―三日前/DEATHROOM―





出された椅子に腰掛け、茶を口に運びつつ





"ババ・ヤガーの城攻略作戦"
この作戦は少人数で行うつもりよ」


自らが戦場に出向く意図と、作戦実行による
リスクの少なさを伝えるメデューサへ


"人数の問題ではない"と死神は返す






      「死武専の人間を君に任せるのに不満があるんじゃないの
       なぜ君以外の者が指揮できないのか知りたいのよ」



「それはアラクネが張っているネットを避けるためよ」





どうやら城の周りへクモの巣状に張られた
無数のセンサーにかかれば、死武専側の動きが
アラクネに筒抜けとなるようだ





「それを避けるため少人数で行動したいワケか
お前ならすり抜けられるのかよ?」


「エエ でもそのネットも数日に一回は
書き換えられている」





情報の劣化を理由に急かすメデューサだが


城内に潜入できても少人数でどう戦うか、と
問いかける死神に対しても

彼女はさらりと淀みなく答える





人数はそんなに問題ではないわ 思い出したく
ないでしょうが死武専創立記念前夜祭…あなたたちは
私を含めたった4人+αにしてやられた」


その時のメンバーは…+αだった約一名を除いて
既に城内に潜伏済み、だと告げられる





「彼らもこの戦いで大きな戦力になってくれるわ」


「BREW争奪戦に魔女
横槍を入れたのも、その布石だってのか?」





スピリットの指摘へ 彼女は渋い顔をした





「アレはこちらにとってもイレギュラーだったの…

まあ不確定要素ってのは否定しないわ」





についてはアラクノフォビアにも
として認識されている以上

手を組んでこちらに攻め込む懸念はなく


万が一 敵として攻撃されたとしても

能力も把握しており、戦力さえ整っていれば
"対処は十分可能"だと話を切り上げ





「死武専側に用意してもらいたいメンバーは
私が選出させてもらいます」


メデューサは、作戦に余計な思考が紛れ込まないよう


"条件に見合う"生徒中心での構成を要求する





「子供たちをお前に預けろっていうのかよ?」


「私が指揮を取らなくても対アラクノフォビアに
生徒の力も必要とされる そうでしょ?


刺すような視線を、メデューサは意に介さず
すました顔でこう続ける





「私もしばらく死武専で働いていて あなたたちの
人間性…それに死神様に対する誠実さも理解している

仲間を守るコトを第一に作戦を実行する」





そして情報劣化のリミットが来る前


…二日以内に、条件を飲むか
解答を求めると付け加えた







―同日/森の中―





宙を舞う、細かな紙片から形作られるモノを眺め





ベェ〜この紙の味も飽きってきたわねぅえ…」


忙しく紙を口の中で噛み砕き、飲みこみつつ
話題に上げられていたは呟く





「どうせならメデューサお姉さまの髪で出来た紙
お腹にいっぱい満・た・し・た・いわぁん」





頭に浮かんだ妄想に ヨダレを垂らして
ウットリと陶酔してから


熱っぽいため息を吐き出し、身を震わせて悶える





あぁんお姉さま、早くお会いしたいわぅあ〜
せっかくだし先にお城で待ってようかしら」


「それは少し気が早いのではないですか?」





振り返ったの視線の先には


チェック帽と黒いジャケットに身を包む
褐色の肌をした青年が微笑んでいた





「あぅらんステキな人ねぇ、アタシにご用?












