数少ない、貴重な休みの日の午前中
「相談がある」
唐突に僕のアパートへ押しかけてきたキッド君は、そう言った
「え、ぼ、僕に!?」
「そうだ」
「えとその、ここじゃアレだし、喫茶店で聞こうか?
僕 着替えてくるから」
「いや、出来れば室内で話がしたい」
ロクに物もないオンボロアパートへ、用意なく
人を通すのは気が引けたけれど
あまりにもキッド君が真剣な顔をしていたので
拒否する気になれなかった
「そっか、じゃ、じゃあ狭いけど どうぞ」
「…助かる」
テーブルを挟んで向かい合っている間
なにも会話がないので なんとなく空気が重かった
コーヒーを一口すすったキッド君は
思いつめた顔で、ボソリと言葉をこぼす
〜Un codardo innocuo ed angelo
"毒にも薬にもならないノロケ"〜
「…思いきってショートにしてみたい、と
先日が言っていたろう?」
「言ってたね」
たしか、リズさんが進めていたから
その気になってたみたいだったと覚えている
僕もまあ"似合うんじゃないかな"とは
ボンヤリしながら思ったりした気がする
…どんな髪型でも 美人は似合っちゃうだろうけど
カッと目を見開いて彼がテーブルを両手で叩いたので
僕は危うくカップを取り落としそうになった
「頼む!完璧な左右対称になるよう
の髪を切ってやってくれ!!」
「ええっ!?いやそれ僕じゃなくて
お店の人がやることじゃないの?」
「何を言う!どこの馬の骨ともしれん輩に
の髪をいじらせられるか!」
「なら、キッド君が切ってあげるのは?」
「出来ればそうしたいが…リズに止められてな」
そう言えば、前にリズさんのまゆ毛を整えようとして
1ヶ月くらいかけたって話を聞いたような…
どうやったらそうなるのか不明だけど
キッド君の左右対称へのこだわり振りを見たら
納得の行く話&説明だよな
「それに万一オレの不手際での髪を
非左右対称にしてしまったらと思うと…!」
「でも僕は素人だから、やっぱりここは
本職の相手におまかせした方が…」
「何を言う!腕の器用さにおいてオレはお前に
全幅の信頼を寄せているのだぞ!!」
「もったいないお言葉だけど、樹木と人とじゃ
勝手が違うからね!?」
木ならともかく人、しかもカワイイ女の子を
相手に上手く髪を切れる自信はない
どうにかそれを伝えると
ようやく、キッド君は折れてくれた
「そうか…そこまで言うのなら仕方が無い
ではまたの機会に頼むから、腕を磨いておいてくれ」
「え、ええと…うん、まあその時が来ればね」
思わず安うけ合いしちゃったけど
これってなにも問題解決してない気が…
てゆうか僕、一応これでも魔武器なんだけどな
けどバイトに利用しちゃってるから文句言えないし
ま、本人の意思もあるから きっと実現なんて
しないだろう…しない、でほしいと切実に思う
そんなモロモロの言葉やら心を
口に慣れた苦味で流し込んで、口を開く
「相談って、もしかしてその頼みごとだけ?」
「いや、それもあるが…もう一つ
かなり重大なことがある」
フンイキに、思わず身構えてしまったけれど
「最近とみにへの想いが募っているのだが…
非左右対称なオレが告白した所で拒否されるやもしれん
そこでだ!今よりももう少し距離を狭めるべく行動を
起こしたいのだが…画期的な意見を聞きたい」
またもや彼女がらみだったので 再度脱力
「それこそ聞く相手間違えてない!?
そういうのは身近な女友達に聞いた方が」
「既に相談した…が、こちらが
期待していた返答はもらえなかった」
それもそうか、僕程度が思いつくことだったら
大抵だれもが実行してるよな…
ネガティブにおちいりそうなガックリ加減だったので
そうなる前にフォローを試みる
「ほら!そーいうのなら平凡すぎる僕なんかより
音楽が趣味のソウルとか 一緒に住んでる博士とか
ピッタリの相手はいるんじゃないかな?」
「他の事ならいざ知らず、他ならぬの事で
恋敵になりかねん者達に借りは作りたくない!」
これまたキッパリと宣言されてしまった
…信頼されてると喜んでいいやら 歯牙にも
かけられてないと悔しがっていいやら、複雑な気分だ
「…心配ないと思うけど」
だって、肝心の彼女本人が君しか見えてないもの
―コレを言ってやればもう少し早く説得できた、と
この時の自分に 少し後悔している
あたりが薄暗くなり始める頃合まで
一通り語って、スッキリしたのか
「今日は本当にありがとう、それではまた死武専で」
と言ってキッド君はさっさと帰ってしまった
自己完結するだけして、こっちに疲労感と
モヤモヤの種を残して行くなんてタチが悪い
…それでも嫌いにはなれない 友達だから
次の日にのぼった太陽は、僕の気分なんか
おかまいなしにパワーを発散させていて
教室の窓から差しこんだ光が
彼女の腰まであるキレイな黒髪を 映えさせる
「おはよう」
「おはよう 今日も左右対称な姿だね」
「そう?ありがと」
別に意識してるわけじゃないんだけど、自然と
バランスのとれたカッコになってるコトはよくある
おかしなカッコで悪目立ちとか好きじゃないから
それはそれで別に構わないんだけど
このセリフで時折(今もだけど)
キッド君からビミョーな視線を受けるコトに
関してだけは どうにも慣れない
テキトーに相づち打って笑いかけてたら
「ひゃっはぁぁ〜!おい!
