生徒どもがバラバラと門を潜り
家に塾にゲーセンと、好きに足を向ける頃合





校舎の内も外も人影が疎らになった辺りで


気が向いて、珍しく正門を潜りぬけ
特に当ても無く横道へ逸れてみりゃ





全体的に古臭ぇ駄菓子屋の軒先で

見覚えのある面と制服の女が二人
それはそれは楽しげに話なんぞしていて





面白そうだと近寄ると、気付いたらしく
奴らは一斉に顔を上げた





「風紀委員が寄り道してていいのかぁ?」


「うっせぇな、たまに真面目に
授業受けたからっていい気になんなバカ杉」


機嫌悪げに眉をしかめる金髪は 


元は幼馴染だった間柄で、相方の留学生と
つるんで風紀委員の数少ねぇ紅点を張る





「晋助殿は、今日はそろばん塾に
行く日ではないのか?」


無表情で首を傾げる黒髪は 


兄貴と共に転入してきた留学生で
最近、ごくたまに話をすることがある仲だ







「生憎今日は休みなんだよ…それより
お前ら、ここで何やってんだ?





微かに間を含んで、答えが返る





「しばし連れ出された」


「「省くなよ」」





期せずにオレらのセリフがかぶった





はぁ…と溜息を一つ付き 三つ編み頭を
ぐしぐし撫でつつ

代わりにコイツが返答を返す





「俺が誘ったんだよ…彼女をな」











「寄り道は学生にとって一種のロマン」











…聞けば相方が用事で遅れるため
手持ち無沙汰でぶらついていた際


同じく兄貴を待って手持ち無沙汰な
この女を見かけたらしく





「どーせだからお互い待ち人の用事が
終わるまでに時間を潰そうって事で」


殿に"駄菓子屋体験"という
催しを経験させてもらっているのだ」





学校からほど近ぇここまで引っ張られた





…とまぁ、そんな状況







「単なる暇つぶしにしちゃ、そいつを
ダシに連れてく辺り狡猾じゃねぇか」


失礼な、留学生のこの子にこの高校の
地理と伝統を学ばせてるだけだぜ?」





そのセリフは大袈裟ってほどでもない





通学路からほど近ぇこの店に屯する
見慣れた学ランやセーラーが群れる様や

奴らが注意を受ける光景なんかも知ってるが…





「ともかく風紀の連中やヅラや
銀八にバレたらうるせぇだろうなぁ…くく」


残念 風紀委員は他の仕事でいねーし
ヅラはもう帰ったし、銀八はここの常連だ」


ねー?おばちゃん と背後へ声をかけりゃ


パンチパーマの駄菓子屋のババァが
まぁねぇ、と笑いながら答える





「そうか…繁盛しているのだなこの店は」


「空気読めねぇ奴だなテメェは相変わらずよぉ
てか、留学生が多すぎるだろうちの高校」


「そんなもん空知と管理人どもに言えよ
あとついでに大崎にも」


「二人とも よく分からんが大変だな」





他人事みてぇな面してんなぁオイ


…ま、"知らぬが花"って奴か?
説明すんのも面倒だしなコイツは





「で テメェら何話してたんだ?」


「コレを見たこと無かったらしくてさ
実演と実食で盛り上がってたトコだ」





言いつつ脇に置かれていたソレが
取り上げられて眼前へ晒される





白いトレーの容器の二つあるくぼみを
占領する細けぇアメと、粘つく紫



ああ…コイツか





「ずいぶん懐かしいもん食ってんな」


だろー?俺も久々に買って作ったんだ
けどやっぱこれ楽しいよな」


「おお、お主も知っておったか」


「CMとか時々やってっからな」





昔 何度か作って食ったことがあった





水や粉を次々混ぜ込むうちに色と粘度が
目の前で変わるのを始めて見た時にゃ


どうなってっかガキの時分ながら
つくづぐ不思議に思ったもんだ





…設定上 今はオレもガキだが







「ふぅん、今はぶどう味か…」


特に意味も無く思ったままを呟く







誰に聞かすでもねぇこのセリフを、しかし
耳聡く聞きつけたらしい





一口どうだ?晋助殿」





がサジに盛った菓子をオレへと差し出す





「いらねぇよ、そんなガキくせぇもん」


「何だいらぬのか?懐かしげな目だった故
てっきり気になったのかと思ったが」


「照れてんだよコイツきっと、いーから
気にせず口ん中突っ込んじゃえ」





へらへらと笑いながらが腕を
引っつかんで 身を引くオレを阻止してくる





「テメッ…余計なことしてんじゃねぇよ」


あんだよ?せっかくの可愛い子ちゃん
アーンド俺の好意をムゲにするつもりか?」





面は笑っちゃいるが、目は割りとマジだ


まったく面倒クセェ女だなコイツ





「ちっ…食えばいいんだろ?」


舌打ちを一つしてサジを奪い

