月面に佇み、鬼神への攻撃を援助しながらも
彼らの戦いを見守っていたスピリット達が見たのは


鬼神から飛び出した白無垢のドレスのマカと


彼女の渾身の一撃によって噴き出した鬼神の黒血が

膨大な波と化して月面へ注いでゆく光景





「パパ!」


「マカ 逃げろぉ!!」





視線を合わせ、四人は頷いてスクラムを組むように
集まって一か所へと固まる





「気休めかもしれんが
せめて お前達だけでも助かれば…」


「あまり気にしないでください
ここへ来た時点で覚悟はできていましたから」


『いやオレもーちょい生きてたいんだけど』


「仕方ないわ、こうなったら腹くくっちゃいましょ?」





ブラック☆スターとキッドに止められてもなお
自分達を助けようとするマカへ


親指を立ててスピリットが、励ますように微笑んだ次の瞬間


押し寄せた黒血の洪水が彼らごと月を包み込み―







ああ〜死にたくねぇ〜

まだ あの娘(こ)もあの娘(こ)も落としてねぇのにぃ〜…」





本能的な恐怖から両目を閉じ、両手で頭を抱えて
身を強張らせたスピリットが本音を口にし





…いつまでたっても自分達に
何一つ変化が起こらない事に 疑問を抱いて目を開いた





「あれ?」


「黒い血に飲み込まれて…」 『でも、何ともないよな』


「あれれ?」


恐る恐る周囲を確認した五人の目に入ったのは





見慣れた死武専校舎の正門と 二名の魔女だった





「魔婆様の空間魔法でテレポートしたんだ
ありがたく思え」


「オレ達を助けてくれたのか!!」





驚く彼らへ 魔婆は力強く答える





「にゃむ!」





――――――――――――――――――――――





スピリット達だけでなく、ゴフェルもちゃっかり
黒血の大洪水から逃れて空を飛んでいた





「この重み 幸せの重みだ」





自らの腹にある発射口で6人分のノア
咥えて飛ぶ姿はコウノトリのようでもありながら





「全部ノア様だなんて、あ〜への字口が上がってしまう」


喜びを隠さず口元をにする彼共々


近い将来 いずれ吹き出す狂気を内包してもいる





――――――――――――――――――――――





…魂反応の移動と、地上で支援した彼らと合流した際
から伝えられた"二つの巨大な魔力反応"


スピリット達の生存を確信してはいたけれど





「パパ…」


「マカ」





死武専へ戻り本人たちの顔を見るコトで

ようやく、三人の胸に安心感が広がってくる





目の端に涙を浮かべ

ボロボロになった いつもの制服姿のマカは





「マカァ」


感情のままに駆け出し、両手を広げたスピリット





ではなく


「もうマリー先生に会えないかと!!」


「お〜よしよし、心配かけたわね」


「あれぇ〜」


彼の隣に佇んでいたマリーへ抱きついていた





「やれやれ…さて、オレは父上の元へ行くか」


「おう 死神の旦那によろしくな」


「分かっていると思うがお前は保健室で
ナイグス先生に再度傷の具合を見てもらい安静にしろ」





応急処置で吊られた左腕へ視線を向けたキッドへ


へいへいとやる気なく返事をしてブラック☆スターは
その場に留まり 去っていくキッドの姿を見送る





…そんな彼の側へ 死人が歩み寄る





「よくやったな、お疲れ様


「オレ様にかかりゃこれぐれぇ何てことねぇぜ
とはいえ、ちっとばかり骨は折れたな」


『シャレになってないわよブラック☆スター
死人先生もお疲れ様でした」





武器化を解きつつ労う椿に 同じように武器化を解いた
ナイグスが静かに答える





「さて、キッドの言葉通り傷の具合を改めて処置だ
二人とも 落ち着いたら保健室に必ず来るように」












L'ultima storia
  a qui che noi siamo formali, e godiamolo dopo












…傷つき戻ってきた彼らに待っていたのは


死神を失った という現実だった





「何の冗談だ…」


冗談なものか!お前は真の死神になったのだろう?
神をポンポン増やせる訳なかろう」







DEATH ROOMに残っていた聖剣から


力を正当に受け継いだ為に父が消えた、と容赦なく
聞かされ 絶望に打ちひしがれるキッドだが





次の瞬間、更に容赦のないドロップキックを浴びせられる





「何をする!!痛いだろ!!」


「お前は父から何を教わった…死と生…
死神が死に 新たな死神が生まれたのだ」


へたり込むキッドを見下ろし、聖剣はいつになく
真面目な声音でこう告げる





「旧支配者は消えた
これからは人々が世界を築いていく時代だ

お・ま・え・が・や・る・の・だ・よ!!





