―翌日/シャワー室(女子)―
昨日、キッド君の話を聞いてから
ずっと考えていたけれど…やっぱり
一度会いに行って 聞き出したい
今ならきっと、君の気持ちが分かる
「午前ずっと体育で 午後から勉強なんか
やる気しねぇよ…どういう時間割だよ」
「その前にメシだぞ!お姉ちゃん」
二人の話し声を背中で聞きながら、この後の
予定を考えつつ体を洗ってると
「マカもいっしょに抜けようぜ」
肩に手を置きながらリズがこう言ってきた
「エ…あーゴメン、私はお昼休み中に
やることあるから」
「また図書室で勉強かよー」
不満げなリズに小さく謝ってシャワーを済ませ
手早く着替えて、ポケットの中から
今回も上目遣いでのおねだりで借りた
パパのIDカードを確認して
待ち合わせた場所でソウルと落ち合った
「お待たせ」
「遅ぇーよ」
「なんだソウル…シャワー浴びて来なかったの?」
「お前が早く来いって言うから
シャワーも浴びずに待ってたんだろ」
体操着のまま待っててくれてたんだ…律儀
―同時刻/シャワー室(男子)―
昨日のすました態度がウソみてぇに
「まだキムを侮辱するようなら表に出ろ!!」
「外に出たら強くなる奴相手に
何で外に出なきゃなんねぇんだよ」
「ガリ勉のクセにバカじゃねぇの!?」
キムをクズだのバカ女だのと陰口叩いてた
ふぬけな奴らへオックスが言い返してた
「キムは素敵な人だ 最高に!!」
「うるせェー」
二対一の裸の殴り合いじゃ分が悪く
アイツはボコられて伸びちまってたけど
「大丈夫か?オックス君」
「あ〜あ やられたな…」
手を貸す前に、ちゃんと自分で立ち上がって
鼻血ぬぐってやがった
「なんだ…見てたんですか?」
「加勢した方が良かったか?」
「いえ…彼らのパンチなんて
ブラック☆スターのとくらべたら…」
「全然違うだろ?
つっぱってる奴のとふぬけのパンチじゃ」
Il secondo episodio 思わぬ救済者
さっきのやり取りですっかり機嫌をよくして
メシでも食いに行こうかとか話しながら
オックスと肩並べてシャワー室を出て
なんともいえない違和感に気づく
「アレ?人数足りなくね?」
「ああ、ソウル君なら マカさんに呼ばれて
"用事がある"とどこかへ行ったみたいですよ」
「いやソウルは分かってるよ…そうじゃなくて
他に誰か一人、足りねーんだよ」
「と言われましても…誰でしたっけ?」
二人でうなってみても、足りないヤツが思い出せない
…まあいっか どうせトイレかなんかだろ
―同日・昼休み/死武専牢獄―
IDカードとテキトーなウソで受付パスして
「この奥行って右に曲がった所ね
札を見たらわかるよ、危険だから
中には入れないから 外から話してね」
「はい ありがとうございます」
「どうもー」
アイツと話してもクロナの場所を
教えてくれるわけない、って忠告をしつつ
薄暗ぇ通路をひたすらに二人で歩いて
メデューサの名前が書かれた扉の前に来た
「何か御用かしら?誰かいるんでしょ?」
中から聞こえてきた声はやたら甲高くて
二度、三度とこっちに呼びかける声が
聞こえるたびにマカの顔が険しくなって
ついに耐え切れず、マカが扉を蹴りつける
「クロナをどこにやった!!」
「…あら?女の子の声……誰だったかしら?」
「誰でもいい!!クロナは今どこにいるの!?」
怒りを抑えるマカとは真逆に、中にいる魔女は
落ち着き払って のらりくらり答えるばかり
「あの子は元気?」
「とぼけるな!!あんたがクロナを
連れ去ったんでしょ!!」
やれやれ、これじゃラチがあかねーな
「もうやめとけ、だから言っただろ
こんな奴と話をしてもまともに答えるワケない」
今にもつかみかかって行きそうなマカの肩を
叩きながらなだめてから
「オイ クソババァ
せいぜい真っ暗な独房で余生楽しめよ」
精一杯の皮肉を口にして、今はこの場から
とりあえず立ち去ることにした
「また来るからな!!覚えとけ」
ったく、それじゃと変わんねーぞ?
