―解散後/ババ・ヤガー城内―





一度は散り散りになっていた死武専生達は


すんでで荒れてる酔っぱらいの魔の手から
救い出されるも微妙な精神ダメージをもらったり


チェスの弱い老人のご機嫌伺いなどに苦心し


幼い魔女による、無邪気さ故の残酷な仕打ちに
痛恨の一撃を与えられつつも





正体を露見させること無く再び合流できた





"魔道師"って何なんでしょうね…それにしても
二重に神経がすり減りましたよ」


「悪ぃ…ケンカすんなよなお前ら」


「…何気にショック」 「オレもうダメかも…」


「ババ・ヤガー(ここ)の城に来てよかったね」


「うん」 「お前ら何して来た?」


と約二名を除いてグッタリとしている彼らの前へ





あなたたちどこにいたのよ?捜したのよ?」





逸れたはずのメデューサが姿を表し


思わず全員がその小さな身体に縋り付いた





今までどこにいたの!?こんな敵地の中で
見放されたかと思ったんだよ!!」



「ゴメンなさい、少しばかり下準備をね」


始めるわよ、と宣言し移動し始めた彼女に
十人は反論すること無くついていく





広間から消えた一団を





周囲と全く同じ仮面と装いで、同じく敵地に
紛れて身を潜めたが見ていた





「このカッコはいただけないけど、ま
目隠しには持ってこいよねぅえぇん♪ベェ〜」


ヒールの高いブーツを鳴らしながら





「お姉様達の邪魔をシない、目的も果たす
その上でヤリたい放題暴れろな・ん・て」


廊下を歩く"魔女"が脳裏に思い浮かべたのは
自らを手挽きした褐色の青年の


辛辣かつ冷め切った言葉と眼差しだった





「…ゾクゾクしちゃうぅんv







―作戦実行直前/野外―





魔力によるセンサーの範囲外に位置する高台から





『そちらの状況は?』


『今 ババ・ヤガーの城に潜入しました
これからメデューサのいうミッションを行う所です』


オックスとの共鳴による"千里眼"を使い


梓が内部の様子を死人へと伝えた辺りで





「死人隊長 彼らが到着しました」


「オオ そうか…早かったな





待機部隊の前にブラック☆スターが堂々と参じる





「まぁな、オレだからな」












Cinque episodio 深淵の谷間の巣











ため息をつき、メガネを押し上げながら梓は

彼のやや後ろで息を整えるを一瞥する





「アナタはもう少し賢いと思ってましたが」


「…お説教なら後で聞きます」





先日入手した"魔女の魂"と魂の半数没収


補習の追加に、死人や梓の命令の厳守

部隊から勝手に離れず 任務を絶対妨害しない





…上記の条件をすべて飲んだのは


自棄になった当人なりの、賭けに近い選択だった





「説明は受けていると思うがオレ達の任務は
城内メンバーの援護と補佐、不測事態への対応だ」


「作戦発動の混乱に乗じて突入し、彼らの退路を
確保後速やかに撤退を予定しています」


あぁん?まどろっこしいな、今すぐ城に
攻めこんじまえばいいじゃねーか!」


「ダメだ お前の侵入は派手すぎる
下手をすればマカ達の作戦が台無しになる」


そう言われてしまえば、ブラック☆スターとて
突撃を強行するわけにもいかず押し黙る





突入の際も極力センサーは避ける方針らしいが


魔道具開発の影響による環境変化なども
考慮して 慎重に城を目指すつもりのようだ





「昨日対峙したらしいイカのような生物が
現れないとも限りませんからね」


「…、顔色が悪いようだが?」





問われて少年はここへ来るまでの間に

森から感知した"魔力"について口にする





「アラクネだけじゃない…あの女と…
もう一人、強い魔力を感じます


「魔力の発信源などは分かりますか?」


「ある程度近づけば何と…っぷ、森全体が
気持ち悪いです、波長抑えててもしんどい」


「分かった、多少は補佐してもらうかもしれんが
お前は無理せずオレ達に従え、いいな?





