いきなりすぎてなにをされたのか分からなかった





よろよろと身を起こせば、衝撃で口の中も
切ったらしく強い鉄の味がにじんだけど


今はそんなことに構ってる場合じゃない





岩山をもう半分まで駆け上がった
ブラック☆スター君へあわてて呼びかけた





「待ってブラック☆スター君 せめてアイツを
追うなら死神様に連絡してからの方が…」


「んなチンタラしてるヒマがあるかよ!」





強い一声に身をすくませた僕に背を向け


「今すぐ椿を取り返して、あのゴキブリ野郎
しこたまブチのめしてやらぁ!!」






彼はただひたすらに岩山を登り続ける







ダメだ…聞く耳持たれてないみたい


まあ 目の前でパートナーがさらわれたら
それも当然かもしれない





そう思いつつため息をついてから





「だったら…僕も着いて行きます」


僕も、岩山を登り始めた












Il secondo episodio 呉越同集











あん?テメーみてぇな弱っちい武器が
着いてきたトコで邪魔になるだけだ!」





イラ立ってるその言い分はもっともだろうし





彼のコトは苦手で、授業のノルマだって
まだ残ってるんだけれども







「椿さんがさらわれたのは僕にも責任があると
思うし、それに今は一緒に組んでるワケだから
キチンとチームワーク取らないと…」





さすがに目の前でクラスメートがさらわれたのを

見過ごすコトは 出来そうにない





「真面目ぶってんじゃねぇっつの
このステージはオレ様一人で十分だ


「じゃあこの際信者として着いていく形でも
いいから、救出に協力させてく…うわっ!


伸ばした右手の岩肌がはがれてバランスを崩し


中腹でどうにかしがみついていた僕の身体は
下に向かって落ちかけて







素早く降りてきたブラック☆スター君に
右手首をつかまれて止まる






「どーしてもっつーんならいいけどよぉ…
足、引っ張るんじゃねーぞ


「どっ…努力してみます」







助けられながらもどうにか岩山を登りきると

そこにはうっそうとした雑木林が広がっていて


当然だけど、あの男の姿は見えなかった





けれども彼に迷いはなく





「逃げ足が早ぇ野郎だ…だがしかぁーし!
オレ様にかかりゃドコへ逃げたか一目瞭然だぜ!」


「えっ…ちょ、待って…!」


わずかな葉ズレの音とかを頼りに駆け出す
その後ろをどうにか必死でついていく





岩山の登はんだけでも重労働なのに

きゅ…休憩ナシでこれはキツイ…!





「それにしても…あの男は一体
なにをしてきたんですかね?」





走りながら ついつい思ったコトを
独り言めかして問いかける





正直、年はそんな変わんないだろうけど


出会いが出会いだけになんとなーく
ブラック☆スター君にはタメで話しづらい


特に今みたいにピリピリしてる状態だと尚更





お前、気付いてなかったのか
本気でダッセーな」


「う…めんぼくないです」





走る足取りをゆるめずに、素っ気なく彼は答える





「あの野郎は初っ端、オレのどてっぱらに
鎖のついた鉄球ぶち込んできやがったんだよ」


「鉄球…?」







ズキ、と殴られた左側が痛み出す





思い返してみれば…あの重たい感覚は

鈍器のそれに近いのかもしれない





「って事は、あの男は…魔武器…?」





僕が言うのもなんだけど、鎖に鉄球のついた
魔武器なんてかなり珍しい部類だ





それより…息が苦しい 本当に苦しい







「ね、ねぇブラック☆スター君っ…ちょっと休け」





せめて息つぎする間だけでも、と
言いかけた言葉が届くよりも先に


彼の走る速度が上がって 一気に背中が遠くなる





「まっ…待ってよ!!





カンベンしてくれと思いながらも根性で
足を動かして追いすがれば





ペースを上げた彼の視線の数メートル先に


椿さんを抱えた、あの黒づくめの男
走っているのが見えた







「何だ、もう追いついてきたのかね」


「さっきはよくもやってくれたなゴキブリ野郎!
あんなチンケな曲芸で逃げ切ったつもりかゴラァ!」



「ふむ…あの岩を登り、私に追いつくとは
余程この妖刀が大事なようだね」


「当ったり前ぇだ!」


叫んでブラック☆スター君は、地を蹴ると


一足飛びに男の懐まで迫って右腕を振りかぶり





「オレ様の大事な相棒をかっさらって
一発ブチかましたお礼をしてやらぁ!!」






顔面目がけて、その手の平を叩きつける





寸前で鉄球が手の平を阻んだけれども


打ち込まれた波長は鉄球を通して男の顔をゆがませ





そのまま吹き飛ばされる形で相手が
椿さんを抱えたままで ヒザをつく







「ぐっ…これだけの力が使えるとは…
貴様、ただの職人では無いな


今更気付いてもおせぇーんだよ!
オレ様は神をも越える男だ!!覚え直しとけぇ!!」






勝ちほこって胸を張り、ブラック☆スター君は
ニラんだままの男へ宣言する





「テメェから椿を取り返したら、オレを
無視した罪で金○ぞうきん縛りにしてやらぁ!」



「ま、まだ気にしてたの…」


息を整えついでに思わず言ってしまった


てゆうかそれ、後半は個人的な恨みじゃ…





「なるほどなるほど…彼女のコトが大事か

それならこの手は有効だろうね」





黒づくめがニヤリと笑った、その瞬間


抱えていた腕を鎖と分銅に変化させて
椿さんを巻き締めると


彼女の首にくくった鎖を示して見せた





「オイ、何してやがるテメェ…!」


「見ての通り人質だとも 君の動きが速かろうが
私が彼女の首をへし折る方が速いのは明白だろう」


「せこいハッタリかましてんじゃねぇぞ!」


「ハッタリかどうか、試してみるかね?





