我が子の覚醒を見届け


死神は粉々に砕けてゆく己の仮面…
自らの魂の依代であるソレを気に止める事もなく





死神の"真の力"…人を愛するキッドなら
"真の力(アレ)"に頼る必要はないよ」





エクスカリバーへ息子達を見届けるように告げる





「そんじゃ〜ね〜」


そうしていつものような、軽々しい挨拶に





「了解した…」





聖剣が神妙な様子で言葉を返した まさにその直後


彼の魂は塵と化して消え去り 後には纏っていた
黒いローブだけが寂しげに残された







――――――――――――――――――――――





三本の光の輪を頭に掲げ、父譲りの黒ローブに身を包み

両目にドクロを宿したキッドは自らに満ちる力の根源に気づく





これが死神の"力"…こ…この能力は…?
分かるかリズ…」


『こ…これって…狂気?』





鬼神が世界を覆うほどの"恐怖の狂気"を抱いているように


死神もまた、人の感情を排しただ生きて死ぬだけの
機械の様に変える 膨大なまでの"規律の狂気"を携えていた





そして…死神がその力を行使していない事も


マカ達と、何よりも力を継いだキッド自身が理解していた





「"力"を使っていないという事は父上は人を信じているのだ

この世が鬼神の狂気に覆われようが、人は狂気に屈せぬと
信じてくれた…お前とは違うぞ 鬼神


「それがどうした!!!!」


感情のままに吐き出し、自らの顔を晒して鬼神は返す





「"規律の狂気"を使っていないから死神はオレとは違うだと?
その結果 愚かな人間(ゴミ)共は狂気に踊りこの病んだ世界だろ


オレと同じは嫌だろ?"規律の狂気"を使え!!


「黙れ!オレは父上と同じように人を信じる!!」





迷いを捨てたキッドの鋭い猛攻も、背後の絶壁を駆け上がり
自らの高みまでたどり着いたブラック☆スターの加勢も


鬼神は動じずに攻撃を防ぎ 眼下のマカ達をゴミと嘲るが





「ずいぶんとオレ様を評価してるようだな鬼神さんよぉ!!」


「貴様は人間のその域を越えている
武神と呼ぶにふさわしいかもな」


「ありがたいお言葉だが オレは神を越える人間だ!!
お前の言う人間(ゴミ)だよ」





己と並びうるだろう少年から、自らの賛辞を否定され


今一度 頭上より鎌を振り下ろそうと迫る人間の少女に苛立つ





「またお前か…お前はイライラする…
人間(ゴミ)の分際でこの戦いに入ってくるな!!





顔を隠した包帯で鎌の刃を押し止める合間に
キッドの両手の銃が火を噴く





「オレだって人間のように創られた死神だ!!」





されど全ての攻撃ごと鬼神の波長が三人を月の壁面へ圧し潰し

間髪入れず包帯での追撃をかける


月の鼻の穴をまたがり


左肩上がりに薙ぎ払う一撃が彼らを襲った直後





『オイ ソウル!気合い入れろ!!
黒血が疼かねぇぞ!!


黙れ!演奏中の私語はマナー違反だぜ』





波長に乗って鳴り響くピアノの音が
三人を鬼神の波長の圧力から解放する












L'ottavo episodio
 Per questo coraggio questo solo colpo!!!












「ソウル!」





不安げに呼びかけるマカへ、狂気が混じりながらも
確かな自我を持ってソウルが返す





『待たせたな、オレの中の黒血を限界まで活動させる
黒血では色々ウダウダやってたが大丈夫さ

もう自分を見失わない





鬼神と逃げずに戦うマカ達三人はもちろん


普通だったでさえ魔女と向き合い
信じた上で共に戦うコトが出来た





認めたくない、自らの精神が作り上げた"ピアノのある部屋"