こくこくと青い顔で頷く





だが突入時の行動などを打ち合わせる死人達の横で


眼下に広がる森を見下ろし…ブラック☆スターは
イライラと足踏みをしていた







―作戦開始/ババ・ヤガー城内―





端の方へ全員を移動させたメデューサは





アラクネがいる"女王蜘蛛の間"は魔法による
厳重なセキュリティーが施されている事と





ゲートを管理する魔道具"錠前"を破壊すべく


"女王蜘蛛の間"から放射線状に伸びる
八ヶ所…蜘蛛の足のような塔を目指せと告げる





「8は好きな数字なのだが、8か所に分かれては
危険だ…武器と職人がバラバラになってしまうぞ」


「あなたたちに破壊してもらいたい魔道具"錠前"は
全部で2個よ 残りの6個はさっき会った
エルカを含め、私の仲間が破壊するわ」





錠前の一箇所を任され、監視の任を命じられた
キッドが意見を挟むけれども


アラクネの元へ行くのにマカの能力が必要であり


戦力も申し分ないのだと説明され


気がかりを感じながらも、彼らは
マカ達から別れて錠前へと向かう







三方向へと散った彼らの内





メデューサの魔法"ベクトルコンタクト"による
魔力の目印通りに移動していたオックスとキリクは


あるブロックの横道で、立ち止まる





「キム…キムがこの先にいる?





マカやキッドほど強くはなくとも


自らの感知能力が遠くに位置する
キムと思しき波長を捉えたため


任務と彼女とで悩みだしたオックスを見て





「魔道具の破壊なんてオレ一人で十分だ

お前 キムが好きなんだろ!
お前の二本の柱はそんなもんなのか!?



キリクは、強く彼を後押しする





真正面から力強く励ます友の姿を信じ
錠前を任せたオックスは、横道へと折れた









ルートを外れキムの波長を頼りに
廊下を歩いた二人がたどり着いたのは


妖しい煙が満たされた部屋





何だこのニオイ…煙…」


「クラクラするー…」





柱や壁によりかかり、虚ろな瞳で笑う人々を無視し


仮面とフードを剥ぎ ハーバーと二手に別れ

オックスは濃くなる煙の先へ踏み出していく





彼女に会いたい一心で神経を研ぎ澄まし





煙を掻き分け…彼はついにキムと
ジャッキーを見つけ出した





「オックス…何でここに?」


「よかった!会えた!」





無事な彼女らの姿に安堵して


一緒に帰ろうと誘うオックスだったが





笑いかけられたキムに、次の瞬間


柱へ押し付けられるように抱きしめられていた







…立ち込めた煙の向こう側で





「カワイイ坊や、アタシといいコトし・ま・しょ?





戻ろうとオックスの姿を探すハーバーは


しなだれかかってくる、裸に近い格好
にローブを剥がされながらも





相手の肢体を突き放して距離を取る


「何のつもりだ」


強い武器の子が欲しいだけよぉう?大丈夫
リードしてあげるから一緒に気持ちヨく」


「ふざけるな!近寄るな魔女め!!」





戦闘態勢を取るハーバーを眺め





「釣れないわねぅえ…少し遊んでイキましょうよ」


魔女はツノのあるオールバックを撫で付けて


指を鳴らし、白い巨人を呼び寄せた







一方で同じ部屋にいるオックスは…





何 勘違いしてんの?紳士な男なんて
退屈なだけよ かっこいいとでも思ってんの?」





諌めたキムに腹部を刺され、崩れ落ちた所へ
蹴りを見舞われて呻いていた





「道徳なんてただの重荷 持ち歩くだけ無駄よ」


二人の様子と、廊下ですれ違った際に
白衣の兵隊達が口にしていた発言で





「そういうことか…」


彼は、二人が"道徳操作器"によって
洗脳されていると気がつくが





今時死武専なんてはやらないのよ
これからはアラクノフォビア…そうでしょ?」






悪意を瞳に宿した少女二人が
出血に苦しむオックスへと迫り…







けたたましい警報が城内の空気を割いて響く







キムとジャッキーだけでなく、兵隊達やモス
作戦を行っていた死武専生達も戸惑う





しかし




「この波長は…!!」


足を止めたマカはいち早く"原因"を感知し





「この殺気 来たか


一室で身構えていたミフネは馴染みのある
気配に目を開き、刀を手に立ち上がる





「この波長…間違えようがない


「どうしたんだよキッド…何かわかったのか?」





そしてキッドに習い仮面を外したリズは


"嬉しそうに笑う"パートナーを目にしていた







―警報直後/ババ・ヤガー城外―





命令を待たず、全センサーに引っかかりながら
城の前へと到達したブラック☆スターは





「待たせたな小者ども オレ様登場だ!!!」





警報に反応し続々押し寄せてくる兵隊達を
前に、ニヤリと大見得を切る





ビッグバンBIGなオレ様を一目見に
ゾロゾロギャラリーが集まってきたぜ」


『敵の数はおよそ三百ー…問題なさそうね』


「こんな所でガキ一人で殴り込みとはな」


「ぶっ殺せ!!」







殺気を漲らせローブを脱ぎ捨てる兵隊達を
刀を使った結界で阻み





「ここからは武に生きる者しか入れぬ領域
下がっていろ


ブラック☆スターの眼前へ、ミフネが降り立つ





「来たかこの場に
鬼…イヤ…何があった?





