そこへ近づくにつれ、砦に見えたのは

柵に囲まれた屋敷の屋根だと分かった





「アレがゴキブリ野郎の本拠地か!」


「その可能性は高そうです」





洞窟の隠し通路から一直線


くり抜かれた岩壁の中にあるコトも考えれば
相手があの場所へ逃げ込んでいてもおかしくない





当然ながら柵や屋敷の門前は閉まってたけど





「チマチマ真正面から攻略なんざやってられっか!
一気に上から攻めんぞ!ついて来い!


「はっ…はい!」





勢いで柵をよじ登り、屋根へと這い上がった
彼の後へどうにか続いて


本拠地への侵入に成功する







屋根や回廊が複雑に連なり、中央に吹き抜けが
存在する外見とは裏腹に


室内はやたらと質素で 自然を主張する
アジア特有の壁や床板でカタチ作られている


それでも、ただよう雰囲気はどことなく


死刑台邸なんかの"上流"の空気を匂わせる





やたらと小ギレイな屋敷だなオィ!
ゴキブリ野郎のねぐらにゃ勿体ねーな」


「うん…」





うなづきつつも僕は この室内にどことなく
違和感を覚えていた












Quarto episodio 見敵必殺











「あんだよ?うかねぇ面してどうした
まさか今更怖気づいたワケじゃねぇだろーな?」


「いやそれはないですけど…試規が
洞窟にいたコトとか、どうも引っかかって」





あの時アイツは"あの男の言う通り"とか
ブツブツ呟いてたのを覚えてる それに…





ずっと観察してたけど 普通のハサミには
興味がないんだよ、残念ながらね』


『彼女は武器として興味があるのでね』


さらった当の本人もおかしなコトばかり言っていた





もしもコレが仮に、誰かの仕組んだ作戦
なにかだったりしたら…







「あ痛っ!」





浮かびかけたコワい考えは一発のゲンコツで飛んだ





「ゴチャゴチャむずかしいコト考えるより
今は椿を助けんのが先だろーが!」



「そ、そうですね…ゴメンなさい」





乱暴ではあるけど、ブラック☆スター君の
言うコトももっともだ


ここまで来た以上アイツが何者であろうと

僕らがやるべきコトはたった一つ





「うっし行くぞ!」







自信満々に床を踏みしめる彼に続きながら


それでも、これから起こるであろう
魔武器との戦いに不安を感じていた





死神様のリストにはいなかったと思うけど

一連の流れで見せた動きはただものじゃない


…気をつけないと


「うわっ」





足元になにかが引っかかった、と思った瞬間





「伏せろ!」


後ろからの叫び声で反射的に屈めた頭の上を

なにかがいくつかかすめてった


間をおかず、床や壁に何本かの矢が刺さる





「こんな古くっせぇ罠に気づかねぇなんて
お前 鍛え方足りねぇんじゃねーの?」


「…そうかもしれません」





これだけ罠だらけの場所は、授業でもめったに
当たるものじゃないんだけど


彼の前ではソレは言いわけにしかならない





「まあ信者だからしかたねぇよ、落ち込むな!
コレを期にオレ様目指して修行にはげめ!!





…少し、それも考えておこう









ブラック☆スター君の五感を頼りに
仕掛けをさけながら廊下をひたすら進み


要所要所で現れる格子戸や槍ぶすまを叩き切ったり


壁とのスキマにある仕掛けを片刃に変えた
腕をさし込んで、つついて作動させて


どんどん奥へと目指すけれども





初めに感じた違和感は、消えるどころか増すばかり







「なんなんでしょうね…この刀とか絵は」


あん?あのゴキブリ野郎のシュミだろ
にしても陰気クセーよな」





その原因が壁のあちこちにかけられた

刀や、刀をモチーフにした絵だとようやく気付く





どれもこれも相当古いものにもかかわらず
ホコリやチリ一つ積もってない


それが 妙に不気味だ





刀になにか思い入れでもあるんだろうか?
…僕には検討もつかないけど





「今、物音が聞こえた…この近くだ!





包囲を突破して頑丈な扉を開け放った先は


刀で支配された部屋だった





刀・刀・刀…


広いながらも殺風景な部屋のどこを見ても


壁やガラスケースなどに収まった様々な
色や形や大きさの刀が目に入る





そんな刀だらけの部屋に、細かい格子で
牢屋のように仕切られた一角があって


ちょうど中央にある大きなケースの中に…





椿さんが、ボンヤリとした目で閉じ込められていた





「椿っ!」


「椿さん!!」


駆け寄って、どうにか格子を切りにかかる





薄くとも鉄で出来ているせいか今までのモノより
だいぶ切断に時間はかかるみたいだった







椿!オイ聞こえてるか!!」





十分なスキマが出来るまでの合間、僕らは
何度も呼びかけを続けた





始めは無反応だったけれども


何度か呼びかける内に目が光を取り戻して





「…ブラック☆スター!く」





十分スキマが出来た側からブラック☆スター君が
格子の向こうへと駆け込んだのと同時に







ガラスに手を付いた彼女の姿が


横から出てきた黒い鉄球でさえぎられる





「やれやれ…お静かに願おう」





距離を取ったブラック☆スター君の前で

鉄球は、あの男の形を取り





ヤツが背後の椿さんへ腕をかざした次の瞬間





「あ…!」


彼女は、再び人形みたいになった





「テメェ、一体何をしやがった!?


