―翌日/DEATHROOM―





…キムと一緒に死武専を飛び出してから
一週間も経ってないはずなのに


久々に帰ってこれた、って感じがする





「何だか、緊張するなぁ…」


大丈夫 私や死人先生が一緒だから」





パートナーのブラック☆スターが
まだ保健室で寝てるっていうのに


付き合ってくれる椿は本当にやさしい





そして…目の前にある 大鏡から現れた死神様が





うい〜〜す
ごくろうさ〜ん大変だったね〜」



「う…うい〜す…」 「おはようございます」





体操着姿で アンジェラと共に並ぶ私達へ

いつものように挨拶してくださった





「色々とたーいへんなコトになってるけど
君らが無〜事戻ってきてくれてよかったよ」


「死神様…本題に入りましょう」


「そうそう、二人の魔女っ娘
今後についてだよね死人くん」





死神様からのその一言に、より一層緊張が増す







"魔力の導き"に支配されているのは

破壊を好む魔女としては通常


でもキムは 再生魔法を得意としていたから
"魔力の導き"の影響はなく


アンジェラは、まだ幼いからこそ
破壊本能に目覚めてはいない…けど





「アンジェラはいつ
破壊本能に目覚めてしまうか…」


真剣な先生の一言に、私も内心では

同じように不安を感じずにはいられなかった





待って死神様 そのことなら
私に考えがあるの」





だからキムは死神様へ


自分の魔力を周期的にアンジェラへ
注ぐコトによる"魔力の導き"抑制を


そして私は「道徳操作器」の使用による
精神的な抑制を口にする












L'ultima storia 一縷の救い











あれ?道徳操作器は破壊されたよね?」


「完全破壊までは至っていませんでした
設計図も残っているため、修復は可能かと」


「あ…あの、どうか…アンジェラを」





椿もおそるおそるフォローしてくれる中


じっと死神様の次の言葉を待


うんうんOKOK全然保護という方向で
他なんかあったっけ?」


軽いなぁ〜





でも…本当にありがたい





ホッとしたトコロで、静かだった
アンジェラがふいに声を上げる





「ねぇーねぇー椿ぃー」


「なぁに?」


「ミフネはいつ迎えに来てくれるの?」





用心棒・ミフネの最期は私やキムも
後から聞かされていた





「…もう少ししたら、かな?」







―同時刻/死武専保健室―





見舞いに来たソウルから


"ミフネの死を隠しておけ"なんて
ふざけたセリフが出るとは思わなかった





「みんなしてアンジェラを
だまそうっつーのか?」


「だますとかそういうコトじゃない
ウソも方便っていうだろ」





意味がわかんねぇし納得いかねぇ





…けど、ミフネを殺したコトを教えても


アンジェラのためになんねぇって
ソウルが言うのも 何となく分かる





「ソウル…さすがにいてぇ…」


あ!!すまん…」





すっかり動く気も失せちまって


押さえつける腕から解放されたオレは

寝ころんだまま、窓の外へ目を向ける







…納得の上の"殺し合い"だったが


ミフネを殺したオレは、アンジェラのコトも
背負ってやらなきゃならないから






「オレだって少しは大人になってるよ」





呟けば黙ったまま、赤い瞳がじっと
こっちを眺めていた





「…冷えてきたな 窓閉めるぞ」


「いや…待てソウル
もうちょっと開けといてくれ


「分かった、それより
…まだ目覚めねぇのか?


「ああ、オレ様が隣にいるってのに
まったくだらしねぇ信者だぜ」





ベッドの上に眠るだせぇ亜麻色頭は

いまだに、ぴくりともしねぇ





保健室を出ていく寸前で





「あやまるヤツを待たせる気かよ」


イラだち交じりのソウルの呟きが聞こえた







―同時刻/デス・シティー―





あの時、私らの目の前で血ぃ吐いて倒れてから


キムの魔法で応急処置をしてもらっても
はずっと眠ったままで





仕方がないから、他からキッドを助ける
手がかりを得ようと記憶をたどって





「それでキッド君は、その本の中に?


