光が治まったその後には…

悪魔は影も形も 塵すら残さず消えていた





と、腰を落とした状態のツナギ姿からも


モヤにも似た何かが抜けて…





「…あ、外だったんだここ…ってうわ
デスキャノンの破壊アトすごっ!







貫通し撃ち抜いた壁の跡へ顔を向けて
驚いている…という事は





「おお、呪いが解けたか!」


「うわちょっキッド君、顔近…う゛


駆け寄ると、何故か赤く染まった顔が
次の瞬間しかめられ


途端に相手は地面へ倒れて呻きだす





「ってオイ!大丈夫かよ!!


「い…痛…痛みが一気にぶり返してきた…!」


「……当たり前だ それだけ怪我を
負っていればそうなるのが普通だろう」


「そっか…そうだね、普通、だよね」





かみ締めるように呟き、そのままパタリと
仰向けになって苦笑する友を眺める内


不意に…父上に聞いた話が脳裏に蘇る












L'ultima storia 第三の決意











『許されるのであれば、おねがいです…ぼくを』





聞いた当初は分からなかったが


今思えば それは実質"祈り"だったのだろう







『ぼくを、デスサイズにしてください』







―あの女を殺す為に アイツみたいな
魔女どもを全員ブチ殺る為に


この世から魔女を一人残らず殺す為に―






「彼の目は そう言ってるように見えた」







恐らく…対面した時に気付いていたのだろう





「人の事情に立ち入るつもり無いんだけどさ
君だって、まーだ子供でしょ?


恨みに囚われるばかりでなく日常と青春を
楽しむのも大事だと知ってほしくてね」





しばらく間を空けて、父上は普段のノリで
こう問いかけたのだと言った







『ね〜君…お腹すいてない?』


『……すきました』


『それじゃ、まずゴハン食べてからにしよっか♪』





そうして流されるまま 詳しいことすら
ロクに訊ねられる事もない内に


幼き魔武器はデスシティーに住む事

死武専へ通う事とを許され





…逆に不安と戸惑いとを覚えていたらしい







『あのっ死神様…ぼくなんかが、本当に
死武専に明日から通ってもいいんですか?』


けれどもその問いに対しての返事は





亜麻色の頭へ置かれた手の平と





『いいんだよ〜そこにいるのはみーんな
君と同じ普通で大事な…私の生徒達だもの』



父上らしい この一言だった





…推測ではあるが恐らくはあの時


その記憶が、堕ちかけていた友の魂を救ったのだろう







と、情けない悲鳴と笑い声が空気を裂く





きゃはは、苦しんでる苦しんでる」


イダダダ!そこ筋肉痛に響くから
止めてパティさっ、うぎゃあぁ!!


「ほらイジメないの可哀想だろ!」





リズに諌められてアチコチつつき回すのは
やめたものの、パティは側に屈んだまま
不思議そうに問いかける





「けどさ、さっき目が見えてなかったのに
あのワニ野郎の場所よく分かったよね?」


「そういや違和感がどーのこーのっつってたな」







前髪で顔が半分隠れていても、困惑と不安が
色濃く現れていくのが見て取れた





「ゴメン本当に分からないんだ…時々思うけど
僕は、おかしいのかな…?」





似たような出来事はマカ達から聞いているが


今回のケースでは説明のつかない部分が多い


問われて珍しく二人が言葉を詰まらせたのも
無理からぬ事だろうな…







一つ息を吐き、代わりにオレが答える





「Siamo tutti un po' pazzi
(我々は 皆 少しおかしい)」






故郷の慣用句が飛び出した事に驚いてから


一拍の間を置いて…は小さく笑った





「Io lo capisco(そうかもね)」









その後、先に保護した三人の呪いも
解けていた事が確認され


同様に牢獄内に残っていた住人達も


完全に侵食されきっていない者は正気を取り戻した







「じゃあ…ゾンビ化の異変は解決されたんだ」





教室にて改めて事の顛末を聞いて


当事者はホッと胸を撫で下ろす





「まぁね、おかげで後始末をするのに
しばらく牢獄に取り残されてて参ったけどな」


「大変だったわね、お疲れ様リズさん」


「あの後お姉ちゃん涙目だったもんね〜
それとキッド君がやたらうるさかった」


「何を言うか、あんなアンバランスな箇所
そのまま放っておくことなど出来るか」





とはいえ破損が多かったため、あの牢獄は
近々取り壊される事が決まったようだ


…次こそは左右対称の建物が建つ事を祈りたい





「それより君、バイトがあるにしても
完治するまで保健室に通わなくて平気なの?」





心配そうなマカの視線を受けて、しかし
相手は気まずげに頬を掻く





「あーうん…なんていうか、居心地悪くて…」







実質 入院していた四人の中でも
重症に関わらず、動けるまでに回復した途端


まるで逃げるかのように保健室を出ていたが…





「つまりはオレの姿を拝まねぇと
気が滅入って仕方ないっつーこったな!」



「「いや違ぇだろ」」


「保健室に顔出す度にしょっちゅう騒いで
メデューサ先生に迷惑かけてたじゃん」





三人一斉に入れたツッコミを耳にしつつ





「正直な所、オレも理由が知りたい
そこまでして保健室を出たのはどうしてだ?


