―狂気伝染中/"女王蜘蛛の間"―





魔女が息をひそめる闇に目を凝らすうち


周囲の魂の様子が
おかしくなってるコトに気づいた





「マカ…これは…」


「うん…アラクネがこの城の近くにいる
魂を全部…狂気にとりこもうとしている







目を閉じて 感覚を研ぎ澄ますと


みんなの魂へ糸を伝って、無数の蜘蛛

いくつもいくつも貼りつくのが見える





「やばいよ…ソウル この城にいる
みんなの魂が徐々に狂気におちていってる!!」


あんなにたくさんの狂気に群がられたら
長く持たない…どうすれば…!





と、戸惑っていたソウルがふいに答える





『アラクネの近く…ここが狂気の発生源なら
何でオレに影響がないんだ…?』





それって…もしかして!


共鳴している私の波長が、狂気の影響から
ソウルを護っているってコトだ!






降りてくる蜘蛛の脚を切り払いながら
私は考え続ける





共鳴連鎖…いや…そこまでしなくても

私達の波長をみんなに伝えるコトが出来れば
狂気をはらえるってコトでしょ!」


『理屈ならわかるケド そんなコト…』





わかってる、でも今は
これしか方法が思いつかない





「ソウル、力を貸して…」












Dodicesimo episodio 毒抜きの舞踏











―同時刻/"女王蜘蛛の間"―





お前ならできる、と無責任に小鬼は言うが





いや、無理だ…いくらなんでも
城の周り全域に伝えられるほど
オレのピアノの音はデカくない…」





けどこうして突っ立ってる間にも
皆の魂が、どんどん狂気に飲まれちまう


何か方法を考えねぇと…


「おい どうした?早く弾いてくれよ
オレはお前のピアノが聴きたいだけなんだ」



「うるせぇ その為に今、考えてんだ」





…てゆうか何だよ?さっきから


変な耳鳴りがどっかからしてやがる





「相変わらず
めんどくせぇ性格してやがんな」





小鬼はオレの気も知らないで、ひたすら
ピアノを弾けと急かすばかり





「ちんたらやってるとピアノの弦が緩んじまう
それどころか、蜘蛛の巣が張っちまうぜ


オイっうるせぇって言…!!」


その一言が頭に引っかかって


辺りを見回せば ほんの一瞬だけ





"かすかに震える白い蜘蛛の糸"が見えた





そうか!!オイマカ!!
もっと魂感知に集中してくれ」



『え 集中って?』


「早く」







やがて…糸はハッキリと現れてきて





「何をする気だ」


「アラクネはこれだけの広範囲
どうやって狂気を撒いてると思う?」


ようやく 色々と見えてきた





「アラクネは魂を蜘蛛の巣状に広げ
糸に掛かった魂を狂気に導く…」






そして、さっきから微妙に糸を
揺らしてるこの"耳鳴り"の震源地は…


蜘蛛に集られた の魂だ





…ったく弱っちいクセに
こんなトコまで出しゃばりやがって


何だかんだガンバってんじゃねぇか







兄貴の弾いていた瞑想曲を思い浮かべ





「その糸を逆に利用してやる」





オレは蜘蛛の糸を、ピアノへ繋いだ









―狂気蔓延/ババ・ヤガー城全域―





あと一息で 巣に掛かった魂は全て
狂気へと包まれ私の力となる





いくら強い波長で打ち払おうと


例え"伯爵"の魔術が私の策を邪魔しようと
全ては無駄でしかない





「誰か…この足音を止めて…!」


「苦しい、苦シ、いぃいぃ


あぁあああぁぁあああああ





アラクノフォビアの兵隊達も


死武専の者達も、生徒達もみんな
狂気にのまれまいと抗っているが


いつまでも 持ちはしない…







―だが、限界間近の悲鳴に交じって





場違いなほどに澄んだピアノの音が響き渡った







「こ…これは


私の糸を通して、光に包まれた音が
伝わり広がっていく





発生源は…マカ=アルバーン!