バスケコートでマカに相談を持ちかけた





「たしかその本…
"エイボンの書"って言ってたな…」


「本に詳しいマカなら
何か知ってっかなーと思って」





けど…返ってきた答えは
あまり期待できそうなものじゃなかった





「う…うん…ちょっとわかんない…」


「なんだー使えねぇー」


「こらパティ、悪ぃな」


「いいよ気にしないで…」





それからちょっと黙って何か考えてた
マカに構わず、空を仰いで





思うのは…キッドの心配だけじゃない







面と向かってケンカ別れして


退学だのなんだの覚悟して
ブラック☆スターと待機部隊に加わって


大して強くもないクセに必死で城を
駆け回ってた


起きたら、どんな顔すんだろうな…









―夕暮れ時/デス・シティー近郊―





マリーと逃亡し、各地を転々としながら


色々と調査をする内…ジャスティンの
身辺には不可解な点がいくつかあるコト


B・J殺害時のアリバイがないコトに気づき





キムの逃亡から数日後、死武専から消えた
ジャスティンの行方を追いかけ







「見つけましたよ ジャスティン」





デス・シティーから遥か遠くに離れた荒野に


棺桶型のスピーカーから
爆音垂れ流し 佇むアイツへ


オレ達は、フードを取って姿を見せる





「何でB・Jを殺した」


「B・Jさんの「魂感知能力」は危険過ぎる
"鬼神様"が安心してお休みになれないので」


「よくのうのうとデス・シティーに
戻ってきたな 何の用だ?


