飛び交う一方の鉄球は大降りにも関わらず反応が鋭く
僕らが容易に近づくコトも
攻撃を叩きこむコトも許しはしない
どうにか鎖をはね返すけれども、奴の腕の一振りで
弾かれたはずの鉄球が軌道を変えておそってくる
「おらぁぁぁぁ!!」
地面すれすれを這い進むようにして
死角からブラック☆スター君が楔へ迫るが
振り返りざまのもう片方の腕が分銅と化して
とっさによけた彼の残像をかすめる
「中務の妖刀を持つに相応しい者だけはある
年に合わぬ身のこなしも見事なものだ」
「あんだよ、オレ様の相棒に対して
ずいぶん詳しい口ぶりじゃねぇか」
「調べたさ、言ったろう?情報を集めたと
元々私は妖刀マサムネを求めていたのだからな」
途端、ブラック☆スター君の目の色が変わる
「まさか彼女に負けるとは思わなかったが
…お陰で捕獲がやりやすくなった事は感謝しよう」
「どっちにしろテメーが最低のゴキブリ野郎で
オレにぶっ殺される運命は変わりねぇよ!」
頭上から飛びかかる彼の攻撃が届くよりも早く
奴は壁に分銅を打ち込み、引き寄せられるように
その先へ移動して身をかわすと
空振りになった背中に鉄球を投げかける
とっさに飛び蹴りの要領で両足を刃に変えて
迫り来る鉄球をはね返す
…もちろん、僕は着地にしくじったけど
L'ultima storia 天罰敵面
「いいや 君達はここで死に、彼女は私の
新たなる蒐集物となるのだよ」
「椿さんがお前なんかの催眠にかかるもんか」
「人にしろ魔武器にしろある程度心に入り込めれば
複雑な行動を促す事とて可能さ…
最も、それなりに時間と手間はかかるがな」
黒づくめの男の浮かべた笑みは どことなく
イビツで陰湿なモノで
「極限まで追い詰めた精神を救い上げれば
どんな者でも最後には従うさ…必ずな」
語られたそのやり口には、覚えがあった
「どうせ拷問でもするんだろ…本当
ブラック☆スター君の言う通り最低だよアンタ」
「効率的で合理的な手段と言ってもらおうか」
「勝手なことばっか言ってんじゃねぇぞ小物がぁ!」
居丈高に楔を指差してブラック☆スター君は宣言する
「どんな奴だろうと、BIGなオレ様の
言葉以外には従わねぇんだよ!!」
言い終らない内に再び攻撃態勢に入る彼に
続くようにして、僕も駆け出す
「…無駄な足掻きを」
奴を中心に、分銅つきの鎖が
地面につくギリギリの位置で円を描く
引っかかる手前で僕らは跳び上がってかわし
刹那、足元から蛇のように伸び上がった鎖が
ブラック☆スター君の両腕ごと身体を縛り付けた
「忌締(いましめ)…これであの妙な技は使えまい」
「くっそ放せテッメェ!」
叫んだ彼を、奴は鎖ごと地面や壁に叩きつける
「ブラック☆スターく…うぐっ!」
腹に鉄球の一撃をもらって、たまらず地面に突っ伏す
胃の中身がせり上がりそうな苦しみに
身をよじらせながら なんとか顔を上げれば
ひどく冷たい目が僕を見下ろしていた
「この男を見捨ててここを立ち去るなら
貴様だけは見逃しても構わない」
言いながら、奴は巻きつけた鎖の力を強める
「ぐっ…ぐあぁっ!」
血を流したブラック☆スター君の骨がきしむ音が
こっちにも聞こえてくるようだった
攻撃の手をゆるめないままこちらへ
手をかざして、楔はせせら笑う
「職人だろうと、他人は他人じゃないかね?」
それについては…僕も同感だ
元々これは授業のノルマなんかじゃないし
あくまで勝手についてきただけの僕には
命をかける理由なんてない
「僕には…人の為に死ぬ、なんて大層な覚悟ないし
そう思いたい相手も、今の所いない」
ふらつく足で立ち上がりながら それでも僕は
楔から目を離さないままで言う
「けどね…友達や 大事な相手の力に
なるつもりぐらいは…普通にあるんだ!」
自分で決めたことは、曲げたりするもんか!
「ちっ…催眠にかかりやすそうだと思ったのに」
「オレの信者にそんな弱っちょろいヤツは
いねーんだよ!なめてんじゃねぇぞ!!」
「だが、その状態で何が出来る?
ただのハサミ風情に…何が出来る!?」
目の前へと迫り来る鉄球を屈んでやりすごすと
身を起こしながら継ぎ目の鎖を
刃へと変えた両腕で、力の限り挟みこむ
「ぐぅっ!?」
硬い手ごたえを伝えながらも鎖の継ぎ目に
わずかながらヒビが入った
「ただのハサミだからってナメてたろ?」
このまま片腕をブチ切ってやると力をこめるが
奴は僕ごと鎖を振り回して腕を振り払う
たまらず宙に投げ出された背に鎖の音が響いて