きっちりかっちり問いただすつもりで聞けば





は…曖昧に笑って答える





「今回の一件で、自分の中にある目標が
増えたんで 多少は無理しようかななんて」


「目標ってなーに?」


意図とは違う言葉を返されたにも関わらず





「…使い手に、頼りにされる男」





一瞬だけだが間違いなく、鳶色の瞳を
こちらへ向けて真剣に呟いたその様子に



思わず二の句をためらってしまった







直後、当然のようにその手の話題
黙っていられず彼が叫びだす





「頼りになる男はオレ一人で十分だろーがぁ!」


「いやあのその点は異論ないんだけど、せめて
オンリーツーくらいにはなれたらいいかな〜と」


「そこは一番目指すぐれぇの気概見せろよ」





意地悪げにワザとあおるソウルに触発され


ただ事ならぬ形相でブラック☆スターは詰め寄る


「あんだとぉ!信者のクセにオレ様差し置いて
一番を取るつもりかぁ!!」



落ち着いてブラック☆スター!彼はまだ
病み上がりなんだから無茶したらダメよ!」





やんわり咎める椿だが、全く耳に入っていない


横目で見やればマカチョップが秒読み
入りつつあった…しかし





「だ、だったらブラック☆スター君は
ナンバーワンとオンリーワン両方目指せば?」


「…なーるへそ、お前頭いいな!





その一言であっさり機嫌を直した彼は

掴んでいた肩を組む形に変えて笑いだす





「BIGなオレ様の後にならついて来る事を
許してやろう しっかり見習えよ!」



「現金だなコイツ」


「きゃはははは」


呆れるリズと笑うパティに合わせて

場の空気は普段通りの賑やかさを保っていた







「授業を始めるぞー全員席につけ!」





死人先生の言葉に互いが移動を始める中


オレは、すれ違うツナギ姿へとささやく





「いつかは、キチンと理由を教えてくれ
待っているからな?





済まなさそうな表情で けれどハッキリ
は答えを返してくれた





ゴメン…それと、ありがと」









しかし…近頃は不可解な謎が増える一方だ





奴の言っていた"魔導師"の正体しかり





バルト海沿岸で起きた一件の調査を頼まれ


膨大な魂反応を指針に"黒竜"と呼ばれた
幽霊船へと乗り込んだ先で





大量の善人の魂を集めていた悪霊が口走った

"一番近くにいる鬼神"の言葉の意味も
またしかり…だが







「誰もが何らかの形の"力"を渇望している…

でも時にはそれですら充分じゃない場合が
あるのさ 人間は鬼神を求めているんだ!!





あの悪魔カッツェルも、この男と同じように
力を求めて狂気へ手を出したのは間違いない





「神のかかげる理想なんか知るか!!
人間全てがそれを求めてると思うな!!!」



「そんなコト知るか!きっちりかっちり
完璧な世界にしないとオレの気がすまん!!」






ならば、オレが目指すべき目標は


善意と悪意の均衡がきっちりと取れた世界


争いも差別も無い…狂気へ魂を染める連中も

不幸な目を見る人間も無い世界







「あれが あいつの魂…」





その先に立ち塞がる者が


"真の黒龍"と呼ぶに相応しい
人ならざる魂と姿を持っていたとしても





「知ってる?僕の血は黒いんだ…」





信頼出来るパートナーと、肩を並べる仲間


そして期待をしてくれる友がいるならば






「裁く」





決して 屈したりなどするものか








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:エセ気味になってしまいましたが
ラストに黒龍絡めつつ、この長編も終了です


リズ:てゆかひょっとしてイタリア語の下り
言わせてみたかっただけだろ?


パティ:あ!肩がビクってした〜


キッド:成る程図星か…虚けめ(ため息)


狐狗狸:むぐ…ちなみにキッド君達が
受けるハズだった課外授業ってどうなったの?


椿:ブラック☆スターが目をつけたんだけど…


ソウル:タッチの差でオックス達と別のペアに
取られて悔しがってたっけな


マカ:それより、次回長編ぐらいでいい加減
少しぐらいは謎を明かすんでしょーね…?


ブラック:オレ様を目立たせなかったら
承知しねーからな!分かったかぁ!!



狐狗狸:…了解でーす




長編拝読ありがとうございました、次回は
いよいよ前夜祭編に入ります


様 読んでいただきありがとうございました!