杖で頭を叩かれながらも、目を見開いたキッドは





「父上…オレh「父の死を急に知ったのだからな…
飲み込みないのも私にはわかるぞ」





残された黒いローブを握り…立ち上がりざまにまとって

涙と共に強い決意を口にする





「父上「私も焼き肉でホルモンを「優「なかなか飲み込めなくてな
どうか見守「今度私と焼き肉に行くか?「お前少し黙れ!!」





色々と台無しにされながらも


立ち直った彼は、新たな死神としての最初の責務を果たす











『死神様が…!?』





キッドからもたらされた訃報は 耳にした者
全てに驚愕ととても大きな喪失感をもたらした





けれども、スパルトイのメンバーを始めとして
死武専の面々は語られた顛末を受け止め





公的にも死神の訃報と、新たな死神の即位が発表され


盛大な葬儀は つつがなくしめやかに行われた







…そうして慌ただしい日々が流れるにつれ


当初 世界中に驚かれていた黒い月
誰にも気にされる事はなくなっていったが





月での決戦に終止符を打った一人であるマカは

アパートの窓から見える月を眺めて物思いにふける





「ソウル君〜V」


「うわ!!やめっ…!!な…コラ…!


「ほらほらっvえいえいV





…しかし、側のソファに寝ころんでいたソウルに

ビキニ姿のブレアが密着する形で寝そべり
色仕掛けをしていたので


その憂いは長く続かなかった





にゃんッvもう出ちゃった♪」


「オッパイ…ってお前らいい加減にしろぉ!!





