ワニのような生き物は"怪物"
左腕らしき部位に繋がっているようで





ゾンビを噛み砕きながら飲み下すと


見る見るうちにサイズが小さくなって


怪物の左腕に相応しいくらいに収まった





美味だな〜恐怖に、狂気に侵食されきった
善人の魂はやはり格別だぁ」


「貴様が…異変の原因か!」





問えば奴は天井にその巨体をへばりつかせたまま


顔だけをぐるりとこちらへ向けて答える





「そうだよそうだよそうですよぉぉ〜


「お客さんが逃げちゃったよ、どおどどど
どうするよカッツェル?どうする!?


「喰えばいいんだよぉ〜女が二人とガキ一人!
それにもう一人ガキが残ってらぁ!!」






しゃべっているのは奴一人だが、表情と
声のトーンだけが微妙に変わるようだ





「何アレ、一人でブツブツ言っちゃってる」


「完全にイカれてやがる…って来たぞキッド!







いくつも生えたイビツな触手で天井を這い





「食事開始ぃぃぃ!!」


左腕が先程同様、巨大なワニの頭として
襲いかかって来るが





「左右の姿がてんでアンバランスなど…
虫唾が走るわ!!」



瞬時に銃へと変身した二人を手にして

波長を寸分の狂いも無く打ち込めば


頭はすぐさま主の元へと戻っていく












Terzo episodio 悪魔狩り











痛ひぃ!マジ痛いいいいチクショウ!!
腹が減って力が足りないよぉカッツェル!!」


『って…傷一つついてねーぞアイツ』


『意外と頑丈だね、あのワニ男』


待ってろよクソガキぃ!テメェの魂必ず汚して
喰ってやる このカッツェル様がなぁ!!」





叫んで怪物は 左腕のワニを三たび巨大化させ


天井を食い破ってその場から逃れた





「逃がすか…!!」





すぐさま天井から追えば、怪物の図体が
視界の隅へと飛び込む





『死ねぇぇぇワニ野郎!!』







放った弾丸が胴体へと…着弾する手前で





ワニの頭が岩のように硬化し 盾となって
怪物を覆うように庇う





『げっ、何アレ!


「おっかけてくるなぁぁ!!」





悲鳴を上げ、ヤツは手近なガレキを
ワニにくわえさせて複数こちらへ投げつける





「小ざかしいマネを…!!」


きっちりかっちり全て打ち落とし…!?





「もぶぅ!!」


『ちょっ!何やってんだよキッド!?
普段のお前ならアレぐらい』


「…投げられた位置が…ちょうど見事な
左右対称だったもので…つい…」


『ってまたかよぉぉ!!』


『あのワニ男 見失っちゃったよ〜』







惜しくも見失ってしまったが…あれほどの巨体が
通ったならば跡がどこかに残ると踏み


新しく出来た破壊痕を頼りに探索を続け





「…どうしたの?お姉ちゃん」





地下の階段を下りたフロアで、パティが
不思議そうにリズへと問いかける





「いっ今…そこの部屋で何か聞こえた気が…」


きゃはは どんだけビビってんの?」


「うっさい!乙女は普通
怖いもの苦手なモンなの!」








ドアに取り付けられていた覗き窓から
中の様子を伺ってみれば


狭い室内を、いくつかの鉄の棺が埋めていた





だが…棺にはネジがつけられており


更にはそこから くぐもった悲鳴が複数聞こえる


あれはウワサに聞く"拷問具"と言う奴か





恐らくこれが聞こえた物音の正体だろう、と言いかけ





「うっ…ぐぅ…あぁぁぁ!


一際大きく響いた声は、聞き覚えのあるものだった





波長を撃ち込みドアを蹴破って棺を破壊する





そこから出てきたのは…食堂で会ったような
ゾンビと化す、一歩手前の人間達と







ボロボロの…







「う…うわあぁぁぁぁぁ!!


!」





近寄ってくるゾンビ達を遠ざけつつ駆け寄るが

アイツは怯えたように腕を振り続けている





「落ち着け お前を助けに来たんだ!!」





途端、相手の動きがぴたりと止まった





「その声は…キッド君?どうして、ここに」


「とにかくこの部屋を出るぞ」





ふらついた足取りのを引っ張り
這いつくばるゾンビ達から離れ





「た…たすけ、デ」


「うひぃぃぃ!!」


「お姉ちゃんに何すんだゴラァ〜!」


若干、足にすがりつくゾンビを
蹴り飛ばし振り切りながらも部屋を脱出して





ドアを閉めて 息を整える







「ね…ねぇ、他の人たちは、見なかった?」


「それなら先にヒナンさせといたよ〜
なんかメチャクチャビビってたみたい」


「そう…助かったんだ、よかった







息をついた当人が額を掻きあげた所で
リズが気づく





「おいどうしたんだよその目!





