで
揺れる仲間達や 魔女の瞳を見返す鳶色の瞳にも





「分かるんだ とにかく…僕を信じてくれ





言い切ったその言葉にも 一点の迷いはなく
強い確信に満ち満ちていた





らしくもない、けれどだからこそ
吐き出せるその勇気ある一言に


全員が改めて落ち着きを取り戻し

月にいる彼らの生存を信じ始めたのを見計らって
シュタインは言う





「さあ、オレ達も死武専へと戻ろうか」







――――――――――――――――――――――







際限なく噴き出す黒血で月を覆い尽くす直前


内にいるクロナの存在に気づき、鬼神はささやく





「肉体を捨て肉体的恐怖を克服し
"BREW"によって知識的恐怖を!!

他者を信じそれを柱にし精神的恐怖をも克服するだと」






要であるその柱こそが"容易く折れる脆いもの"と断言し





折れた時が狂気が取って代わる時だとも告げ


再び顕現する事と、その時を共に怯えて待つ事とを

鬼神は心の底から愉しむように歪な笑みを浮かべていた…








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:鬼神封印まで書き切りました、恐らく次回が
この長編のラストとなるでしょう!


死人:ようやくこの話も終わりか…感慨深いな


梓:本来なら、もっと早く終わっているハズでしたが
管理人さんの無計画さと怠慢が如実に


マリー:まぁまぁ固いコト言いっこなし!


スピリット:そーそー!逆に言やぁここまで続いたのは
長く作品を愛した証でもあるってこった!


博士:まーどれだけの人が見てくれてるかは
分かりませんが、書いた奴が楽しんだのは事実でしょうね


クロナ:終わりか…また、きっと会えるよね…?




次回 戦いが終わり―新たな始まり


様 読んでいただきありがとうございました!