―魔法攻撃後/2番塔(?)廊下―





錠前を破壊後、城内の撹乱のため

五人が移動開始していた矢先に





「っが、あぅああぁぁ!?


「…キャアっ!





が頭を抱えてうめき出し


同時にキムも両耳を抑えて顔をしかめる





「二人とも大丈夫ですか!?」





あわてて駆けよるオックスに対し


一気に血の気の失せた顔をしながらも


よろよろと、彼は身を起こして答える





だ、いじょ、ぶ…ちょっと、アラクネの部屋から
流れでた魔力の、あおり食らっただけ」


「そう…悪いんだけどもうちょい離れて歩いて
アンタの波長のせいで、耳鳴りがヒドいの」





機嫌悪げに言うキムへ、少年は頷いて
もう数歩ばかり距離をとった







「なんつーか、ざっとは聞いたがすさまじいな」


「正直、じっとしてるだけでも吐きそう…
なんか魔力が城のあちこちにありすぎ、て」


「キムやメデューサとかもふくめりゃ七人も
魔法を使えるヤツがいるワケだしな、この城」





納得したようなキリクの台詞へ





『八人よ、アンジェラって言う
小さな魔女の子がいるもの』


『いや…その子とあの老人が言っていた
"魔導師"も加えれば九人だ』


ジャッキーとハーバーが訂正を入れる





「"魔導師"…」





呟いたの記憶は、


不鮮明な意識の中で聞いた
悪魔カッツェルの言葉と


禍々しい左腕から感じた"魔力"を思い出す





『どうかしたのかい?』


「…なんでも、ない」


「引き続き城内での陽動、それと魔女アンジェラの
保護に務めますが 着いてこれますか?


仕切り直すように言ったオックスの問いへ
首を縦に振りながら彼は


一件が片付いて、マカやキッドらに顔を合わせた時





口に出すべき言葉を 頭の片隅で探していた












Nono episodio 二律背反の怪人











―同時刻/"女王蜘蛛の間"前―





マカの手を借りて立ち上がったソウルは


過去を振り返りながらも、決意を
新たに前を向いていた





いまだ開ききらぬ門を見据えながら


幻覚から解放されたメデューサが淡々と語る





「アラクネは私と違って
直接的な攻撃魔法が得意じゃない」


「今のように内面から攻撃してくるの?」


エエ…そのためにマカちゃんの"魂感知能力"や
"退魔の波長"が必要になってくる…」





大きく左右へ扉が開いてゆき


溢れだしてゆく、おぞましい魂の波長
感じながらもマカ達は室内へと踏み出して





『何だ これっ?』


天井から床までびっしりと


縦横無尽に張り巡らされ、空間を埋め尽くす
蜘蛛の巣を目の当たりにする





「すごい蜘蛛の巣…」


『切りつけたらしばらく絡まりそうだな』





波長を頼りに糸をかき分けるマカだが


尋常ならぬ糸の太さと、密度のせいで
見通しは悪く不安が拭えない





メデューサも埒が明かないと感じてか





下がってて ベクトルアローで切り拓くわ」


矢印を操り、行く手を塞ぐ糸を幾つか寸断し
通れるだけの道を作り出す







幾重もの巣をくぐり抜けたその奥


チェッカーボードのような床の先、少しだけ
高くなった段差の上に


アラクネは…微動だにせず座っていた





「エ…どうなってるの?」


『何だ…どうした…』





訊ねるソウルへ答えず、戸惑いながらマカは
側にいるメデューサの魂を確かめるが





間を置かずにアラクネの身体が


糸の切れた人形のようにその場へ倒れ、横たわる





彼女のその身体には…あるべきハズの魂は
もう存在してはいなかった










―室内突入後/ババ・ヤガー城内―





管理室へとたどり着いたモスキートと

傷だらけのその姿を、兵隊は口々に心配する


だが当人はそれらに構うことなく


アラクネの警護を命じたはずの者達
管理室に控えている事を言及する





「エイボン様に下がってよいと言われまして
戻ってまいりました」





返ってきた敬礼と言葉へ眉間のシワを深め


収まらぬ城内の混乱を鎮圧するよう
管理室にいた全ての兵へ命じると







勝手なまねを 貴様どういうつもりだ!!」





吸血鬼は、ただ一人残った青年を問い詰めた





「いえ…私もアラクネ様に言われたまでを…」


「ウソをつくな 何が狙いだ…
薄気味悪い魔導師め…」






いまや不審と怒りが最高潮へと達しつつある
モスキートに対し


"エイボン"と呼ばれた青年は


あくまで平静な面持ちを崩そうとしない







…一方





「ギリコ様!!ギリコ様!!


