ジンとズパイダ、デングとアレシャンドレが先導して
負傷者と戦意喪失者を撤退させ


森に残っているのは余力のある者達だけとなった





「アナタ達も彼らと共に撤退した方がいいわ」





死武専への連絡を終えた梓の言葉に
スパルトイのメンバーは揃って首を横に振る





「悪いがブラ☆スター達が戦ってんのに
オレ達だけさっさと帰れねぇよ」


「ええ、それに鬼神が関わっている以上
何が起こるか分かりませんから」





勝利にせよ撤退にせよ、月で戦うマカ達が
地上へ戻って来たら合流できるよう


彼らは頭上を仰いで じっと待つ事を決めたらしい





「子供にはあんま無茶させたくないんだけどね」


「現状一番無茶してるアイツも残ってるのに
帰っちゃうのもアレですし」





視線を向けられたは青い顔をしていたが

へらりと軽く笑ってみせた





「これくらい平気だよ…吐いたらちょっとスッキリしたし」


「おかげでオレの一張羅がエラいことになったがな!
ああ!臭くてたまらん!!


「うるせぇバカ犬…
無事戻れたらクリーニング代ぐらい出してやる…」





月から離れたおかげか彼らには軽口を叩けるだけの
精神的な余裕が戻ってきてはいたが


それ故に、目視できる月の異変と共に





「ものすごい狂気が…波長が渦巻いている…」


じわじわと深まっていく狂気をシュタインのみならず
職人・武器関係なく肌で感じ取り





「月にいるあの子達は大丈夫なの…?」





不安を抱かずにはいられない







――――――――――――――――――――――





「さぁ賢弟よ 真の死神を決めようではないか」





向かい合う鬼神から放たれたその言葉は


場の空気だけでなく、キッド達の意識をも揺らして乱す





「オレが弟…?」


「我々は同じ死神(はら)から生まれた断片だと
言っているのだ」



『確かに似てる?』  『言われてみれば…?』


「ば…馬鹿な…いい加減な事を言うな!!





激昂と共に波長の弾丸を吐き出して





「虫唾が走るわ!!お前のような奴が父上の子の訳が無い!」


波長によるブーストで加速をつけたキッドの突進を
至近距離で受け止め、なおも鬼神は淡々と告げる





「死神は自分が完全な規律の神になりたいが為に
恐怖を切り捨てオレに変えた」






狂気に満ちた世界の始まり…その原因が父である
死神にあるなどと信じられず





なら何故父上の子のオレが恐怖を知っている!?
恐怖を捨てた後の子ならオレに恐怖は無いはずだ!」





否定するキッドが、わざと未熟に作られたのだと嘲笑い





「わざわざ未熟に作り恐怖を知り学べるように…
さぞ親子ごっこは楽しかっただろう」


「でたらめだ この頭のラインオブサンズが
不完全なのも父上がわざとそうしただと…」


「師匠も不安だったろう
この兄のようにならないかとな…」






弾き飛ばした"弟"を見下したまま続けられる
悪意ある言葉に黙ってはいられず





「キッドはお前とは違う!!」





向かい来るマカとブラック☆スターにも

鬼神は包帯で迎撃して、呼びかける





「人間よ!!この狂った世界も正常と言われている
世界もすべて死神の都合で作った世界だ

人間(お前達)なぞ死神にとって傀儡に過ぎん!!


「知った事かよ」





包帯の猛攻を潜り抜けたブラック☆スターが
一太刀を浴びせ、その勢いを利用して身体を一回転


全体重を乗せた蹴りをお見舞いし月の下の歯まで
鬼神の身体を沈み込ませた





「人間にしてはやる」





小さな呟きを滞空したままで的確に拾い





「人間が!!神より弱いって!!
誰基準で物言ってんだ!!ああ!?






