ノロノロと目の前までやってきた二人組を


ブラック☆スター君は不機嫌そうに
やぶニラみしたままでたずねる





「あんだよジジィども?
テメェらゴキブリ野郎の仲間か?」



「それは無いと思います…あの
どうして洞窟に入ってはいけないんですか?」





たずねると、彼らは顔を見合わせてから


ひどく不安そうにマユを下げて答える





「この洞窟にゃーよ、おっかねバケモンが
住んどるってもっぱらのウワサでなぁ

入って帰ってきた奴は一人もいねぇんだぁ


「おまけに夜な夜な洞窟の奥深くから
悲鳴が聞こえてくるって言われてるだ」


「ひ…悲鳴?」


「きっと洞窟で死んだ連中が怨霊さ化けで
さまよってるだ、くわばらくわばら」





それはまた穏やかじゃない話だけど


魂が勝手にさまようなんて、あるんだろうか?


少なくともイタリアで聞いたコトはないけど

…アジア地方ではありうるのかな?





へっ!怨霊が怖くて魂集めれるかってーの
バケモンなんざ出た瞬間ぶっとばしてやらぁ!」


「ず、ズイブンとエラそうな童だっぺな」


「エラいに決まってんだろジジィ!
何たってオレは神を超越する男だからな!!」






いつもいつも思うけど、彼のこの自信
一体どこから出てるんだろう?







おジイさんたちも呆けたように胸を張った
仁王立ちの姿を見つめて





「そそそその肩の模様…

おめ、ひょっとして星族だか!?


唐突にそう言いながら、同時に一歩後ずさった





二人の目はブラック☆スター君の右肩の刺青
釘付けのまま大きく見開かれている


小さく舌打ちが聞こえて 彼は口を開く





「おいジジィども、言っとくけど」





けれどなにかを言い切るよりも早く


「ひいぃぃ〜!殺されるだぁ!!」


「オラ達ゃ金目のモンなんかなーんも持ってね
ただの貧乏木こりだぁ〜!!」






おジイさんたちは斧をほっぽり出して走り出す












Terzo episodio 跳凌跋扈











「うわっ危な!





勢いで投げ出された斧を地面に叩き落す間に


二人は一目散に雑木林へと姿を消していた





とても老人と思えない素早さもアレだけど…


刺青を見た時のあの怯えっぷりは普通じゃない





「ねぇブラック☆スター君、"星族"って一体な」


「おい遅っせーよ置いてくぞ!!





聞こうと振り返ってみるけれど


すでに彼は洞窟の中へとスタスタ歩を進めていた


「って早っ!待ってくださいよ!!」





仕方なく 覚悟を決めて後を追いかける









光ゴケでも生えてるのか、奥に進んでも
中は思ったほど暗くなかったけど


やっぱり外ほど視界がハッキリしないのと





「結構、入り組んでますね…洞窟」





枝分かれした分岐や行き止まりが進むごとに
増えていくのが不安をあおる





「チッ、マカと組んでりゃこー言う時
あのゴキブリ野郎を魂探知出来るんだがよぉ」


「…僕が職人だったら良かったんですけどね」


あと アイツだったなら3m以内に入れば
なんとか見つけ出せたかもしれないけど


この地域には特に魔女の目撃情報はなかったハズ





情けないコトだけど、自信満々で進んでる
目の前の背中だけが頼りだ







と、その背中が前触れなく止まって


危うくぶつかりそうになってもんどり打つ





「ど、どうしたんです急に立ち止まって」


「今この先で、鎖が鳴った音がした…
あのゴキブリ野郎に違いねぇ!!





それだけ叫ぶと、足場の悪さにも関わらず
彼の進む速さがまたもや増した





着いて行きながら耳をすませば


かすかな金属の鳴るような音をようやく捉えた


…って、こんなの普通分かんないよ!





なかば半信半疑だった彼の五感の鋭さに
舌を巻きながらも追いかけて







やがて、岩がいくつも並ぶどん詰まりにたどり着く





「え…行き止まり!?


「いーや間違いなく音はこっからした
それに、風の流れを感じる」





言いながら辺りを見回す顔は真剣だったけれど


見た限り単なる行き止まりにしか見え…







「うわっ!?」


いきなりブラック☆スター君に足払いかけられて
しりモチをついた頭上を


スゴイ勢いでなにかが通り過ぎた


パラリ…とかすった髪が切れて落ちる






「は…刃物!?





唐突な事態を整理しつつ身体を起こしたトコロで


側の岩カゲから、刀を構えた中年が出てきた





「ほう、また会えたな小童
ここまで追って来るとは大したものだ」


あぁ?誰もテメェなんざ追ってねぇんだよ
コソコソ逃げてたビビリ野郎が!」





アレは…ノルマの一人 人斬りの
試規淋蔵(タメシキ リンゾウ)!?






距離を取って身構えながら僕はたずねる


「ひょっとして君と椿さんが追ってたのって…」


「オウ、このクサレヒゲダルマだぜ
つーかマジトロくせぇなお前」


「ご…ゴメンなさい」





反射的にあやまりながらもやや不満がつのる


別に僕は、暗殺者でもなんでもないから
不意打ちに慣れてないんだけどなぁ…





きっと言ってもムダだろうから、大人しく黙っとく





「あの男が言う通りだ…この洞窟まで入り込む奴を
斬る程に、刀もワシも強く美しくなる!





