"死神の息子"という立場で、人から敬われたり
違う目で見られることはよくあった





ただの職人として死武専に入ってからも


わずかにだが その視線は変わることなく
周囲に存在していた





だが、それに対して引け目を感じたことなど
ただの一度たりとも無く


マカやソウル、ブラック☆スターに椿


何よりリズやパティはオレに対して

わけ隔てなく接してくれていた





けれども…だけは違っていた


親しさの中に どこかこちらがそれ以上

踏み込む事を恐れているような"壁"があった





複雑な事情を抱えていると知ってはいたし


当人も語ろうとしないから、無理に
聞き出すのもどうかとは思っていた







…が、誘いを断られたあの後





父上、少々お聞きしたいのですが」


どうしても 浮かべられた笑み
突き出された隔たりとが納得いかず


オレは父上の下へと赴いて訪ねた





「余計な詮索とは思いますが、は…
どのようないきさつでこの街に?」


「あー、彼のことが気になるの?」


「父上なら詳しい事情をご存知でしょう」





普段通りのひょうきんな様子で答えが返る





「懐かしいなぁ〜確か彼は、スピリット君が
拾って連れてきたんだよね」












Il secondo episodio 虚ろの呪い











「マカの父親が…?」


「そう 道端にいたらしくってね
やって来た時はすごいボロボロだったの」







連れてきた当人も、出会い頭で腕がハサミに
変化しなければ単なる浮浪児だと思っていたそうだ







『スピリットく〜ん 私に会いたいって
言ってたのはこのコ?』


『ええ、そうっす』


『ずいぶん若いね〜、名前はなんて言うの?』


だと…そう名乗りました』





当時は今のように亜麻色の前髪で顔の上部は
隠れていなかったらしいので


円らな瞳でしばらく、驚いたよう
見上げられていたのをハッキリ覚えているとか







『ずっと…ずっとあこがれていました
お会いできてコウエイです、死神様





言いながらがその場にひざまずいたので

父上は、大いに慌てたらしい





ま〜ま〜顔上げなよ 君だっけ?
一人でこの街に来たの?親は?』


『ぼくにはもう帰るトコロも家族もいません
全部…あのマジョにうばわれました





吐き捨てるようにそう言いながら顔を上げ





『許されるのであれば、おねがいです…ぼくを』


は…祈るように言ったのだと言う





『ぼくを、デスサイズにしてください』







――――――――――――――――――――







気持ち悪さと自らのふがいなさとに耐え切れず





「クソ…ウツだ…」


構わずオレは薄汚れた通路に手をついて
がっくりとうなだれる





ちょっとキッド!
こんなトコで立ち止まるなよぉ頼むから!!」


「またぁー?早く進もうよー」


「オレはゴミタメ的存在なんだ…薄汚い
牢獄の壁すらマトモに直視できやしない」


「じゃあもう目ぇつぶって歩けよお前!私は
さっさとこんなブキミなトコから出たいんだよ!!」






散々せっつくリズとパティに励まされ







「…よし、じゃ絶対手を放すなよ?」





オレは目をつぶって 両側から二人に
手を握って先導してもらい


おっかなびっくり辺りの探索を再開させる





「確かに目ぇつぶれって言ったけどさ
本当にやるかフツー?」


「遅いよキッド君、も少しペースアーップ!


うわわっ!急かすんじゃないパティ!
転んだりしたら危ないじゃないか!!」





両側から不満が聞こえるのも無理はないと
自分でも承知はしているが、仕方が無いだろう


こうでもしなければいつまた無秩序に
破壊された壁が目に入るか分からないからな…





そもそも元の構造からして左右対称と
かけ離れているだけでも虫酸が走るというのに

破壊箇所を整える時間すらないとは







「あーもーじれったい!」


いらだったパティが足元にあったガレキでも
蹴りあげたらしく、小さな衝突音がして







「…ひぃっ!?」





小さな悲鳴に目を開ければ 回廊の角から
出てきた相手が引き返すのが見えた





「なぁキッド、今のヤツって」


「間違いない…死武専にいた職人だ!


暗くてもこれだけ距離が近いならば
顔と魂を見間違えるはずもない





待て!逃げることはない、オレだ!」





追いかけ様に大声で呼びかけるも、職人は
逃げる速度をゆるめる所かこちらを振り向きもしない





「何だよ 私らの声が聞こえてないってのか!?」


「おーい待ってよ〜!!」


「仕方ない…リズ、パティ!





呼びかけに答えて銃へと変身した二人を手に


足元へと出したベルゼブブに乗ると


一気に通路を駆けて、相手の前へ先回りする





落ち着け!お前達を助けに来たんだ!!」


ひっ…え、き、キッド!?」





やれやれ…ようやく落ち着きを取り戻したか





肩やももに大きな噛み跡の目立つ職人へ

ここへ来た事情を説明しようと口を





開くよりも早く、肩口をつかまれた


「もうたくさんだ!早くここから帰らせてくれ!」


「元よりそのつもりだが、まずお前達に
何があったのかを説明してくれ」


「アイツのっ…の言う通りだったんだ!


