―少年治療後/城内廊下―





キムの魔法によって、怪我と髪の毛を元通り
治療してもらったオックスは


彼女の案内に従い、気絶させたジャッキーを
抱えたハーバーと共に道徳操作器の元へ移動し





多少の妨害はあれど破壊に成功した





「う…私は…?」


ジャッキー!気がついたのね!!」





降ろしてもらったジャッキーは


キムに 守れなかった事を

オックス達には、操られていたといえど
炎をぶつけた事を謝った





「ケガはキムが治してあげたの?」


「そっそう!一応、悪いのはこっちだし…」


アナタは悪くありませんよ!
洗脳されていただけだったんですから」


どことなく顔を赤らめる二人を見て


パートナーの武器同士が、何かあったの?
言いたげな顔で視線を交わす





「とにかく僕らもすぐキリクと合流しよう
歩けますかジャクリーン?」


「平気、迷惑かけた分ちゃんと戦うから」


んっもー!ちょぉっと目を離してたら
魔道具壊されちゃったあぁん、ひっどおぅい!』






どこからともなく響く声に四人が身構える





「この声…さっきの魔女だ!


『初々しいお子様の時間は終・わ・り♪
ここからはただれた大人の時間を味わいなさぃん?





言葉が終わらない内に周囲から現れた白い巨人に


キムとジャッキーも顔色を変えた





「あの声にこの術…まさか、!?







