ソウルプロテクト弾により鬼神の狂気が遮断され
道化師の無限増殖自体は止まったが
それでも月面に残る敵勢力は圧倒的に多い
「チマチマやってたらいつまでたっても終わらない」
道化師軍団から視線を反らさぬまま同意して
「僕が敵陣の中央まで斬り裂く!!
キリクは僕の後に続いてください!!」
一直線に駆けるオックスの槍から雷がほとばしる
「雷王穿!!」
軍勢を薙ぎ払い出来た道を辿って
「AFX・T
(アーム・フォース・エクストリーム・ツイン)」
キリクが地面に向けて放った炎と雷のエネルギー球が
広範囲に渡って道化師達を焼き尽くす
盛大に立ち上がる土煙に紛れて
背後から彼らへ強襲を仕掛ける二体をキムが焼き払う
「キム!」
思わず笑みを向けたオックスへ歩みよって
キムは見事な輝きを見せるその頭頂部を軽くはたく
「何でまた頭丸めてんの!?百歩譲って
角はいいけど上は生やせって言ったじゃん!!」
「これは気合の表れで…気が付いたら…」
甘酸っぱい口論を繰り広げる二人の側へ
交戦中の 両刃の鋏を携えた隊員が通りがかりざまに言う
「お二人さん、いちゃつくのは帰ってからな?」
「違います!も何か言ってよ!!」
『どう見ても恋人同士ですありがとうございました』
恥ずかしさと苛立ちを乗せたランタンの炎で
彼らをサポートしながらも
空中を渡るキムを見送り、オックスとキリクは
別の群れへと取り掛かった
「道化師達のソウルプロテクトはすべて完了したわ」
一息ついたエルカの報告に頷き
和装の狐魔女は自分達の役目が終わったと告げる
「ここからは死武専がなんとかしろ
最後まで付き合う筋合いはない」
彼女を見上げ、キッドは微笑む
「助かった!ありがとう」
「魔女界の取り決めに従っただけ
私はお前らをまだ認めたわけではない」
他の魔女達へ引き上げるように命じた狐魔女は
去り際の一言へ…少しだけ信頼をにじませる
「だがここまで私が手を貸したんだ
鬼神を倒せよ」
「任せておけ」
Quarto episodio Io lo tingo nero col mio sangue
月面には道化師達の悲鳴が響き渡り
その数も、刻一刻と確実に減ってゆく
「このままではまずいな」 「うむ」
白兎・迦具夜・月光も各々反撃へと移るも
マカ達を始めとした死武専精鋭の連携により
攻撃を散らされ、回避と防御に徹さざるを得なくなる
「魔婆様…私達はいまさら魔女界には戻れないので
ここに残ります」
「にゃむ」
去りゆく魔婆へ別れを伝えるエルカと共に
狼の姿へ変化したフリーが残り月面にて暴れまわる
「フリー!!」
「おおぉっ?!」
時間差で放たれたビームに右足と肩が抉られ
よろめいた拍子に複数の道化師が彼の巨体を抑えこむ
しかし両腕や顔面、胴を二本の刃で挟み斬られ
あっけなく足元へ転がされて踏みつぶされていく
「死なないからって油断すんなクソ犬!」
「まさかハサミにオオカミが助けられる日が来るとはな
ああ!そうだ全く予想外さ!!」
『同感、筋肉痛に悩まされてたあの頃じゃ
夢にも思わねぇな!』
軽口を叩きながらも隊員の操る"双剣"と
氷を生み出す狼の腕が同士を屠る様子を
迦具夜がどこか愉しげに見つめる
「ケタケタケタケ竹!その筋肉や未熟な鋏で
妾(わらわ)を引ん剥きいたぶるつもりじゃろう?