ぶつぶつと呟く試規は、どこかどんよりとした目で
刀を見つめながら笑っていた





ノルマの悪人はマトモじゃないのが定番だけど


「なにか、様子がおかしいような気が…」





けれど疑問に思う僕の言葉はムシされて





「貴様らもこのダマスカスの錆にしてくれるわ!」


あぁん?テメェを逆に踏み台にしてやんよぉ!」





いきなり二人が戦いをおっ始めだした





「ってもういきなり戦い始めてるし…!」


腕を片刃に変えながら踏み出そうとして





こんな野郎オレ様一人で十分だ!
信者のテメェは引っ込んでろ!!」



ブラック☆スター君が刀の一撃を避けながら叫んだ





さすがにその一言には 腹が立った







波長を打ち込むにしても、武器を手にしてる以上
相手にスキがなきゃ難しいハズなのに


僕は武器どころか仲間としても認められていない





…でも加勢するにしても二人の動きが鋭すぎて
乱入しようがないのも事実で





成り行きを見守っていると、彼は刀の軌道を
紙一重ですり抜けながら


近くに転がる岩を足場に飛んで虚空に舞い





ひゃっはぁぁ!遅ぇー…ぜ!?


勢いをつけ過ぎて天井に思い切り頭をぶつけて

そのまま ボトリと落下する





「ぐあっ…目測をはるかに超しちまうとは
さすが時代を超えるオレのジャンプ力だぜ…」





頭を押さえてもだえるブラック☆スター君へ
試規が距離をつめて迫る







迷っているヒマは最早なかった


足を踏み出して相手の横手から接近しながら


ハサミの片刃に変えた右腕を顔目がけて突き出す





「ぬっ!?」





刀の構えを変える試規だけど、これは囮!


直前で屈んで 足払いの要領で
変化したハサミの足刃をなぎ払う!





「でぇ…うわっ!?





けど読まれてたらしくジャンプで回避された





「ワシがその程度の攻撃に不覚を取ると
思ったか小童!その命もらったわ!!


叫びながら 頭の上で振りかぶられた刀ごと
試規が僕目がけて落ちてくる


とっさに頭上で交差させた腕を変化して防ぐけど


間を置かずに刀がひるがえり
がら空きになったボディを狙って迫る





ヤバイ…斬られる!





覚悟した瞬間、後ろに彼の姿が見えた


「オレを忘れて行動してんじゃねぇぞ
ヒゲダルマぁぁぁ!!」






振り返りざま払われた刀を屈んでかわし


ブラック☆スター君は伸び上がるようにして

手の平と波長を試規の胸に叩き込む





「が…!?」





強烈な電撃に似た光がはしり 相手はその場で
ガクリとヒザを折って倒れる





「ボサっとしてねぇでブッ刺せ!」


「はっ…はい!」





打ち込まれた波長で試規が起き上がるより早く


片手をハサミに変えて、その身体を切り裂いた







「これでノルマは二個目…ですね」


「んなこたぁどーでもいいんだよ
テメェ、なんで余計な手出ししやがった?





え…な、なんで怒られなきゃならないの?





「あのままだと君が危ないと、思いまして」


バカにすんなよ!オレは神を越える男だ
勝手に目立ってんじゃ」


「そっちこそバカにしないでください!
僕だってこれでも武器なんだから!!」






ガマンできずに真正面から言い返せば





彼は、舌打ち交じりに呟いた


「信者に怒鳴るとはBIGじゃなかったな

まあ、さっきのサポートはほめてやらぁ」


「あ、ありがとうございます…
でもこれからどうするんですか?」


「この壁がどーにも怪しい…絶対ぇここに
仕掛けがあるに違いねぇ!」







ガンガン、と どんづまりの岩壁を蹴る
ブラック☆スター君にうながされ


もう一度辺りを探…あれ?





ゴロゴロ並んだ岩の影に、変な床っぽいヘコミ





コレひょっとして…と近くの岩を床に置くと


ジャラジャラ…と鎖を巻く音がして
どんづまりの岩壁が数センチばかり持ち上がる





「本当に仕掛けがあったよ…!?」


驚きながらブラック☆スター君の方を見

るよりも早く間近に迫られて
そりゃもうロコツにがっかりされた





「くっそ、地味に負けた!





勝ち負けの問題じゃないと思うけどなぁ…と
考えつつも ついついフォローに回ってしまう





「ブラック☆スター君の指摘がなかったら
きっと気付きませんでしたよ」


「ふふん、そうだろうそうだろう!





こんなささいな言葉でよろこぶなんて

案外子供っぽいトコもあるんだなぁ


…今ちょっとだけ、普段の椿さんが
どんな気持ちなのか分かった気がする





二人で手分けしていくつか重石を追加して


どうにか通れる大きさになった隙間から
通路を通って洞窟を抜けた先には





―高い岩壁に囲まれた空間に一つ

大きくそびえる砦のようなモノがあった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:二人が取り逃がした標的も出したし
そろそろ敵の懐へと迫ります


椿:今回の舞台は、アジア地方に決まったんですね

狐狗狸:はい結局の所は…といってもシンの村や
日本など特定地域でなく、東アジアのどっか的な


ブラック:つーかあのゴキブリ野郎、いつまで
コソコソ逃げ回るつもりなんだよ!


狐狗狸:次回ぐらいにはそろそろ対面しますから
襟首掴むのやめてください 痛いんで


椿:それにしても、あの男はどうやって
洞窟の仕掛けを潜り抜けたのかしら?


狐狗狸:蛇足がちながら説明すると…片手を
鉄球にして、それを重石に→通った後で
瞬間的に手を元に戻した→閉鎖完了、ですね




元ネタモチーフが某有名映画の為、木こりは
どうしても出したかったんです


様 読んでいただきありがとうございました!