伸ばしたマカの手が、武器化したスピリットの柄を掴む





「熱くない…?波長が合ってる…?


『マカとオレじゃ簡単に外されたのに』


「ふざけやがって!!」





怒りに駆られて突き出されたクロナの黒い茨は


黒色の鎌の刃のひと薙ぎで あっさりと弾かれた





「少し重いけど 重量感に比例したパワーがある」


「そんなバカな…」


『行くぞマカ!!』





その一声を契機に彼女は地を駆け


生み出された頑丈な茨の檻ごとクロナを叩く





「どうして…?
魂の波長は噛み合わないはずなのに…」


『波長の問題じゃないよ』





諭すようなスピリットの言葉にも





「何で!!何で!!





ひたすらに続くマカの連打にも





何で!!何で!!
ここは噛み合わないワールドなのにィ」


「魔女狩り!!」


「何で!!」


理解が追い付かず絶叫するクロナの茨は
繰り出された魔人狩りを防ぎきれずに脆く崩れ去り





マカが放たれた波長の両刃を受け止めると同時に


解放されたソウル達もその場へと着地する





「何でだよ!!僕の棘(いばら)で
波長は噛み合わないハズだろ!!なのに!!


なのに何で君達合ってんのさ!!



『それはマカとオレが親子だからだよ』





親子を繋ぐ"縁"は、魂の波長が合う合わないは
問題ではなく切っても切れるものではない





そう返す父親の答えは


クロナにとってはこの上なく残酷に胸へと刺さる





やめろぉ!!僕は…………殺したんだ…
そんな話…聞きたくない」


『何だ?どうした?』


「クロナはメデューサを殺したのよ」





親子の脳裏は自然と 両手で顔を抑える魔剣士と
似たような境遇の魔鋏を比べてしまう





自らの手で肉親を殺す…差異はあれど


同じ状況を選んだには自らの覚悟と共に
切れる事のない"家族の縁"があった





しかしクロナにとっては殺めてしまった
メデューサこそが


唯一の縁であり規律であり、全てだった





「は……は……はは…」


「クロナ…?」


「僕が狂気 その者だ!」





歪んだ笑みを浮かべたクロナが涙を溢れさせ
しぼりだすようにそう言った瞬間







一際大きな鼓動が鳴り響き





「まぁあぁぁあぁあああああああ」





内側からにじみ出してくる波長に悲鳴を上げて

悶えるクロナを 背から生えた包帯が包み込む












Sesto episodio Ma io ancora divengo forte!!











「クロナ!!」





叫ぶクロナを取り込んだまま球状となり
うごめく包帯から吹き出す波長を


マカ達だけでなく、月へと迫るキッドも感じ取る







"わかっていただろう?なぜオレを求める


代われるとでも思ったか?狂気に"








その言葉を最後にクロナの魂は闇へと飲まれ





代わりに顕現した鬼神が、隙間程度に開いた
包帯からマカ達の様子を覗き見る





「クロナの魂反応が、消えた…鬼神!?





"鬼神に乗っ取られたのだ"と呟くソウルの言葉を
事実として受け止めるのを拒むように





「うああぁあああ!!」


『待てマカ!!』





止める父に構わず球体へと幾度も切りかかるが





『無駄だ!!』 「何で!!」





その都度、攻撃は触椀のように伸びる包帯に弾かれる





『届かない!!』





反撃によって吹っ飛んだマカがソウル達の側まで
後退させられた直後


包帯を解除し、阿修羅が顔を見せる





「排除しに来たか死神の使い…」


「出て来やがった…」





顔だけを再び包帯の内側へと隠し





「怖いなぁ…」


過剰に恐怖する鬼神が放つ濃厚な殺意の波長を







『3度目の月か…もう有り難みがねぇな』


『ちかれたビ』


「この波長…鬼神…あそこか!!