それら全てひっくるめて共に立ち向かう意思を胸に
魔鎌は目の前の鍵盤を弾いた





『これがオレのピアノだ鬼神野郎!!』







体内で反応を示し始めた黒血とその発生源に気づき





「貴様から片付けてやる」





鬼神が今までロクに気にも留めなかったマカへと
狙いを定め、合わせた両手を武器とし距離を詰める





「させるか!!」





二人の援護もあって彼女は更に上空へと離脱する


だが猛攻を受けながらも両手を力強く組み


具現化させた光背のような物質から放出した
黒い光球を爆ぜさせてキッドとブラック☆スターを吹き飛ばし





「死ね」





瞬時に追いついた鬼神の手刀が、マカの胸を貫く





「マカ!!!」





悲鳴じみたスピリットの声が響く中







貫かれた当人は…ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた









腕に貫かれた少女の身体から零れるのは、黒く輝く血液







『マカって言ったっけ?何でオレなんだ?』


『私 鎌職人でソウル君は鎌なんでしょ?』





彼女の脳裏に浮かんでいるのは痛みでも恐怖でもなく


始めてパートナーを組んだ時に喫茶店で聞いた
自己紹介代わりの、ソウルのピアノ









ケタケタ…走馬灯見いちゃった…ケタケタ
ソウルとマカのソウマ灯…ハヒァ」








正気を追い越した笑みでマカが、自らを貫く腕を
両手でつかんだ直後





その腕へ少女の両手の指が沈み込むのを鬼神は見た





「貴様」  「OH!」







即座に腕は引き抜かれてしまったものの


鬼神のみに起こった現象は、死人やキッドにも心当たりがあった





黒血で境界を失くした?クロナがやったような事をしたのか」


「狂気とも調和しようと言うのか!?」


『黒血全開だ!!』





奏でられる旋律に呼応しマカとソウルの様相が一変する





狂気を制して、両肩を露出させた黒血のドレスを纏い

ツインテールの根元へ黒い羽根飾りを付けた彼女は


鍵盤の様な刃を持つ黒色の大鎌を握って鬼神を睨む





「ソウル…これって…」


『ああ さっきので確信した
黒血の力で鬼神の内(なか)に入れる』


「『クロナの所に行ける!!』」





流石に先程の鬼神の一撃には肝を冷やしたが





「ブラック☆スター、キッド お願いがある…
私には鬼神に一撃を入れる事すら出来ない」





無事と分かった以上 彼らの間に余計な問答はいらない





「こちらはマカ達の一撃に賭けるしかない!
オレ達で何とかしよう」


「鬼神の隙を作ればいいんだな」


「おお!怖い、不確定要素は恐ろしい…

オレの隙を作るだと?お前らはオレに寄り付く事すら出来ん」





生み出した光球の爆圧で三人を弾き飛ばした鬼神が





「黒血で無敵になったつもりか」





口から生やした独鈷の先端でマカの左肩を刺す


「うぁあああ!!」


「ヴァジュラを溶かす事は出来まい しょせん
カスの力など穴だらけ!お前を殺す術などいくらでもある」






両者の間へ身をねじ込み、相手の胴を蹴って
ブラック☆スターがマカから鬼神を引き離すが





右拳の反撃によって防いだ左腕を無残に折られ


衝撃を殺しきれずに月面へと叩き落とされた





『ブラック☆スター!!』


「仲間に恵まれなかったな
もう少し上手く立ち回れただろうに」





悲痛な椿の叫びと、非情な鬼神の言葉がマカへ
罪悪感となって突き刺さってゆくも





「こんな腕一本気にすんじゃねぇ!!
お前は前だけ見てろ!!」



彼は腕だけではなく 背骨の激痛すらも耐えて立つ





「うおおおおお!!」


「出来立てホヤホヤの死神に何ができる?」





渾身の怒りと持てる全力を込めてキッドの銃口から
放たれる無数の波長を含め


威力を削がれながらも果敢に挑む二人の攻撃すらも


鬼神はまるで弄ぶかのようにわざと全て受け続け





もう飽きたとばかりに凶悪な波長によって
三人を月面へ圧しつけ、圧力をかけて潰しにかかる







「馬鹿みたいだな人間(ゴミ)ども
必死にあがいてがんばったんだよな?

きれいなオベベに着替えて 笑わせてくれる
オレのように日陰で怯えていろ」





晒した面と、指を曲げた手の平についた黒い瞳が
恐ろしく冷ややかに少年少女を見つめている





「所詮は人間(ゴミ) 全くビビリ損だったようだ
心の底では思っているはずだ勝てるワケないと」



「まだ…まだだ…まだガンバる…」





いまだ抵抗の意思を見せるマカへ更なる圧力をかけ





「ぐぁああああ」


「どうした死神!!
黙ってゴミがプレスされるのを見ている気か!!
"規律の狂気"を使って見せろ!!

この狂気に対抗しなければ仲間が死んでしまうぞ!!






指を開いてキッドを波長で圧し潰しながら
鬼神はなおも狂気を使えとそそのかす





鼻や口、目から血を流し苦悶の声さえ上げられず


いつ意識を手放してもおかしくない状態であっても
みんなを信じ続けている死神を嗤い





「あらゆる恐怖を与えると言ったがもう興味が失せたわ
死ね





トドメの一撃を加えようと鬼神が指先を





―動かそうとしていた、その刹那







その右肩を鋭い光が貫いた







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「座標は変わらず2発目の用意をして!!」


すげぇ!地上(ここ)から月面の相手に!!