なんとも破廉恥でいやらしい犬どもじゃ!」
誰かさんに似た業腹な一言が聞こえてはいたものの
圧倒的な力の差も
代わりに一発見舞ってくれる
仲間の行動も知っていたは
ほんの一瞬だけ人の頭を出し、ガン開きした瞳孔と
立てた中指を迦具夜に向けるだけに留めた
益々ニマリと笑みを深めた彼女の側へ
月光と白兎も寄って立つ
「チンケなガキどもと遊んでいる場合じゃないだろう」
「そうとも、バラバラに戦っていては奴等の勢いは
止められない…迦具夜殿」
「もうッ
そうやって妾(わらわ)と一つになりたがるのじゃな」
「つべこべ言ってるな!!来るぞ「道化師!死ね!!」
横へと薙いだマカの一撃を宙へ浮かんで回避した
道化師三体が、自らの身を魂化して混ざり合う
爆発のような煙が収まって
迦具夜の身体を素体に白兎の帽子を被り
右腕に月光の頭部を携えた道化師が
頭の位置で独立して浮く五本の尾で
マカが放ったビットのレーザーを防いで突進する
「鬼神様に近付けさせはせぬぞぉ!!」
正面から飛来した道化師をマカが引き受ける合間
残る道化師の軍勢も僅か数体を残すのみとなる
けれど比例して死武専勢の体力も消耗が激しく
「くそ…腕があがらねぇ…!」
疲れに屈した隊員へ、対峙している巨大なトカゲと
ムカデを掛け合わせた姿の道化師が
自らの胴を分離させ 独立して襲いかかる
人へ戻ったが 頭上と地面
それぞれから迫る道化師へ刃を刺して留めるも
深く埋まる刃に構わず二人を挟み殺そうともがく
「マズい、お前だけでも逃げろ!」
隊員の言葉を首を振って否定し
その場で踏ん張り 片方だけでも仕留めようと
腕へ力を込めた少年は不意に閃く
"切り取った"狂気で相手を"切り付け"れば
刺した魔は、相手へ影響を及ぼすのではないか―
「鋏制式行(メノ オ ピュウ ゼロ)」
刃を通し狂気と魔力を奪われた地面の道化師が
貫かれた状態で干からびていき
力任せに振り払われた頭上の道化師は
流れ込んでくる狂気と魔力を肩代わりした事で
硬直したまま裂け、砂のように崩れていった
「やるじゃねぇか」
肩でぜいぜいと息を吐きながらも
「当然さ、君の信者で友達だもん」
強がって見せるの隣を疾風のように駆け抜けて
下から引っかけた鎌の刃でこじ開けられた
合体道化師の懐へブラック☆スターが入り込む
「やっと骨のありそうな奴が出て来たな!!」
五本の尾で正面以外の逃げ道を塞ぎ
最大威力のレーザーが通り道にいる彼へと放たれる
…だがしかし
「影星☆弐の型「月夜葉(つくよは)」」
高速回転する四枚刃の手裏剣を盾にして光線を防ぎ
そのまま回転数を上げて尾を斬り裂いて飛び出し
かわした道化師の体勢が崩れた一瞬で
流れるような三連続の蹴りが撃ち込まれる
吹き飛びよろける道化師の左顔面下と右の胸の上
そして左脇腹は腕と尾ごと、ごっそりと抉られていた
「あああっ!!妾(わらわ)のあられもない姿が…
中身まで見えてしまう…」
「お前が最後だ道化師!」
間を置かず接近したマカの魔人狩りを受け
「おっぴろげー
鬼神様ァアアお許しくださいィィイィイ」
縦に両断された合体道化師は狂気ごと消滅した
「塵も積もればと言うが…」
「しかし…片付きましたね」
先程までの喧騒が嘘のように
荒涼とした様相へと様変わりした月面で
「苦労したが、これで活路が拓けたか…」
スピリットの呟きに同意するように
呼吸を整える死武専隊員やデスサイズス
スパルトイの者達からも
安堵のため息が一つ、二つと漏れてゆくが
「マカ…感じないか?」
「この感じ…前に感じた」
探知に優れた者は、既に月の内部にて
膨れ上がりつつある二つの気配に気づいていた
「鬼神 阿修羅…クロナ」
月の内部、いくつかの目のマークが所々に
