―爆発後/ババ・ヤガー城内―





大音量の警報から間を置かぬ爆発に城が揺れ


オレを含めて他の奴らも動揺を隠せずにいたが





「死武専の生徒の突撃…
それに3・5・6番塔で爆発が起きました」



「何ィ?」





どうにか状況報告をするとモスキート様は

落ち着いた様子で現状を分析されていた





アラクネ様は今も魔法をねっておられるため


「何人たりとも「女王蜘蛛の間」には
近づけさせてはならんぞ」






続けて、1・2・4・7番塔の警備を固めるよう
モスキート様から命令が下される





「私も8番に向かう
これ以上"錠前"の破壊を許すな!!



『了解』





速やかに他の兵にも伝達を行いながら塔へと移動し





「だっ!」


降りようとしていた階段に弾かれ、固いものと
衝突した痛みが顔面に襲いかかる





「おい何やってんだよ!」


「知らねーよ見えない何かが」


あったんだ、と言いながら伸ばした階段が
くしゃりと歪んだのをみて





思い切り引き千切れば…破けたトコから壁が見えた





「な…階段じゃなく、絵だと…!?


こんなもん、誰がいつの間に貼りつけたと言うんだ







―同時刻/城内廊下―





作戦は今のところ上手くいってるみてぇだが


どうも調子がよ過ぎる…メデューサの野郎
大人しすぎる、気に食わない





「あいつは魔女だぞ オレは信用できない」


君みたいなコト言わないでよ」


「アイツの名前は口に出すんじゃねーよ」





ただついていくマカへ忠告するけれど





「私だって信用してるわけじゃない…
だけどメデューサがいうコトが本当だったら」





頑固なアイツはロクに耳を貸しやしねぇ





「私のコトでケンカするのはやめて しのびないわ
今はまとまることが大事よ」


「うるせェお前はだまってろ」


行こ…メデューサ いつもいつも
小姑みたいにうるさいんだから」


腹が立つ…平然としてられるメデューサにも
メデューサを信じられるマカにも


結局と似たコト考えてる自分にも





単純バカがー…オレは心配なんだよ」












Sesto episodio 彼こそはヒーロー











―同時刻/野外―





はじめこそ戸惑いはしたものの


死人さんの指示の下に罠を回避
或いは処理しながら


ふざけた迷宮と張り巡らされたセンサーを潜ってゆく





「罠などの扱いに手馴れてるだけあって
いつもながら鮮やかなお手並みですね」


ウチの部隊は優秀だからな、それに
事前に警告をくれるから助かっている」


「ぼ、僕はただ発動箇所が分かるだ…
左側の壁 注意してくださいっ!!





間を置かずに現れた白い巨人を


武器化したナイグスさんで切り伏せ、死人さんは
周囲を警戒後 私達へ前進を促す





「しかし、先行したメデューサやマカ達の話では
今の今まで魔女の妨害など無かったハズ」


「センサーに連動した大掛かりな仕掛けか
昨日の内に森に設置されたか…いずれにせよ
アラクネと協力関係を結んだ可能性も浮上しますね」





私のセリフへ、しかし君は首を横に振る





「確証はないですけど…糸(センサー)以外からは
アラクネの魔力は、感じられません







身体への負担と引き換えに自動で行える"魔力探知"


