―決着後/"女王蜘蛛の間"―





魔人狩りの一撃を浴びて





「あぐぎぁああぁああぁあ」


耳障りな断末魔と共に
アラクネの巨体が爆発する





素体となっていた闇も散り散りとなり


収まらぬ煙の中から…蜘蛛の足を生やした
"魔女の魂"がマカの目の前へ現れる





「アラクネの魂…
私…魔女を倒したんだ…


呼吸を整える彼女から 黒血の鎧が剥がれ

元の制服姿へと戻ってゆく





「やったなマカ」


並んで、人の姿へと戻ったソウルが
パートナーの健闘をたたえる





心配していた"黒血"の影響も特になく


煙と狂気が収まり 闇に静まり返る
女王蜘蛛の間で、二人はクロナを探す





…だが





「この子は…」


白と黒の交差模様に横たわる少女を
見つけ、抱え起こしたマカは


少女からメデューサの反応がない事と


メデューサの魂反応が別の場から
現れた事を感知して





振り返ったその先には







「やっぱり姉妹(きょうだい)の体…
しっくりきた…」






横たわっていたハズのアラクネの死体が
何事もなく起き上がって


開いた口から矢印のような舌を覗かせていた













Tredicesimo episodio 死を喰らう美女











飛来した"黒い矢印つきの蜘蛛の巣"


とっさの事で思考が追い付かずに

回避しきれなかったマカの左脇をかすめる







―魔女"顕現"後/城内廊下―





居残っていた兵士を片付けて
室内にいたアンジェラを無事に保護し





オックス!ようやく会え
!?何でアンタここに」


「いやいや、何では僕の方
何でメイドのカッコしてるの二人して」


「成り行きってヤツだよ♪」





リズとパティの二人も
オックス達と合流を果たしたのだが





「キッドはどうした?」


「…私らにも何が起こったか
ワケが分かんないんだけどさ」


「ねぇ二人とも、まさかキッド君は」





道中で感じた"魔導師"の波長と


同時に聞こえたキッドの者らしき声を
繋げて考えた"最悪の想像"


口にしようとした まさにその直後







骨という骨に液体窒素で出来た蜘蛛が
増殖していくような感覚に襲われ


彼の意識が痛みに埋め尽くされる






「…君?」





問いかけるオックスが…次の瞬間 目を見開く





鼻と口から、ボタボタと音を立て
血をあふれ出させた少年を目にして






ぐらりと傾き 声も出さずに床へと倒れ


流れる血と駆け寄る仲間を





当の本人は…どこか他人事のように
感じながら 静かに目を閉じる





!?」



「っおいしっかりしやがれ!!





―同時刻/"女王蜘蛛の間"―







空となったアラクネの体を乗っ取り





「力を持っていても、しょせん子供ね」





自らがである立場を利用して


クロナをダシにマカを騙した事を
メデューサは暴露する





BJが消えた今 一番の危険分子はあなた

…アラクネを消してくれた今
もうあなたは必要ない」


「お前がBJを殺ったのか」


「私は見ていただけ」





彼女を支え、睨みつけるソウルへそう返し


黒衣の魔女は
邪魔者となったマカへ矛先を向ける





「消えてもらうわよ」


背から生えた矢印が素早く伸びて







服を着た奇妙な猿が、メデューサへと
殴りかかったのはまさにそのタイミングだった





両腕でガードし矢印で猿を迎撃するが


猿は身軽に矢印を避け、足場にして

たたみかけるように蹴りを繰り出した





あまりの事に唖然とする二人と





「デスサイズの職人か…」





見当をつけたメデューサに対峙する
猿のすぐ側へ、これまた奇妙な男が現れた





おい猿里華(エンリケ)
あまり無茶するな」


「ガウガウ ガウガウガウガー
ガウガウガウガーウガガ、ガウガウガウ」





"チェック柄のクマの被り物"をつけた
スーツ姿の男は


猿里華と呼んだ"ヒップホップ風"な
妙に若者っぽい格好の猿の言葉に


"下ネタはやめろ"と腹を叩いて爆笑する





「あれが、キッド君の言ってた助っ人…?」


「知ってたのかよ、つかアイツ
あの猿の言葉分かってんのかよ…」





周囲にお構いなしに、猿里華はクマの男に
何かを語りかけており


それに対しクマの男は一々笑い転げる





死武専特有のそのノリに、いい加減
苛立ちを隠しきれなくなったメデューサが





「いい加減にしなさい!!」


矢印を差し向けると 避けた二人は
短く言葉を交わし合う


そして"鏡"へと変化して


猿里華の右足へ装着された
クマの男が問いかける





あんたとやり合うのは構わないがいいのかい?

ババ・ヤガーの城の制圧は時間の問題…
今に死武専の連中がなだれこんで来るぞ』


「フンっ猿一匹、一瞬で終わらせる
あなた方じゃ時間稼ぎにすらならないわ」





だが猿里華と…デスサイズの一人
"魔鏡"テスカ・トリポカも退く気はまるで無く


攻撃に移ろうとしたメデューサは





"這い回る蜘蛛"の感覚と…


左目の周りに数瞬浮き上がる
蜘蛛の巣の"残留思念"に気が付き


完全に身体を乗っ取り切れていない状態で
戦いを続けるのは不利だと判断する





「どうやら時間切れね…いいわ
ここは退きましょう」





アラクノフォビアを潰したし


当面の目的を果たした以上
彼女に長居の必要は、もはやなく


アラクネの抵抗もある身体へ万一
の攻撃を受けたら支障が出る


そう考えたが故に


立ち去ろうとしたメデューサの背へ





「待て!!メデューサ!!