「私の巣を 乗っ取ろうというの!?」







―"旋律"演奏中/城内廊下―







聞こえてきた、きれいなピアノの旋律が
頭の中をはっきりさせていく


蜘蛛の這いまわる姿や足音が消えていく


そして身体が光に包まれるような感覚を
私達は 味わっていた





何だ?この曲は…」


「…まったく、かなわないなぁ」







イヤな"耳鳴り"がしないからなのか


のつぶやきが、すごくおだやかで
心から笑っているように聞こえた





「何か見えたんですか?」


見えたよ、スーツ姿でピアノを弾く
サイッコーにカッコいい仲間の姿が」





さっきまで一緒に真っ青になって
うめいてたのがウソみたいに


しっかりと立ち上がった





アンジェラのいる部屋も


リズとパティの居場所も
"糸を通して見えた"って言った





「行こう、僕らも戦わなくちゃ」





まるでマカの勇気が乗り移ったみたいに
自信にあふれたコイツの言葉は


ずっと聞こえ続けてる旋律と一緒に

私達を後押しした







―同時刻/ババ・ヤガー城前―





とても馴染みのある波長が


ロスト島で聞いたのと似たピアノの音色に
合わせて頭の中へと流れこんで


…辺りを支配していた狂気が

消えていくのがハッキリと分かった





「これは?」


「マカちゃん…」


へっ 鈍くせぇ曲だな
オレ様の信者といい勝負だぜ」





憎まれ口とは裏腹にブラック☆スターの
表情はうれしそうなのが分かる





「…そう言えば先生 君は?」





そこでようやく、私は部隊の中に
魔鋏の彼がいないコトに気が付いた





「詳しい説明は省くが、城内にて
オックスチームと合流し」


「戦ってんだろ?」


「ああ」





死人先生が頷いたのを見て







「だったらそれ以上の説明はいらねーよ」





そう答えたブラック☆スターが
君を信頼しているのは


私にも、先生達にもすぐに分かった









―波長拡散後/"女王蜘蛛の間"―





「強い感知能力と 退魔の波長」





マカ=アルバーン…ここまでとは


まさかアラクネの糸を利用して
退魔の波長をばらまくなんて





悔しがるアラクネの側へ


糸づてで飛来した彼女の波長が接近し


『退魔の波長がこちらまで…』





次々と被弾し、アラクネが闇から
炙り出されてゆくのが見える





「ネットワークを切るのが遅かったようね」







狂気が払われ 闇の中から


アラクネの上半身を持つ巨大な黒い蜘蛛が
無様に引きずりおろされた





捕まえた こそこそ人の心の隙間に
忍び込もうとするからよ」


小娘…私(わたくし)が自分の巣に
かかってしまうなんて…』


『いくぜマカ』


「『魂の共鳴』」





魂の波長が増幅し


マカの制服が、黒く染まりドレスのような
服装へと変化していく





手にした鎌もまた


"魔女狩り"よりも遥かに強大な波長を
まとった長大なモノへと変わる





「お前の魂いただくぞ」





アレが…"魔人狩り"!!


思わず顔が引きつるのを自覚する





私がふんだとおり、この娘…
魔女には危険すぎる







向かい合う二人は 床に倒れたままの
こちらには一切目もくれない


それもそのハズ





アラクネは自らを滅ぼす"敵"から


マカとソウルの二人は、"狂気"そのものと
化したアラクネから


決して目を離すコトなどできない







……本当 
近くに…この場にいなくてよかったわ





視線を動かし、遠くで同じように
転がっているアラクネの肉体を確認し


私は 舌を出して笑った







―同時刻/"女王蜘蛛の間"―





ピアノに感情を乗せ過ぎたせいで
黒血が活性化した、とソウルは言った


…少し、無理させたかな





大丈夫すぐに治まる それより黒血の鎧を
まとってる間に一気にたたみかけるぞ』


「う…うん!!





ヒールで床を蹴り


真っ向から、アラクネとの距離を詰める





攻撃してくる黒い脚を
次々に切り落として着地した直後に


アラクネが足をバネに巨体を宙へ持ち上げて
尻の部分から網状の糸を吐く





だけど直撃を受けても、何も痛みはなく

糸が絡まって動けなくなるコトもない


皮肉だけど…黒血の鎧…機能してる





いける!!





柱に足をからめ宙にしがみ付く
アラクネめがけて


私は高く高く跳び上がった





「終わりだアラクノフォビア」







肉体を棄てたから 攻撃力が足りないとか


物事がすべて勇気で片付くと思うのか?
とか口走るけど


私は、惑わされたりなんかしない





お前なんか怖くない!





「圧倒的な攻撃力の前では勇気は吹き飛び
無謀が残る、極々当たり前の結論だ」






振り上げた"魔人狩り"の刃を





「敗因は私にある…私は攻撃力を
棄て過ぎた ただそれだけ」



「私はお前より強い ざまぁみろ





蜘蛛の魔女の胴体へ、力一杯振り下ろした








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あとがき(というか楽屋裏)


梓:さて、年を一つまたいで
ようやく長編終了の目途が立ったようですね


リズ:いやキッド助かってないから!


ハーバー:彼の救出と"伯爵"についても
そろそろ書かれるって聞いてるけど?


狐狗狸:それよりも何で君らがあとがき
占拠してんのか、そこから聞こうか


ジャッキー:私だって…
出番、欲しかったんだもん


パティ:きゃはははは出番よこせオラァァ!


狐狗狸:ぎゃあぁぁ!あざと可愛いと
暴君のコンビネーション!?


ナイグス:…お前達、もう少しソウルの演奏
聞いて狂気をはらって来い




ついに魔女を倒した!しかし話は終わらず…


様 読んでいただきありがとうございました!