つけられた歪なアーチが立ち並ぶ地下の最深部で
『待ちに待ったな"BREW"よ
ついに鬼神を手に入れる時が来た』
死人達四人 そして勝手に着いてきた
ノアとゴフェルも濃密な気配を感じ取っていた
「感じるか茜、鬼神はこの先にいる」
鼓動が聞こえる程の静けさと闇の中で
両目を見開いた阿修羅は、彼らを視ている
――――――――――――――――――――――
魔女の増援により残る敵が鬼神・阿修羅のみと
テスカから告げられても 死神の憂いは晴れない
「すべて私が蒔いた種…」
何気なく振り回した聖剣の杖に弾かれた小石が
見事な放物線を描いて落ちるが
地面へ衝突する寸前、奇妙な屈折を見せた
「早速 規律が乱れ出したな…」
「デス・ルームはこの世の規律を反映した世界…
世の狂いに敏感に反応する」
「だが直に外の世界にも影響が出るぞ…」
二人の旧支配者もまた 鬼神の目覚めを確信する
――――――――――――――――――――――
『クク とうとうお出ましですか…』
闇の向こうから近づいて来る強烈な魂反応の
距離を測りながら身構える死人達
だが、徐々に距離は縮まっているハズなのに
「2m!?」
「どういうことだ!!もう視認できる距離だぞ!!」
鬼神の姿だけは一向に闇から現れない
…それは月面にいるマカ達にも同じことが言えた
「マ…マカ…
オレの魂感知はどうかしてしまったのか…?」
「わ…私も…鬼神の反応はすぐそこに感じるのに…」
目を凝らせど自分達以外、何も見えない静寂の中
ついに己と鬼神の距離が 0へと重なる
「あぁあぁあぁぁああぁぁあぁ」
誰かのあげた悲鳴を皮切りに
職人も武器も誰彼問わず、全ての者達の内側から
這いだしてくる狂気に侵食され始める
「気を強く保て!もってかれるぞ!!」
シュタインの警告も意味をなさず
月面も月の内部も一切の例外はない
己の身体から精神が変容していく様に抗えない
が先程のように狂気を肩代わりしようと
片腕を刃へ変化させ試みるも
ぐねりとまとわりつく無数の瞳が刻まれた
狂気に惑わされ
両膝をつき 自らの首へ刃を添え震えるのみ
『狂気は外部から受けるものじゃない』
小鬼のささやきに呼応するように
左目から抜け出る自らの狂気を握りつぶし
マカは足元を強く踏みしめた
「ぐ…勇気を!!ソウル!!」
呼びかけと同時に彼の手の平がピアノの上を滑り
『魂の瞑想曲!!』
クモの糸を通して退魔の波長を広範囲に流し
全員に襲う狂気の侵攻を押し止める
「この旋律も一時しのぎにしかならない」
闇に閉ざされた月の内部、狂気からひと時
解放された死人の目と鼻の先に
三つ目模様の包帯を顔に巻いた鬼神が佇んでいた
「これは…これも幻覚か…!?」
とっさに後ろへ下がり距離を取った死人達と
入れ替わるようにして
「テメェが鬼神かぁ!!
テメェを手に入れるタメ遠路遥々月まで来たんだ!!」
本からの魔力をブーストにノアが飛びかかるが
呼びだされた怪物に片腕を噛ませて防いだ鬼神は
軽くその腕を横へ振り、生み出した衝撃波で
怪物を砕きノアを弾き飛ばす
「腕の一振りでこの衝撃波か!
ますます欲しいぜ阿修羅!!」
「ノア様ァ!!」
「情けねぇ声で呼ぶんじゃねぇ!」
桁違いの力量も気にせず、新たに召還した
胴体だけが人体の複数の蟻と
『いくら潰そうがこの本は知識の宝庫!
枯れません!!そしてこの"BREW"を使えば!』
本自身の情報と知識によるパワーアップを加え
"BREW"の応用によって蟻達とノアが合体し
異形の蟻のアギトを両肩に融合させたノアが
猛烈な勢いで鬼神へと突進し、その身体を跳ね上げる
瓦礫と共に落ちる鬼神の顔面を踏み抜き
土煙を縫って繰り出される包帯をもその頑健な
蟻の身体で弾いたノアは
「あがくな!あはは!いいぜ!!