叫びながら具現化した影の修羅と三本の巨大七支刀
引き連れて彼は鬼神へ追撃をかけた












Settimo episodio
 Io selezioner il vero dio di morte












「これだけの力を持っていて なぜそうも
死神を盲信する、だから人間は愚かなのだ」


「ただキッドと死神のダンナはオレのダチで
お前は気に入らねぇからだよ!!」






恐怖の化身にも関わらず人間をゴミと蔑み

他者の恐怖を知ろうとせず与えるだけの鬼神には


かつて力を求め、力に敗れた者の無念を
背負うと誓った彼の憤りなど分かるはずもなく





「お前の死神もオレと同じだよ
人を生かすも殺すもあの死神の匙加減だ」


違う!!証明はできねぇがお前ぇとは違う!!」





攻撃を防ぎつつ出来た隙をついて包帯で捉えた
ブラック☆スターの腹を合掌した手刀で貫き


顔を隠した鬼神は、助けに入るマカを
あっさり弾き飛ばして





「あぁはは 怖い怖いなぁ


口から吐き出した独鈷の切っ先を彼の顔面へ向ける





寸前で歯によるガードが間に合うも





「吹き飛べ!!」


構わず放たれたレーザーをもろに口内から受け止めて
ブラック☆スターの身体が大きく跳ねた






「あがあぁああああぁああ」


『ブラック☆スター!!』





レーザーの放出が終わり、解放され落ちていく少年を
受け止めようとマカが飛び立つが





落下していたハズのその身体が 急に空中で停止し


次の瞬間、彼の口から勢いよく吐き出された
レーザーのエネルギーが月面の大地を焼き払った






「な…」


あまりの事にマカとキッドが大口を開けて固まる





「ほぉおああ…これは怖ひ…怖過ぎる…

こんなマネが出来る人間がいるとはなぁ…」


「神に出来る事がオレに出来ないわけねぇだろ!!!
オレに出来ねぇ事はオレにしかできねぇ事だ!!」






震えて感心する鬼神に向けて
大胆不敵に笑いながら豪語したブラック☆スターは


内臓の負荷からかのように盛大に吐血したものの





「大丈夫か!」


「お前ら!オレ一人にやらせる気か?別にいいケド」


「ご…ごめんスピードに付いて行くのがやっとで…」





軽口を叩きながらも、自らが目指した"死神"
あり方が揺らいでるキッドへ





ここに来て、またつまんねぇ事考えんなよ
鬼神を倒すには3組一人も欠けちゃならねぇんだ!」


「…分かっている」





油断せず敵を注視したまま的確な言葉を投げかける





…それでも生まれた迷いは晴れず


肝心の鬼神も先程の攻撃など
無かったかのように依然としてそこに浮かんでいる





「いいぞ…血の気が引いてきた…
オレのように恐怖に潰されるがいい」





鬼神である事に加え、体内に流れる黒血が
容易にダメージを通さない





『ソウル!出番だ、そう聞こえねぇか?
こっちも黒血全開で鬼神の黒血に干渉するしか無い』



『ああ そのつもりだ』





精神世界からソウルへ語りかけ、小鬼は黒血へ
繋がるピアノがある部屋へと誘う





『自然と疼いちまうよ…なぁソウル
弾いてやりな こいつも寂しがってたぜ』


『何つーか、もう第二の我が家だわ』


アラ うれしい事言ってくれるじゃねぇの』





開け放たれたドアを越して黒血のスーツを纏い

ソウルは、会いたかったと告げてピアノの前へ立つ





『今日はスペシャルな日だ COOLに行こうぜ!』







――――――――――――――――――――――





梓の千里眼で月面での戦況自体は把握出来ていたものの





「彼らは大丈夫なの!?」


鬼神を相手取っている現実は、抱いた不安を
余計に増していくだけでしかなく





クソ!オレ達は何も出来ねぇのか!!」





思わず吐き出されたキリクの叫びは


森に残り、ただ見守る事しか出来ていない
全員の悔しさを如実に表していた







そんな中…歯噛みしていたの表情が変わる





「…どうした?」


「っ…ウソだろ、来る!?





肌にビリリとまとわりつく静電気のような感覚
従って鳶色の瞳が誰もいないハズの空間を向く





…と同時にその空間に裂け目が走り







「やっほ〜みんな、助けに来たニャ!