―二箇所陥落後/8番塔廊下―





三箇所に続き、4番塔・7番塔も陥落し


作戦開始を宣言した地点より、一番遠い8番塔
順調に進んでいたキッドは…





「左に曲がった後なんだから次は「右」だろ?
「左」だと?虫酸が走るわ





道標が自分の美学に反していた事を許せず猛反発


リズとパティが全力で引っ張っても、角に
捕まって思いっきり抵抗し続けていた





だが時間も迫りらちが明かないため





「あの牢獄でたち探してた時見たく
目をつぶってれば左に曲がるなんてあっという間だ」





というリズの提案を受け入れ、両目を塞がれ
手を引いてもらい歩き出したキッドを


パティが壁に激突させて誤魔化し


これでようやく廊下を前進出来るようになった
…と、思いきや





「前だと?これ以上前に進ませるわけにはいかんな
やってくれたな 死神


暗闇から、8番の錠前を護るべくモスキートが現れ


お互いに臨戦態勢を取る彼らの前へ





「よ〜しここを左だなッ」


「ん?」  「ぬ?」  「む?」





やって来たフリーが、不思議そうな顔で
居並ぶ彼らへ見返しながら問う





「ここ2番塔だよな?」


「「8番だ」」


キッドとモスキートの声が見事なまでにハモった












Settimo episodio 闇にて狙う照準











「もう一度聞こう…ここ2番塔だよな?」


「いや8番だ」





間を置いて考えこみ、ようやく自らの間違い
気づいたフリーが頭を抱え


その様子をせせら笑い、モスキートは宣言する





「お前を魔道具に近づけはさせん」







急ぐ状況と、目の前の強敵に

さしもの彼も共闘を申し出た





「死神と共闘するのは癪にさわるがなァ」


こちらこそ虫酸が走る 鬼神をこの世に
解き放ち…世界を散らかしおって」






"錠前"の破壊を主に利害一致しているキッドも


チャンスがあればどちらかが先へ進む事を
口にして 因縁のある相手への共同戦線を望んだ





両者の先制を難なくガードする老人だが





フリーが魔法で固めた氷の拳を受け
文字通り面食らう





「魔法だと!?」


効いた!?あの硬いジジィが…」


相手が動揺しているスキに、先へ行く事を
リズがキッドへと促すのだが





「氷柱拳」





バカもの 進行方向に飛ばすな!!」


共闘相手のドジにより、そのチャンスは
あっけなくフイにされてしまう





「知っているぞ魔眼の男―…死神…そして狼男か
…百年前の姿ではかなわないようだ」


「"BREW"戦で言っていた通り…
まだ変身を残しているようだな」


「見せてやろう 二百年前の姿をなァ」





独特の咆哮と同時に体型がいびつに変化して


異常に長い両腕と長大な鼻を持つ、4足歩行に
変身したモスキートは素早く飛び上がり





手の平でキッドとフリーの首根をつかんで


壁へと押し付けながら廊下を走りだす





「ぐぅあ」


ぬぐぅ…」





苦しみながらも、両足を踏ん張ったフリーが
相手の鼻をつかみ返して投げ飛ばし


拍子に解放されたキッドが


自分へ狙いを定める老兵の追撃をかわし
いなしながら波長を連射で繰り出す





正確に追尾する波長を置き去りに
壁を駆けるモスキートの進路へ





「氷柱体!!」


氷の柱が次々と出現し、命中した攻撃に
落ちた巨体へキッドが距離を詰める





伸びる腕を払い、頭上狙いの鼻を銃で防ぎ


三連続の蹴りの直後、体制が崩れたのを
見計らって銃弾の二連射がアゴへ叩き込まれる





逃れようとするモスキートの足を氷で封じ





「ウーッルフウルブスウルフウルブス
まだまだ終わらんさ



続けざまの連打に倒れた相手を


フリーが 発動した魔術
極寒の豚箱(ア・ヴァシリ)へ閉じ込め





「いくぞ死神!!」


「ああ リズ、パティ!」 『ほい』『おう』





魔眼砲とデスキャノンを直撃させた






     「ぬぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁ」









―同時刻/城内廊下―





外の騒がしさに、女王蜘蛛の間から
出てきた浅黒い肌の青年へ兵は答える





「死武専の者がこの城に侵入して来たようです」


それは大事ですね、しかし幸いアラクネ様の
魔法も最終段階に入ったところです」


「オオッそれは何よりですね エイボン様





"エイボン"と呼ばれた彼は不敵な笑みをたたえ


側にいる兵隊に気付かれぬよう、もう一つの
波長が接近した方へ視線を送った









折しも少し前に上空で





「離せっ…このド腐れトカゲぇ!





一直線に城へ引っ張られた
竜を撃退し、支えを失って落下した所であった





度重なる破壊によって脆くなっていたのか


外壁を破壊して少年は、ガレキと一緒に
廊下へと墜落する





「ごはっ…!」


幸い致命傷は免れたものの、あまりの衝撃を受け


は意識を手放した







―少年墜落後/ババ・ヤガー城周辺―





千里眼での通信を終えた梓は


洗脳されていたキムとジャッキーとの交戦

後にキムの改心と、道徳操作器の破壊


「現在はキリクとの合流を目指すも
魔女による妨害を受けているそうです」





以上の情報を部隊の面々へと告げる





「そうか…が連れてゆかれてから
こちらへの妨害はピタリと止んだな」


「ええ、魔力の不足か制御の問題でしょうか?」


「あるいは目的が別にあるかだ…とにかく
もうすぐ城へ着く、気を抜くな!


『了解!!』









―命中後/8番塔廊下―





その威力には耐え切れず身体のほとんどが
吹き飛んだようであったが


爆炎が収まっても…老人は生きていた





「いいだろう…
お前らに本当の地獄を見せてやろう」






宣言したモスキートの魂の波長が
叫び声に呼応して膨れ上がってゆき


変身した"四百年前の姿"





スーツをまとい黒髪を撫で付け、他の
どの姿よりも人間らしい物だったが







「わざわざ四百年も遡ってやったんだ
せめて4秒間は耐えてみせろ





呟いた刹那…身をコウモリへ変じさせて


背後へ回りこみ、無造作に振るった
モスキートの手刀が狼男を瞬断する





驚く合間にキッドも一撃をまともに受け





左腕を切り飛ばされて 前のめりに倒れる






『キッド君…!』





大量の出血に、握りしめられたままのパティが
武器から人へ戻ろうとするも





「バカ!!人間の姿に戻るな!!
じっとしていろ!!」



いつにない剣幕で怒鳴られ思いとどまる







負傷にも構わず身を起こし、鋭い眼差しで
キッドが背後の敵を睨むが





「死神といってもしょせん…子供か…」





頭をつかまれて持ち上げられ


「「ザ ライン オブ サンズ」も未完成…」





夏夜ノ羽音(ナイトメア・ノイズ)
モロに食らって吹き飛ばされる





『狼男!!!
早くキッドを助けて!死んじゃう』






叫ぶリズだが半身を断たれたフリーは
復元に手間取っているのか、ピクリとも動かない





800年―…死神は何をしてきた?
死武専などクソガキのふきだまりよ」


「父上を侮辱するのか!?」





床に倒れながらも睨む少年を見下ろし





アラクノフォビアによる保安組織への侵食を
死神が止める事など出来ないと、彼はせせら笑う





「人間の魂など少しつつけばすぐ釣れる―…


アラクノフォビアが死武専にかわり
世界を牛耳るのも時間の問題だ








痛みよりも何よりも、怒りを覚えて





「貴様等のように下衆な組織に
人の魂の管理はさせん!!

神の領域に踏み入りおってハジをしれ!!



再び身を起こしたキッドの





右腰辺りに装着していたBREWが強い光を放つ







―発動時/ババ・ヤガー城内―





エイボンの波長に呼応したBREWの反応は





「この反応は…」


管理室にいた"エイボン"にも





「どうしたの?メデューサ」


女王蜘蛛の間をマカ達と目指していた
メデューサにもハッキリと届き







「…ぐわっ!?


