―奇襲後/アマゾン川流域―
道中でマカさん達からさっと君の素性や
最近の授業で失態を犯し、思い悩んでいたコトを
耳にはしたので奇襲の動機は概ね理解した
けれどもやはり すべてを敵に回してまで
キムや罪もない少女を犠牲にしてまで
魔女を殺そうとする気持ちは理解できない
しかしボートを降り、邪魔な蔦を魔法で排除し
僕達を先導するメデューサが
油断ならないのも…彼が言わずとも承知している
「のバカほどイカれちゃーいねぇが
オレもテメェーみたいな魔女女 今すぐ
ぶっ飛ばしたいケドな!!「ストップ」
威嚇するように拳を握るキリクの背後にある
糸(センサー)を指摘して
彼女もまた、僕らへとこう告げる
「信用してもらえないでしょうが私がこの闘いに
かける思いは真剣よ あなたたちの命も魔力の限り
守り抜く…難しいでしょうが命令は聞いて」
「ここにいる生徒はそれをこなせるから選ばれた
そのヘンは安心してください」
一列になって森を進んでゆく内にかたわらを
流れる川の周囲に禍々しい文字が見えて
大きな沼のような地点で足を止めると
ファイアーとサンダーが声を上げて泣き出す
「アラクノフォビアの魔道具開発が原因ね
魔法で川が汚染されている」
「ファイアーとサンダーは大地の祈祷師だ
自然の嘆きが直で伝わるんだろ」
にらみつけていた水面からあぶくが湧き
巨大なイカのような怪物が現れた
「な…何だ!?こいつは…」
「この川に住む生物が魔汚水の影響で
怪物化したものね」
Quarto episodio やみの森へ
メデューサの号令で飛んで距離をとる僕らへ
イカが触手を伸ばして襲いかかるが
「ベクトルアロー!!」
発動した魔法の矢がその大半へ直撃した
「オックス君!!」
「ああ ハーバー君
僕たちの雷で焼きイカにしてやろう」
怯んだ隙をつき、雷王震を叩き込む
が、奴の触手は何事も無くこちらへ伸びる
さすがにコレをかわすのは骨が…
「ベクトルプレート」
「わっ 何だ!?」
足元に現れた矢印の方向へ身体が飛ばされた
「その板は上にあるモノを矢印方向に飛ばす魔法よ」
「…ありがとうございます」
続くキッド君の銃撃もさしたるダメージはない
どうやら怪物の皮膚は魔法でコーティングされ
強化されているらしい
「私がアローを突き刺し 刺さった部分の
コーティングを魔法で分解するわ」
分解後の一撃をキリクへ任せると言って
メデューサは彼の両腕へ威力倍増の魔法をかける
「残りのみんなは私とキリク君の援護を」
掛け声を合図に僕らは周りを群がる触手を払い
イカへ命中した矢印が、ヤツの防壁に穴を開け
そこへキリクが飛びこんでゆく
「ポットオブファイア!!魂の共鳴!!!
F・F・F(トリプルエフ)!!!」
撃ちこまれたその拳の威力は…僕らの知る
キリクの攻撃を確実に上回っていた
イカの身はその一撃ではじけ飛んだ
プレートで岸へ戻されたキリクは
左腕を見つめながら呟く
「すげェ…魔女の魔法やべェな…」
いまだ不信感は拭えないけれど、その強さは
やはり侮れないモノのようだ
「さぁ…油を売っているヒマはないわ
先に進みましょう」
―奇襲後/死武専―
選抜メンバーへの妨害行為とメデューサ殺害を
単身で企てたなどと思えぬほど
は抜け殻のような顔で椅子にこしかけ
こちらの言葉に黙って耳を傾けている
「魔女を憎む理由は知っているが、お前が
したコトは許されないコトだ…それは分かるな?」
こくりと、亜麻色の頭が縦に振られる
「分かってるんですよ、僕が悪いコトくらい」
"魔女への協力が許せず凶行に及んだ"
淡々と語る口は、マカ達を非難した事をも
過ぎた暴言だったと答える
「みんなの努力も実力も本物で、僕なんかが
到底敵うわけないって知ってたけど
ちょっとでも差を埋めたくて前を向き続けてた」
見慣れた自嘲は…どこか哀れさをも滲ませて
「それでも、届かない彼らがうらやましかった」
きっとあいつらの心身の強さも、信頼も結束も
パートナーとしての波長も全て
持たざるにとってはとてもまぶしくて
だからこそ、思ってしまったのだろう
「怖かったんですよ…普通程度の僕なんかが
みんなに友達として認められているのか?って」
虚ろでどこか頼りない声が下へと落ちる
「本当は、お情けで"友達のフリ"して
付き合ってくれてるだけなんじゃないかって」
「少し卑屈に考え過ぎじゃないのか?」
「そうですよね…マフィアのヤツらと同じで
みんな、僕なんて何とも思ってませんよね」
昔から年の割に、物分かりのいい態度を取る
目立たない子供ではあったが
どれだけの恐怖や怒りや劣等感を押し殺し
隠して、誤魔化して生きていたのか
…キムの事も もっと早くに気づいていれば