「少し眠ってもらったまでだ…その程度なら
僅かな催眠でどうとでもなる」


「催眠…って催眠術!?そんなのウソだ!」





詳しくは知らないけど、こんな短い間に
かけられるものじゃなかったハズ…





「生憎、瞬間催眠が得意でね…とはいえ
あまりに強い意志の者には効き目も薄いし
効いても自我が色濃く残るのだがね」





淡々と語られる言葉を聞くうちに





ケースの中にいる椿さんの目と、洞窟で会った
人斬りの目が同じだったコトに気がついた





「まさか…試規も催眠であやつって…!?」


「ああ…あの男は元々の人斬り願望
解放する代わり、洞窟の番をさせていたまでだ」


「グダグダうるせーんだよ小物どもが!
要はテメーをブッ殺せば全部解決だ!!





間違ってないけど…間違ってるような





名指しされた本人は、楽しそうに笑うばかり


「まあそう急ぐな せっかくここまで来たのだ
少しばかり昔話をしようじゃないか」


「あん?テメェみてぇなコスいゴキブリ野郎の
話なんざ聞きたいと思うかターコ!」


「昔話はともかく…
椿さんをさらった理由は気になります」





格子をくぐり抜けつつ言えば若干ムっとされたけど

すぐに"それもそうか"と返された





「死した主は刀が好きでね…その執着ぶりは
まさに"取り憑かれた"の一言が相応しかったな」





なるほど…それでアレだけの刀があったのか







ここが、人を嫌った主人の隠れ屋敷であり


金に飽かせていくつもの刀や刀に関するモノを
集めては、飾って楽しんいたと男は言う





口調は変わらないけど、語り続ける内

徐々に相手の声音に熱が入り始める





「側に仕える内…私も刀の美しさを理解した
だが、ただの刀だけでは物足りなくなっていった


もっと珍しい刀を、もっと強い刀を…
もっと美しい刀を集めたい!


テメーの陰気なシュミなんざ知るかよ!
刀が集めてぇならコソコソやってろ」


「そうさ だから情報を聞き死神の目を盗んで
蒐集していたのさ…刀となれる魔武器を細々と」


「コレクション…?」





オウム返しに問いかけた僕へ視線をよこして


あの男は、口の端をゆがませる





「そう…知っているかね?

武器化したままで蝋細工にすれば、魔武器は
本来の形を保ったまま死ねるのだよ






言われた言葉の意味がよく分からなかった







男はイビツな笑みのままで格子の向こうの
壁にかかったサーベルを、目で差して続ける





あれなどは上手く固まっているだろう?
まるで生きているようじゃないか…どうだね!」





まさか…まさかその刀は 椿さんをさらったのは


ここにある沢山の刀のうちのいくつかは







―背中を寒気に似たものが走った







理解できない、気持ちが悪い、イカれてる!





マトモじゃないヤツにはある程度
慣れてるつもりだったけど


"武器"を生きたまま蝋で固めて飾るだなんて





到底、正気のサタじゃない…!







ざけてんじゃねぇぞクサレゴキブリが!
椿におかしなマネする前に潰してやらぁ!!」






威勢のいい叫びが 僕を金縛りから解き放つ





床を蹴った彼にやや遅れながらも

距離をつめるべく男へと飛びかかる


すぐさま真正面から鉄球が迫って


反射的に横へとさけながら、どうにか懐へ
飛び込もうと体勢を


立て直すヒマもなく イキナリ地面が抜けた





「へ…うわあぁぁぁぁぁ!?


とっさに抵抗することも出来ずに下へと
転がるようにして落っこちて





「痛たたたたた…」


腰をさすりながら地面から身を起こす





「まだおかしな仕掛けがあるたぁな
ゴキブリらしい姑息さだぜ」





一緒に落とされた彼の方は、流石に
職人だけあってかしっかり着地していた





「お褒めに預かり光栄だね…それよりも君は
武器のクセに着地も満足に出来ないのかね」





降りてきた男の冷たい眼差しを、ニラみ返す


「…苦手なだけだ」







どういう仕掛けで落とされたのかは知らないけど

ここはどうやら、あの吹き抜けの部分らしい





「あの野郎ぶっ殺すのに一時的に
コンビ組んでやらぁ!行くぞ!!



「うん…了解です!





椿さんを助けるためだけじゃない


この男だけは、今ここで倒しておかないと

絶対にいけない気がした






「屠る前に、君らの名を一応聞いておこうか」


「よーく耳クソかっぽじって刻み込んどけ!
オレの名はブラック☆スターだっ!!








身構えた僕らへ 男は片腕を鉄球つきの鎖に
変化させながら返した





「私の名は楔(クサビ)…主無き魔鎚だ
黄泉に逝く合間だが見知りおいてくれ給え!」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっと本命バトル!に入る辺りですが
続きは来年になります…スイマセン


ブラック:なんで洞窟とか屋敷ん中がやたら
仕掛けだらけなんだよ、メンドくせー


狐狗狸:洞窟のは元からです 屋敷のは楔が
後からいくつか付け足したんでしょう


椿:ええと…催眠のくだりとか色々と
疑問が残るんですけど…いいんでしょうか?


ブラック:こまけぇこたぁいいんだよ!
とにかくあのゴキブリ野郎はぶっ殺ーす!!


狐狗狸:発言的にはアレだけど、私も
ブラック☆スター君の意見に賛同の方向です




次回、合わなかった二人の波長が…!


様 読んでいただきありがとうございました!