キッドの身体を張った説得と魔婆の一声が決め手となり
裁判はひとまず中止された


縛られていた六人も解放され





「後は魔女同士で話し合って決めるから
アンタ達二人は死武専に帰ってて」


「分かった、後程また会おう」


魔女側である、キムも含めた五人が魔女界へ残る事となり
踵を返す二人のうち





「待て、―「だ…俺に何か?」





呼びかけを遮りながら振り返った彼へ

和装の狐魔女は、眉間にしわを寄せつつ言葉を続ける





「貴様に用がある、すぐに済むから来い」





――――――――――――――――――――





…魔女達との交渉の成否に気を揉む死神達の前に
現れたゲートから出てきた二人が、言葉を紡ぐ





「「只今戻りました…」」





行く時と特に変わりなく、落ち着き払った様子で
キッドは交渉の様子と結論を簡潔に答える





「後は彼女達に信じてもらうしかありません」


「よくやったね キッド」


「けど…マジで大丈夫なのか?」





訊ねるリズへ キッドはさも当然だと言いたげに


「オレは魔婆殿のあの目と「にゃむ」を信じたい!」





そしては、血の気の失せた顔で弱々しく


けれどもどちらもハッキリと口にする


大、丈夫…ただちょっとだけ寝たい、かな」


「やっぱ波長の制御キツかったみたいね〜とりあえず
少し身体休めときなさい?」


「ありがとうございます…出発までには、起きるので」





亜麻色の頭を下げ、おぼつかない足取りながらも
DEATH ROOMを出ていく少年を見送って


飛空艇へ連絡を取ろうとするキッドへジャクリーンがささやく





「アイツ魔女になんかされたの?」


「大半は波長の煽りだろうが、戻る直前に少しな」





いわく"当人の波長が魔女達にとって害になる"為


は不安定な術式に対しての"応急処置"
その場で施されたのだと説明した







ともあれ 二度目の月面進行に向けて全員が動き出した





装甲だけでなく内部からの破壊もあったため、現在も
飛空艇の修復作業は大急ぎで進められ


"どれほど急いでも4時間はかかる"と源は告げたが





30分!?装甲の損害が大きくて この状態で
一発でも被弾したら今度こそ落ちますぜ」


『月まで飛べさえすればいい…魔女の協力があれば
もう被弾することもないでしょう』





月に残る者達の体力を案じ、そして魔女達の援軍と
源達の修復技術を信じて頼んだキッドの言葉を受け取り





整備過程の1から8を飛ばせ!30分で出るぞ!!」


「ええ!?」


無茶を承知で 30分での離陸に向け作業を組み直す





『すまない源さん…無理を言ってしまって…』


「水くさいことを言うなぼっちゃん 今までもオレ達は
無理を通してきただろ」





収容された隊員達のうち、負傷が浅く月面復帰に
志願した者達は出撃の為の準備を行い


残る者達は死武専の防衛と負傷者の治療に回る












Il secondo episodio
 Non abbandonare la tua speranza!!












本当について来るのかい?あまり顔色が良くないけど」


「平気だってば軽く仮眠できたし、それに僕だって
スパルトイメンバーなんだからハブはやめてよ」





修理と離陸の準備を同時進行で行う飛空艇内へ


先に月へと向かったマカ達四人以外のスパルトイ全員も
揃って乗り込んでいた





「手当と吸収した魔力で緩和されているとはいえ
あなたの怪我は軽く見ていいものではありませんからね?」


「わ、分かってますよ梓せんs「おう
お前手ぇ空いてんならこっちちょっと手伝え!!」


「源さんこの子整備班の人間じゃないから
「ここ抑えとけばいいですよね?」ってコラ!





