本来、罪人を容易に逃がさぬように

通路や施設は地下も交えて複雑に
入り組んだ造りとなっている





夜であることも相まって暗い室内は
息づまるような閉そく感を訴え


湿っぽくすえた臭いが辺りに満ちて漂う





放置されてから ずいぶんと年代が
経っているらしい鉄格子は


サビまみれになりながらも鈍く光を跳ね返す





「あーヤダヤダ…早いトコロこんな
陰気くさい場所から抜け出したいよ」





やや及び腰になっているリズの言うことも最もだ


こんな雑然とした不潔な建物には
オレとて長居などしていたくはない


しかし…絶えず魂の移動が激しいから

感知して追うにも一苦労だ





「まーまーお姉ちゃん、あと二人と悪人を
見つけて倒せば出られるって」


「いやパティ 二人は助ける方だからね?」


そうだっけ?きゃははは」





一つため息をついて、オレは緊張感の無い
二人に注意するべく口を開き







"…うわあぁぁぁ!!"





さほど離れていない場所からの悲鳴と物音に
思わず顔を見合わせる





「今の声 ここから遠くないみたい!」


「ああ、行くぞ!!





うなづいて拳銃に変わったリズとパティを
たずさえ、通路を駆けながら叫ぶ





「どこにいる達!返事をしてくれ!!」












Primo episodio 羊探し











死武専に入学してから しばらくが経った


リズとパティもクラスに馴染み
友と呼べる人間も出来た





充実した日々に不満は無い…が、しかしだ





「魂集めで他の職人と組ませてもらえんとは…」


その一点だけが、どうにも納得できなかった





しょーがねぇだろ?キッドの実力は
そんじょそこらの連中と釣り合わないんだし」







…確かに自らの能力が高いのは自覚している


父上に頼まれる任務も、こちらの実力に
合わせてか難度が高めのものが多い





下手に誰かと組めば 返って相手に
負担がかかるコトも承知してはいる





「しかし、オレはあくまで一つ星の職人なんだ
…あまり特別扱いされたくない」


「無茶言うなぁ」


「じゃあさ ブラック☆スターと
組んでみるのはどーかな?」


「悪くは無いが…授業の内容にもよるな」





実力としては申し分ないのだが、彼は
目的をないがしろにしがちだからな







とにかく一度ペアで組むことを念頭に
授業を選ぼうと掲示板へおもむけば





そこには既に先客が一人





「ご子、じゃないええと…キッド君」





顔を合わせた途端に戸惑った様子を見せる
ツナギ姿のクラスメートへ


何度目か分からないセリフを告げる


 今のオレは同じ死武専生だろう
そんなに気を使わなくていい」


「う…うん、分かってはいるんだけれども
やっぱりどーしてもね」





バイトで生活費をまかないながら死武専に通う
魔鋏(マバサミ)のこの男は


仕事のクセなのか同級生にも敬称をつける

特にオレには妙に謙遜した態度で
接するコトが多々ある





最近では少し収まってきてはいるものの

ソレがどうにも隔たりを感じさせる





「そう言えば、三人がここへ来るのは珍しいね」


「まぁ そりゃそうだな」


「ひょっとして君の持ってるソレって
課外授業の受付用紙?」


「ああうん 一時的にだけど組んでくれる
パートナーも見つかったから」





手にしてある紙をのぞきこめば、場所は
中南米で難易度はそこそこ





「ふむ…中々悪くはなさそうだな」


「そ、そうかな?」





前髪で瞳は見えずとも ほほが赤く
染まる様子で照れているのが分かる





「しかし時には苦難の道を行くのも成長には
必要だと思うぞ…これなどはどうだ?」


言いつつ、貼り出されている授業の中で
難しそうなモノを手にと…





「くっ…届かん…!」


「分かった分かった取ってやるから
これでいいんだな?」





代わりにリズが取った用紙を受け取り
へと突きつけてみせる





ええっ…こ、これはちょっと僕や
パートナーの子には手に余る気が…」


「じゃあさ〜私達と組めばいいよ♪」





パティの一言で、目の前の相手は
より驚きをあらわにする





「一度は誰かと組んで行動したいと思ってな
この授業なら魂のノルマも多いし向きがいい」


「でも…それならキッド君たちで行った方が」


「人数が多ければ、それだけ魂集めも
楽に出来て効率がいいだろう?」


「それもそうだな そっちにとっても
条件は悪くないんじゃない?」


