―魔女確認後/"女王蜘蛛の間"―





倒れたアラクネを前にして、マカちゃんは
死んでると呟いた


『アラクネが死んでるだって…!?ウソだろ…





ここへ来る前から

可能性として最も高いと懸念してはいたけど


…やはり…こう来たか





「マカちゃん…あなたの魂感知で何かわからない?」


返事はなかったけど、彼女は動揺しながらも
辺りへ視線を走らせている





部屋の周囲や柱の間に固まる闇が


ぐっと濃度を増して
こちらへ迫ってくるような錯覚を覚える





…いえ、実際に闇の中に潜み


こちらをじっと伺っているのだろう





やがて マカちゃんはハッキリと口にした





「アラクネは この部屋にいる」







―魔導師逃亡中/ババ・ヤガー城前―





何もかも捨てた、と口にして





「究極の武を求めるならオレを超えてみせろ」


「そのつもりだ…」





宙に舞う刀の一つを左手に掴み、両手の刃を
交差させたミフネが





「ためらいをもっていては オレには勝てんぞ


両腕を広げた勢いを利用し全ての刀を
ブラック☆スターへ向けて放つ





周りを囲むよう突き立つ刀が土煙を上げ


紛れて懐へ入りこんだミフネの刀が、跳ね上げた
周囲の刀剣を弾きかわして


ブラック☆スターは一旦距離をとった












Il decimo episodio 頼光の膝切











『どうなんだ…死人…』


「ブラック☆スターは変則の脇構え…

あらゆる方向から来る無限一刀流の太刀筋に
対応するための構えだろう」


自身の考えではなく自然と身につけた
武の申し子だ、と言葉が続く





…血のなせる技 か椿とのコンビだからか





ブラック☆スターの攻撃も変幻自在
フットワークをいかし死角に回り 攻撃を放つ」





正面からの一撃を、八相の構えで受けた
ミフネへまとった影の追撃が振り下ろされる





攻撃は右腕を掠めたのみだが


地へとついた影をバネにして身を縦にひねった
ブラック☆スターが背後へ飛ぶ





…だが、着地する寸前で


投げられた刀がブラック☆スターの左脇腹を貫く


すぐさま刀を抜くが、相当の深手を負った
アイツの頭上に別の刀が降ろされ


防いだ隙を縫ってミフネが横薙ぎに切り払い





「くぁああぁあああ」


右足で刀を受け止めるなど…なんて無茶を!





半ば無理やり刀を足から離し、そのまま
つば競り合いに移行するが


あの出血では手当をせねば長くは持たん





…それくらい分からぬ死人ではあるまいに
いまだに静観しているままだ









―★死闘中/城内廊下―





よーやく泣きやんだお姉ちゃんの手をとって





「とにかく、じっとしててもしょうがないよ」


言いながら私は立ち上がらせる





「早いトコ他のみんなと合流して
キッド君がさらわれたコトを教えて、助けに行こう!」





いくらあのノアってヤツが強くったって


マカやブラック☆スターたちと一緒なら
絶対助けに行ける!





けれどお姉ちゃんは困った顔をしたままだ





「けど…ヤツがどこに逃げたのか
分かんないと、どうしようもなくない?」


…そりゃそうだよね…」





せめてここにマカがいてくれたら
魂感知で追っかけるコトとか出来そう…あ!


そうだ!君だったら
魔力とかの波長がわかるよ!!」






どーいう理屈かは分かんないけど


ソウルプロテクトしてたって、君の
魔力探知をうまく使えば探し出せるかも!





「で、でもアイツとはケンカしちまったし」


「キッド君が危ないって言えば
協力してくれるよ!仲間だもん!!」






君がどれだけ"仲間じゃない"って
突っぱね続けたとしても


あの時、牢屋や神殿で言ってた言葉は


ずっと過ごしてきたあの時間はウソじゃない







「…それでもダメなら?」


「無理やり協力させる!」





脅すネタならコト欠かないし
最悪、銃を眉間に突きつけてでも協力させてやる





「っははは!それもそうだな」





…お、やっとお姉ちゃんが笑った







―同時刻/ババ・ヤガー城前―





つば競り合う最中、刀を握る人差し指と
中指を折られたブラック☆スターが


影を使いミフネを遠ざける





…無意識に、戦いを拒んでいるアイツは


"星族"として修羅の道を歩んでいた
ホワイト☆スターとは違うというのに





死んで蘇った今だって思い出せる







『シド…そんな赤子連れてきて どうするつもりだ?』


バカヤロー見殺しにできるわけねぇだろが』


『別に捨てろなんて言ってないだろ…

ああそっか、先輩のお子さん
そろそろ生まれるんですよね』


ああ この子みたいに元気な子ならいいなぁ』





星族最後の生き残りであるブラック☆スターを
抱きしめた時のぬくもりと 真っ直ぐな目





星族であるがゆえの罵倒を受けても





『まだ魂の回収は0個なのか?』


『今日も目立ってきたぜ〜』





強くあろうと笑っていたアイツへ、呆れつつも
頭をなでながら かけた言葉を





戦え!!!お前は鬼の子じゃない


マカたちやと同じ、死武専の生徒だ







「戦え!!オレはお前を武人と認め
全ての覚悟を決めた」






ミフネもまた、アイツに戦うコトを望んでいる





「武の道において死ぬ覚悟でいるのは
お前だけではない オレを武人と認めぬ気か?