梓姉さんの精度もだが あんたの演算魔法
最高のスポッターになれるぜ」





鬼神を貫いたのは、エルカのサポートを経て
梓との共鳴によってキリクが放った波長の矢だった





ゲコリ!話してるヒマなんてない!
今のでこちらの場所はバレてるはず 反撃が来るわ!!」


「おっかねぇ」





魔女の発言通り、間髪入れぬ二発目で場所を
特定したらしき鬼神の一撃が月から放たれるが





「フリー!!」


「ウールッフウルブスウルフウルブス」





打ち合わせ通りに転移魔法を使ったおかげで


無慈悲な一撃は誰もいない森の一部を焼き払っただけとなった





『エルカ、アナタは早く鬼神の座標を先輩に』


「ゲコっ分かってるわよ!!


指示が飛び、転移した崖からエルカは即座に呪文を唱える





しかしそれを待たずして 月面からの無差別攻撃
豪雨の如く地上へと降り注ぎ





「「いいいいいいっ!?」」


その一つが戸惑う彼らの頭上へと


到達する寸前で





宙から割り込んだ人の姿の魔女猫の振るった
両刃の双剣の刃先が間に合い、不自然に攻撃を途切れさせる





ぐぅっ…いまだ、うまく返せ!』


「わかってるニャ!そーれっ」





合図によっての刃が月面へ向けて振り上げられ





「『罰殺withブレア[Intaglia con Blair]!!』」


切り取られたビーム分の波長を乗せた斬撃
鬼神へ向けて返ってゆく





よそ見すんなカエル女!今は魔法に集中しとけ!!』


ゲコっ!ウッソでしょー…アンタが私を守ったの?」





目を丸くしたエルカへ、肩口だけを鋏の刀身から
人へと戻したが得意げに笑いかける





「覚えとけ、俺の故郷の男は家族(ファミリー)と
約束を守るもんなんだよ…なぁブレア!



「そうだニャ♪」







無事にフリーがもう一度転移魔法を発動させたのを見届け


ブレアと共に彼は、月面からの攻撃に警戒を続ける





『普通の魔鋏に出来んのは、ここまでってトコか…』


「やっぱり相手が相手だから不安だよねぇ〜
大丈夫だと思う?君」


『まー後は博士やマカ達がうまくやってくれるだろ』





呟いたの言葉を証明するかのように


月に届くほどに鋭く、力強い"雷光"が地上から放たれた







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『やっぱり…さっきの攻撃のせいで
大分それたか それなら





放った雷を鬼神の左腕へ纏わせ
それを頼りに自らを引き寄せたマリーの鎚が


鬼神の顔面と顎へ強烈な一撃をお見舞いする





「このゴミが、邪魔だ!!







宙を舞うマリーへ伸ばす包帯は、茜と死人が
大剣と鎌を挟み込むことで防がれ





「人間(ゴミ)どもが次から次へと!!」


「ノア様ぁぁぁ!!」


眠り続けるノアを外まで引っ張ってきたゴフェルまでもが
不快さを隠せない鬼神に波長の砲弾を放つ





「他のノア様も返せ!!」


「ん?このカスの事か?」





問答に気を取られ、五体のノアを口からぼとぼとと
吐き出している鬼神の身体へ


力を振り絞ったキッドとブラック☆スターが組みついた





「人間をなめるな!!これがお前が見下し
父上が信じた人の力だ!!」



「証明してやれ!!」


弾け!マカ!!

魂のまま弾け!それがお前の波長だ!!!』






目を閉じ、自らの魂に従ってかざした手を降ろし


鍵盤を叩いてマカは鬼神へと向かってゆく





「みんながいるから私は闘える!!」





死力を尽くし貼りつく二人へ攻撃を加えながら鬼神は問う





「このオレの内(なか)に!恐怖に進んで入る気か!!」







普通ならばそれは狂気の沙汰としか思えない選択


狂わされ取り込まれて鬼神に食い潰されてしまったとしても
何らおかしくはない、希望などまるでない道


それでも…二人はとうに迷いを捨てている





「この勇気 この一撃に!!!」





刃に並べられた鍵盤を撫で渾身の気合と波長を込めた
"鬼神狩り"の一撃が


阿修羅の心臓へ 深く深く突き刺さった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:当人の宣言通り、鬼神戦での夢主の戦闘での
活躍はここまでとなります


オックス:ぶっちゃけましたね


博士:実質オレ達に出来る事はもうやり尽したしね
君ら四人も補佐として控えていてくれて助かったよ


キム:事前にサンダーとファイアー避難させておいたから
よかったけど、あの無差別ビームは正直ヒヤっとしたわ


ジャッキー:結構近くまで飛んできたものね
博士達が無事で、本当によかったわ


ハーバー:しかし マリー先生と梓先生の攻撃はともかく
ブレアの助力があれどの一撃も届くとはね


ブレア:ああアレ、火事場の馬鹿力らしいから
もう一回やれって言われても無理だって言ってニャ




次回 二人は鬼神の内部へ、クロナの元へ


様 読んでいただきありがとうございました!