にわかには信じがたいけれど、前例と実例がある以上

ある程度 信憑性は高いと見るべきかもしれない





うつむき気味の顔は、普段から両目を隠す
前髪のせいで更に分かりづらかったが





「けど…あの女に、ここまでの力が…?」


呟く真剣な声色に似つかわしい険のあるモノだった







すれすれでセンサーに触れそうになって、慌てて
手を引いた隊員が苛立たしげにぼやく


「にしてもこのセンサーうっとうしいな…」





魔術によって張られた糸、触れた途端に
こちらの位置が知られてしまう


物理的に排除することは不可能


まあ、ご丁寧にブラック☆スターが
センサーを鳴らして突撃したから今更無意味ではあるが





城へ到達するまでは極力部隊の動向を
悟られないに、越したことはない





「一時的にでも切るコトが出来ればな…」





同じコトを考えたのか


私と死人さん、そしてナイグスさんは揃って
ツナギ姿の少年へ顔を向けた






え?あの先生方…なんで僕を見てるんです?」









―警備強化後/ババ・ヤガー城内―





焦げた紙の匂いと毒々しい魔女の配下を振り切り


煙を抜けた先で…倒れているオックス君を
見つけて駆け寄る





さほど離れた記憶なんてなかったけれど


近づいてくるキムとジャクリーンを見て

僕のその認識が間違っているコトに気がつく





「なんてことだ…迷っていたのは僕か」


「気をつけてハーバー君 彼女たちは…」


「オックス君ケガをしてるじゃないか」





彼の押さえた右脇腹から血がいまだに溢れている


構わずナイフを振り下ろそうとするキムを見て
疑いは、確信へと変わった





「ちょっと何するのよハーバー…痛いじゃない」





ナイフを弾いてもなお、キムは顔色を変えず


武器化させたジャクリーンをこちらへ向ける





「オックス君 戦えるかい?」


だめだ!!キムたちは洗脳されているんだ」


「洗脳?そんな簡単に洗脳されるものなのか?」





あの時、君が言っていたコトは
正しかったのかもしれない





「僕らは今までだまされていたんだよ
彼の言ってた通り…しょせん魔女だったんだ






直前で雷撃を浴びせ、火炎放射を防ぐ







オックス君はまだ彼女を信じているけれど


理由がどうあろうと、あのキムは
僕たちの知ってるキムじゃない…それに





「君の命が危ないんだ 僕には職人を守る義務がある
戦わなければ殺されるぞ


パートナーへ害をなす相手を放っておく気はない





幸いキムはそれほど動ける職人じゃない
…武器の僕だけでも十分戦える!





「ぎゃああ」





懲りず炎を繰りだそうとする攻撃を無効化し


そのまま一直線に進み、武器化した左腕を構える


「やめろ!!」







突き出した腕が 狙い違わずキムの心臓を貫く





「…キィィム!!





血飛沫が舞って…糸が切れた人形のように
小さな体が床へと崩れ落ちる









―同時刻/野外―





どういう原理かはさっぱりと分からんが


の刃に挟まれたセンサーは
一定時間、その場から掻き消えていた





魔術も切れるとは…つくづく特異な波長だな」


「ええ、僕もそう思います」





ホント こんな地味なヤツが役に立つとは


死武専生の面目躍如ってトコだな





隊長の的確な指示もあり、部隊は無事に
奇妙な迷路と罠の密集する地点を抜け


木々の合間からババ・ヤガーの城の外観が
望める距離へと接近する







「…おおおおおお!!





遠吠えのように聞こえる声につられ視線を上げると


先に突っ込んだブラック☆スター


ミフネらしき敵と上空で交戦している姿が
一瞬視認できた





「城の周囲にも魂反応が多い、どうやら兵隊共は
まだこちらには気づいてないようだ」





内部の生徒達が作戦を遂行するまでの間


陽動及び敵対勢力の掃討、を繰り返し
命ずる隊長へ"了解"と返した直後





「おい…後ろの迷路が!」 「来ます!」





さっきまでいた迷路がぐしゃぐしゃに崩れて


あっという間に蝶や動物の群れと変わって
オレ達へと襲いかかる





「十分に注意して迎撃しろ!」





悪あがきにも程がある、と胸の内で毒づいて
爪や針や牙を剥き出す紙共を先に片付ける





だが まとわりついていた蝶を刻んだ途端


「…う、うぐ、あぁぁ!?





悲鳴を上げ、が頭を抱えてヒザをつく





「おい、どうした!?」





オレや隊長達が呼びかけるけれども


耳に届いていないのか、髪から覗く鳶色の目は
焦点を定めないまま見開かれている







「声が聞こえる…姿が見える…アレは
アレは、キムとオックス君…?







―少女復活後/ババ・ヤガー城内―





ハーバー君に刺された一撃は、跡形もなく消えていた





「私はタヌキの魔女 タヌキは再生を司る生き物なの
再生魔法…それが私の得意魔法






僕を蹴り飛ばし服さえも再生させた彼女は
やはり天使にしか見えなかった


「天使ね…たしかに私は他の魔女とは違う…

そのせいでどれだけ苦しんだか!





至近距離で吐き出された業火は
ハーバー君が、身を挺して防いでくれた





「大丈夫かい!?ハーバー君」


「ああ…しかし再生能力は厄介だ
再生させるヒマを与えず連撃でとどめをさすか…」





ずっと納得出来ないままだったけれど





もう、逃げるわけにもいかない


「ダメだハーバー君…ここは僕が闘う





痛む傷口をこらえて立ち上がる僕をハーバー君は
案じてくれていたけれども


僕の意を汲んで、武器へと変身してくれた





「結局あんたも私に武器を向けるんだね」





悲しげなキムへ 代弁するようにハーバー君が
"勝手だ"と答える





「私だって他の魔女と同じように
"魔女の導き"どおり生きていけたら!!」






駆け寄りざま、ジャクリーン共々
炎と言葉とをぶつけられた







魔女の持つ魔力は計り知れないエネルギー


その膨大で、強力なエネルギーが向かう先は
いつだって"破壊"と決まっている





破壊衝動…魔女たちはその本能によって
支配されているとキムは言う





「あなたが授かった魔法は 破壊とは逆の再生」


だからこそ美しかった彼女は、それゆえに
魔女界に馴染めなかったと叫ぶ





「ジャッキー!!」


防いでいた頭上のランタンが強く輝き





「ヴォルランタン!!」





吹き出した爆炎をくらい、床へと叩きつけられる





「どうしたの?オックス君?
君の電光石火の攻撃は!?傷が痛むのか?