そして左腕に握った刀で


自らの周囲に配していた刀を全て吹き飛ばした





「無限一刀流を捨てた…!?」


「来い 終わりにしよう」









―両者対峙中/城内廊下―





錠前も無事破壊したし、城内もいい具合に
混乱をきたしている





「じゃ、ここらでバラバラに逃げましょ?」


「OK けどフリーはどうする?」


「ゲロ…一応もちょっとだけ探してみるけど
まあ前もって言ってあるから大丈夫でしょ」





エルエルも大変ね〜





「チチチ、分かったわ
それじゃ後でまた会いましょ?


「ええ、またあとでね」


二手に分かれて、アラクノフォビアの兵士を
適当に片付けつつ地下を目指す


ここまでは全部手はず通り…





「それにしても、あの変態女は
最後まで現れなかったわね」





メデューサやエルエルはこっちに
接触してくるかも、って考えてたみたいだけど





…まあ、どうでもいいわ


妨害らしい妨害もなく 計画
順調に進んでるみたいだし







―同時刻/ババ・ヤガー城前―





たった一本の刀だけを手にして
ミフネさんが対している


私の中にいる"中務の意志"も彼へ語りかける





『武の道―…一度踏み外せば
そこは修羅の道…覚悟したのだろ?






ブラック☆スターは魂の共鳴度を調節して
普通の刀の重さになるよう、私へ告げた





『え、でも』


「ミフネと同じ土俵で戦いたい」







傷だらけでボロボロなのに、目の光は
変わるコトなく相手を見つめていて


私は…止めるコトなどできず望みに従う





「ここまで ありがとう」





ただの刀となった私を両手に握りしめ


「いくぞ」





しゃがみこんで、力を溜めた両足を
蹴ってブラック☆スターが挑みかかっていく





二人の顔へ浅く刀傷が刻まれ


一振り、また一振りと刀が振り上げられる度


新しく出来る傷口から血が吹き出す





「おおぉぉぉおおおぉぉおおお」


「はぁああぁぁぁああぁぁ」





けれど…ブラック☆スターもミフネさんも


お互いに攻撃を避けようともしないで

ただただ倒れるまで、斬り合いを続けている





…私には 彼が何を考えているのか分かる


全てを背負い、彼は武を極めて


武神になろうとしている







振り上げられた刀の切っ先が


構えていたブラック☆スターの
右目から頬、肩と胴をタテに切り裂く






けれど、とっさに閉じた片目をそのままに


攻撃を受けた直後の隙を逃さず


わずかに身を引いたブラック☆スターが
腰を落として突き出した一撃が





ミフネさんの心臓を、貫いていた









―★決着後/城内廊下―





しばらくうめいたりなんだりして、やたら
顔色が悪かっただったが





攻撃食らってふっとんだ後ぐらいから


ちょっとずつ足取りがしっかりしてきた
…ような気がする





お?大分顔色よくなってきたか?」


「あ、うん…なんか段々
辺りにただよってた魔力が減ってきたような」


「言われてみれば魔女の妨害も
ほとんど見かけなくなりましたね」





なるほど、さっきからパニクってる
アラクノフォビアの連中とかち合わせるワケだ





『魔女が逃げたってコトかな?』


「そういえばアンタ、アイツのコト
知ってるっぽい口振りだったけど」


「ああ、イヤになるくらいよーく知ってるよ
…あのド変態女のコトはね」





声もそうだが、あん時の奇襲以来の
ものスゲェ面してんな


昔どんだけヒデェ目に合わされたんだコイツ







曲がり角から出てきた兵をぶっ飛ばして
数歩進んだトコロで、が立ち止まる





「今さっき、この通路の奥から
かなり弱いけど魔力の波長を感じた」


『きっとアンジェラだわ!』


「行きましょう!」





オレたちは迷うコトなく、分かれている
通路の先へと入っていった









―同時刻/ババ・ヤガー城前―





力が抜けて、倒れていくオレの身体が
途中で何かに引っかかる


…いや、ミフネが支えてくれたのか





地面へそっと仰向けに下ろしたオレへ





「みごと…」


ミフネはそう呟いて ババ・ヤガーの城を仰ぐ





「すまない…アンジェラ…」





椿が胸に刺さったそのままで


アイツの身体が、ゆっくりと倒れていく







人の姿に戻った椿がミフネを支えて呼びかける





「ミフネさん」


「オレを少しでも、あの城の近くへ…」


「…はい」







周りで戦ってる連中なんか知ったこっちゃねぇ





運ばれていくミフネが、少しずつ散って
その身体を失っていくのを


肩を貸している椿が、涙を浮かべて
その様を見つめているのを


倒れたままで…目をそらさずオレも見ていた





オレたちが見届ける中、ミフネはやがて

跡形もなく風に溶けて 消えていった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:前回から微妙に時間が逆行してますが
魔導師逃亡の合間にこれだけのコトが起きた感じで


ブラック:今回はまさに
オレ様オン・ステージだぜぇ〜!!


椿:そうね、あと今回のタイトルはもしかして
日本の絵巻にちなんだものかしら?


狐狗狸:その通り!草子で有名なヤツね


ナイグス:椿は博識だな


椿:ありがとうございま「おいおいおいBIGな
オレ様の方が有名だっつーの!」
そ、そうね


スピリット:よかったー…前回、死神様共々
出番削られたからラストまで出番なしかと思った


死人:そこまで深刻にならんでも…まぁ
安心してくれたなら回想したかいがあったか




次回 いよいよアラクネが動きを見せる…!


様 読んでいただきありがとうございました!