調子を合わせてリズも明るく言葉を添える





しばらくこちらと手の中の用紙を見比べ


やがては…ペコリと頭を下げた





「ゴメン…せっかくのお誘いはうれしいけど
謹んで辞退させていただきます


「どうして?」





アイツは言いにくげに口を開閉させてから

ひどく曖昧に 笑った





「パートナーの子には悪いかもしれないけど
…足手まといにはなりたくないんだ」







自らを卑下するような言葉に、隔たりの強さと
同時に苛立ちを感じた





「誰も、そんなコトは言って無いだろう」


分かってる…ゴメン

そろそろバイトに行かなきゃ じゃあね」





気まずげに言ってツナギ姿がその場から立ち去り





オレは 胸にわだかまる思いを
手の中の用紙と一緒に握りつぶす





――――――――――――――――――――







たどり着いた独房は、いくつもの鉄格子が
へし折れ抉れ 床も壁も砕けて


通常では有り得ないような惨状となっていた





「…ここもか」





辺りをざっと見回すが、探す相手も

事態を引き起こした張本人もいない





大きな穴が壁に開いている…先ほどまでは
ここに両者がいたのは間違いなさそうだ


人へと戻った二人にも協力してもらうが
収穫は無かったようだ





「にしてもキッド…この抉れ方は
やっぱり普通じゃないみたいだぜ」


「あっちこっち穴ボコだらけだもんね」


確かに…今まで見てきたどの場所にも
異常といえるくらい 破壊の跡があった


けれど破壊された箇所に比べると

ガレキが、あまりにも少なすぎる





「それに…先に見つけた二人が言っていた
あの言葉も気になる」







それぞれ 一定の力量を持った
武器と職人のコンビだったにもかかわらず


彼らが見つかったのはそれぞれ別の場所





しかも…何かに噛み付かれたかのような
歯型や引っかき傷をいくつも負っていた





『おい、大丈夫か!』





幸い それほどヒドい怪我ではなく
意識はしっかりと保っていたようだが


どちらも妙なことを口走っていた





いきなり上から噛みつかれて、気がついたら
動けないままこんなトコロに閉じ込められて…』


『あの男の左手が 左手がワニみたく変わって
それがアタシの身体を…!





共通しているのは"男の左腕に噛まれた"と
言う 意味の分からない一言





仮に魔女の仕業と仮定したとしても


説明のつかぬいささか不可解な状況
ただただ首をかしげるしかない







「ともあれ、もう一人の職人と
見つけて詳しい話を聞くしかないな」





呟けば 途端にリズは表情を暗くする





うぅ…あんまり気がすすまないなぁ…」


「ファイトーお姉ちゃん」





細かい破片が崩れる壁穴を越えた先は
別の独房に繋がっている


その格子も不自然に千切れていた





全く持ってけしからん


いくらここが使われなくなって久しい牢獄とて

罪人が好き勝手に破壊してよいものではない


「…大体、こんなグチャグチャに壁や床をも
砕きおって!壊すならきっちりかっちり
バランスよく壊さんか!!」



「そんなコト言ってる場合かよ…って
ちょっと、何で測定してんの?


「ここの鉄格子をもうニ、三箇所ほど砕けば
こちらの破砕と釣り合いが取れるかと思って」


「ねーねーキッド君 それならいっそ
全部とっぱらっちゃおーよーここのオリ」


「パティもあおんないの!!」





目測を終えて、オレは二人へと言った





「やはりこのままじゃ気持ちが悪いな…

よし二人とも銃に変身しろ!六ヶ所撃ち込み
完璧な調和を取ってここを出よう」


「アホかぁぁ!!」





せっかくの素晴らしい提案を無視し、リズは
オレとパティとを引きずって先へと行く








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こっちはこっちでまだギクシャクしてる
捏造長編三回目の開幕です


キッド:舞台が牢獄とは…もう少しマトモな
場所は無かったのか?イヤすぎる


狐狗狸:ワガママ言わんといて下さいな
達だって好きで来たワケじゃないので


リズ:てーか、何でホラーチックなの!?
何と戦うってんだよぉ〜!!


パティ:ねーねー何で四人はロウヤにいるの?


狐狗狸:それはここで答えたら話が終わるから
次回にお願いします それでは




時期は一応フリー戦後〜幽霊船前を想定中

先の二人とは違う要素と、夢主についてを
話に盛り込んで行く予定でつ


様 読んでいただきありがとうございました!