ひょい、と魔女の姿をしたブレアが相変わらずの
露出度と懐っこい笑みで飛び出してきた





ブレア!何でここに」


「テスカって人から協力頼まれちゃって
お猿さんが降った剣で出来たトコ通って来たの」





閉じていく裂け目と彼女を交互に見やってから





テスカ!一体どういう事ですか!?」


オレだって知るか!あの聖剣が言い出したんだ』





連絡用の鏡で事情を問いただす梓を尻目に


頭のネジを、盛大に音を立てて回しながら





「…これだけ手数があれば、ちょびっとぐらい
彼らの手伝いは出来そうだねぇ」





職人・武器・魔女や魔女猫の顔を今一度視界に入れて


シュタインは一つの案を思いつき、口の端を持ち上げる





「月にいる鬼神にオレ達の力を見せてやろうか」







――――――――――――――――――――――





禍々しいまでの黒い波長を後光のように放ちながら





「お前達にオレの知るあらゆる恐怖を与えてやろう」





鬼神は引き絞られた矢の如く高速突進からの攻撃を
肉体的恐怖(terror)として与え


ブラック☆スターとキッドを順に叩き落として
マカへと向かい合う





「何故お前の様な人間(カス)がこの戦場にいる
不行儀にも程があるぞ」


「これは人間の戦いでもあるんだ」





恐怖に汗を浮かべながらも圧に負けまいと言い返すも


次の一瞬で叩き付けられた両手での掌底を
受け流せずにマカは月の顎まで吹っ飛ばされて


崩れる地面から身を起こしきれず咳き込む





「地べたで大人しくしていろ
カスだから舞っていいなどと誰が許した」





圧倒的としか言いようのないその一撃は
共に戦う三人のみならず





『オイオイ演奏する前に死んじまうぞ…』


「マ…マカ!!





小鬼や月の歯に残されたスピリット


月の口から出て来て合流した死人達にも
次元の違う強さを感じさせた





「貴様!!」


それでも怒りを乗せて反撃を繰り出すキッドだが





「そんな中途半端な状態では何も出来んぞ
覚醒してオレのようになるのが怖いか?





連弾を捌かれ、背後で生み出された黒い火炎球を
叩き付けられて焼け焦げる





「怯えていろ」


「この野郎!!」





間を置かず頭上目がけて飛んだブラック☆スターも
包帯と波長の集中砲火を喰らって叩き返される







「やはりキッドの覚醒は必要なのか…」


「魂の波長の圧力だけで潰されそうです…
人間が入れる領域じゃない…」





死人と茜のその一言を痛いほど理解していても

鬼神の二の舞になる可能性が故に覚醒をためらうキッドへ





「覚醒すれば分かるぞ 貴様もオレと変わらぬと





鬼神は顔をさらけ出し知識的恐怖(dread)
植え付ける事で追い込もうと言葉を叩き付ける





「オレや死神のようにこの世を狂気に
叩き落とす力を持っていると「違う!!」





そこへ待ったをかけたのは





「キッドがお前と同じわけない!

キッドは人間をクズなんて言わない!
魔女も!!みんな!!」



痛みにも恐怖にも負けるものかと向き合い
立ち上がったマカだった





「お前はキッドの優しさに付け込んで
恐怖を煽ってるだけだ!!」



『行くぞ!!共鳴連鎖』





両足で柄に乗って飛来し、すれ違うキッドへ

不安になる必要はないと優しく告げ





「魔人狩り!!!」





包帯で顔を覆った鬼神の前へ
舞い戻ったマカが、空中で鎌を振り上げる





「何度も舞うゴミカスは、焼くしかあるまい」





包帯と黒炎が放たれる直前で


鬼神のアゴを膝でかち上げてブラック☆スターは言う





バカ野郎!!マカのくせに死ぬ気か!!」


「守ってくれるって信じてるからね」


「ったくといいお前ぇらといい…
頼れる大物は辛いな!全くよぉ!!