はぁ?どう言うことだよ」





重ねて訪ねるが、目の前の男はオレ達の声など
届いていないかのように返事をかえさず


ただただ怯えきった顔で言葉をわめくのみ





「ゾンビを生み出してるヤツなんか
大したことないって思ったんだ!」



「えぇっ!?ぞ、ゾンビぃ!?」


途端 リズがものすごく嫌そうな顔をするが
それに関して気を回すヒマは無い







そう言えば達四人が受けた課外授業は


街の住人が、次々"ゾンビ"へと化していく
異変の原因をつきとめるコト…だったはず





「アイツを倒せば異変は止まるって思って
オレ達はここまで追ってきたけど…アイツは
アイツだけは追っちゃいけなかったんだ!


「アイツってだーれ?ねぇ聞いてる?


「深追いするなって言ってたのに…どうして
聞かなかったんだ、追わなきゃよかった!」





…これでは何を話しても通じそうにはない







とにかくここから離れさせるコトが先決だと思い


手振りで近い出口を指示し、職人をどうにか
この牢獄から脱出させた











「…なぁキッドォ 早いトコ 見つけて
こんなトコ出ようぜ〜もしゾンビが出てきたら…」


「遊び相手になってもらおーよ」


イヤだよ!てーかならないから!!」





何度目か分からん注意をしかけて、カツーン…
軽いものが落ちたような音が響く


同時にリズも3cmほど飛び上がった





「何か物音がした…この奥の部屋からか」







壊れかけたドアを開けた先は


どうやら食堂のようで、いくつものイスや
テーブルが並んでいる





「あのカウンターの辺りでゴトゴト鳴ってるね」


「ああ、行くぞ」


「えぇ〜…ちょっ、あんまりウカツに
近寄らない方がいいって絶対〜」







および腰になるリズをパティが後ろから
押す形で先導し オレ達は音源へ近づき







不意に、物音が止まって





がばりと現れたのはボロボロの服を身につけた
ひどく汚れた姿の…人間だった





ただし身体に受けているキズはお世辞にも
軽いとは言えず、ボタボタと血を滴らせる口から

ボトリとマウスの首がこぼれ落ちた





正に…巷で言われている"ゾンビ"に相応しい様相







「ひぃっ!」





身構えるオレ達へ、うつろな目をしたそいつは
はい出るようにしてカウンターを乗り越えると


二歩、三歩と距離をつめ…そこで足を止めた





あんだぁ〜やんのかコラァ!
ねぇコイツ撃っちゃおうよキッド君!!」


「待て 確かに様子はおかしいようだが
…どうも悪人の魂とは様子が違うようだ」





すえた悪臭が鼻を突くが、それに耐えながら
相手の動向をうかがっていると







ゆっくりと…ひどくゆっくりとクチビルが動く





おで…街に、いたん…だ」


「しゃべった!ゾンビってしゃべるのお姉ちゃん?」


「ししし知らねぇよ!」


「静かにしろ二人とも
おい貴様、街にいたと言うなら何故ここにいる?」


「わからないい…あの…あくまに、いきなり
かまれて、腹を…気づいたら…」


「この場に連れて来られたと言うのか」





わずかに首を振り ゾンビは言葉を続ける





「ほかのヤツも…うでとか動かなく、なって
オレも、どんどん、意識ガ…いしき…が…」





しかし唐突に上をあおぐ格好になり ガクガク
ケイレンしながら発される言葉から


理性の色が失われてゆく





「なくなる…怖い…オレがなく、なるなくなるなる
ああ…ああ゛あ゛…はら、へっ…」



「さぁ食事の時間だ」


瞬間、上からのびたワニのような生き物
ゾンビの肩から上を飲み込み





つられるように視線を上げた先には





汚れの染み付いた天井に半身だけでへばりつく

なんとも形容しがたい姿の"怪物"がいた









――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


キッド:こんな非左右対称の舞台にい続けねば
ならないなんて…クソ…ウツだ、死のう


狐狗狸:いや死なれたら困るし


リズ:放っといていいから…それより!
聞いてないぞゾンビが出てくるなんて!!


狐狗狸:しょうがないじゃん決めたの後だもの


パティ:計画性も無いのに長編なんか
書いてんじゃねーよ遅筆クサレ作者


狐狗狸:クソ…ウツだ…死のう


キッド:オレ達は生きる価値も無い
ゴミタメ野郎どもなんだ…


リズ:うわダメだこいつら




ゾンビの原因と今回の敵については
次回へこうご期待を…してください


様 読んでいただきありがとうございました!