到着早々、キッドも察知し彼らの元へと駆け付ける





「キッドッ!」

「なんとか間に合ったようだな…」


「死神の息子か…」


「ああ 父上に代わり決着をつけにな」





阿修羅の出現に、自らに出来る事はここまでだと
悟ったスピリットが人間へと戻る





「マカとパパの魂の共鳴では鬼神には決して
ダメージを与えることはできないよ」





"規律"がある限り"狂気"を排除することはできない


同じ魂の波長を持つ親子の共鳴では
何人も敵わぬ猜疑心の壁を持つ鬼神を打ち破れない


「性別も人種も趣味も嗜好も、全てを乗り越えた
共鳴こそ鬼神を打ち破る突破口だ!!」






そう告げる彼の言葉を、ソウルが自分なりに
理解して引き継ぐ





「同じ個性が集まっても最高のリズムは生まれねぇ」







狂気を乗せて叩き付けられる包帯の攻撃を受けながら





「パパ!!」


「何度波長が合わなくなろうがまた繋ぎ直せばいい!!
マカはそうやって強くなってきたじゃないか!!






自分と母親には無理だった、再度の共鳴を





「ソウル!」


「ああ!見せてやろうぜ」





誰にも成し得なかった鬼神の討伐を


「君達ならできるよ」





他ならぬ娘や 娘が信じた仲間ならば出来る
スピリットは信じて言葉にする







「ヴァジュラ」





鬼神が口から吐き出した独鈷から放った狂気の炎を


三人は自らのパートナーと波長を合わせて
立ち向かい…見事なまでに撃ち払う





「ほう…なかなかビビリ甲斐のある奴が来たものだ


ぎゃああああ





大口開けて叫んだ鬼神の力量は伊達ではなく





「鬼神・阿修羅!!狂気の亡霊よ!!
貴様には死神のオレが引導を渡してやる!!


勇ましいな!このオレを震わせてくれる!!」





先駆けたキッドを、攻撃が叩き込まれるよりも速く
包帯を食らわせて足元へ叩き付け 追撃で弾き飛ばす





バカ!キッド 走り過ぎだ!!』





ソウルのサポートを受けながらキッドと入れ違いで駆け





「相手が鬼神ならもう手加減する事もねぇな…椿!!


身が千切れて見えるほどの残像を残して
宙へと舞ったブラック☆スターが





「黒星☆零ノ型「正宗」 無限」





五本の影の刀を連ねて引き連れ

鬼神へ息つく間もない斬撃を次々と浴びせてゆく





「この力…"力"の旧支配者(あいつ)を彷彿させる
怖い…怖いなぁ…」





黒血を滴らせる鬼神の包帯で斬撃を止められても


ブラック☆スターは地を蹴った勢いで再び斬りかかろうと





「近くで見たら尚怖い!」





一瞬の内に音も悲鳴もなく、息がかかるほどの至近距離で
包帯に包まれた顔が目の前に現れて


刹那 足を止めた彼の脳天が弾け飛び―










「しっかりして武神殿」





マカに肩を叩かれ


幻覚から解き放たれたブラック☆スターは

改めて二人がいるからこそ戦えている現実に感謝する





「だが オレはまだ強くなる!!」


「ああ…でさえ月であれだけ奮闘したのだ」


『だね、こんなヒーヒー言ってるビビリ野郎に
負けてらんないよ!!』 『お、おう』





油断なく鬼神へ相対する二人の隣で


マカもまた、残酷な現実に諦めず抗い続けていた





「ソウル…クロナのリズム、聴こえる?」


『マカの感知能力を介しても聴こえてこない…』





鬼神の狂気もいつまで打ち消していられるか煩悶する
ソウルへ、小鬼が呼びかける





『そんな小さな鍵盤では狂気を掻き消せねぇ…
相手も"黒血"こっちも"黒血"

こっちにはデカいのがあるぜぇ、もちろん調律済みさ』







"どこに隠れても見つかってしまう"