戦わなければ殺される…彼の言葉はもっともだ


君が"うかつに信じたら痛い目を見る"
忠告したのも魔女の性質を理解していたからだろう





それでも僕は、まだキムを信じている







「道徳操作機にかけられて やっと私は
本当の魔女になれた」






死武専はアナタたちを捨てたワケではなく
迎え入れる準備をしていた、と教えるけれど


空虚な笑みで"戻れるわけがない"と返される


「それにこんな開放感…手放したくない」





魔女として幸せになった?ならばどうして





「なぜ―…そんな悲しい顔をしているんですか…」


アナタは 涙を流しているんですか







『うるさいのよオックス!!
もうキムを悲しませないで!!』






ジャクリーンはアラクノフォビアを
"やっと見つけたよりどころ"だなどと言うけど


僕には、とうてい理解なんてできない





「戻ってきてください死武専に…
みんな待ってますよ「うるさい!」


叫びと同時に炎が上がる





「魔女の私を見るあの目つき…私のコトなんて
待ってくれてるワケないじゃない」






人は変わるコトなど出来ない?変われない?





そう…僕も毎朝、誰になんと言われようと
二本の柱を維持していた


変わるコトのない確固たる想いがあったから







だけど!





「変われますよ…いくらだって…何だって」





たとえ死武専にアナタの居場所がなくても!





「信念だって プライドだって
キムが魔女だろうがなんだっていい」



ハーバー君を柱へ立てかけ、二本の柱を
掴んだ両腕へ力を込める





人にとってくだらない意地でしかないなら


―いくらでも変えてやる!





「はあぁああぁぁあ」







力任せに折った二本の柱を床に捨て


僕は、キムへと向き合って問いかける





「死武専に戻りたくないなら戻らなくていい
居場所がないなら僕が作ります…


僕があなたの居場所になれませんか?






大粒の涙が…いくつもいくつもキレイな瞳から
宝石のようにこぼれ落ちていった






「うわ〜ん」









―少女改心後/野外―







先程の"襲撃"をあらかた追い払っている最中


魔力によって生み出された紙の"蝶"や"獣"を通し

城内の様子が流れてきた、と聞かされた





…途切れ途切れではあったが


交戦していたオックスと、説得によって
洗脳されていたキムが改心したコトを知ったらしく





報告したは 苦しげな顔で
絞りだすようにこう続けた





「…僕は、間違ってました


大丈夫だ、気づけたならお前はやり直せる」


肩を叩けば亜麻色の頭がこくりと縦に振られた







紙で出来た生物群の撃退も無事に終了し
梓へ城内の様子を確認するよう告げる





「分かりました」







だが千里眼を発動しかかった辺りで


蹴散らしたハズの紙が次々と固まり…
小振りの竜へ姿を変える





「くそっしつこいな!





ナイグスと共鳴し 手早く頭や羽を切り落とす





しかし切った端から新たに再生し、隊員達を
振り切り矢による牽制をも意に介さず


脇目もふらず梓へと 多数の首と牙が迫り





竜の攻撃が届く、その直前で


白い胴体にハサミの片刃が突き刺さる





「っく…と、ま、れえぇぇぇぇぇ!!


引きずられながらも食い込ませたの刃が
青白い光を瞬かせて





…竜の動きが、空中で一瞬だけ止まった







「ど、どうにか止まっ…あ、おあぁぁぁ!?


!」





マズイ、どこかへ移動するようだ!





「刃を離せ!」


「はいっ!」





刃を抜いて 武器化した腕を戻した瞬間


竜の胴体から生えた爪にアイツの腕が捕らえられ


へ!?うわあぁぁぁ先生えぇぇぇぇぇ〜…!」





伸ばした手も届かず ごと竜は
城の方へすっ飛んでゆく







―同時刻/ババ・ヤガー城内―





おかしいな、4番と7番の破壊もうまくいって
エルカたちと2番塔を移動してたハズなのに


いつの間にかエルカたちとはぐれちまった





「ガッデム、シット!」





なんでこんなトコに壁が出来てるんだ!


おかげで通りづらいじゃないか

ああ!薄っぺらいドアには懲り懲りさ!




「…ん?香水のニオイがするぞ?この紙」


たまに飛んでたあの"蝶"と同じ…とすると
とやらのイタズラか?これは








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この話を読んでた時、まだ本誌購入派でした
ガチ泣き&オックス君の株が急上昇しました


オックス:そ、そうですか?


ハーバー:オックス君がカッコいいのは当然だよ
さて、キムが元に戻ったのは何よりだけど…


死人:魔女の妨害か、確かに頭が痛いな


狐狗狸:"飛び出す迷路"だけじゃなく騙し絵とかも
活用してるからねぇ じわじわと


ナイグス:…は大丈夫だろうか


梓:無茶をしなければいいですが…しかし前夜祭や
BREW争奪戦、カナダの一件があったとはいえ
本当にセンサーを解除できるとは


狐狗狸:まあ原作ではセンサーなんてあっさり
通り抜けて進んでたでしょうからね待機部隊の皆さん




半ば"連行"の形で少年は城へ!?


様 読んでいただきありがとうございました!