てんやわんやの状況から、どうにか
ギリコの部屋へとたどり着いた兵の一人が


非常時の戦力を求めてドアを叩く


が…肝心の当人はぐっすりと寝入っていた





それもそのハズ





通路に、リズとパティの得意げな声が響く


『アラクネの幹部に晩酌付き合わされてな
一服もってやった 強烈な睡眠薬をな


「…よくそんなもの持っていたな」


『昔よく使ってた手口よ』





姉妹での連携プレーに呆れつつも


モスキートの波長を追って廊下を駆け





セキュリティ管理室へたどり着いた
キッドが見たのは





数羽のコウモリをまとって臨戦態勢に
入っている吸血鬼と


左手にぶら下げている本の開ききったページから


黒い芋虫にも似た、魔法生物と思しきものを
出現させて対峙している褐色の肌の青年だった





ただならぬ様子と見て取って


咄嗟にキッドは入り口の死角へ身を潜め
事の成り行きと"青年の魂"を注視する







「魂反応はいたって静か…なのに
底が見えない恐ろしさがある」





同時に、微かにその波長に"見覚えがある"点も

少年の疑問を生み出してゆく


「あの男は何者だ…!?」







―同時刻/ババ・ヤガー城前―





呼吸を合わせ、待機部隊が城を包囲して進撃し





「こちとら死武専だ!!」


アラクノ!!ちょづいてんじゃねぇぞ!!」


「死武専が攻めてきたぞ!!」


総勢三百人のアラクノフォビア兵との
乱戦を行い始めて 十分以上が経過した





数の上ではアラクノフォビアに分があるものの


戦力と統率で言えば、死武専の部隊が
引けを取るはずもなく


狙い通り…敵勢力を少しずつだが削いでいる





君は無事オックスチームと合流
現在、城内の陽動のため共に行動中だそうです」


「そうか」





声色に安堵を乗せた死人の意識は





死人!!上を見てくれ』


「ああ…」





お互いに城の壁面と、無数の刀を足場にして


空中戦を続けているブラック☆スターと
ミフネへ向けられる







斬り合う合間、両者の視線は片時たりとも
逸れる事も逸らされる暇もなく





「乱立の並(ならび)」





放たれた刀の一本が放射状を描き


壁をも容易く貫く一撃をかわした
ブラック☆スターが間合いを縮めるが





大上段で打ち下ろされた右手の刀が
周囲へ配していた数本を勢いよく巻きこみ


数条の爪に似た剣閃となって叩きこまれた





落とされて痛みにうめく猶予などなく
降り注いでくる刀を目にして


彼は倒れた状態からバク転を繰り出し回避する





だが着地したミフネが、避けられて刺さった
刀すらも利用した攻撃をお見舞いし


その後の斬撃を跳んで避けた後の蹴りを
アゴ先にもらいながらも刀を手放さず


所かもう一刀を手にして十字に構え


弾き飛ばす要領で少年の胴を両断した





…しかし、切り飛ばされる身体の向こう側


傷口から血を滴らせながらも


武器化した椿を逆手に握りしめ
ブラック☆スターは健在している





「絶影か…」





質量を持つ程の高速の影分身があれど


負った傷は深く、相手の攻撃は激しく
近づく隙など与えられはしない






「ブラック☆スター…何を迷う

オレはとうに捨てたぞ


刀をまとい直すミフネの一言が


その事実を、余計に強調していた









―★戦闘中/管理室付近―





お前は目障りだエイボン 始末する


イヤ…「エイボン」の名を語る
偽物と言った方がよろしいかな?」






怒りを含む嘲りにすら興味を示さず


「エイボンの書」を手にしていた青年は


"すべてを本へと収集する"と口にした





八百年前の姿と力を開放しかけていた吸血鬼は


その最中で、魔導生物の牙に貫かれた





「最期に…私の本当の名を教えましょうか?」


「フン…興味ない
強欲で意地汚い男の名前などな」


「そう、私は強欲な収集家…

「ノア」と言います






魔導生物の吐き出した光線がモスキートを
一瞬にして葬り去って





男の危険さと実力差とを見切ったキッドが
退却を試みた…その刹那







コレクト対象発見!!