日頃のクセで作業を手伝ってしまう少年を軽く咎めつつも


着々と進む出発と、魔女達の協力に対し梓やマリーは
少なからず不安を抱いていた





「魔女達は本当に協力してくれるのでしょうか…
魔女界は千里眼が効かなくて不安で…」


「普段見え過ぎるのも考えものね

協力してくれなければ死武専(わたしたち)に勝ち目はない
信じるしかないわ





その不安を共有しながらも キッドは魔女の協力の有無や
戦争(たたかい)の勝利に関わらず


変わりゆく規律の為 魔女との関係を見直すつもりでいた





「柔軟そうに見えるけど そこはキッチリカッチリ
変えて行くんだろ?」


「あたりまえだ!!」 「きゃはっ」





いつもの様子でくっついてくるパートナーへ
胸を張って答えるキッドへ、戻って来たは問う





「一緒に交渉行った僕が言うのもアレだけど
本当にアイツら協力してくれるかな…」


「色々思う所はあるだろうが安心しろ
来てくれるさ オレはそう信じている





当人にとっては十分納得のいく答えだったらしく


ニコリと同じように微笑み返す





「OK、なら僕も信じてみるよ」


だね!どんな感じで来るんだろーね?お姉ちゃん」


「さーねぇ…てかお前の口から魔女を信じるって
言葉が出るとは「次はこっち手伝ってくれ!」


「はっはい!!





整備班からの怒号を浴びて走り出していくを眺め





「…こっちもこっちで相変わらずだな」


苦笑いしてリズは、続くはずだった言葉をそう変える





――――――――――――――――――――





そんな地上でのいざこざなど知る由もなく


彼らが目指す月の内部へ進行した死人は





「茜…クレイ…これはダメだろ…「ああぁあ!?
お前ぇ達の方がダメだ!!!」






中央情報局・諜報部員の二人が不可抗力により
連れて来てしまったノアとゴフェルに絡まれていた





「今回はけっこう世界の危機なんだからこんな時に
敵を連れて来て ややこしくしたらさすがにダメだろ」


「ごもっとも 返す言葉もありません」





流石にマズいと責任を感じたクレイが必死に頭を働かせ


鬼神に対し潜入するメリットの薄さや危機的状況下で
ノア達を囮に使う算段を口にするも





「クレイ 今はそーゆーの面倒くさい…」


「今はそーゆーのいらないな
「やっぱり要領よくないですよね『ええぇぇぇえー…』


二人にダメ出しを食らい、武器化したままの状態で
しょんぼりと落ち込んだ





なおも絡むノア達を無視し 仕切り直すように死人が





「まぁいいオレ達の役目は鬼神の居所を掴むこと
過程のスマートさは求めちゃいない」


明確な場所はつかめずとも 強まる狂気の波長こそ
鬼神に近づいている証拠、と口にし先を急ぐ意を表した直後





「オレ達が一番乗りだァア!!」 「はい!!ノア様」





意気揚々とノアとゴフェルが走り出し、茜ペア共々
再び呆気に取られてながらもついていく







しばし闇の中を進む内


下へと続く深い縦穴で彼ら四人は足を止める





ノア様!!"大好き砲"を撃ってみますか!?」


ばかなことをするな!!発煙筒を焚いて様子を見よう」





腹部から魔力の塊を生み出し始めるゴフェルを制止し
取り出した発煙筒で縦穴を照らす死人だが


相当に深いらしく、底は闇に塗りつぶされていて見えない





「何があるかわからない…ナイグス!油断するな


『ああ』





腰の後ろに携帯する形で待機した相方へ右手を添え

死人は左手の発煙筒を下方の闇へと落とし込む





発火点から吹き上げる光の柱が尾を引いて闇に飲まれ…







次の瞬間、縦並びの三つ目を持つのっぺりとした巨大な頭が
大口を開けて闇から急激に飛び出してきた





両手をつき自分達を一飲みにしようと頭部が、口が迫る


魔武器を除く四人は…死人は身動き一つできず


それが迫る様子を、滴るヨダレを、吐きつけられる息遣いを


そして顔面ごと頭部の全面が抉り取られる激痛と瞬間の
恐怖を味わい断末魔の悲鳴を張り上げる








…そこで 彼らの意識は"幻覚"から"現実"へと戻った





「また幻覚…」





当然ながら巨大な三つ目の怪物の姿はなく


死人の左手に握られた発煙筒の光と音とが、辺りを包む
闇と静寂をより強く濃く浮き上がらせている





味わった狂気の幻覚に息を飲み 四人は確信した





「間違いない…鬼神はこの下にいる…」





――――――――――――――――――――







「魔道飛空艇浮上―進路を月へ!ヨーソロー!!」





慌ただしくも一通り修理を終えた飛空艇が月へと
発進した事に安堵したキッドが、側にいたキリクへと訊ねる





「キリク…マカ達も月へ向かってるんだよな」


「おう!空飛べるからなアイツら、つかその辺りは
から聞いてんだろ?…あ!!そうだ!そうだ!!