当人にとって残酷な現実を諦めて受け入れ





数瞬だけ素顔を晒した阿修羅がマカ達を敵と定める





「この"狂気"で全て消させてもらおう」







真っ向から視線を受け止め


真の死神に覚醒し"規律"を取り戻すと改めて決意した
キッドの頭の白線が、二つ繋がって円となる







――――――――――――――――――――――





我が子が抱いたその決意を


死神は新たに仮面へと走った一つのヒビで理解した





「新たな死神の誕生が近いようだ」





いつになく真剣な声音でエクスカリバーは訊ねる





「キッドが死神の"真の力"を得たらどう思うか?」





彼の答えは 混じりけのない信頼に満ちていた





「魔女との交渉でもわかるでしょ?
キッドなら大丈夫!!もう立派な死神だよ


「お主を今まで見て来たからな」





神経質でどうしようもない所があれど


それ以上に仲間や人間を大事にしているのは

言われるまでもなく分かっていたとばかりにそう返し





聖剣は新たな問いかけを重ねる





「神といえど死ぬのは怖いか?」


「いや…恐怖も全部分け与えてしまったからね…」





虚空へと目を向ける死神の背へ、歩みを止めぬまま
聖剣が更に言葉を紡ぐ





「片方の断片にお主の恐怖を全て与えたのは
得策ではなかったな」


恐怖と規律…彼奴(きやつ)と共に規律を
導こうとしたのだ…しかし規律と狂気は表裏一体」


こうなる運命だったのかも、と呟き


"魔女メデューサを悪く言う権利が無い"と自嘲し
彼は自らの体たらくを悔いる





「全て私の責任だ…それなのに私はキッド達に
押し付ける事しか出来ない…」


「老兵は死なずただ去りゆくのみ…

まあ お主は死ぬわけだがな!な―――!!





さらりと身もフタもない事を言い放ってから





「安心したまえ私が見届けてやろう

どちらが新たな死神になるか





自らが後見人となる旨をこれまたさらりと
続けたエクスカリバーは脈絡もなく歌い始め


おもむろに近づいた大きな姿見の縁を


リズムに合わせてガンガンと杖で叩きだす





『何してんだお前!?割れたらどうする!!』





姿見の表面に映りこんだテスカが怒鳴るが


聖剣は意に介さずに平然と続ける





ヴァカめ!どうせ先程地上へ移動した者達と
連絡を取り合っていたのだろう」


『当たり前だ!』





マカ達三人が月で戦う間、地上に残された死武専勢に
出来る事は現時点で限られており


だからこその現在地確認と現状報告


それと負傷者を死武専へと帰還させる為の
やり取りを鏡越しに行っていた最中での呼びだし





これだけでも腹立たしい事限りないのに





「連中の中に双剣の子孫はまだいるか?」


か?残っているが、それが「好都合だ
誰か適当なヤツを呼んでこい、貴様の猿以外でな」



食い気味かつ居丈高な口調での命令が続き





『いや何でお前がそんな命令「ヴァカめ!
貴様は黙って私の指示に従っていればいいのだ」





あまりのウザさにキレそうになったテスカへ


なだめるように死神が間に入ったのも無理はなかった





「まあ何か考えがあるんでしょ、彼女ならきっと
協力してくれると思うからお願いしてみて?」


『…分かりました』







渋々承諾したテスカの姿が鏡から消えて





「…何をするつもりなのさ?」





問い返す彼へ、早々に鏡から離れた聖剣は
軽く杖で帽子のつばを下げつつ言う





「フン、双剣にはほんのちょっぴり一ミリマイクロばかり
借りがあったのを思い出したのでな」


「そう」





仮面の奥で小さく笑った死神は


の祖先である、銀髪で不敵な笑みを常として
魔女に恐れられた"双剣"を想った





「彼女の気持ちが今ならよく分かる気がするよ」


「そうかね、あの口うるさい小娘は
私とはウマが合わなかったがな」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:夢主当人の出番なし&シリアスさんな本編が
今年最後の魂喰更新となるわけですが


リズ:いや最後の方思いっきりエクスカリバーが
ウザさ解放してたけど!?


狐狗狸:いやまあ、そこは聖剣だからとしか言いようが


聖剣:ヴァカめ!私の知性に間違いはないのだ
そう大統領も私の知性には一目置いていて…


パティ:うげ、また始まったよウザいのが


死神:まーほっとくのが一番だね、ああなると長いし


テスカ:ヤツの奇行は今に始まった事じゃないが
一体何を考えて「ヴァカめ」うぜぇ




決意を秘めた死神に、鬼神は衝撃の一言を放つ…!?


様 読んでいただきありがとうございました!