―戦闘終了後/8番塔廊下―





ちょうどジジイが人間の姿へ戻った所で


何かが爆発した音が、廊下中に響き渡った





「爆発が近い―…8番塔の"錠前"が破壊された?」





狼男が上手くやってくれたようだ





「空間魔法
映像転送(フォワーディング・ビジョン)」






こっちのフォローもあったとはいえ


前夜祭ん時の私らみたく、ジジイがここにいる
"本人の映像"に騙されてくれてて助かった





映像の狼男が消えていくのとほぼ同時に





おのれ…このままではアラクネ様の身が危ない」


"BREW"を預けとく、とか言って
コウモリになったジジイも廊下の奥へ消えていく





た、助かった…キッドも何だかボロボロだったし





大丈夫?キッド君…」


「ど、どうする?」





一旦人の姿に戻って聞いてみたけど、キッドは
ジジイを放っておくつもりはないらしい





『…腕くっついたばっかだし、無茶すんなよ?』


「わかっている」







―8番錠前破壊後/2番塔待合室―





"魔道具兵"とかいうモンに勘違いされて
ミョーなトコに連れて来られて


敵地のど真ん中でろくに動けねぇままだったが





「爆発がやまないな」


「2番塔(ここ)の陥落は
なんとしてもまぬがれなければ」





6回めの爆発が起きた辺りで
グダグダ考えんのもめんどくさくなったんで





「オレでした」


…と、うっとーしいフード取って宣言する





思った通り、変な形してる兵隊どもの
視線がビリビリ突き刺さってきやがるぜ





「何だ?」 「変わった魔道具兵だな」





呼びかけたファイアーとサンダーが武器化して
オレの両拳へと収まる


数が多いのが面倒だが…





「かますぜ 一発よ」


メデューサの魔法「ベクトルブースト」
左右一発ずつ拳にかかってる


こいつも使って一掃してやるぜ!!





「ベクトルブースト」





間近にいた兵隊を殴れば、そいつを中心に

吹き上がった炎が周囲の連中も巻きこんでいく





「ぎゃあああああぁ」


何だこいつ!バグったか!?」












L'ottavo episodio 秘密を知る怪物











―同時刻/城内廊下―





吸血鬼を追って廊下を走りながら、オレは


あの時 自分の身に起きたコトを改めて考えていた





…このコトを、予見していたのだろうか


それで父上はオレに"BREW"をわたしたのか





「なんであれ、父上の期待に応えなければ





『…なぁキッド 魔道具はあと2個残ってんだろ?
そっちを優先にしなくていいの?』


「メデューサ一派の連携はとれてる
フリーの穴もエルカとミズネたちで埋まるだろう」





奴を放置するのは気が進まんが


今のオレ達の役目は城の中心を攻めて
かきみだし、「錠前」の破壊を手助けするコト






「それに さっきの吸血鬼も中心に向かったはずだ」





言いつつ、元きた通路を引き返しながらも


少し前まで気付かなかった波長に 内心疑問を抱く







この波長…魔女はともかくとして


が何故城内(ここ)にいるんだ?









―少年戦闘中/2番塔待合室―





いきなり現れたガキの、拳二発が炎と雷を巻き起こし


室内にいたほとんどの魔道具兵があっという間に
使い物にならなくなってしまった





「オレに任せてくれ、オレの魔道具的洞察力で
こいつの正体を暴いてやろう」






肌年齢とかのデータは役に立たんが


どうやら、このガキは死武専生らしい





それだけ分かれば十分だ
後はオレに任せてもらおう」





世界中の格闘技をインプットされた、巨体の
魔道具兵がガキの正面へと立つ





いいね 骨のありそうな奴が出てきたぜ」


「ボクシングのフットワークから」


「速い!!」 「相撲の猫だまし」


顔の前で両手を叩かれ、相手もオレもぽかんとする





兵は強烈なケリを繰り出しておきながら

猫だまし、そして鋭い拳での突きを繰り出して





「猫だま…」


ああっ!?殴られた!!

というか一体なんの役に立つんだ猫だましって!





倒れた兵に代わって、さっきのデータを
収集してた兵が前へと出てくる





「私は相手の行動の20手先を読むことができる
見える…見えるぞ…お前の行動





おお!ガキの方も何だか戸惑っているぞ


これはいけるか!と期待して眺めていたが







「投了 まいりました「ハァ!?」





先が読めても倒す手が無かった、と言い出し

顔面を殴られあっさり倒されてしまった





「くそぉ〜こいつ強いぞ」


「オレたちでは歯がたたない…増援はまだか?