「ナイグス先生」
呼びかけられ、自らの至らなさを
悔いていた私は我に返る
「もう僕には何が正しくて何が間違ってんのか
…何を信じたらいいのか、分かりません」
髪の隙間から覗く鳶色の瞳に光はなく
もはや一杯一杯になっているの姿は
触れれば崩れそうな程もろく見えた
「しばらく頭を冷やせ、お前には時間が必要だ」
―イカ撃破後/坑道内―
面と黒装束に身を包む、砂漠で会ったあの魔女と
合流して城へ繋がる坑道を進み
魔力の明かりを生み出してメデューサは
日が落ちればアラクノフォビアの警備も
厳重になると警告する
「今日はこの洞窟でキャンプを張るコトになるわ」
その事態は想定済みだからオレ達は慌てはしない
…歩きながら、背後にある反応を確認し
同じく魂の反応に気づいたマカの口を慌てて塞ぐ
「何?」
「しぃ〜…安心しろ味方だ」
メデューサには秘密にデスサイズスとその職人に
ついて来てもらっているコトを伝える
「デスサイズス?でもこの魂反応―…」
「ああ、人間じゃない…猿だ」
「……!本当だ!猿だ!」「猿だな」
互いに魂感知で確かめ合い、猿であることを
分かり合ったのでマカとハイタッチを交わす
「何やってんだ?」
「知らね…そうだ、おいキッド
この魂…どうしたらいい?」
ついで、さっきのイカ(?)の魂を
キリクから渡され 預かる形で回収をして
「オイ…キッドの腰の中から何か光ったぞ」
なぜか反応したらしいBREWの光を
ソウルに指摘され、少しばかり焦る
「ああ…たぶん持っていたライトの
スイッチが入ったんだろ」
「ウソつき〜キッド君のライトは
あたしが持ってるぞ〜」
「だいたいキッドは手ぶらだろ?」
余計なコトを言いおって、このたわけめ…
「まあーオレは死神だからな、気を抜くと
いろんな所が光るんだ特に腰あたり」
「……変わってるな」
ふぅ、危なかった…がいたら到底
誤魔化しきれはしなかったろう
『対等でも無い格下に、友達ヅラして優しくすんな』
……友と思っていたのはオレだけだったのか?
いや、今は余計なコトは考えまい
不意にメデューサが足を止めて振り返る
「みなさん聞いてくれる」
側にいる魔女・ミズネからメデューサづてで
この森辺りで消息を経ったらしい
キムとジャクリーンの行方について明かされた
「二人はアラクノフォビアにいる」
―夜/坑道内―
中程まで進み、頃合いを見てキャンプを
取るため腰を落ち着けて休息を取り
寝袋を広げている私へマカちゃんが歩み寄る
「何かご用?」
「クロナのコトよ」
君ほどで無いにしろ、彼らの中で
私を一番に恨み疑っている彼女は
"何かを企んでいる"と私を責める
「甘く見ないで 絶対お前を潰してやる」
「そんな顔しないで…
私も一人の子を持つ親ってコトよ」
だから私は教えてあげる
"死武専と協力してまでアラクネを倒す理由"を
「クロナがアラクネに捕まり生贄にされようと
している…私はアラクネを許さない」
「そんな…クロナが!?」
「だから魔女のプライドも"BREW"も捨て
死神の力を借りたのよ」
もっとも、BREWは彼が持っているけれど
私の言葉を聞く内に徐々に怒りをしぼませ
マカちゃんは大人しくソウル君の元へ返った
…やれやれ お子様相手は苦労する
アラクノフォビアを崩壊させる前に
アラクネに誑かされないか、心配だわ
「…あの変態娘も静か過ぎるし」
この道中では影も形もなかったが
ミズネやエルカが城内で…それに私自身も
デス・シティーで、"白い蝶"を見ている
まあ…あの娘が何を狙っているかは
大体予想がつくけれども、ね
―同時刻/デス・シティー―
椿から作戦を聞いて、いてもたってもいられず
デス・シティーへ戻ってきたが
まさかが派手にやらかすとはな
しかもオレ様が窓の外から声かけてるってのに
ヒザ抱えてて気づきやがらねぇアイツ
まったくしかたねぇ信者だな…よっと
「おい それクロナのマネか?」
アパートへ忍び込んで
両手両足をカドの壁につっぱって
見下ろしながら呼びかけりゃ
ようやく顔上げやがった
「うわっ!?…ぶ、ブラック☆スター!」
「相変わらずなっさけねぇな〜ちぢこまって
小せぇコトウジウジ悩んでんのか?地味信者!」
「放っといてよ、てかいつ戻ってきたの?」
「ゴメンね、どーしてもガマンできないって
言うから…選抜メンバーを奇襲したって本当なの?」
影つけて笑うトコまでクロナに似てんな
「聞いたんだ…そう、僕は最低だよね
弱いくせに勝手に妬んでみんなの邪魔して」
「分かってんならやんなバーカ
反省してんだったらあやまりに行けよ」
ぽかんとしたツラしてるから、隣に着地し
腰に手を当てて堂々と言ってやる
「どーせ作戦参加できずにスネたんだろ?