訊ねるミフネへ 少年は答える





「オレの進む道は鬼の道じゃない…

オレの進む道にはあんたが待っていた
越えさせてもらうぞ










―日本へ戻り、椿とともに中務邸で鍛錬に
励んでいたブラック☆スターだが






「オレは強くなりたい それが鬼の道だと
いっても迷わず進むさ」



"力"を求め 武の道を踏み外しかかっており


かつての兄と重なるその姿に、椿もまた
人知れず悩み続けていた





それでも夜空の下で並んで座り






「このどす黒い空がオレなら
輝く星が椿だな…」


「私はこの黒い空もたくさんの星も
全部含めてブラック☆スターだと思うよ」





お互いに素直な気持ちを打ち明けあい
向き合った二人は






椿…頼みがある
あの鹿…もう一度会わせてくれ」



椿の中に宿る「中務の意思」と対面する





そして武に敗れた者達の無念の波長を受け止め
果てしない絶望を味わいながらも






「…オレは負けたくねぇ!!!





涙を拭い、歯を食いしばって立ち上がり


彼は中務の意思へとこう言った






「真の武を目指し散っていった無念の魂―…

その無念が晴れるというならオレが全部背負ってやる


オレが進む道は生者を殺す鬼の道じゃない
死者を生かす武の道だ!!!






曇りのない、覚悟と決意を認めて


中務の意思は膝を折り ブラック☆スターと
共に歩む忠誠を誓ったのだった…―








「行くぞ椿 魂の共鳴」 『はい』


「武人の顔になったか…もう手を抜くのは無礼
本気で行く」





影が刀へ集まり、[鏈黒(れんごく)]という
独特の形状に変化した鎖付きの刃がミフネへ迫る





弾いた直後も猛攻は止まないが


正面切って刃をかち合わせ、両者はかすり傷を
顔へと負いながら距離を取る





『無限一刀流―…来るわ』





椿のその一言を合図に、ミフネは背負っていた
刀の束を上へと振り上げ


鞘へ収まっていた刀を全て地面へ突き立てる





「参る」







―同時刻/野外―





相手の刀撃と技術に圧倒されながらも


共鳴を強め[絶影]による分身の撹乱や


力を借りる事で彼と並ぶ程の影武者となった
椿の[枝闇]を織り交ぜた奇襲により





ブラック☆スターが魂威を含めて
ミフネへ二撃を与えてゆく最中







「待ちきれずに飛び出したか…全くアイツは


死人は、大きくため息をついていた





「すみません…一応は、止めようとしたんです」


「気にするな 相手がアイツじゃな」





隊員の発言に、残る男達やナイグスが頷き


そう言われたも内心で大いに納得していた





直後に大地を揺るがすような爆音が轟き


森から、黒い煙がもうもうと立ち上がる





「死人さん 魔道具の破壊が始まったようです」





淡々と告げる梓へ、死人はこう返す





「ブラック☆スターも突撃してしまった
オレたちも続くぞ





彼を先頭に待機部隊は高台を降下し


張り巡らされているセンサーに注意を払いながら
木々をくぐり抜け森へと踏み入っていく







青い顔をしながらも足並みを揃えていた少年が





強烈な馴染みの"違和感"とどこかで感じた
覚えのある"寒気"に身を震わせ 叫んだ


「足元から来ます!!」





同時に身構えた死人達の地面から


白い壁がいくつもせり上がり…行く手を区切る


「これは…迷路か!?





幸いにも部隊は分断されず済んだようだが


背後を閉ざす壁から、鋭い刺が生え始めている





「とどまっているヒマは無いようですね」


「壁と行く手に注意して進むぞ!」





命令に、隊員達とは首を縦に振り
発射される刺から退避するように走りだす








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:戦闘描写削ってでも回想は入れたかった
ターン回ってくるまで彼の出番しばらく無いし!


ブラック:あんだよ!丸々一話オレ様の
見せ場だけでも十分だろーが!!


キッド:それをやったら死人先生達や
オレ達の立場が無いだろう


オックス:話は変わるけど、感知能力が無いのに
よく相手が魔女だと分かったね?


ハーバー:…プロテクトしてたとしても
あんな格好、まともな人間ならしないだろ?


キリク:どんなカッコしてたんだよ?その女


狐狗狸:魔改造で横乳下乳見え見えな肩紐なし
極小ビキニ+手袋+網タイツ&ガーターにTバック


マカ:変態じゃん!てゆかただの痴女じゃん!


メデュ:…ソレに関しては全面的に同意だわ




破壊され始める"錠前"、揺れ動く城内
反目しあう少年少女と彼が目にするのは…!?


様 読んでいただきありがとうございました!