江戸の町でも、歓楽街を離れた路地は
夜の闇に包まれる
人気も音もない路地を 俺達は駆け抜ける
が、行く手を塞ぐように追っ手が次々と現れる
「ちっ…キリが無いな!」
閃光弾で目をくらませ その隙に相手を
気絶させて逃げ出す
銃で応戦するのが早いのだが
なるべくなら死傷者を出さずに作戦を遂行したい
「殿、こっちだ」
少し先を進んでいた彼女が、潜んでいた
追っ手を昏倒させ 先を促す
右へ左へ路地を走り、振り切ろうとするも
予想外に追っ手はしつこく 俺達は
幅の広い路地裏で囲まれてしまった
「くっくっく もう逃げられんぞネズミども
さぁアレを両方とも大人しく返してもらおうか」
リーダーらしき男が、こちらを見やる
狙いは 俺の盗み出したデータディスクと
彼女の入手したとある写真
「断る、こちらも任務なのでね」
「同じく」
間髪いれずに答えれば 男は片手を上げ
「そうか…ならば、ここで死んでもらおう」
振り下ろしたそれを合図に、囲んでいた者達が
一斉にこちらへと襲いかかった
「…どうやらこうなった以上は
戦うしかなさそうだな!」
「無論だ そちらは任せたぞ、殿!」
俺達は 互いに武器を手に立ち向かう
「妙な縁ほど出会いが近い」
今回の仕事で鉢合わせし 現在、隣で
戦っている彼女 と初めて会ったのは、
生物兵器"餓鬼椿"の件で地下組織に
乗り込んだ時だった
その時の任務は
江戸の脅威となる"餓鬼椿"の破壊を
中心とした工作活動だ
大半の試作品の破壊や、情報収集は
上手く行っていたのだが
その内の一匹を取り逃がしてしまい
騒がしくなる基地内で 組織の連中から
逃げ回りつつソイツを追う最中
とっさに近くのダンボールの影に身を潜めて
奴らをやり過ごした後
ふと、視線を感じてダンボールの方を見ると
緑色の目が 隙間から覗いていた
「怖ぁぁぁっ!?」
叫ぶ間にも彼女はダンボールから這い出してくる
そのビジュアルはB級のホラームービーと
全く変わりなかった
「なっ…何者だ アンタ!」
「人に名を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀だ」
「いや名前を聞いてんじゃなくて!!」
しかしこっちの話は全く聞かずに
「何であれ、私はお主に構うヒマは無い」
とだけ言って は表情を変えず
スタスタと先に進もうとした
彼女の素性を知らなかったからもあるが、
そのマイペースさに 少々腹が立って
「こちらも任務で来ている…アンタの素性と
奴らの関係を吐いてもらうぞ!」
尋問をするため、ナイフを取り出し
CQCで背中から組み付いた
瞬間 間を置かずに彼女は後ろ手で
俺の両肩を掴み
あろうことかそこを支点に逆上がりの要領で
蹴りを顔面に繰り出してきた
「ぐあぁっ!?」
予想外の攻撃に、油断した一瞬
は蹴りの勢いを利用して距離を取り
組み立てた槍の穂先を突き出してきた
突きをナイフで流そうと構えるが
寸前で、彼女は槍をくるりと反転させて
柄の部分で掬うように俺のアゴを突いた
従来の槍の型に無いその動きに反応が遅れ
「ぐがっ!」
まともに打突を喰らい、床に倒れる
「何者か知らぬが、お主に構うヒマなどない
まだ邪魔をするなら…命は無いと思え」
意識を失う寸前に見たその表情は
感情の全くこもらぬ 機械そのものの冷たさだった
その後、目を覚ますと 基地は崩壊を始めていて
取り逃がした"餓鬼椿"の消滅だけ確認できないまま
その場から早々に撤退し…
後に銀さんと一緒にいたを見て
往来の真ん中にも関わらず叫んだことを
克明に覚えている
それから、彼女とは仕事柄か鉢合わせることも多く
色々と本人に関する情報も集めてはみた
年の離れた兄と二人で暮らし
今はもう絶えたとされる槍術 「有守流」の使い手
父親は攘夷戦争に参加し、晒し首に
少し前に地方で起きた天人の富豪
「田足家」の事件に関係しており
そして現在 裏稼業では二つ名で呼ばれ
江戸の町を暗躍している
…と、ざっとこれだけを聞くと 悲しげな過去を
背負う気丈な女性に見えることだろう
事実俺も 初めの頃はあの人に似てるとすら思った
……が しかし、
「早く帰らねば兄上を迎えに行けぬではないか!