唐突に訪れた眩しさと 眼球へのとてつもない痛み


の意識を覚醒させる





「なに今の…って、ここは…城内?





あわてて身を起こした直後


身体への痛みと魔力による気持ち悪さ
一気に畳み掛け、立ちくらみを起こしかけるも





「と、とにかく誰かと合流して
死人先生たちに連絡取らないと!」





どうにか踏ん張り少年は廊下を走りだす









―同時刻/8番塔廊下―





BREWの"魂増幅機能"によって、キッドの
頭のラインがひとつ輪になり繋がった


彼の覚醒を目の当たりにして





「間違いない…こいつが使ったのは
本物の"BREW" はかりおったな



事態を察し、モスキートの目と声に怒りが混じる







ちぎれた左腕から伸びた黒い波長が
転がる腕を拾ってくっつけ


戸惑う姉妹を制し、力の充実を実感しながら


キッドは両腕を逆十字にクロスさせて
"死神体術「罰」"の構えをとる





同時に復活していたフリーがバタつきだし





「ふッ…行ったか
ここはオレたちでやらなきゃならんようだな」





何かに気づいて、彼は訝しげな吸血鬼へ
距離を詰め 交差させた腕で同時に攻撃する





手刀による反撃を完全に見切って防ぎ


再びコウモリの大群が波状と化して襲われ
押されながらも、両腕で防ぎきった





「リズ パティ、魂の共鳴」





返事を返してキッドと共鳴をした彼女らも


従来より より巨大な銃と変化していた





『すげぇ!!』


『私たちが撃ちだす魂の魂径が
38魂径から42魂径になっちった』








形勢が変わってか表情を険しくし





「400年前の私はたくさんだった

たくさんの私を とらえられるか






無数のコウモリへ変わったモスキートが
キッドを囲い 自らの身で陣を作り上げる





「何だこれは!?」


「蠢ク闇夜(ダークネスディスコード)」





足元の魔法陣に沿って群がる
コウモリの幕から発された超音波が


四方八方からキッドを苦しめる





「超音波で体内から破壊してくれる!!」





闇そのもののように嘲笑う声へ


歯を食いしばり、彼は銃口を向けて応えた





「飛ぶならきっちり一列に並んで飛べ!!

あの悪魔のように、全部撃ち落としてやる






三途川撃(サンズリバーショット)
絶え間なく放たれ続け


コウモリの幕に開いた穴が大きさを増す





「バカな!!8千匹のコウモリだぞぉ!!」





波長を吹く両銃が黒色の幕を二つに割って


攻撃する手を休めぬまま頭上へ高々と掲げられ





「三途滝(サンズフォール)ー!!!」


キッドの両腕が、上から下へと流れるように
残るコウモリを乱れ撃つ






「SHOT!!」







…コウモリの殆どはチリと消し飛び


反動でヒザをついたキッド同様、人間の姿へ
戻ったモスキートもまた満身創痍となっていた







―少年覚醒後/ババ・ヤガー城内―





追いすがる白い巨人を数体蹴散らし


所々で壁や先の空間のように見せかけた紙の壁を
破壊して進んでいたオックス達だが


「これじゃキリがない!」





おちょくるように壁から飛び出し伸びてくる
白い手へ切りつけている最中


彼らの横にあるもう一方の壁がぐにゃりと歪み





…突き出されたハサミの片刃が





尖った鉤爪を生み出しつつあった壁紙を切り裂き


そこから現れた、薄汚れて負傷してる
ツナギ姿の少年に四人が目を見開く





やっと会えた!早くこっちへ」


君!」


「どうしてアンタがここに!?」


「何もかも道中で話すよ、それより…ッ!





言葉半ばで頭上から降り注ぐ紙の矢を
ほぼ時間差無く完全に叩き落とし


は何もない空間に―どこかにいるであろう
に向かって吠える





「影からちょっかいばっか出しやがって…
いい加減出てきやがれ!ブチ殺ってやるから!


軽ぅく遊んでただけよぉう…ま、今回は
これでカンベンしてあげるわぅあん じゃね☆』





声が止んでもなお苛立たしげに宙を睨む少年へ

オックスが冷静に呼びかける





「時間がありません…説明しながらでいいので
ついて来て下さい」





間を置いて、彼はひとつ頷いた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:バトルシーンはテンション上がります


キッド:それで要点を抜き出すつもりがつい
描写に力を入れてしまった、と?


リズ:清々しいほど行き当たりばったりだな


パティ:やーい無計画〜!


狐狗狸:…いいもん、とりあえず年内には
予定したトコまで進めれそうだし


フリー:途中で迷う事だってあるんじゃないか?
ああ!そうさオレだって間違える!


キッド:いや貴様のは素だろう




錠前の破壊もいよいよ大詰め!だが懸念は消えず…


様 読んでいただきありがとうございました!