「どうも城内のあちこちでおかしな術が
しかけられたらしく、大騒ぎらしい」





このままじゃガキ一人に全滅か…?





「いや…!!たしか大魔導師エイボン様
直々に作り上げたという魔道具兵がいたはずだ」


「オレのことか!?」





オレの言葉が終わらぬ内に、自信満々で現れたのは


…犬に似たぬいぐるみにしか
見えないようなちっこい兵だった





「お前が…!?」


「ああ 玩具用魔道具兵「もるび」だ」





ダメだこりゃ…と、早々に諦めかけていたが


もるびの動きに釣られ、ガキの魔武器が
両方とも拳から剥がれていく






しめた!夢中になってる今がチャンスだ!!





「ゲ…やべェ





丸腰になったガキへ、オレ達は一斉に襲いかかった







―少年苦戦中/2番塔廊下―





さっきまでの邪魔は何だったのってくらい


紙で出来た壁やら巨人やら罠が、私たちを
襲ってくるコトはピタリとなくなった





「本当に、この魔力溜まりの先に
キリク君がいるのかな?」


「潜入時にも彼は、魔道具兵だと間違えられて
いましたからね…予定地点にいなければ
勘違いで連れてゆかれた可能性は高いでしょう」





兵隊が来るコトはほとんどないし、戦力は十分


オックスとが道案内してくれるから
廊下も迷うコトなく素通り状態





だけど…私はどうしても不安だった





「ねぇ、本当にこいつを信用してもいいの?





ジャッキーが、まるで私の気持ちを
代弁するかのようにツナギ男を指さす





「魔女に恨みを持ってて、魔力を感じ取れる
力があるんでしょ?」



「それにオックスたちを奇襲してまで作戦を
妨害したっていうなら、今ここにいるのだって…」


「そんなコトは「許してくれなくていい」


反論しようとしたオックスを遮って





「それでもあやまりたいから来た

自己満足でもなんでもいい、助けたいから来た





答えるアイツの、うざったい前髪で隠れてた
鳶色の瞳がまっすぐに…私たちを見ていた





「一人で置いてかれんのは―もうイヤなんだ」





それ以上 私とジャッキーは何も言えなかった







―同時刻/1番塔―





それにしても返す返す参っちゃうわね


残りはこの1番塔だけだってのに、一緒に
移動してたフリーが2番塔へ勝手に行ったあげく


どじっぺで逆の8番塔目指しちゃうなんて…





「いつあの変態女が気まぐれでこっちに
ちょっかいかけるか分からないってのに、もう」


今のトコ、アラクネの兵隊以外
邪魔されてないみたいだけど 警戒は必要よね





…ま、ミズネが3人いるし 計画に支障ないか







ゲコゲコ 「錠前」の部屋についたようね
私がバクダンを仕掛けてる間、敵をひきつけといて」


「チチチ」





打ち合わせて、パイプを飛び出したミズネが
合体して暴れまわっているのを眺めつつ





「今のうちにオタマボムを「錠前」に仕掛けないと」





私もパイプから出て、生み出したオタマボムを


混戦の隙間を縫って取り付けに行く





「お前…魔女か!!
なぜ魔女がアラクノフォビアの邪魔を」



「チチチ…ちょろいちょろい」







いい感じに時間を稼いでくれたおかげで
十分な数を設置できたので





「ミズネェエ!!こっちはOKよ!!
早く逃げましょ!!」



「手際がいいわねエルエルは♪」





ネズミに戻ったミズネとパイプへ避難する









―爆弾設置中/2番塔―





必死に逃げ回るキリクを追っかけてた
デカい魔道具兵二体を





「雷王穿(らいおうせん)!!」


「ヴォルランタン」


オックスとキムの攻撃でまとめてぶっ飛ばした





「…オックス キム!ジャッキー!


「すみません遅くなりました」


二人が拳を交わし合った直後





「ハーバー君?一体何を…





ファイアーとサンダーと、一緒になって遊んでた
ぬいぐるみみたいな兵隊を


ハーバーが無表情で仕留める





こ…コワすぎこいつ!何で平然としてんの!?