前髪に隠れていた円らな鳶色が…光を宿さず
にごった様子になっている





「情けないコトに…あのワニ男の攻撃
いくつかくらっちゃってさ」


言われてみれば、壁を背にしたツナギのももや
二の腕辺りに歯型がいくつか見える





「アイツにかまれて…ジワジワと視界が
ぼやけてきてるみたいなんだよね」





どうやら…奴に噛まれることによって


街の人間達のゾンビ化と、達四人の身に
"異常"が起きているらしいな





「…始めから、経緯を説明してくれるか?」


OK まず僕らはここから少し離れた
街での異変を調査してた、そこまではいい?」


街の人がゾンビになっちゃうってヤツでしょ?」





パティの一言に、首が縦に振られる









―いわく、突然 寒気に似た何かと痛みとを
肌で感じ取ってうずくまった


何事かと他の三人が問いかけた所で





『ぎゃっはぁ!食事ターイムゥ!!』





あの"カッツェル"という怪物が現れたらしい







異様な力を示しながら、何人かの人間をさらって
その場から逃げていった怪物に対し





『異変の原因は突き止めたんだ…後は
先生達に任せよう、深追いは、よくない


『うるせーよビビってんじゃねぇ!』


『あの男を倒せば異変は収まるじゃない
そうと決まれば追いかけるわよ!!





討伐を決めた三人へ、従う形でこの男も
奴を追いかけて…牢獄へと来たと言う







「最初は…四人で気をつけながら
行動してたんだけどね」







再びの"寒気と痛み"を感じたと同時に


正にいきなり姿を現した怪物が ペアで
組んでいた職人へと襲いかかり





『っきゃあぁぁぁ!!』





その不意打ちをきっかけとして、それぞれが
バラバラに引き離されていった







「どうにか合流しようとしても、気持ち悪さに
襲われて上手く連携が取れなくなって…


その上 攻撃を受けた職人たちも耳とか
聞こえなくなって勝手に逃げてくし」


「なるほど、連絡が一向に無かったワケだ」





だからこそ四人を救助へ行く話が持ち上がり


オレはそれに志願して、ここにいるのだが





「てゆーかさ 何でみんな耳とか目とか
利かなくなっちゃったの?」





はやや言いにくそうに口をつぐんで


それから、ゆっくりと言葉を紡いだ





「…どうやら、あの男の呪いらしいんだ」


「「「呪い?」」」







奴は高らかに笑いながら、噛みついた
被害者へ言って回ったのだと告げた





『オレの唾液を浴びたものぉ!牙にかかったものは
時と共に生ける屍へ変わるのさぁ!!


さぁ恐怖しろ、身体を蝕む呪いの力に!

さぁ絶望しろ 心を奪う呪いの力に!!








「信じたくないけど…実例があって、実際に
体験すればイヤでも信じるしかなくなるね」


「悪趣味にも程がある…虫酸が走るな


「…同感」







恐らくは徐々に身体の機能を麻痺させ
思考を奪い…対象者をゆっくりと


捕食本能だけで動く 生ける屍に変えていく





そうやって人々を恐怖へ陥れ…あの怪物は

狂気へ染まった魂を喰らっていた


到底、許せる罪状では無い





呪いとなると…魔法の原理に基づくから
通常の治療は効き目も無かろう


となると、食い止める方法はただ一つ





「あの怪物…カッツェルを倒すしかないな


「さんせーい!
あのワニ野郎剥製にしちゃお!」



「えぇっ!わ、私らで!?」


当たり前だ このままあの男を
見過ごすわけにはいかんだろう」


そう告げれば、乗り気でなかったリズも
覚悟を決めて従うことを決めていた





と…が恐る恐る手を上げて呟く





「僕は…邪魔にならないように
ここを脱出した方がいいかな?」


「そうだな…とにかく出口へと向かおう」


言いつつ 降ろされた手を取ろうとして





「っキッド君、危ない!!





突き飛ばしてオレを庇ったツナギ姿が


"何も無かった場所から"いきなり現れた
ワニ頭の牙を、片刃に変えた腕で弾き返した









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あとがき(というか楽屋裏)


リズ:ゾンビだけでもアレなのに、正直呪いとか
カンベンしてほしいんだけどさーマジで


狐狗狸:この話が終わるまでの辛抱ですので…


パティ:ゾンビうぜーぞオラァァ!(蹴)


キッド:こら蹴るなパティ!それは呪いで
ゾンビになってるだけの普通の人間だ!!


狐狗狸:うわー、容赦ねー…


キッド:そう思うなら止めるのを手伝え
いや、それよりが感じた"感覚"について
きっちりかっちり説明をしてもらおうか


狐狗狸:えーそれは…ちょっと企業秘密で


パティ:きゃははははは!管理人も
うぜーぞオラァァァ!!
(蹴)


狐狗狸:うぶぁぁぁ!!(飛ばされ)




襲われた三人はカッツェルの力と凶暴性に
恐怖心を植えつけられたカンジですね


様 読んでいただきありがとうございました!