ぐい、と鎖が首に食い込んだように見えて

ブラック☆スター君の動きが止まる





「おっと そこのハサミ君もおかしな真似は
止めたまえ?彼女の命が惜しければね





その一声に、僕もその場で動けなくなる







こっそり横から近づこうとしたのを
気付かれるとは思ってたけれど


ブラック☆スター君ほどの武闘派を前にして


両方ともをけん制してる、この男はただ者じゃない





「さて 逃げる為に二人とも殴殺しておきたいが
下手をして波長を打ち込まれるのは避けたい」


「安心しろよクソ野郎が、テメェが逃げようと
背中見せたらスグに打ち込んでやるからよぉ!」



「と、物騒な発言をされている事だし…
確実に逃げれる手を使わせてもらおうか!





黒づくめの右手が大きな鉄球のついた鎖に変わり

それが頭上でぐるぐると振り回され





勢いのついた鉄球の一撃が空を横切って


僕らの周りに生えていた木々をのき並み
へし折って、頭上に振り落としていく



「うわあぁぁぁぁぁっ!!」


「くっ!」







落ちてくる木の幹をどうにか避けて


舞い上がった土ケムリがおさまってみれば
黒づくめは再び姿を消していた





材木置き場みたくなったその場にへたり込む僕を

側に寄ったブラック☆スター君が
鋭い目つきで見下ろして呟く





「ったく、お前がチンタラしてなきゃ
あの野郎に一発かませたのによ」


「ご…ゴメン、なさ…はひ…」





無茶を言われてるのは分かってるけど


口答えする勇気も体力もなく、僕は肩で
ぜはぜは言いながらようやく立ち上がる







けど彼は僕の調子なんかおかまいなしで
ズンズン先へと進み始める





「ちょ…ちょっと待ってよ!
本当に、そっちで合ってるんですか!?


ハイペースさと体力の違いに思わず叫んで


次の瞬間 エリの辺りをぐっとつかまれた





「オレ様のカンを疑ってんのか?


「そ…そう言うワケでは…」





間近に見える黒い瞳が怒りに燃えているのを見て

僕はおびえてごまかすくらいしか出来ない





本当は、ちょっとでいいからペースを
合わせてほしいだけだけれども


そんなコトを言える状況でも立場でもないのは
哀しいくらい自覚してた







チッと舌打ちが飛んで 首から手が放される





「BIGな暗殺者のオレの五感に狂いはねぇ
…あの野郎は、この先へ突っ走ってった」


「わ、分かった…ゴメンなさい」







居たたまれない空気になりながらも、走り出した
彼の後へと着いて行くと


うっそうとした木々の光景が途切れて





山肌にぽっかりと開いた洞窟が目の前に現れた





「ど…洞窟?」


「へっ、やっぱりゴキブリは穴倉を好むもんだな!」


なんか違う気がする…


あとゴキブリ呼ばわりは、あの男の見た目から
そのまま取ってるんだろうな





余計なコトを考えながらも共に入り口へ足を

踏み出しかけて…大事なコトに気付いた





「ってランタンもなしにこの中入るの?」


持ってねぇから当然だろ!つーか
あの野郎だって持たずに入ってんだろ」


「いやまぁそうだけど…ええ?」





ふに落ちない台詞に首をひねりながらも

僕だって明かりになりそうなモノなんか
なに一つ持ってないから、仕方なく従うコトに







「おいコラそこの童ども、その洞窟にゃ
入っちゃならんだぁ!」






ビックリして後ろを振り向いてみたら


雑木林から、しょぼくれたおジイさんが二人
斧を片手に近寄ってきた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


ブラック:の奴、マジ体力無くて
使えねぇダメダメ信者だな


狐狗狸:あくまで基本スペックは普通だからね
てーか体力は君と比べちゃダメでしょ


ブラック:まっ、オレ様に叶う奴なんざ
いやしねーけどなぁ!ひゃっはっはっは!!


狐狗狸:…ええと絶賛囚われ中の椿さーん

あの岩山から出てきた時には洞窟には
ノータッチだったんですか?


椿:え、ええ 途中で標的を見失って
一旦仕切り直しで適当な場所に出た先が


狐狗狸:がいた崖下の地点、と
なるほど…ありがとうございます


椿:いえいえ♪




次回ぐらいには詳しい展開とかが
来る…来させられるようガンバリます!


様 読んでいただきありがとうございました!