信者のクセになぁにの前陣取ってんだ!」
「うぶっ!い、いや別に陣取ったわけじゃ…ぐるじぃ…」
「よっく言うぜ、話しかけてもらって
ニヤニヤしてたくせによぉ?」
悪友兼彼いわく"恋敵"から、いつもどおりにからまれて
「アンタら何やってんのよ…うるさすぎて
が困ってるじゃない」
「そんなこたぁねーだろ!神を超えるBIGな
オレ様のハツラツさはどれほどあっても困らねー!!」
「いや、お前は自重しろよ」
「それよりブラック☆スター 腕を放してあげて
君首が絞まって苦しんでるわ」
周囲が彼らをなだめて、そうしてみんなが騒ぎ出す
「ふふ、みんな今日も仲がいいのね」
「てゆーかいつも通りの騒がしさだよな」
「だよねー!きゃはははは♪」
「まあ人当たりのよさは、のミリョクだけどさ…」
あんまり男に優しくしない方がいいよ、とは
面と向かって言いづらくて
「もう少し、気を付けた方がいいかもよ?」
「えっ、そう?」
キョトンとしたように言う姿へ思わず苦笑い
そんな可愛らしい顔で親しげに話しかけられたり
優しくされたりしたら
…大抵の男は、カン違いしちゃうんだって
気づかないんだろうね
仲間の輪にくわえてもらって
じっと、みんなのコトを見てたから、知ってる
授業の合間も 一緒にゴハンを食べる時も
みんなに囲まれてハツラツと笑う彼女だけど
一番楽しそうに笑うのは
「それならこの間読み終えたばかりだからな
読みたいのなら、今度持ってきてやろう」
「本当!ありがとうキッド」
キッド君の隣でおしゃべりしてる時
悔しくない、って言ったらウソになるけど
普通な僕が 勝てる要素も見こみも
…そもそも戦う気すらもない
だから二人の気持ちが通じ合うコトを素直に願える
「あんだよ、オレ様より本がいーってのか」
「もー…スネないの」
「だって、前から読みたかった本だったから
本当に嬉しくって…すぐ読んで返すからね」
「い、いや…お前が気に入ってくれるのなら
ずっと貸したままでも構わんさ」
けど、ああホント、嫌になるくらい幸せそうで…
「ん?どうかしたか?」
こっちへ目を向けたキッド君から視線を外さず
僕は、言ってやった
「Quando propone a lei?」
瞬間、音が聞こえるんじゃないかってくらい
ハッキリ彼の顔色が変わった
「っ!きき貴様何を言っているんだ!?」
「え?彼が何て言ったのか分かるの!?」
「え、あ、ううっ…」
キッド君は顔を真っ赤にしてあたふたしてる
けれども他のみんなは ポカーンとしてるだけ
…南部訛りまじりの早口な母国語は
こういう時にも便利だ(相手限定で)
ポンポン、と肩を叩いてマカがたずねる
「ねぇ、さっきキッドに何て言ったの?」
「ああ、"Quando propone a lei?"…って言ったの」
眉間にシワを寄せて、小さく首をかしげる
はやっぱり可愛かった
「イタリア語…だよね、意味は何て言うの?」
「キッド君に教えてもらうといいよ」
言うと、彼が強くこっちを睨んでたけど
あんなに真っ赤じゃ迫力にかける
多分 返した僕の笑みは楽しそうで
きっとイジワルな感じに見えただろうケド
…これくらいは、許してくれても構わないだろ?
「おねーちゃん キッド君トマトみたいに真っ赤!」
「そうだな…本当、何言ったんだか」
「おい…オレにだけこっそり教えろよ」
首を横に振って 胸のうちでだけ正解を復唱する
―"彼女へのプロポーズは、いつ?"
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:斑鳩 仇夢様のサイトへ相互記念に
懲りず書いてみた魂喰共演です!
ソウル:短ぇーな、ついでにアイツの当て馬
噛ませ犬って役割はもCOOLじゃねぇぞ
ブラック:信者ばっか目立ちやがって…後でキッチリしめてやらぁ!!
椿:やめてあげて!!
マカ:共演だって言ってるのに…ちなみに
は職人の方?それとも魔武器の方?
狐狗狸:どちらとも決めてないけど、私は
魔武器(くっつく前 前提)で書いてます
リズ:つかさキッド…お前もう告白しちゃえよ?
パティ:態度でバレバレだぞコノヤロー!
キッド:し、しかしだな!完璧な左右対称のに比べ いまだ
不完全すぎるオレでは側に並んで愛を語らう資格など…!
狐狗狸:…それは気にしすぎってヤツじゃ?
残念さの変わらないただ一つの共演夢小説
斑鳩 仇夢様へ届きますよう…!
様 様
読んでいただきありがとうございました!