黒い茨を従え、こじ開けた月の口から
月面を見下ろすクロナへ





「クロナァアアア!!」





呼びかけるマカへ答えるように





…否、答えを拒絶するべく





「ぴぎゃあぁあぁああぁぁあぁあぁあぁぁ」


腹から飛び出したラグナロクの頭部からの悲鳴が


波長と化して月にいる全員へと容赦なく襲いかかる





「うわぁああああ!!」


何て波長だ!!これがあのクロナの波長だと!!」





魂の波長の弱い者にはこの悲鳴は耐えられない





「後に悲鳴は月中に充満する!!
耐えられない者は直ちに地上へ避難するんだ!!」






そう判断したキッドは素早く指示を出すが





「避難って飛行船は木っ端みじんですよ!!」


「源さんなら30秒で直せますか?
「そりゃ無理だろ!!」





渡って来た船も無く、海から遥か上空の月面から
すぐに全員が脱出するのは現実的ではなかった





…そう 魔婆の片目を持つ狼男がいなければ





「コントロールが悪くてどこに飛ぶかわからないが
転送は可能さ!!ああ、やれないことはない」





切迫した状況の中で選択の余地はなく





もちろん私達は残るよ
早く彼らを連れて行って!」


「あまり信用はするなよ!!」





マカとブラック☆スターとキッド


そしてシュタインとスピリットの総勢九名は
自ら残って戦う事を表明する





「キッド殿!!」 「我々も残ります」


「すまん、ここからは守れる自信がないのだ」





デスサイズスや余力が残っている援軍の者達も
地上へ戻される事を不服そうにしていたが





「心配はいらない
しばらくの間、先に地上で待っててくれ」






力強いキッドの言葉と笑顔に


青い顔をしているも含めた
スパルトイのメンバー全員も笑顔で首を縦に振り





「いくぞ!!転送!!」


フリーの空間魔法が発動し


彼らは、月から地上へと移された







――――――――――――――――――――――





規律と狂気…恐怖と勇気を賭けた神々の戦いが
始まる事を決意したキッドの耳には


もう、悲鳴など聞こえてこなかった





『こんな悲鳴の中でも不思議と静かに聞こえるな』


「ああ…そうだな」





一陣の風が黒髪と…周囲の木々の葉を揺らし





景色の変容と後方からの視線に気づいて





「ホ…ホントに静かだな…
月があんなに遠くに見える…」





冷汗を垂らし、現状を受け入れた少年は


それを生み出した原因へと掴みかかる





「って馬鹿野郎!!!!
何故オレも地上に飛ばした!!!!」













Cinque episodio Io riformo il tuo carattere!!











「だから信用するなと言っただろう!!」


「今すぐ戻せ犬畜生が!!」


「ここより月から遠く離れても知らんぞ」





とはいえ少しばかり手違いはあったものの


月面にいたほぼ全員を
地上の森の中へ運んだ事は事実であり





戻るぞリズ、パティ!
お前!帰って来たら死刑だからな!!」



「殺せるものなら殺してみろ、オレは不死だぞ」





正論を吐かれ、脅し文句すらも鼻で笑われ





「ぐぬぬぬぬ…バーカ


腹立たしさを余計に募らせながらもキッドは
スケボーを駆り 三度月へ飛び立っていく





と、その姿を見送っていたフリーの隣へ


鳶色の瞳を向けながら顔色の悪いが歩み寄り…





「お?どうしたハサミ、真っ青な顔し
「ゴボロぇっ」ギャアアァアァアァァァ!?