ついに手に入れる時が来たか!」
両肩のアギトでついに鬼神を捕えて吊り上げる
「あの鬼神を…これが"BREW"の力か」
「意外といけるもんですね」
『そうだ!そのままいい感じに一つになるのです!!
鬼神と"BREW"が一つに!!』
その場にいる全員が、鬼神・阿修羅がノアへと
取り込まれる事を確信していた
「なぜオレをつつく…狂気を欲する…
そこにあるじゃないか…狂気は底だ…ここじゃない」
「何を言ってる!?うるせぇぞ」
「中身だ…底…オレを生んだのは規律だぞ…」
だが口を、顔面の包帯を解放した彼の目には
自らを捕えるノアではなく
その後ろの…黒血と一体化したクロナが映っていた
「狂血」
「それでも取って代わりたいか?
代われるものならなぁ…」
頭上から滴り落ちる液体に気づいたノアを見下ろし
「僕の血で黒く染めてあげる」
口元から黒い血を流して笑うクロナが
自らを占める黒い濁流となって二人を飲み込む
『な…何だ!!』
「溶けていいよ」
エイボンの書も巻き添えに全てが混ざり合い
巨大な黒い渦巻きが小さく収束し…
やがてクロナの姿を象った
呆然と眺めていた死人が恐る恐る訊ねる
「な…何をした!?飲み込んだのか…?」
答えの代わりにクロナの身体から出て来た
ラグナロクの頭部が呻き
「ノア様!!」
「いらない」
意識を失ったノアを吐き出した
彼にすがるゴフェルにも、隣にいる死人にも
茜にも興味を示さずに
「僕の狂気は僕のモノ 鬼神の狂気も僕のモノ
僕が世界を壊すんだい」
口元の血を舐めとってクロナは歩き出す
「お前…鬼神を…大丈夫なのか!?」
「触れないでよ…急ぐことはないよ…
直に皆同じになるんだから」
再度の問いにもちぐはぐな答えしか返されず
このまま行かせてはならない、と
なけなしの気力を振り絞って踏み出す茜と死人へ
黒血の茨が鞭のように叩き付けられ
「「ぐっ…!?」」
彼らは 手にした武器を取り落した
―不意に収まった月面の狂気に全員が戸惑う中
「カンベンして…何だよこれ…何だよこれ…!」
「どうしたの!?」
内部での魔力と狂気の動き
「マカ…これはいったい…」
「何だ?何があったのか!?
オイ クロナは大丈夫なのか?」
「待って…私もわからないの」
そして魂の変化で彼らは信じたくない事実を
それぞれ感じ取ってしまう
異様な空気が立ち尽くす全員へまとわりつく中
「あれを見ろ!!月の口を!!」
相手の接近に気づいたキッドが声をあげ
身構えた彼らの視線が集まる中
歯の隙間から這い出た いくつもの黒く細い茨により
月の口が 大きく上へとこじ開けられた
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:さらっと新技披露しつつ道化師掃討からの
鬼神とクロナ登場までこぎつけグャウオッ!?
ノア:遅ぇ上にオレ様の活躍が短ぇぞコラぁ!!
ゴフェル:そうだそうだ!ガキどもよりも
ノア様を全面的に押し出せこの無能管理人が!!
マリー:アンタ達しばらく出番ないじゃない
博士:活躍云々を嘆く権利なら、ジンやデンガにも
あるんじゃないかな?
狐狗狸:口数少ないタイプで職人以上に描写が
少ないもんね、その二人(殴られた頬を腫らしつつ)
目次:いかにもたこに「ヴァカめ!」飲まれたのは
気に食わんがここは新たな「ヴァカめ!」の「ヴァカめ!」
全員:うぜぇぇぇぇ!!
次回、鬼神を取り込んだクロナとの再会…
様 読んでいただきありがとうございました!