「魔道具のもとへ急ごう…どうかしたかい?」


「いや、う…うん」







やっぱり他のみんなもコワかったのか


「錠前」へ移動する間も、しばらく誰も
口を利かずに黙ったまま進んでいた





「…ハーバー君って案外ヨウシャない」





後ろのの呟きに、私もつい頷きそうになる





お前が言うなよ、てか何でいるんだよ?」


「話せば長くなるけど、平たく言えば僕は
勝手にあやまりに来たってトコ」


「足手まといはいらねーぞ」


「嫌いなままで捨ててってくれてもいいよ
今度は、ジャマなんてしねぇから





ちらりと振り返れば、キリクが笑って


の背中をポンと叩いてるのが見えた





お前、煮え切らねぇダサいバカかと思ってたら
案外熱いヤツだったんだな」


「…キリク君ほどじゃないさ」





二言三言かわしてるウチに
ほどなく、大きな「錠前」へとたどり着いたので





「いくぞ!!用意はいいか?」


全員で息を合わせ 総攻撃を仕掛けた











―錠前破壊後/"女王蜘蛛の間"前―





城内が騒がしくなったり、の波長
出たとかマカが言い出したりで


どうなるかと思ったが無事に「錠前」は破壊され


やたらとデカい門が、重い音を立てて開く





「結界が解けたようね」


「この中にアラクネがいるんだな」





中の波長を探ろうと、マカが目を閉じた直後





「いけない!!魔法攻撃!?」


メデューサの叫び声が聞こえて…







急に身体の力が抜け、オレは立っていられずに
ゆるんで…床へとしずんでいく





気がつけば 小鬼がそばに立っていた





ぶざまだな それがお前だ」





立ち上がってみろとエラそうにはやしたてる
ムカつく面を殴ってやりたくて


けれど…どれほど力を入れても


オレは立てずに、床に倒れたまま





「クール気取って冷静ぶって 皮肉って…

何様だ?よく自分を見てみろよ…こんなだぜ」





言われなくても分かってる、そんなコト







決まってこんな時に頭をよぎるのは
兄貴(ウェス)との想い出





『驚いたよな まさかうちのような音楽一家に
「武器」の血が流れていたなんて』






鎌に変化した左腕を眺めて、思ったよ


これで逃げる口実が出来た…って







「お前は何がしたい?どうしたい?
お前の信念は何だ?

お前はどこに進みたい?言ってみろよ





必死で口を動かすけれど、聞こえてくるのは

カパカパと開閉する音だけ





「一生はいつくばってろクリープ野郎
消去法でしか進めない臆病者」



言うだけ言って小鬼はどこかへ消えていく





オレは…ずっと、このままなのか…?







―同時刻/"女王蜘蛛の間"前―





クロナの波長を探そうとした瞬間





「いけない!!魔法攻撃!?」





門の中から出てきた糸が身体に絡みついて


操り人形になったような感覚が襲って
しばらく身動きができなかった







意識を集中させ、どうにか動けるようになって


糸を振りほどいて自由にはなったけど…

ソウルの位置が分からない





「早く助けないと…!?」


いつの間にか周りが暗くなって、闇から
次々とクモが沸き出してくる






「ジャマしないで、このっ!!





本で振り払ってもキリが無くて





覆い尽くされるんじゃないかって、不安が
こみ上げてきた…次の瞬間







甲高い どこかで聞いたような"耳鳴り"がした







それと同時に辺りに群がってたクモがざわついて


出来た隙間を突破口に、クモを蹴散らして


アラクネに引きずられているソウルを見つけ出す





「マカァアアアチョォオプ!!」





繋がっている糸を断ち切って


ソウルの頭にもマカチョップを食らわせれば
ようやく、まやかしが全部消え去った





んがぁ…!?くあああ…」


よし、頭を抑えてるけど無事みたいね





「ほら 何やってんの」





手を差し出せば、ソウルはちゃんと握り返して
立ち上がってくれた


安心した一方で…私はあの"耳鳴り"を思い出す


アレは一体、何だったんだろう…





そう言えば、前夜祭の事件で鬼神がいる場所へ
近づいていった時にも


君の魂から 聞こえてきていたような





…何にしても、気を引き締めていかなきゃ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:猫だましは巧く使えば効果的なんだけど
今回のはダメな方の使い方だねぇ


エイボン:私の出番を削るとは思い切りましたね


狐狗狸:じじじ次回はちゃんと出ますから
どうかお引き取りください!


ミズネ:結局、あのヤギ女は何がしたかったの?


フリー:オレたちを邪魔したいのか助けたいのか
さっぱり分からんな、ああ!帰り道も分からんさ


狐狗狸:いやいや結論を急ぎ過ぎちゃいけませんよ
てかフリーさんまた迷子ですか?


モス:おのれ!アラクネ様の出番を削るとは!
身の程知らずな無礼者めが!!



狐狗狸:うるせぇ十字架ぶつけんぞ吸血鬼!




錠前破壊が年内に間に合ってよかったです


様 読んでいただきありがとうございました!