ソウルの顔面へ胸を押しつけ、その反応を見て
ニヤニヤと笑っていたブレアが





「マカもこっちにおいで 3人で嬉しいニャ」





苛立ち交じりに突進してきたマカの肩を片腕で抱き
嬉しそうに身を寄せたので


マカもまた怒りを忘れ 抱擁に身を任せる





「…そうだね、助けに来てくれてありがとねブレア」


「どういたしまして〜あとで君にも
お礼ついでにサービスしに行こっかニャ〜」


「やめとけよ…キレるぞ、アイツ…」


「鼻血ふいてから言いなよ」









日常へ戻りはしたものの 月での戦いを経て
変わった事はあまりにも多い





「今度はオレ一人で鬼神に勝つ!!!」





右目へ縦に一つと、袈裟懸けに走る斜めの傷痕
それぞれ顔面へ残ったブラック☆スターは


人間離れした己の現状に満足せず、日々トレーニングで
自らを鍛え続けている





「椿のおっぱい見てても ちゃんと
岩の上に浮いてられるんだよツンツン!すごいよね〜」


「確かにすごいけど、水浴びしてるとこで
修業は止めた方がいいんじゃない?怒るよ椿」


「怒られてシュリケン頭に刺さってたよツンツン」


「だろうね」





放課後、死武専前で遊び相手になっていた
楽しそうにそう話すアンジェラも


ミフネの最期をブラック☆スターと椿から聞き


その上で、彼とひとつの約束をした







『お前はオレが本物の男かしっかり見定めろよ
もしオレが偽者なら オレの魂はお前の物だ

それがミフネとのケジメだ






「だからアンもちゃんとマホーのしゅぎょーするの」


「そっか がんばれ





頭をやさしく撫でられ、アンジェラは無邪気に笑った









…変化を受け入れ 或いはかつての日常を取り戻そうと


流れる日々の中で世界は、人々は"己の日常"を続けていく





少年もまた あちこちが変化しながらも
自分なりの普通の日々を過ごし


夜も更けたバイト帰りに黒い月を仰いで呟く





「僕は、知ってるよ?
君の名前も君が魔女の子だったってコトも」





強い関わりがあったワケではない





「それだけじゃない…コーラが苦手で少食で
自分の血が魔武器で、ヘヤノスミスが定位置で
試しに書いたポエムがスゴい破壊力だってのも」





それでも…どこか境遇の似た兄弟(アミーゴ)
放っておけなかった、これまでの言動も


助け出したいと思うマカ達に同調した気持ちも嘘ではなく





「君の魂に初めて触れた友達がマカなのも
僕はちゃんと知ってるよ 覚えてるよ…忘れてないよ





だからこそ "普通"なりに出来る事を全力でやろうと
新たな決意を胸に 言葉を紡ぐ





「だからさ…今度また会えたなら
ちゃんと友達に、家族(ファミリー)になってくれよな?」






友によって身に付けた 寂しげながらも心からの微笑み

月へ…クロナへ向けて浮かべた


目線を降ろして再び自宅への帰途へとつく







そんな彼がスケートボードで中空を駆って進む
キッドと鉢合わせたのは

おんぼろアパートまで あと少しの所であった





おおいい所で会ったな
早速だが協力してくれ」


「いいけどキッド 明日即位式じゃなかった?
それとも緊急で事件でも起きたとか?」


「ああ重大だ 死武専中の生徒全員にアンケートを
早急に取らねばならんからな!人手は多い方がありがたい」





真剣な顔つきで語るキッドによれば


メデューサから母親としての愛を受け取れなかった
クロナの 母性を求めるが故の狂気により


月の狂気を通じ 月面で戦っていた者達が
性別関係なく"おっぱい"を意識してしまっているらしい





「故郷を離れて出てきた生徒も多いから影響も出てるやもしれん
そう思ったら、いてもたってもいられなくてな」


「いやそれ事前のデータとか無いと比べようがないじゃん」


「スピリット先生が独自でおっぱい派かおしり派か
調査していてな、事情を離したら快くデータを提供してくれたぞ」


何してんの先生!?いやまぁ気になるのは分かったよ
でも明日もあるんだしほどほどにね、じゃっ」





早々にその場を退散しようとしただったが
ツナギの後ろ襟首をつかまれて阻止される


「お前もおっぱいは気になるだろう!?」


「いやまぁ僕もそれは気になるけど…

あ!べべべ別に
普段から気にしてるわけじゃないからね!?」





顔を真っ赤にして焦りながらもやんわり断ろうとした
ではあったが


結局断り切れずにアンケートを手伝ったのだった





…ちなみに調査アンケートの結果


もまた、50%増えたオッパイ派へ傾いていた事を
ついでに付け加えておく





――――――――――――――――――――――







紆余曲折を経て即位式の当日





新聞や雑誌は新死神誕生の記事で持ち切りとなり


死武専の長い階段の一番下を壇上として

生徒を始めデス・シティー中の市民や
世界の各地から集った大勢の人々が見守る中


デスサイズであるスピリットから 仮面の授与が行われ…





「今度は真っ直ぐになってるでしょうか?」


「今度もさっきもその前も
真っ直ぐ乗せてるつもりだが…」


「やはり大事な式典ですからキッチリカッチリしなくては
すみません もう一度最初から「いい加減にしろよ!!」







やや不安な部分はあるものの 新たな死神は





「我々は恐怖に屈しない!!
だが我々だけでは鬼神との月面戦争に勝てなかった!!」






代表として呼んだ魔婆と和装の魔女を差し


「勝てたのはそちらのお二方が率いる
魔女達の力添えがあったからだ」





キムを死武専と魔女、双方の架け橋として
魔女との信頼関係を一から築く旨を口にする





「人と魔女 過去の過ちを消し去る訳ではない
それを礎により強き世界にしていこうではないか!!







そうしてソウルを自らの側まで呼び





「ソウル"イーター"エヴァンス
彼を誓いの証人として以後こう呼ぼう!!

"ラストデスサイズ"と」






彼こそが死武専最後のデスサイズとして公表すると
発表し、キッドは言葉を続ける





「早速だがラストデスサイズ ソウル"イーター"エヴァンス君!!
景気づけにやってくれたまえ」





気だるげに段差へ腰かけたソウルは

左脚に乗せた右足をキーボードのついた鎌の刃へ
変化させ、ニヤリと笑いかける





「堅苦しいのはここまでだ 後は楽しもうぜ」





奏でられ始めた旋律に合わせて大音量の歓声が沸き


死武専生も一般人も魔女も魔武器も、思い思いに動き出す














「オレ様がお前ぇらに稽古つけてやるっ!!」


「ウォー手合せお願いするぜ」


「ブ・シ・ン!」 「ブ・シ・ン!!」





ブラック☆スターは我先にと舞台に上がり
集ってきた挑戦者を相手に暴れ始めるが


大半はリズやパティ、オックスに誘われたキム達のように
リズムに合わせて踊りだしたり





「どうです人間の音楽は?」


「私には分からぬ」  「にゃむっ♪」


「キャーソウルせんぱ〜いv」


流れる調べや 周囲の賑やかさを楽しんでいる







「子供の成長は早いわね」


「オレ達も変わるはずだ」





シュタインの隣で 人々の騒ぎを見つめていたマリーは





「先生方が居てくれるからここまで来れたんです
皆が好き勝手出来るのも絶対的な父上が居てくれたから


俺はまだまだ至らない所だらけですが
これからもよろしくお願いします






折り目正しく一礼するキッドへ柔らかな微笑みを向ける





「正直キッドとブラック☆スターがいれば
鬼神が何度復活しても問題無さそうだけど

また新しい世代のために頑張らなきゃね





そう言って彼女が両手をかざす腹の辺りに

小さいながらも魂の波長が 確かに宿っていた





聞いたか?死神様
こいつらもなかなか隅に置けないぜ」


「やっぱりキッチリカッチリですか?」





我が事のように喜ぶ死神とデスサイズへ
博士はあくまで普段の態度を崩さず答える





「月に投てきする時困りましたよ…
一度言い出したら聞かないから」





ヘラヘラしながら"モルモットが一匹増えるモンだ"