Terzo episodio ジグザグの意図











―二日前/死武専―





あの件についてのウワサはかなり広まっていて


それでも委細を知らない大半の死武専生は
普段と変わりのない授業生活を送っていたが…







「なんだか、みんなピリピリしてるよね〜」





張り詰める空気に落ち着かないのか

他のクラスメート同様、パティも顔をしかめる





「デスサイズ二人も出張多いみてーだし
マカたちもあの調子だろ?」


「オックスもそうだけど、真面目だから
かなり思いつめてるみたいだもんな」





マカとソウルがメデューサに会いに行ったコトは
仲間内でのみ知っていたので





「せめてレイチェルの身体からメデューサを
追い出せれば、すぐにでも対処出来るのだが…」


と、ため息混じりにキッドは言う





「僕もなにか、力になれたらなぁ」


「まあ無理すんなよ、まだ補習あんだし」


そーそー!体壊しても知らないよ〜?」





それより、とリズはキリクへと話を移す





「昨日シャワー室でオックスのヤツ、キムを
バカにしたヤツにタイマン張ったって?」


「おお!殴られちゃいたけどアイツ
しっかり男をみせてたぜ!」



へ〜やるじゃん!キャハハハ」





意外な武勇伝から、にわかにいつもの
明るさを取り戻していく彼らを


は 輪から外れて眺めていた







―同日?/所在地不明―





草一つない閑散とした土地を踏みしめて





「…ええ、私はアナタにとても感謝しています」


ニッコリとジャスティンは微笑む





先を行く相手は、何かを語っているようだが


その言葉はイヤホンから流れる爆音によって
阻まれ彼に届くことはない


それでも、全く気にすること無く





そう これもすべて神の導きが成せる技です」





成り立たない会話を楽しむかのように、二人は
おどけるように笑っていた







―前日/日本・中務邸―


アラクノフォビア打倒に情報が足りない
判断し、やむなく条件を飲んだ死神に





『どう?椿ちゃん?
ブラック☆スターの調子は?』






作戦についての詳細を報告された
ついでで訊ねられたので





「今は二人でお散歩したりゆったりしています」


鏡の前で正座したまま、椿は正直に答える





「その中で妖刀の制御方法をつかんでいけたら
いいんですけど」


「中務の意思」を説得するには
生半可な魂では無理だからねェ〜』





けれども"ブラック☆スターなら大丈夫"
言った椿の顔には笑みが浮かんでいたので


死神も"安心した"と口にする





「重要な作戦なので戻りたいのは
やまやまなのですが…今すぐにとは…」


『いやいや…気にしないでいいよ…

ブラック☆スターにはだまっといて 言ったら
すぐ戻ってきちゃいそうだしね』





申し訳ない、と謝りながらも


彼女は力強くこう返した





「できるだけ早く戻れるようにがんばりますッ!!」







―同日・決定後/死武専空き教室―





死人は メデューサの要望した条件として





「いきなりの呼び出しでおどろいている奴も
いるだろうが 落ち着いて聞いてくれ





一番重要な"魂感知能力"に長ける人材にマカ


常に冷静な判断ができチームに平常心を
与えられる者
へオックス


それと単純に力の強い実力者として
キリクをまず最初に抜擢し、呼び出した





「アラクノフォビアの拠点 ババ・ヤガーの城
攻略作戦 その中心となるのがお前たちだ」






やる気に満ちて真剣に耳を傾ける面々へ彼は
城の内部に少数で進み アラクネを討つ流れを説明し


"協力者"の存在を口にする


「まさか…」





感づいたマカに答えるように、作戦の指揮官が
メデューサだと明かされると


当然ながら 全員の眼の色が変わった





「何だよそれ!?」


ふざけんな!!納得できるかよ
キムを追い出しといて鬼神を復活させた魔女を
ヘラヘラ迎え入れるワケねェだろ!」



ソウルとキリクが立ち上がりざま
真っ向からそれに反対する





けれど、死人は淡々とこう返すのみ





辞退したけりゃそれでもかまわん
他の候補生も挙がっているんだ…」





降りようとするソウルだったが





「メデューサに近づくチャンスよ…
クロナの居場所を聞けるかもしれない


マカに耳元でささやかれて留まった





一方キリクに訊ねられ、オックスはあくまで
冷静に"命令であれば従う"と答える





「キムを追い出した張本人だぞ」


「興味ありませんか?けど好きにはさせません…
メデューサに怪しい動きがあれば迷わず突く!!