繰り出された大鎌の一撃を契機に


共鳴連鎖を軸とした二人の攻撃が鬼神を穿つ





「目障りだ」





鼻先まで押された鬼神が次々と放つ黒炎球をかわし


月面を蹴って宙返りしたマカを迎え撃つ背へ
降り立ったブラック☆スターが二刀を突き刺し


間髪入れず鎌の刃の根元で首を引っかけて引き倒し


体勢を崩した鬼神の胴へ両手での魂威と蹴りが
それぞれ叩き込まれ、相手を月面へ突き落す





しかし土煙が収まらぬ内に伸びる包帯が

それ以上の追撃を彼らに許さなかった





満身創痍の二人の側へ、追いついたキッドが並ぶ





「す…すまない…」


「平気だよ、キッドと死神様が鬼神と同じ訳ない…


あいつは鬼神…死神じゃない!
ただ"死"を与える神が死神であってはならないんだ」





マカの行動と、その一言一言が彼らに勇気を与え





『キッドが最後まで魔女を信じたように
みんなキッドを信じてるんだぞ』



「お前がならねぇならオレがなっちまうぞ…」





全員の信頼を受け止めたキッドからも迷いを消し去る





「ありがとう…みんな…
マカ…何者にも屈しないその勇気が支えになる





今ひとたび、金色の瞳がしかと鬼神を見据えた





「試してみるか?オレがお前のようになるか
死神になるのはこのオレだ!!






キッドの周りに光が集まり、頭部を取り巻く
三本のラインが浮かび上がっていく







――――――――――――――――――――――





DEATH ROOMにいた死神の仮面も
彼の覚醒が始まった瞬間にひび割れ


左端の眼球からボロボロと崩れ始めていく





「その調子だ!キッド」





――――――――――――――――――――――





大規模な竜巻にも似た波長の奔流が巻き起こる中





「ヒイイイ新たな暴君の誕生とは震えるな…


お前の父親の様"真の死神"とやらになり
人間(ゴミ)共を好きに操るがいい






顔半分を晒し、恐怖を思い出させようと紡がれる
鬼神の口車にも負けずキッドは





「オレは お前の様にはならん!!
見ていて下さい父上!!






瞳にドクロを宿して三本目のラインを伸ばしてゆく







―同時刻、完全に繋がった三本のラインを
頭上に浮かべた死神も





「ずっと見ていたよ キッドなら大丈夫!





崩れる己の仮面も意に介さずに力強く叫ぶ


「行け!!キッドォ!!」







呼びかけは届かずとも、背負う想いは通じているのか





「オレは父上の息子!!死神だ!!鬼神じゃない
オレはオレの信じた父上の様な死神になる



『『三本目の線が繋がる!?』』


彼の決意に呼応して三本目の線がついに繋がる





「お前が真の神になれば分かる
人間(ゴミ)共がどれだけ容易いか!!」






完全に三本目が繋がった瞬間


波長の奔流は消え、三つの輪と逆十字のような
光がキッドを中心にして空中に描かれ





月を覆い隠せるほどの 膨大な魂反応が現れた―








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:新年一発目の作品だけど夢主の影が薄い
…まあ地上組だし次回暴れるので、許してください


鬼神:人間(カス)がいくら暴れようとも無駄だ


狐狗狸:ぎゃああぁ!何故にいるの!?


鬼神:終わりを恐れる波長を感じたのでな
奴等から隠れるついでで寄ってみたまでだ


狐狗狸:お帰り下さいマジでお帰り下さい


死神:てゆうかビビリのクセにいじめっ子に転向?
そーいうのカッコ悪いよ〜?


鬼神:そういう師匠こそ未練たらしく留まってないで
さっさと消えたらいかがですか?


狐狗狸:やめて!ここで前夜祭でのバトルリターン
おっぱじめようとしな(以後 通信不能に)




ついにキッドが真の死神へ覚醒!
人間達と鬼神との戦いも終止符へと向かう…


様 読んでいただきありがとうございました!