口の中にぱくりと含めば


安い紫色をした菓子は、ツンと刺すような
変な甘さと刺激を伴って舌に広がる





それにちっと眉をしかめながらも


サジから粘る塊を口に移し
ひと噛みふた噛み程度で飲み下す





「…甘ぇ」


当たり前だろ?駄菓子だし
食い終わったなら返せよ、俺らまだ食うし」





逆に引っ手繰られたサジを何事も無く使い





「この妙な菓子は、白い粉なのに
色や質が変わるのが面白いな」


「だろ?それに色んな味が出てんだぜ
俺のオススメはソーダかな」





なんぞと会話を進めつつ、平然と
紫の塊にアメをつけて平らげる女二人







ちろり、と時折覗く舌やぺろりと
口の端を舐める仕草が目に留まり


無防備だよなこいつら…と目を眇める





「ちょっと、何ガン見してんのさ」


あん?ヤニが欲しいだけだ」


「まさか風紀委員の前で吸おうだなんて
大それたことぁ考えてねぇよな?」


校外で、しかも堂々と寄り道喰ってる
お前が言えた事かぁ?」







軽く睨みあってる最中に肩を叩かれる





「晋助殿、煙が欲しいならコレを使うとよかろう」





無表情のまま奴が差し出すのは、おどろおどろしい
化けモンが描かれた何枚かのシートの束





「あーそれいいね 指を擦ればいつでも
煙が出てくるからなー」


ざけんな、んなまがいモンで誰が喜ぶか」







幽霊のように陰気な女が「ひとつ三十円だよ」
淡々と呟くが 買う気は無ぇぞ







「むぅ…害も無く楽しいと思うのだが」


「まぁ不良で名の通ったこいつが駄菓子屋の
オモチャで遊ぶなんざ、笑い話だな」





未練がましくシートを見つめる
三つ編み頭をポンポン叩いて笑うこの女


…本当 昔と変わらずいい性格してやがるぜ







軽く息をついてニヤケ面を見つめていると





「銀高の子は仲がいいねぇ、両手に花の
彼氏はどっちが本命だぃ?」





不意にかけられた店のババァの問いかけに





それまで余裕綽々だった笑みに、さっと
焦りと朱が差し込んだ


違っ、オバちゃん!こいつは彼氏じゃねーし
そもそもこいつとなんかそんな仲良くもっ」


「…オィオィ今更照れんなよ なぁ?」


「うぬ 花はここに見当たらぬが
仲がよいのはその通りだ店主殿」


「うあぁぁぁ!空気読めてないこの子を
味方につけるなんて卑怯だぞバカ杉!」






何とでも言え、と思いつつ


不利に陥るヤクザな風紀委員を笑えば
じっと見上げる 緑色の視線が一つ





「ずいぶんと楽しそうだな、お主」


あんだ?妬いてんのかぁ」


「おかしな事を申すな 火の気なぞ何処にある」


「煙のねぇ所に火は立たねぇって言うだろ?
なー、そう思わねぇか


何でそこで俺に振るんだ!そもそも―」





一際の騒がしさを吹っ切ろうと言いさした
一言が、やる気のねぇチャイムに遮られ





いかぬ!兄上が戻っているやも…
校内に戻らねば!ご免!!」


言うや否や唐突に駆け出していく





「あっちょ、待ちなって…オイ晋助
悪ぃけどこれ食っといて!


一方的に告げて白い容器を押し付け
もその後を追って走り出す







…取り残されたオレの手には





当然 さっきまでアイツら二人が
パクついていた駄菓子の残りがあり

口の中に、不快な甘さが甦ってきた


余計にもさも美味そうに喰っていた
奴らの面も一緒に








容器にへばりつく 約ふたサジ分の紫と
付け合せに敷き詰められたアメの残骸を


喰う気にも…何故か、捨てる気にもなれず





文字通り持て余したまま
空を仰いで 息をつく





「…青春だねぇ」





目を細めて笑う、店のババアの面は


稀に顔を合わせる理事のババアと
嫌になるぐれぇ似ていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:三度目の共演リクなので、杉様と
まさかの3Z出演を果させていただきました!


高杉:菓子はともかくとして シートが何か
分かる奴がいんのかぁ?


狐狗狸:…いないかも(マイナー過ぎて)


高杉:相方が出れねぇで拗ねてたぜ…それと
ずいぶんデケェ嘘をこさえたもんだなぁ


狐狗狸:前半に関しては絡みの難しさにより
カットで…ゴメンなさい(謝)
後半は本編設定から想像を膨らませました


高杉:あの駄菓子屋もその一つかぁ?


狐狗狸:ええ…つい思いついたので




バレバレですが駄菓子屋二人は仙望郷コンビです
理事長とは長い付き合いと勝手に妄想


遅い&捏造しまくりで失礼しました〜
兇様へと捧げさせていただきます


様 
読んでいただきありがとうございました!