寄りかった彼は競りあがるモノを
不意打ちかつ盛大に狼男へ向けて吐きかけた






イヤアァァァ!!血ぃ吐いてるわコイツ!!」


「鬼神の狂気と悲鳴の波長に抗ってたトコで
魔法でダメ押しされて傷口開いたんだろうねー」


「ノンキな事言ってる場合ですか!?」





同じように移動に巻き込まれたシュタインの分析や
それにツッコみ入れる梓の声も


グロッキーな当人にはロクに届いていないようだ







――――――――――――――――――――――





キッド達とシュタインまでもが消えた事に
残された面子は困惑を隠せずにいたが


マカだけはしっかりとクロナを見据えていた





「来てたんだね マカ…」


「その魂…本当に鬼神を吸収したのね」





悲鳴を止めたクロナは、自分の狂気は
鬼神と同調できるまでに成長した事を告げる





「もうあと戻りはできない…
僕の黒い血は止められない


「どうすんだよマカ 阿修羅なら遠慮なく
ぶっ飛ばしてたんだがなぁ…」





問いかけるブラック☆スターへマカは答える





「わからないケド…このまま話してても
らちが明かない気がする」







『月に行ったら一発きっついのお見舞いして
目ぇ覚まさせてやってよ?』





月への出陣前に四人へかけたの一言など
スピリットには知る由もなかったが





他ならぬ愛娘からの視線を受けて


彼女が何をしたいかを、大体の部分で理解した





「いいんじゃない
子供のケンカに親が口を出すのも野暮ってもんだろ」


「その子供のケンカで世界が左右されちゃうんだから
プレッシャーだな…」





言いながらもマカは、世界か自分かの選択に
自分を選ぶと答える父親を無視し





ブラック☆スターや椿





「当たり前だ、あいつの中には色々といるし
3対1でも問題ねぇだろ」





そしてソウルにも協力を頼む





『何を今更、オレはどこまでも付き合うよ』







いくつもの信頼と言葉に背を押され


彼女の心は…決まった





「クロナァ!!」





左手に鎌を担いでクロナを指差し


高らかにマカは宣言する





「メデューサがお前の性根を叩き壊したように
私がお前の性根を叩き直してやる!!」








黒血によって生えた二本の腕と一対の魔剣が


一直線に駆けあがり、飛びかかったマカの
大上段からの一撃を防ぐも





「よりにもよって本当に鬼神を飲み込むなんて!!」


「そうさ」





残る二本の腕の内、右腕に握られていた四角く
武骨な剣による胴狙いをかわした勢いで


相手の左肩へ着地し 刃を複椀のワキへ差し込み





「僕が鬼神の狂気を手に入れ 世界を壊す!!」


「バカが!!」





ヒザげりを顔に叩き込んだ彼女は


更に連打で蹴りを顔面へお見舞いしていく


「アホ!!お前みたいなアホは!!一回死ね!!


『叩き直すんじゃなかったのか?』





呆れ気味にソウルが呟いた次の瞬間


地面へめり込んだままクロナが反撃を開始する





バカは君だよマカ!!こんな大鎌で接近戦を挑んで」





一刀目が左へ、二刀目が鎌を棒高跳びのように使った
ジャンプで避けられたのを見て





「僕の3刀目を裁ききれるの?」


確信をもって三刀目を振るうクロナ





が、椿の刀身が三刀目を防ぎ


突き上げるようなブラック☆スターの蹴りを
胴体へくらってクロナは数メートル吹き飛んだ





「一人だったら仕留めてたのに…」


「そうだよ 私は一人じゃない、私は弱いから
クロナだって一人じゃないんだよ!!





面と向かった呼びかけへ、返されたのは拒絶の意思





「僕はそんなに弱くない!!」





突進と同時にブラック☆スター目がけ
どす黒い波長の衝撃波を放った魔剣士は


衝撃波を斬り裂いた彼をかち合わせた剣撃で押し


続く鎌での足払いと、体勢を崩された腹部へ
柄の一撃を喰らわされても


腕でバランスを取ってその場で背中から回転し


着地ざまに剣閃を浴びせて、マカを弾き飛ばす





「うわぁ!!」


とっさに刃を淵に噛ませて瀬戸際で踏ん張る彼女へ





「ブラッディランス!!」





中空から生み出された黒い円錐が迫り





…そこへブラック☆スターが待ったをかけた





「影☆星 壱の型 [鏈黒(れんごく)]」





鎖鎌の刃が刺さり、鎖によって彼の手元へ
引き寄せられた円錐は


そのまま生み出した主の元へと投げ返される





惜しくも防がれたが、標的のすぐ側の月の地面を
抉るほどの一撃によって戦線を建て直し





「大丈夫か?しっかりしろよ」


「ありがとう、助かった…前にフリーと初めて
戦ったトキもこんな風に助けてもらったね」





ブラック☆スターの側へ駆け寄ったマカは


いつも自分を助けてくれる彼へ 笑って軽口を叩く





「私のコト、好きなんでしょ」


はっ!?な…何勘違いしてんだよ
それだけお前が小物だってコトだろ?」


「この感謝の気持ち、クロナに返してあげなきゃ」


「オレに返せよ を見習えお前」





…と、錐を防いだまま様子を見ていたクロナが


生やした二本の腕をまたも茨へと変化させる





『オイ休憩してる暇ないぞ』





数本の茨は上空へと伸び、月の上の歯へと
たどり着くとスルスルと絡みついてゆく





「ああああぁ」


叫びと軋みが続き渡り





…二人の頭上で重い何か
外れるような轟音が聞こえた







――――――――――――――――――――――





血ヘド騒ぎも落ち着き、隊員達の手当や
一通りの精神ケアが済んだ辺りで





地上にいた死武専勢は月の歯が一つ抜けた瞬間


それが程なく下へと落ちた瞬間を目撃した





「本当に、月では一体何が起こっているんだ…?」





シュタインでさえ呆気に取られてしまう光景に


しかし、スパルトイのメンバーと
奇妙な確信をもって呟く





「何が起きたかはわからないけど」


アレを起こしそうな男なら、知っているよ」


「…ブラック☆スターなら月の歯の一本や二本
ブン投げるくらい、きっとワケない」







――――――――――――――――――――――





自分達を押し潰すために頭上の月の歯を抜いた茨と


それを身一つで受け止め、投げ捨てたブラック☆スターに

流石にマカも驚きを隠せなかったが





「わ…私こんなバケモノ達と戦ってるの…」


『今更 怖じ気づいたか?』


「…まぁ、始める前からわかってたしね」





ホコリを払い、立ち上がったその顔には
どこか不敵な微笑みが浮かんでいた





「それに私達がクロナを怖がるわけない」


「やめろ…来るなぁ!!