オレ様がチャンスをやるから感謝しやがれ!」
だがはこっちをマトモに見ようとしねぇ
「いいよどうせ、今更あやまったって…
なにしたって許してもらえるわけなんてないし」
ああもう本当、イライラすんな小物は
ウザってぇ前髪めくり上げてデコを叩き
胸ぐらをつかみ上げてオレは言う
「勝手に自分で答え出してんじゃねぇよ」
「ちょっと ブラック☆スター!」
「大体テメーらグダグダ悩みすぎなんだよ!
悩みがあんならBIGなオレを見ろ!
ムカつくコトあんならハッキリ言え!
全力でぶつかって来い!受けて立ってやらァ」
死にそうなツラが、見開いた目玉が
きちんとオレの姿を見定め…
悔しさと決意を混ぜこぜにして満たされていく
「小物は小物らしくオレ様の後に
黙ってついて来りゃいいんだ!返事は?」
「…OK!」
ニッと笑って 胸ぐらから手を放す
「っしそーと決まれば早速死神の旦那んトコへ
オレ様の参加を報告すんぞ!!」
「「いや、それは明日にした方が」」
ったくしょーがねーなお前らは…よし
明日朝イチで行くからな?
―翌日/ババ・ヤガー城内―
やたら歩かされた洞窟の先で、エルカとか言う
魔女から黒い服と仮面を渡されて
アラクノフォビアのヤツらのカッコで
お城に忍びこんだトコまではよかったんだけど
「オイ?これからどうするんだ?」
「あん?あたしが知るかよ」
「何だ…リズか…オイお前か?」「私パティ!!」
みんな同じカッコだから、誰が誰だか
わかんなくなっちゃってて
メデューサもいつの間にかいなくなってて
「そこの誰か一人…ちょっと来い」
とか言われて誰か引きずられてって
「誰かわからんが一人抜けたぞ…」
「オレじゃないコトは確かだな」
とか言ってたら、他の人達も呼ばれて
あっという間に解散しちった
「みーんなバラけちった!きゃははは」
「笑いごとじゃないだろパティ!!」
「その声はお姉ちゃんだ!わーい
ねね、私たちどーする?」
「とりあえず…このカッコ着替えて移動しない?」
賛成!さっすがお姉ちゃん!!
―同時刻?/DEATHROOM―
ブラック☆スターが戻ってきちゃうのは
半ば仕方ない、と諦めてはいたけど
まさか朝イチで君連れて
待機部隊への参加を頼みに来るとはねぇ〜
『私は反対です、ブラック☆スターはまだしも
戦力面でも彼の参加は認められません』
『それにお前には補習が残っているし、大体
作戦妨害による処罰だって…』
「分かってます!それでも参加したいんです!」
しかも土下座までして…どこでそんなの覚えたの
「役に立たなくても…死んでも
退学になっても構わない!お願いです!!」
今まで聞き分けはよかったハズなのに
ここまでして、自分から頼みに来るなんてねぇ
「どーしても参加したいの?「はい!!」
ヤレヤレ…進んで無茶をしちゃうのは
若さなのか、"彼女"の血なのか
「じゃあ、今から言う条件が守れるなら
君の参加も認めてあげようか」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:詰め気味で長くなったけど、ここは
どうしても語りたくて努力しました
ブラック:あんなオンボロアパートの侵入なんざ
オレにかかりゃクソするより楽だぜ!
死人:まさか、土下座もお前の入れ知恵か?
椿:ゴメンなさい…でも本当にやるなんて
狐狗狸:頭下げるのは慣れてるからね
あと覚悟を決めてるから
梓:まさか本気で許可なさるおつもりですか?
死神:多分認めなくても、ブラック☆スターが
こっそり手引して連れて行きそうだし
それならちゃんと許可した方がいいかな〜って
ブラック:その通り!やっぱ旦那は分かってるぜ
条件及び彼の処遇はどうなるやら…
様 読んでいただきありがとうございました!