クロナはどこだ!!






あえてマカは、強く言葉をぶつける







『あなたのお父さんを見ていてわかるでしょ?
親は子供のコトになると必死なのよ…』


坑道で話した、あの小さな背中が
いまだに脳裏に焼き付いて離れず





『魔女なんか助ける価値も信じる価値もない』


冷たすぎるの台詞をどうしても
覆したくて、信じようと努力していたのに


…その全てを否定されて







「ウソつき!!」





思わず涙をあふれさせる少女へ


魔女は…邪悪に笑ってこう告げる





あきらめなさい あの子はもう
あなたが知ってるクロナじゃないわ


あの子をあなたなんかに渡さない


テメェ!!どういうコトだ!!」





答えず魔法で高く跳び上がったメデューサは

女王蜘蛛の間から出て行った







やり場のない怒りを、こぶしと共に床にぶつけ





「信じてココまで来たのに…
くやしいよ…ソウル…





何もできない自分に無力さを感じて
泣くばかりのマカへ


ソウルもまた…何も言えず佇むしかなかった









―死武専撤退後/デス・シティー―





…アラクノフォビアが壊滅し


城外にて敵勢力を制圧後、オックスや
テスカと連絡を取った死人達は


城内に残っている魔道具の回収や


死武専生徒全員、および魔女アンジェラの
保護などを行い


全員無事にババ・ヤガーの城から撤収した





「道徳操作器は、破損個所が少なく
設計図と合わせれば修復が可能なようですね」


「そうか…魔女は?」


「どうやら我々が城へ突入した時点では
もう逃亡していたようです」


「やはりか…」





オックスづてに報告された"魔力"の情報が
正確だった事が裏付けられ


納得した死人が、ついで
の様子を訊ねた





「まだ目は覚まさないのか?」





ナイグスは静かに首を振る





「キムは、倒れたその場ですぐに
治療をしたと言っていたが…」





魔術でいくらか治癒を施してもらえど


今回の戦闘で、の身体と精神に
かかった負荷は相当に大きく


意識は…まだ回復しそうにないらしい







彼だけではなくオックスやマカ
ブラック☆スターさえも疲労の色は濃く


それだけに今度の任務が

かなり過酷なものであった事をうかがわせる





だが一番の衝撃はやはり…





「まさか、キッドがさらわれるとは…」





"ノア"と名乗った魔導師による
キッドの誘拐であることは間違いがない








深くため息をついていた彼らへ





「死人さん…お電話ですよ


梓が、神妙な面持ちで呼びかけた







―同時刻/ババ・ヤガー城内―





今の今まで、ぐっすりと眠りこけ


薬の効果が切れたので目を覚ましたギリコは





あまりにも荒れ果て 様変わりした
城内の様子に仰天する






「おい、誰かいねぇのか!?





部屋から出て、廊下や室内を見て回り


窓からも外を伺いながら声を張り上げ
仮面をつけた兵やモスキート


ひいてはアラクネの姿を求めて走るも





見つかるのは所々に残る破壊の跡と
ひび割れた仮面や地面に刺さる刀


…そして人っ子一人いない空間だけ





「なんじゃこりゃぁあ!!!」







そうして城内がもぬけの空となっている事を
知り、ギリコは近くの瓦礫に座りこむ





何が起きたかまでは思考が及ばずとも


アラクノフォビアが壊滅してしまった


その事実だけは何となく理解して





「やっちまったか…」


そのようですね おとなしく
寝ていてくれたらいいのに」





冷や汗を流す彼の元へ


一人の青年が、穏やかに声をかけた





「ちょろちょろ動き回るから探しましたよ」


「お前は…!?」


禍々しい、どこかラグナロクを思わせる
巨体の生物を背負った神父





ジャスティンが、ギリコへと笑いかける





「ギリコさん 僕らと共に来ませんか?


「ジャスティン・ロウ…お前…
やっぱりか…」





手を差し伸べる青年と会話を交わす魔武器


奇しくもそれは…先日、
魔女ディーテの"夢"で垣間見た光景だった







―同時刻/所在地不明―





空を仰ぎ、前夜祭の記憶を思い返し





「あの時は思わずビクンってなっちゃって
つい落っことしちゃったけど」


薄く色のついた紙を貪って

銀眼の瞳孔を横へと細める





「つ・ぎ・は…逃がさないわぅあ?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:二月中のアラクノフォビア編終了は…
無理っぽいです、くそう


マカ:元々始まるの遅かったじゃん


ソウル:ちょうどいいから、そのまま
スパルトイの辺りまで突っ込んじまえよ


狐狗狸:次回の原作も長いんですけど
てーか君らも夢主も変化ありまくりますけど!?


猿里華:ガウガ、ガウガウガーガウガウウガッ


テスカ:ぎゃーはははは!そりゃ確かに
お前の言う通りだが、ちぃと表現がエグすぎだ
イヒャヒャヒャヒャ!サイト閉鎖されゲヒャヒャ


狐狗狸:お前は一体何を言っているんだ?


ソウル:知らなくていいと思うぞ
てゆか、オレ達にも分かんねーって




任務終了の後日…新たなる物語の始まりは近く


様 読んでいただきありがとうございました!