はじめまして死神君」



背にした壁から顔を出したノアが

身を潜めていたキッドを、間近で覗きこんでいた








手にした銃を二丁とも放り投げたのと


本の中へ少年が吸いこまれたのは、同時だった





"死神""BREW"を手に入れた、と
嬉しげに呟き去りかけるノアへ


人へと戻ったリズが銃口を突きつける





「せっかく助けられた命だ
無駄にしない方がいいですよ」


「キッドを 返せ!!」


押し殺していてもなお、恐怖で汗を浮かべ
震える身体で狙いを定めている相手へ





振り返る事なく、ノアは立ち去ってゆく





追い縋ろうとするパティと止めるリズが
しばしその場で口論を起こすが





私だってキッドを助けたいよ、だけど…
パティを殺させるワケにはいかないだろ」





悔しさと悲しさに 涙を零す姉の頭を撫でながら





ちくしょう…じゃあ、どうすんだよ…」


武器化を解除した妹もまた、悔しさを
噛みしめるしかなかった








    ―"死神"収奪後/ババ・ヤガー城前―





ナイグスの叱咤を聞いても、死人は


"二人の戦いを見届ける"事を選択をした





「椿…影☆星 零ノ型」 『はい』





ブラック☆スターの手の中で椿の形状が
黒い奔流と変わって天へと高く伸び


直角に急降下してパートナーの周囲で渦巻き


一体と化した闇を背負って…日本刀の形
「正宗」になった彼女を右手に握りしめて





「オレに迷いなんてない」





左手を前へと交差させた腰だめの体勢で
ブラック☆スターは答える





「武の道を進む以上 死ぬ覚悟もできている」







逃げも隠れもしない視線を受け止めて





「ならば…もう一つの覚悟はお前にあるのか?」





ミフネは、更に問いを重ねる









―同時刻/城内廊下―





対象を本の中へ"収奪"したノアは


喧騒に満ちた城内を悠々と闊歩し、あらかじめ
打ち合わせていた場所へと移動する





「さて…ルートの方は万全ですか?」





独り言めいた問いかけに


ノアの側へと、どこからともなくひらひらと
近づいてきた"白い鳥"が答える





まっかせて!アタシのテクは評判なのよん♪
よっぽどでなきゃバレやしないわぁ』


「そうでなければ、私がアシストをした意味が
ありませんからね…道徳操作器はどうでした?」


『本体はダメにされちゃったけど、設計は頭に
イれたから成果はまずまずってトコおぉん?』





付かず離れずの位置に鳥を滞空させ


が甘ったるい声でささやきかける





『ねーえノアちゃん、ホントにには
ひとカケラ足りとも興味な・い・の?』





返答は、至って素っ気なかった





「未熟で不完全な術式も、凡百に堕ちた
"双剣"の血もコレクト対象には成りえません」


『あぁん手厳っしいわねぇう〜けどノアちゃんの
そーいう態度ソソるわぅあん♪』



「私には理解できませんがね、価値の
無いものにこだわり続けるアナタの生き方が」


『うふふ、だからいいのよぉん





紙の鳥を通した先で答える魔女は





『先を目指すための踏み台があってこそ
完成品は、よりその価値を増・す・の・よ?』



"すべてを本に収めたい"と自らの欲を吐き出した
青年と、とても酷似した顔で笑っていた







―"魔導師"逃亡中/城内廊下―





妨害をカモフラージュに、仕込まれていた
"逃亡用の防壁""利用者"の存在を





極寒の海へ全裸で放り込まれた
等しい激痛を持って感じ取り





「っあ゛……!?





否応なくヒザを崩した


避けられたはずの敵の攻撃を食らって

壁に叩きつけられて傷を増やした





歯を食いしばり あわてて炎で敵の追撃を阻止した
キムが、少年を怒鳴りつける





「ちょっと!何やってんのよアンタ!!」


「…ご、ゴメン…油断、した」


『そっちに一人行ったよ!』





続いたハーバーの忠告を、今度は無駄にせず
腕を刃に変えて攻撃を防ぐ







戦闘に身を投じる傍ら…遠ざかる波長に耐える彼は


波長の主こそが左腕の悪魔を授けた"魔導師"と
直感的に確信したけれど





『…クソっ…何だ、ここは!?……!!』





その波長から…わずかに聞こえたキッドの声に


とてつもなく悪い予感を拭えずにいた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:フリーとモス、"BREW"の魔力や
魔道具(兵も?)入れれば城内はウチの子にとって
針のむしろもいいトコでしょう


メデューサ:年明けからあんまりな発言すぎて
ちょっと彼に同情しちゃうわ


エルカ:ウソくさ…けど脱出のためとはいえ
あの女に協力するヤツがいたなんてね


ノア:利害が一致したので、少しばかり
手を貸したまでですよ


狐狗狸:…まあ彼と一緒のタイミングで
脱出しないと最悪君らと鉢合わせてたと思うよ


エルカ:ゲロッ!?考えたくもないわ!!


アラクネ:サブタイの元ネタ、当然私も
読んでいましたわ…まさか探偵の博


狐狗狸:ミステリのネタバレは禁じ手ですから!
出番まだだから露骨な嫌がらせはヤメテ!!




次回、再び★のターン!


様 読んでいただきありがとうございました!