なんてからかおうと口にしかけて、ふと気づく
そういやアイツ やけに大人しくしてるよな
…なんかヤな予感がする
早まったマネしてねーだろーな?
―上記より後/死武専牢獄前―
係員と共にメシの乗ったトレーを牢まで運んで来ると
「おかしいね、特に駆除の予定は聞いてないけど」
「臨時での駆除を伺っておりまして…作業は
すぐに終わりますのでお手間はとらせません」
受付で業者の兄ちゃんが戸惑ってた
「どうかしましたか?」
「それが、獄内のネズミを駆除したいとか」
そんな話聞いてねぇぞ?てかこの制服
清掃業者のだし、ここ一般人立ち入り禁止
…って、よーく見たらコイツ
「おいコラ、何してんだ」
至近距離から声かけて振り返ったツラは
帽子で見づらくなっちゃいたが、間違いなく
受け持ちの魔武器だった
「す、スピリット先生…あの、その、仕事ですよ」
「ウソつけ、授業バックレやがって
お前後で成績表の態度んトコEにすっからな?」
「そそそソレだけはカンベンしてください!」
真っ青になりながら謝り倒すなら最初っから
やらなきゃいいだろが、バカ
まあ…コイツもさっきのマカみたいに
メデューサのツラを拝みに来たのかもしれないが
「…今回だけなら見逃してやっから早く戻れ」
「はいっ!」
返事だけは威勢良くしてたけれど
立ち去るまでの間、は檻に入って
奥に進むオレらを何度かチラチラ見つめてた
…本当にしょうがないヤツだ
受付の奴にも一応口止めして牢へと入り
拘束している レイチェルの身体を借りた
メデューサに、手ずから食事を食わせてやる
「それで"BREW"は見つかった?」
「ああ お前の言った通りの場所に置いてあった
鑑定した結果、本物だとわかった」
3人の魔女の情報と、"BREW"をこちらに
手渡し、自らも投獄した狙いが何かは知らんが
5歳の少女を実質人質に取ったこいつに
決して 隙を見せてはならない
「この拘束具とってくださる?体がもうガチガチよ…
こんな死武専のどまん中で暴れるわけないでしょ」
よく言うぜ、さんざデス・シティーで暴れたクセに
「ん゛ん〜〜」
拘束から開放されて 大きく伸びをした
小さな背中にホコリがついてたので
ついついその背を軽く叩いてしまった
「子供じゃないんだから
そこまでしなくていいわよ、自分でやるし」
「う、うるせぇな!つい間違えたの!」
気を取り直して、コイツがこないだ口にしてた
アラクネの居場所について問いただすが
メデューサは同じように、こう返す
「今までは無償であなた方に渡してきた
でもここからは違う 取り引きよ」
「…話してみろ」
「ここではダメ、死神と直接話がしたいわ」
メデューサはオレを仲介しての取り引きでは
安心できないらしく
死神様とでなければ交渉しないとの一点張り
「強情な奴だな…一応聞いてきてやる
けど聞き入れられる保障はないからな?」
「そうかしら?」
牢から出ようとしたオレへ、メデューサは
思い出したようにこう訊ねる
「そう言えば牢に入る前、君が
近くまで来てたでしょ?」
「…何で分かんだよ」
「嫌でも聞こえてくるのよ、耳鳴りが」
耳鳴り、ねぇ…そういや前夜祭のあの時
オレも耳にしたな と思いつつ牢の扉を閉める
―同日/DEATHROOM―
思惑通り "BREW"の情報をダシに
振り回されっぱなしの死武専は
警戒心を抱きながらも私へ協力を要請してきた
それはいいんだけれどもー…
「で 取り引きって何よ?」
「パ…パンツが…」
チョップされたりフードつままれて
持ち上げられたり、パンツ談義されたあげく
「あなたたちいいかげんにしなさい!!」
「あッ 女性の前で失礼だったね」
「それはどうでもいいのよ!!」
叱った直後に、またつまんで持ち上げられるわ
カボチャパンツの話に飛びそうになるわで
正直ちょっと いやかなり挫けそうになった
大丈夫、こいつらは距離さえ取れば
あのド変態ヤギ娘ほどじゃない…ハズ
「お〜い もうつままないから
こっちいらっしゃい!」
「……………………………約束よ…」