しかし疑う思考と怒りは捨てていないのが

眉間のシワと、言葉の端々に見て取れて





「そのためにはキリク…君の力も必要になってくる」





振り返りざまのその一言に、彼も不満を
飲みこんで思考を巡らせる


そんな彼らの様子を一瞥して 死人は言う





「申し訳ないがここで決断してくれ…どうする?







決断が下されるまでの 長いようで短い
時間の間…教室に通じるドアの側で


廊下を黙々と掃除するフリをした"清掃員"

気づかれること無く 耳をそばだてていた









―同日・夜/デス・シティー―





呼ばれた六人が正式なメンバーに決定され


DEATHROOM内にて死人からメデューサへ
その報告がなされた後





彼女の監視役としてキッド達三人の同行


そしてセンサー範囲外から、弓梓率いる
一部隊による監視と狙撃も宣言され


当人が承知した所で 死神が全員に伝える





「そんじゃー…明朝6時…作戦決行!!





そうして命じられたメンバーは
明日に向けて各々英気を養うも


クロナの安否とメデューサへの恨みとで
マカの頭には、読んでいる本の内容は入らず


牢の中のメデューサは、何かを目論みながら
ニヤリとほくそ笑んでいる







そして…自らのアパートにて、赤ペンで
線と印だらけとなった街の地図を


穴が開く程 じっと見つめて





「多分ここが…ヤツの波長は、分かってる
後は上手く行くか…いや、絶対に…!





は 鳶色の瞳に決意を宿す







―当日/デス・シティー―





気炎を上げる太陽の下 死神に連れられた
小さな魔女と対峙するように


揃えられた選出メンバーが戦意を漲らせ


微笑むメデューサを、マカはことさら強く
恨みをこめて睨みつける





「何かのトキは待機部隊も突撃するよ」





死神は 仮面の目を吊り上げて言った


「ババ・ヤガーの城攻略部隊!!出撃」







魔女を先頭に、メンバー達は死神と別れ


南米へ移動すべく場所を移動していく
その道中で 不意に二人が気づく





「ん…この反応は、か?」


「え、あ、本当だ 何だろバイトかな?」







……だが


それは、彼らにとって完全に不意打ちだった







側の建物からツナギ姿の人間が飛び降り


先頭にいたメデューサへ体当たり気味に
狙いをつけ、片刃に変えた腕を頭へ振り下ろす






タイミングバッチリのその一撃を





「ネークスネークコブラコブブラ」


メデューサはとっさに展開した魔法で防ぎ


なおも攻撃を試みるへと問いかける







私がいなければアラクネの城は落とせない
キムとジャッキーも助けられない、それに私を
殺したら罪の無い少女も死ぬコトになるのよ?」





しかし返事は、突きつけられる刃と共に返された





「悪いけど レイチェルなんて子知らない
だから黙って死ね







追撃は残像を貫いたのみだが


上へ跳ねた魔女へ普段とは段違いの反応力で
追いついては刃をなぎ払い


矢印がぶつかり火花を散らす





「愚かね、下らない私怨に目先を囚われて
わざわざ助かる命を潰すつもり?」


「だったらどうした?私怨だろうがなんだろうが
魔女を殺すなら理由は十分!」



前髪の隙間から覗く目は 殺意に満ちていた





「それに大事なモンを根こそぎ奪ってくくせに
自分はのうのうと生きてるヤツの言葉になんか
興味ない!とっとと死にくされ!!






怒号と同時の強い踏みこみに


対応がわずかに遅れたメデューサの喉元へ


鋭く光る刃先が届く―寸前で







ようやく硬直が解けた男子四人によって
はその場に取り押さえられた





「なんっ…何で止めるんだ!離せ!はなせぇぇ!