叫びに呼応し押し寄せて来る茨の猛攻にも怯まず
二人はクロナへと歩を進める







だが掠めた棘が二人の肌を傷つけ





「ローズソーンズストーム!!」





駄目押しの一撃で吹っ飛んだ彼らの身体へ


"棘からの毒"が回りだす…





僕の狂気は噛み合わない歯車―…」


「うお!」 「熱っ」





唐突に訪れた、覚えのある拒絶反応


職人二人と武器二人は戸惑いを隠せない





「月だって歯が抜けて噛み合わないのに
魂を通わせるなんて無理な話さ」





棘を通じ伝染したクロナの気持ち…狂気


職人と武器との魂へ歯車を作り 同調を阻害する





「さぁ!!始まるよ噛み合わないワールド」


ふざけんな!オレのピアノで何とかしてみせる』





狂気の中和をソウルが試みた一瞬を突かれ


「しまっ!」





茨が武器化したままのソウルと椿を二人の手から
弾いて、奪い取ってしまう





『ブラック☆スター!!』


「ハハハハ僕みたいに武器も何も飲み込んで
おかないからこんな事になるんだ」


『何でだ!音が出ない!!』


「もう何かと干渉する必要なんてないんだ」





武器無しで戦わざるを得ない状況へ追い込まれ

不安を隠せないマカへブラック☆スターは言う





「ここは武器無しでも戦えるオレに任せておけ
待ってろ!オレがソウルと椿を取り返す」


「でも取り返しても波長が合わない!」





武器を奪い、繋がりを断った安心感からか


無理して人と噛み合わせる必要はないとクロナが説く





「つながりなんて辛いだけさ」


「どうでもいい」





言い捨てて地を蹴ったブラック☆スターが
魂威を放つも集い束ねられた茨に防がれ


転じて追尾しながら襲う蛇にも似た茨攻撃を
見舞われ、ひとまずマカの隣まで戻る





「大丈夫?」


「攻撃は見切れるし当たる気はしねぇが…

棘(イバラ)をかいくぐって二人を取り戻すとなると
骨が折れそうだ…」





茨に絡められた今もなお鍵盤を叩くソウルだが
そこから音が鳴る事はない





クソ!!何で音が出ない!!』


「ここまでソウルと来たのに
こんな簡単に崩されるなんて!!」


『そうさ、こんな簡単に切れるもんなのさ
人は皆いつだって一人だよ!!





この状態が自然なんだ、とうそぶいて


彼らを嘲笑うクロナの茨がマカへと向かう





かわすも彼女の行く先を読むようにいくつもの
茨があとからあとから飛び出してくる





「オレに当たらないとわかったらマカ狙いか
けっこうクレバーな戦いしてくるな」





回避し辛い位置での狙いすまされた一本を

寸前で割り込んだブラック☆スターが蹴りあげ





その軸足首へ、這い進んでいたもう一本が抉りこむ





「かかった!!もとよりブラック☆スターの足が狙いだ

他人と関わり合うからさ!!他人との関わり合いなんて
足の引っ張り合いなんだよ!!



『ブラック☆スター!!』


「うおおおおおおお」





上げた足の靴底を押し削る茨の勢いに
歯を食いしばって耐えていたブラック☆スターだが


軸足への追撃で体勢が崩れた状態では
踏ん張りがきかずに押し負け


吹き飛ばされるも体勢を立て直そうとする彼の両足に
茨が巻き付き


あっという間にその身体を、逆さまに吊るしてしまう





「後は君だマカ!!」





左腕を伸ばし差し向けた茨で彼女の動きを止め





「とどめ!!」


クロナが長く束ねた茨で天を突くような
黒い柱を作り上げて振り下ろし









…黒茨の柱がマカの身体をひねり潰す直前で





スピリットが割り込み、武器化した両腕の刃で庇う




「パパ!!」


「まったく先に行っちゃうから
あの崖地味に辛かったけどパパがんばったよ」





娘の窮地に間に合った父親は


茨を生やす黒血の子と


それらに捕まった鎌と刀と少年を見て状況を把握する





「マカ!パパを使いなさい


「武器が代わろうと無駄さ
もう君らは噛み合わないんだから」





そう…たとえのような
"誰とでも波長の合う"武器だとしても


クロナの能力(ちから)で波長を狂わされ


魂の波長が噛み合わなくなってしまっては、意味がない





けれどもスピリットはそんな事など
全く怖れていなかった





「なに…問題ないさ
マカはパパの娘なんだから








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ある意味キッドの代わりに仕返しを果たしたトコが
今回の夢主最大の活躍です


ズパイダ:それは言わないであげた方がいいのでは


エルカ:濡らしたタオル渡してもらえたり本当助かったわ
アナタ、用意がいいのね


オックス:備えあれば憂いなしですよ


アレシャンドレ:流石は死武専生ですね


博士:彼らは本当に優秀だよ…ねぇ珍しくパパしてる先輩?


スピリット:いやオレ一年365日ずっとパパだし!




最強の親子が、噛み合わない波長へ立ち向かう…!


様 読んでいただきありがとうございました!