ジャスティンは、笑ったまま答えない





…答えなくても奴の狙いはただ一人





マカ=アルバーンか?」





答えはないが、沈黙を肯定とみなして
崖から降りたマリーが一撃を加え


二撃目で棺桶ごと相手の身体を吹っ飛ばす





「マリー、気は済んだか?」


「済むわけないでしょ」





苛立ちを募らせるマリーへ語りかけ


武器化した彼女との共鳴で
超神経・雷綱(イズナ)を発動させ


一気にジャスティンへ畳みかける





何度か攻撃を食らわせ


背後に倒れた身体を後方へふっ飛ばし
地面へめりこむほど叩きつけた







へらへら♪おや、まだ動けますか」





せきこんでこちらを見る顔は"何をされたか
分からない"と言わんばかりだったが


一拍置いて 奴は身を起こしつつ呟く





「分が悪い…不本意ですが
ここは魔道具で引き揚げますか…」


魔道具?まさかその棺桶が…
「いや、これはただのスピーカーです」


おもむろに懐から取り出したのは、一枚の紙





「では ここは一旦





言うが早いか不敵に笑うジャスティンの
身体が紙の中へと吸い込まれ


様々な魔法文字の書かれた一片の紙は


地面へと落ちた瞬間…あっという間に
自ら燃えて灰と化し、消えた








『何なの、あの紙…』


「奴は"魔道具"と言っていた、間違いなく
魔導に精通する者の手による物でしょう」





紙というと…魔女の関与が
頭に浮かぶが


どうも、今まで相手が使った術とは 系統が違う


少なくとも 独力ではなく"強力な術者"
共謀していると考えるべきだろう





「逃げられちゃったわねシュタイン」


「構いません、一時的とはいえ相手の目的は
阻止した…戻りましょう、死武専へ





オレの言葉に 人へと戻ったマリーも頷く





BJ殺害の真犯人として追っていた
ジャスティンとの交戦と、その証拠記録


そして…傍らで調べた情報網


報告するコトや、伝える相手はあまりに多い







「それに早く帰らないと、先輩や
君が妬いちゃいますからね♪」


はぁっ!?何言ってるのよもう!」


軽くからかい、シャレにならないグーから
逃れつつ…オレも決意を固める





そろそろ、君も知るべきだ


"伯爵"のコト そして"双剣"のコト…





しばらく辺りには、棺桶型のスピーカーから
垂れ流される重低音が響いていた









―神父逃亡後/死武専廊下―





オックス君達と、今度の一件を通じて
色々と話し合っていたトコロで





向こうから彼が ひょこひょこと歩いてきた





目が覚めたんですね、心配しましたよ」


「ありがとオックス君」


「お前血ぃ吐いたってのにワザワザ
あやまりに来たのかよ?ホントにバカだな」


「いいじゃん別に、キムが僕のケガも
治したって聞いたから お礼ついでだよ」


「いいわよ別に…こっちも迷惑かけたし」





今の二人のやり取り
(主にはにかんだキムの顔)で、


ちょっぴりオックス君が
顔をひきつらせていたのは見ないフリしとく





「ただし、アンタは次回から有料ね」


「ああ、うん…じゃ後でちょっと
お値段の方 相談してもいいかな?」





頼りなく笑う君の台詞に


要求をしたキムの方が、逆に驚く





「キムの請求をケチってた
支払いの相談をするなんて…!」



続くようなジャクリーンの一言も
さるコトながら 僕らもやや目を見張った


まあ…彼の生活状況は置いといて





先日の奇襲がウソみたいな心変わりだね」





口にすれば、少し困ったように僕を見て


君は曖昧に笑った





「僕の姉貴やメデューサみたいなのは
今でも許せないけど "魔女"ってだけで
少し偏見持ちすぎてたのは反省してるよ」


「アンタの姉って…魔女なの!?」


「個人的にはあんな変態アバズレ、姉だなんて
一ミリも認めないし認めたくもないけどね」



「ふーん…名前は?」


「……





瞬間、キムとジャクリーンが顔を引きつらせ
数歩ほど後ろへと退がる





「…今、初めてアンタがかわいそうに思えたわ」


アレが身内なら、魔女嫌いにもなるわよね」


「理解してもらえてうれしいよ」





前髪で顔半分が隠れてても


笑顔がさっきよりも酷くいびつ
苦々しいのがハッキリわかる





「…どんなヤツなんだよ?って」


「「「ド変態(さ・よ) 色んな意味で」」」







……この後、キムとジャクリーン


そして君からもたらされた
魔女の実態





僕ら三人の顔と心に、語る彼らと同じ
嫌悪を抱かせるに十分なものだった











―同時刻/DEATHROOM―





鬼神復活辺りから、考えていたけれど


今回の一件で踏ん切りがついたから





思い切って…"死武専若手精鋭部隊"
つくってみちゃった♪





「じゃあ略して死武ガキ隊だね〜」


「えーと…メンバーは今回の
作戦に参加した者達というコトで?」


「そうだね、それにキムたち魔女の力も
立派な戦力として申し分ないかな」


救出したら キッドも入りたがるかもね〜





、それと並行してなんだけどさ〜」





私は いつもの調子で死人くんへ訊ねた





君の今後の処遇も
ついでにここらで決めちゃおうか?」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:新たな不穏の種やら展開の兆しやらを
残しながらアラクノフォビア編、終了!


死神:そして"死武ガキ隊"編に続くよぉ〜


椿:あの…その名称はちょっと…


キリク:つかのヤツ普通に廊下
歩いてきたけど…歩けるケガだったっけか?


オックス:確か…肋骨数本のヒビがひどく
複雑骨折寸前の重傷だったハズじゃ?


ソウル:前夜祭ん時の片足と肋骨のヒビが
治りきってねぇからな、アイツ


マカ:ダメじゃん!絶対安静は!?


キム:私の魔法である程度平気とか
バイト先がどうこう言ってたわよ?青い顔で


マリー:何やってるのよあの子は!!


狐狗狸:やせ我慢も青春ってヤツです




長編拝読ありがとうございました、次回
本格的に新展開!色々な意味で!!


様 読んでいただきありがとうございました!