「聞いてはいるが…何だ?どうした?」





ズボンのポケットを漁り、キリクは約束通り
預かったヘアバンドをキッドとリズとパティへ渡す





「いったんバラバラになるって言うからお揃いのヘアバンを
皆でこうやって身に付けてんだ」


言うキリクは左腕に、彼に縋りつくサンダーとファイアーは


発案したソウルが描いた魂マークを模した白い絵の
ヘアバンドをつけている





「ホントだ、よく見たらオックス達やジャクリーンもつけてら」


「絵はそれぞれお手製だぜ?」


「じゃ私も描こっと!キリちゃん白ペン貸してー!」





パティに白ペンを貸しつつキリクは、左右対称にこだわる
キッドがどこにバンドをつけるかに注目する





「フツーに頭とか首か…腰?それとも2つ必要だったか?」







ヘアバンドを眺めていたキッドはその言葉を笑って
否定し、自らの左腕へとそれを通す





「規律は変わろうとしているんだ…
オレも変わらなければならない!


「「オオ!!」」





敢えてこだわりを捨てた姿勢に姉妹が感心したのも束の間





「だが絵はキッチリカッチリ描かせてもらうぞ!!」


外したヘアバンドを床へ置いて、じっくり腰を据えて
絵を描く気満々な姿勢を取り始める彼に


片や呆れ片や面白そうに笑い始めた





『月到着まであと1時間―
「何!4時間に延ばせんのか!?」


「お前…源さんにぶっ殺されんぞ」 「きゃはは」





――――――――――――――――――――







背から黒い翼を生やし、月の鼻先へ降り立ったクロナが





「鬼神はこの下か…」


覇気のない倦み疲れたような顔で月を見下ろし


後ろ向きに足場を蹴ると、半ば重力に任せ自由落下し





「この月も僕の血で 黒く染める」





鼻の穴が見えた辺りで翼をはためかせて月の内部へ入り込む





…立て続けの侵入者に刺激を受けて月がクシャミをするが


復活と増殖を続ける鬼神の軍勢に押され、ほぼ壊滅に
追いこまれつつあるシュタイン達がそれを気にする余裕はない





次から次へと接近する道化師の猛攻を防ぎ
一撃で仕留めていくシュタインだが 荒い息は隠しきれない





どうした!?受けるのがやっとのようじゃな
そんなコトでは妾の玉肌を見るコトは出来ぬぞ♪」





楽しげな迦具夜と相反し、両手の指で足りる程に
じわじわ減らされた隊員達も汗と疲労を色濃くにじませており


博士の側へと退がったアレシャンドレとズバイダも

肩で息をし始め、体力は限界を迎えようとしていた





ズバイダ アレシャンドレ 諦めるな!
直にキッド達が魔女を連れて戻って来る」


「どちらでも構いません 月に残ると決めた時
命を棄てる覚悟でいました」


「来るか来ないか…
最早あまり大きな問題ではなくなってます」





敵に囲まれ 半ば捨て鉢となりつつある二人へ





『馬鹿野郎!!』


武器化したままのスピリットの一喝が飛んだ





『若い奴ほどすぐ死に急ぎたくなるんだ!!
命を捨てる覚悟で得る力なんて思ったより小さいぞ!!』





魔斧の使い手に選ばれた 背が高く褐色の肌を持つ
たくましき部族の青年と


ランプの魔武器と共に戦う ぴっちり分けた髪と同じ色の
布で口を覆う中東衣装の女性は





『希望を棄てるな!!死ぬまで生きたいと思っていろ!!』


「「はい!!!」」





白衣をまとう、頭にネジの刺さった博士の雄姿と
彼を支える黒い大鎌からの激励ににわか戦意を取り戻す






互いの背後をカバーする三人に残る隊員も倣う中







「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
『ん゛ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ』



「オオオはえーはえー」


「うぬぅう〜ぬぬぬぬぬぬ」


「頑張れマカ!!
"ひっひっふぅー"だ!!"ひっひっふぅー"


