油断していたというのもある







それなりには気をつけていたし、





大抵は軽いものだったから
一人でも何とかなってた







けど…









「…ごほっ、こほこほっ」







今ひいている風邪は、どうやら性質が悪い







思えば昨日から 少し兆候はあった





けれど 三志郎君と行動している手前
彼を心配させないように振舞っていた





今もその状態に変わりは無い







「大丈夫か正人?」





さっきから不安そうに覗き込む三志郎君に
大丈夫、と答えようとするけれど





「…こほ」







変わりにセキが喉を突いて出たので
首を縦に振って返す







彼にはまだ風邪がうつってないみたいだけど





一応予防のため 距離を取って
歩いてもらっている











〜「半径50cmを」〜











「ゴメンな正人 オレが気付いて
もっとしっかりした場所にしとけば」


「君のせいじゃ、ないよ」







妖逆門を行っている以上は時として
野宿をしなきゃいけないこともある





昨夜のその場所を決めた彼に責任は無い







でも 風邪を悪化したのはおそらく







「…まあ あそこは風通し
少しよかったから冷えたんだと思うよ」


正人っ 何か飲みたいものないか?」







川に落ちた子犬のようにあたふたする
三志郎君が可愛い





こうして心配してもらえるのも


僕のことを好いてくれてる証なんだと
思うと嬉しくて


ついつい意地悪を言ってしまう







…今のは、ちょっと言い過ぎたかな?







「気にしないでいいよ、セキがひどいだけ
ただの風邪だから」


「ダメ!」





思い切り首を振ると、僕を近くの
公園のベンチに座らせて





「オレ、何か探してくるから待ってて!」







三志郎君はどこかへ駆けて行った









彼の姿が視界から消えたその途端、







押さえ込んでた熱が一気に
身体と思考の自由を奪う







「少しからかい過ぎたかな…にしても
我ながら、単純」





ふぅと息をついて、ベンチに身を横たえる







風邪の症状は今までと同じくセキだけ





けれど ここまでヒドイのは
初めてかもしれない









妖逆門に参加する前のように、







ろくに動けずベッドにいたあの頃と
今の状況が 嫌にかぶる









「……三志郎君 どこまで行ったんだろう」





横たわったまま、ぼんやりと呟く







視界に入る範囲に時計は無く





生憎 時間の分かるものを持ってないから
正確な時間は分からないけど





彼がどこかへ行ってから


少なくとも、10分は経ってるはずだ







待っててと言っていたからには
戻ってくると、分かっているはずなのに





"もし 戻ってこなかったら"





なんてバカなことを考えてしまう









「…けほ、ごほっけほ…っ」







立て続けのセキに息苦しさを感じ





目を閉じて、少しでも眠ろうとしてみるけれど







熱で浮かされた意識に浮かぶのは







病室で天井と外を眺めるしかなかった
昔の自分の姿









『外で遊べる子はいいなぁ』







…やめてくれ







『僕も、病気じゃなければ…』







あの頃の事なんて、思い出したくないんだ







『あんなふうに みんなと笑っていられたら』







――やめろ!











ふいに 頭に冷たい感覚が生まれる







その冷気は心地よくて、





グシャグシャの思考が すっと
冴えていく感じがした









目を開けると、目の前には
息を切らした三志郎君がいた







「正人 ごめんな遅くなって…!」







身を起こして額に触れると
そこには何かが貼り付けられていた





「何、コレ…?」


「冷えピタ オレも風邪引いた時に
頭冷やしてもらったら気持ちよかったから」


「ありがとう…これを買いに?」





頷きつつ、三志郎君はコンビニの
袋からペットボトルの飲み物を取り出す





「うん、あとコンビニで飲み物を
買おうとしたら たまたま修と会ってさ」


「…それで?


「よくきく風邪薬を分けてもらったんだ
これ飲めば 少しは楽になると思うから」







言いながら、袋から更にその薬を
手の平に乗せて 僕に見せる









彼の行動に悪気は無い





だけど、いくら僕の為とはいえ
他の男に助けを借りないで欲しい





…まぁそれは治った後でじっくりと
追求するからいいとして







出来る限り笑顔を浮かべ





「ありが…げほげほっ





彼の気持ちに答えようとして、
激しいセキにさえぎられた







「大丈夫か正人っ、やっぱりマスクも
もらっとけばよかった…!」


「いや、薬だけで十…ごほっ!





セキのせいで 言葉がきちんとした
返事にならないのがもどかしい





「ゴメン もう少し待ってて
またあのコンビニで買って―」









動き始める三志郎君の腕に





手を伸ばして掴み、必死に引き止める









「正人…?」







驚いたようにこちらを見返す彼に







「僕の側を、離れないでよ」







僕は 切れ切れに言葉を紡いだ







「風邪…うつしちゃうかも知れないけど
三志郎君に、側にいて欲しいんだ」









ベッドにいた時も 側にいてくれる人は
誰一人としていなくて


一人でいた時には、考えもしなかった







でも今は 彼が側にいないと耐えられない





熱くて、苦しくて…





何より 心細くて







僕の為に何かしてくれるのは嬉しい





でも、君が側にいてくれないのなら
意味が無いんだ









いいよ、正人の風邪なら うつっても」







三志郎君は そう言って





掴んでいた僕の手を、
もう片方の手で そっと握り返す







嬉しさと愛おしさを噛みしめながら
手に込めていた力を抜いた







「……じゃあワガママついでと待たされた
おわびに、薬を飲ませてくれる?」


「お、おう」







飲み物のペットボトルと薬を手の平に
乗せて僕の口元に運ぼうとする彼に







「違うよ







ゆっくり首を振り、僕は自分の唇
指差してから





その指を 相手の唇にそっと置く









三志郎君は顔を赤くして頷くと







もらった薬と飲み物を少し口に含んで







僕の口に流し込んだ








――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:淡海知博様、本当お待たせしました
そして遅ればせながら改装お疲れ様です


三志郎:遅すぎだよな 三ヶ月以上は…


正人:しかも公式設定無視気味だしね
さっさと書いてあげればよかったのに


狐狗狸:ぐっはぁ!(吐血)いや…だって
リクエストがあるかもしれんと思って


正人:でも結局こうして勝手に書いてるし
結果は一緒でしょ?文のしょぼさもね


狐狗狸:ごはぁ(再び吐血/汚)


三志郎:正人、その辺で手加減してやろうぜ…


正人:ダメだよ三志郎君 このバカは
甘やかすとつけあがるからね


狐狗狸:…正人君、本当に私より年下?


正人:年齢上はね でも中身は
はるかに大人だと思うけど?


三志郎:……(何も言えない)


狐狗狸:恐ろしい子……淡海知博様
こんな駄文ですが 捧げさせていただきます

読んでくださり、ありがとうございます