当たり前だろ!離すかバカ!
どうかしてんじゃねぇのかテメェ!!」


はぁ?魔女に寛大なフリして、そんなクズ女の
口車に乗ってまで!逃げたヤツらを助けに行く
君たちの方がよっぽどどうかしてるよ!」


「意味わかんねーよ!大人しくしろって」





かなりもがいてはいたものの


ひとまず抵抗を止めたのを見て取り、ソウル達は
の身体を開放する


それでも警戒は怠らず 他のメンバーも
メデューサをかばうように合間に入る


…その行為が、ますます彼の表情を険しくする





「自分が何をしているのか分かってますか?
コレは命令なんですよ?邪魔するならタダじゃ」


「へぇ〜そう、強い自分たちなら魔女だって
余裕だし選択が正しいって本気で思ってんだ?」


「ねぇ、一体何が言いたいの?」


「魔女なんか助ける価値も信じる価値もない
みんな殺すべきだ、邪魔すんならお前らも魔女だ」






戸惑いと苛立ちが満ちていく一触即発の雰囲気を

どうにか変えようと、リズが口を開く





「なぁ落ち着けって、キムたちだって
私たちだってお前と同じ仲間だろ?」


「仲間ってのは、対等な人間のコトだろ?」





けれどその台詞を、彼は鼻であざ笑う





持ってるヤツら持ってない他人(ひと)
気持ちなんか分かるわけないよね?

僕と君らの、どこが"仲間"なのさ!」


「いい加減にしろ!それ以上言うなら
いくら友といえども見過ごせんぞ!!」






激高するキッドへ、彼は凍てついた眼で
顔を歪めて言い放つ





どうせ僕なんていてもいなくても構わないクセに
対等でも無い格下に、友達ヅラして優しくすんな
気持ち悪い…ヘドが出んだよ偽善者」







瞬間、マカが握った拳を思い切りの顔面へ
叩きつけて振り切った






衝撃で倒れこんだ相手の襟首を掴んで引き起こし


「何よソレ…もう一辺言ってみろ!


「やめろマカ!」


もう一度殴ろうと腕を上げるマカを押し留め


キッドは、痛ましげな面持ちで問いかける





…それが―それがお前の本心なのか?





「…ほら見ろ、結局最後は手が出るじゃないか」





殴られた際に切れたか、口の端から血を垂らし


強い怒りと憎悪をむき出しにして少年は叫ぶ





「見下したくて仲間にしてたのに邪魔になったなら
叩き潰せよ…アイツらみたく!





叩きつけられた言葉も、理不尽な恨み


対峙しているマカ達は到底理解しきれずに
ただ失望の眼差しのみを 彼に投げかける







「…行きましょう」





呟いたオックスを皮切りに、彼らは動き出す





「私たちには時間がない、でしょ?」


「ええ、そうね」







再びメデューサを先頭に 自らへ背を向け
歩き出していく十人へ





「精々その魔女(アバズレ)に気をつけなよ」


へたり込んだまま、は言葉を吐きかける





魔女他人もみんな同じさ、汚くてズルくて
卑怯なんだよ…うかつに信じたら痛い目見るぜ」





惨めすぎるその姿は、もはや見向きもされないが


それはどこか突き刺さる暴走と暴言
彼らが目を背け 逃げ出していくようにも見えた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大分ご無沙汰し、やたら長くなりましたが
やっとババ・ヤガー攻略部隊の出撃です


ソウル:アイツ…今回ので相当プッツン来てたな


マカ:だとしたって、あんなヤツだなんて
思わなかったよ!いくら魔女が憎いからって…


ハーバー:それにしても 奇襲なんて手に
出るとは思わなかったよ…内通者でもいるのかな?


狐狗狸:いいえ単独です、ずっと殺すチャンス伺って
計画立てて作戦の情報を元に君等が通るルートを
本気で予想した後に(能力と)カンで先回り待ちぶせ


キリク:マジかよ!?


キッド:しかし、よく魔法での防御が間に合ったな


メデューサ:備えは必要だもの…ついでに言うけど
君はこの作戦には不的確ね、色々迷いもあるし
何よりもアラクネに気づかれやすく


狐狗狸:すんません遅くなったの謝るんで
ネタバレは!止めて!!





たどり着いた森から城内へ進む部隊…一方
取り残された少年の胸中は如何に


様 読んでいただきありがとうございました!