とにかく、ペースがこっちに戻ったので
私はババ・ヤガーの城の場所と攻略するための
情報を教えるコトを提示して
「"ババ・ヤガーの城攻略作戦"の全指揮を
私にとらせてもらいたいの それだけよ」
取り引きの条件を彼らへと突きつける
「バカ言うな…そんな条件のめるか!!」
当然ながらデスサイズは、私になど
これほど重要な作戦は任せられないと言って来た
けれどもその反応は残念ながら予想済み
「条件がのめないようなら
このままアラクネに踊らされてるままよ」
腰を据えてじっくりと、こちらの条件を
呑まなければ立ち行かないコトを
説き伏せる算段と用意はすでにある
―同日/ババ・ヤガーの城―
城へと招待されたキムとジャクリーンが
「そう焦るコトはない キム嬢の次は
あなただよジャクリーン」
部下たちに取り押さえられ、道徳操作機へ
連行されるのを感じ取り
魔法を練っている陣の中央にて
モスキート同様、私(わたくし)も一人微笑む
鬼神の復活から、時間をかけ出来うる限りの
魔道具の回収を行ってきたけれど
死武専に先んじて奪われた品や
いまだに行方の分からない魔道具も多い…
「けれどよもや、細々と生きながらえていた
同胞の手に"あの檻"が渡っているとは」
BREWの情報による死武専のかく乱と平行して
ギリコに回収を頼んだけれども
やはりもう少し早く動くべきだったかしら
「設計図は城になかったみたいだし…君に
破壊されてしまったのは勿体無かったわ」
数百年前と同じように"双剣"にその身を貫かれた
あの女も…皮肉な最後を迎えたものね
さて 妹はそろそろ動き出す頃かしら?
派手好きの小娘も、懲りずにこちらへ
乗り込む機会を狙っているようだけれど…
「なにも問題はない」
何人たりとも私(わたくし)を阻めはしない
―同日・放課後/死武専廊下―
お互いとりとめのないバカ話しながら歩いてたら
視界の端に、ツナギ姿の男が見えた
「…まは目立たないよう…を潜める…
ヤツ…先生…みんなに気づかれないよう…」
なんだコイツ?ぶつぶつ呟いて気持ちワリィ
「あれ?おいソイツ、最近ガリ勉女や
死神様の息子とつるんでるヤツじゃね?」
「ああ!道理で見たことあるヤツだと思った」
確かとか呼ばれてた気がする、まあ
名前なんてどーだっていいか
地味なクセにあんな連中と話してて生意気だし
シャワー室でのガリ勉野郎のうっぷん晴らしにゃ
ちょうどよさそうなカモだぜ
「っと、おいテメェーぶつかっといて
ひとこともあやまんねぇのかよ?」
「聞いてんのか?あぁ?」
肩をつかんで引きながら、こっちを振り返る
ツラに叩き込めるようコブシを構えて
殴ろうと してたはずだったのに
すげぇ近くでドカ!とかデカい音がして
気づいたらオレは向こうの壁に押しやられてた
首筋に チクッとした痛みと冷たい感触がする
視線を動かせば…オレの首のすぐ真横に
武器化された刃物が突き刺さってる
「…あ、ゴメン 悪いけど手ぇ離して?」
「はぁ!?ふざけんなよテメェ!ツラかせ
「手ぇ離せよ、補習あんだから」
うざってぇ前髪から見えた目がマジすぎて
オレらは手を離して、その場から逃げた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:今回は単行本と同じ流れで進行してます
…時系列は自信ないですけどね
ソウル:そここそ捏造でどーとでもしとけよ
狐狗狸:返す言葉もございません
メデューサ:たっぷり待たせておいて中身が
はしょりまくった水増し長編だなんて、正直
ガッカリもいいトコロね…はぁ…
狐狗狸:ええ、本来なら全力駆使して
カボチャパンツ談義を広げたかったトコです
スピリット:うんうん、カボチャパンツを
はいてたマカはそりゃもうかわいくてなー
死神:今風に言うとドロワだっけ?
マカ&メデュ:だからカボチャパンツは
どうでもいいっていってるでしょ!
ババ・ヤガー攻略作戦が始まった裏では
彼が凶行へと至る経緯が…?
様 読んでいただきありがとうございました!