なんとも当人らしいセリフにマリーが額に手をやって


「不安だ…」


「安心してください、ベビーシッターから離婚相談まで
マリー先生ならロハで受け付けますんで」





そこでひょい、とマリーの後ろからが現れ
仕事で身に付けた営業スマイルでそう返す





「おや いつの間にいたんですか?」


「ドサクサに紛れて来ちゃいました、それより…
おめでとうございますマリー先生


「ありがとう


「なんだ オレの即位は祝ってくれないのか?」


「滅相もない死神様」


恭しく下げられた亜麻色の頭が持ち上がると


次の瞬間にはその顔にイタズラっぽい笑みが浮かんでいた





「なんてね、僕らもキッチリカッチリ支えるから
これからも頼むよ?キッド」


「任せておけ」





自信と死神らしい威厳に満ちた返答に
どことなく父親の面影を見出しながらも





ふ、と気になって長年の死神のパートナーを務めた
デスサイズは訊ねる





「そういえば在籍表の更新今日だったけど
お前はソウルみたいに名前、変えなくてよかったのか?」





スピリットの問いへ は何かを思い返すように
鳶色の瞳を少しだけ伏せた





「いいんですよ 全部は無理でも
"僕だけのヒーロー"のあだ名くらいは背負いたいから」


「…そうか」





幼き魔鋏を死武専へと導いた魔鎌は


彼が自分なりに見つけた結論(こたえ)
優しさのこもった眼差しを返した







憎んでいた姉(まじょ)を殺せず


焦がれたデスサイズへなる事も二度とない





それでも普通を望む少年はどこか誇らしげな笑みで





「特別でなくたって 誰かの側にいるコトが出来る…
そんな普通も、悪くないかな」






階段に座る最後のデスサイズと、彼の曲を真横で
静かに聴き続ける鎌職人の少女を眺めて呟く











―恐怖は無くならない





鬼神と立ち向かい 勇ましく戦ったマカですら


ラストデスサイズとなった事でソウルがどこか遠くへ
離れていく不安を、恐怖として抱いていた





けれど





「何があろうと狂気には負けねぇ
あの鬼神と戦ってきたんだからな


マカのお陰で逃げる事をやめたんだ

この音だって二人で作って来た物だろ






ソウルのその一言に勇気を与えられ





「知ってる!!」





むずがゆさに頬を赤く染めながらも
立ち上がったマカは、魂からの言葉を口にする





「またクロナを迎えに行こう!!
何度でも鬼神に思い知らせてやろう!!

この勇気を世界中のみんなに見てもらおう!!!






両腕を目いっぱい広げた少女に習い


最後のデスサイズも、武神も新たな死神も普通の魔鋏も
魔女もただの一般人も


全員が 示し合わせたように空を仰ぐ







ちょうど沈みゆく太陽と昇り始めた黒い月が
死武専を境に両端に位置していて


一つの終わりと新たな始まりを示しているようだった





「この魂の共鳴を!!!」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:超低速更新になってましたが、これにて
ソウルイーター長編は完結となります!


マカ:ありがとうございました!それと色々あったけど
とうとうやり遂げたね、お疲れっ♪


ソウル:それでキッド、結局はNOTに戻ったのか?


キッド:表向きはな…だが秘密裏に情報局や
スパルトイでの任務にスポットで参加してもらってはいる


リズ:正式なパートナーさえできたら
EATに復帰できるかもって話だよな?


パティ:そーそー ブラック☆スターも自力で浮けるんだし
がんばれば出来なくもないよねーきゃはは!


ブラック:まっ、鬼神もぶっ飛ばせるほどBIG
オレの信者でダチならそれぐらいは楽勝だろ!


椿:そうね…でも人が水浴びする横での修行はやめてね


狐狗狸:さて、名残惜しいけど
この掛け合いもこれで最後です




これ以降に短編を書くかもしれませんが、このジャンルは
作品を残して終了させて頂こうと思います


様、そして読者様…今まで
読んでいただいてありがとうございました!