「うるさいバカ!!蹴落とすぞ!!」





濃い狂気と雲を抜けたマカと、飛行形態のソウルに
ぶら下がったブラック☆スターの来訪に


一人の道化師が気づき虚空を見上げる





「新たな侵入者が来たようです 私が迎撃に出ましょう」


もう!妾のモテっぷりも大変じゃな!」





――――――――――――――――――――





月へ到着したマカ達が道化師・月光の洗礼を受けている頃





このまま月に突撃!?まだ魔女は来てないのよ!!」


「魔女達はオレ達を試している、死武専が本当に自分達を
信用しているかを確かめようとしているんです」





自らの誠意を魔女達へ示すための突撃を指示する
キッドの意見を、梓はもっての外と真っ向から否定する





「魔女達の一番の敵は私達死武専、彼女達は自分達が
利用されようとしているとしか思ってない!!

そんな相手が本当に協力を!?







程の私怨はなくとも、長い間続いた魔女との対立や
被害などを幾度となく経験している梓は


魔女達が 恨みを持つ死武専を陥れるだろう
確かな確信を持ってキッドへ忠告する





「…理想を持つことが悪いとは言わない
でもキッドはまだ子供だからわからないのよ」





両肩に手を乗せ、視線を合わせた彼女の懸念は
正常な思考と言えるだろう





それでも…少年の決意は揺るがなかった







「酸いも甘いも経験した先のない思想で
理想をつぶすのが大人の考えと言うのなら」





青臭かろうが 抱いた理想を掴む努力をしている友がいたから





「オレの事をずっと子供(キッド)と呼べばいい!!」







ため息をつき、へちらりと視線を向けてから
なだめるようにマリーが言った





「梓、疑い過ぎてもいいことないわよ?
ここまで来ちゃったんだしもう成り行きに任せましょ?」


「私はただこの船のクルーが心配で…」


「知っています、梓さんは優しい方だ
だが大丈夫!!この船は絶対に堕ちない!!





彼は操縦士やオペレーター、乗組員全員
そして整備班の技術をも信じている


「源さん達整備班が作ったこの船に弾が当たるワケがない!!」


「あたぼーよ!!」


「前のフライトで穴だらけだから
もう当たる所がねぇってか!!」



いや笑えないですそのジョーク、という一言を
はぐっと飲み込む







そしてキッドは船内の精鋭達37名へと呼びかけた





「この中の一人でも反対する者がいればこの突撃は中止する
もう一度聞く オレについて来てくれるか!?






船へと戻った隊員全員が、笑顔で握りこぶしを突き上げる





「乗り掛かった船だ 今さら引き下がれるか!!」


「ヨーソロー!!」 「ヨーソロー!!」





スパルトイの面々もその歓声へ続く





あ!?それオレ達にも聞いてんの?」


「愚問ですよ」 「だね、僕もそう思う」


「キムなら何とかしてくれるわ!!」


「「ヨーソロー!!」」





結果 たった一人を残して全員が突撃に賛成する





「あとは梓だけよ?」


「しかし…」


「疑いもなく魔女を信じるのが難しいのはよくわかります
ならば死神(オレ)を信じることは出来ませんか?







意固地になっていた梓の心をほぐしたのは


その"父親譲りの強引さ"だった





「ほれ」 「ヨーソロー!!」





マリーに持ち上げられる形で左腕を上げた
彼女もようやく突撃へ賛成の意を示し





「よし!!突撃!!!」


月面へ向け、飛空艇は速度を上げて突進していく








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今月も色々忙しくて更新が遅くなりましたが
月面へ役者が集まりつつあります ヨーソロー!


トンプソン姉妹:ヨーソロー!!


ジャッキー:けど本当に大丈夫なのかな…
いや別にあんなんでも参戦した方がマシなんだけどさ


キリク:平気だってアイツ意外とタフだし、オレら
マカ達と合流する前に一応軽く手当てしてもらってるしよ


梓:怪我もそうだけど…"制魔の波長"を通じて
鬼神の狂気に影響されないかも心配ではあるわ


茜:そちらも鍛錬と経験により、魔力越しの狂気に対しても
反応と耐性がついてきているらしいので問題ないのでは?


クレイ:マジかよ先輩地味にスゲェな


茜:彼、ああ見えて意外と要領よかったりもするよ?
少なくとも今回のクレイよりは


クレイ:おまっ、それ言うなよ…




次回で全戦力が月面に集合!大暴れの予感です


様 読んでいただきありがとうございました!