邪魔立てするなぁぁぁ!!」
この溢れんばかりのブラコンぶりが
そんな甘っちょろいイメージを
完膚なきまでにぶっ壊した
新八君もシスコンだと思っていたが
彼とは比べ物に…いや、比べたら彼に失礼だ
「うわっ何だこいつの動き!?」
「ぐあぁっ!」
型にはまらぬ独特な攻撃方法は
敵にしてみないとその恐ろしさが分からない
相手はその動きに惑わされ、大半は
槍の殴打を食らって動けなくなる
「相変わらず変幻自在な動きだ、恐らく
正面から戦っても苦戦しそうだな」
「テメェの心配した方がいいぜ兄ちゃん!」
「忠告してもらって悪いが…
こちらも戦闘に関しちゃプロなんでね!」
刀を大上段に振りかぶった大雑把な動きを
上体を捻ってかわし、延髄に強めの手刀を叩き込む
「ぐおっ…!」
呻き声と共に その場に男は倒れこむ
…まあ、人数がいても所詮は素人
CQCを使うまでもなく 体術でさばける
だが それも人数が想定の範囲でこそ言える事
「くっ…なんだってこんなに敵が多いんだ…」
次々と現れる敵に、俺は舌打ちと共に毒づく
「殿 これでは埒が明かぬな」
さしものも
表情に少し疲労の色を浮かべている
「ふはははは、フクロにしてしまぇぇ!」
嘲笑が響き渡る中 敵が数をなして迫り―
「なんだ貴様…ぎゃぁぁ!」
「ちょっ止まr」
後から来た集団の、後ろの人間が
次々と宙を舞って倒れる
「な、何だ 何が起こっているお前達!?」
同時に聞こえるバイクに似た廃棄音
…誰かが、奴らを跳ねている?
どんなワケであれ そんな非常識な人間は
知り合いに一人しかいない
どんどん跳ね飛ばされる奴らがこちらに近づき
対峙する男を投げ飛ばして、進路上から
離れた位置に下がってみれば
思った通り奴らを跳ねながら進むスクーターに
"銀"の字のヘルメットを被った見慣れた姿が
彼女も気付いたらしく、目の前の相手を
倒してから そちらに顔を向けて
「銀時!何故ここ」
言葉半ばに、はスクーターと衝突し
宙を少し舞って顔面から地面に着地した
「!?ちょ、銀さんんんん!
ブレーキぐらい踏めよアンタ!!」
そこでようやくスクーターを止め
降りない状態のまま 銀さんは返す
「るせーよ、スクーターだって
電車だってよぉ走り出したら止まれねぇんだよ」
「だからって知り合いを
顔色一つ変えずに跳ねるか!?」
「どっちかっつーとアイツがオレの
車線上にいたんだろーがぁ!
つかこいつらと一体どんな状きょ」
文句を募る銀さんの表情が 固まった
彼の視線を追って、俺も足元へ注目する
ブーツの足首を 血のついた手が
しっかりと掴んでいた
「ぎ…銀時、ここで会ったのも何かの縁
私達に協力してくれぬか?」
そこからぬっと頭から血を流している
の顔が現れ
「「ぎぃやあぁぁぁぁ!!」」
俺達二人は大音声を張り上げてしまった
「二人とも 何故そんな大声で叫ぶ」
「叫ぶわぁぁ!テメェワザとやってんだろ!」
「ワザとではない 気を取り戻して何とか這って
動いてたらお主の足があっただけゆえ」
「普通はそんな素早い動きできないから!
跳ねられたら普通死ぬから!!」
「失礼だな殿、まだ死んではおらんぞ
三途には少々行ったのだが」
「それでも十分怖ぇよアンタ!
頼むから止血し「我らを無視するとは
ずいぶん見くびられたもんだ!」
俺の言葉を遮ったのは さっきまで
襲いかかってた追っ手のリーダー格
…そういえば、俺達が大分数を減らしたとはいえ
まだ敵が残っていたんだった
あまりに突拍子もない展開だったから忘れていた
「貴様 こいつらの仲間か!?」
指差され、銀さんはパタパタ手を振り
「え、オレ?いやいやいや オレは単に
買い物帰りの一般人ですって
こんな人達とは何にも関係してませーん」
と、持っていた袋を掲げて言うが
周囲の視線は冷めている
「銀さん…今さらそんな台詞は通らんだろ
思いっきり奴らを跳ねてんだし」
「だからそれはこいつらが悪いんであって
オレはただ近道でここ通っただけなんだって
からもそう言ってくんねぇ?」
そこに が彼の袖を掴んで言った
「銀時、私達は大事な使命を負っている
一時的でいいから協力願えぬか」
「頼むから空気読んでちゃぁぁん!
オレにもとっとと帰ってジャンプ読むっつー
大事な使命があんだよ!」
「そこをなんとか」
「無理だから!てゆうか血だらけの手で
縋りつくなよ怖ぇえよ!」
にべも無く突き放され、が
よろりとよろけて俺にぶつかる
「あ、すまぬ殿」
「いや…大丈夫か?」
コクリと頷き、彼女は再び銀さんへと近寄る
……あれ?今なんかされたような…?
「銀時、どうしても助力願えぬか」
縋りついて頼むの手が 微かに動く
…ん?今 銀さんの持ってた袋に何か入れたぞ
一瞬だけ、写真のようなものが見えたような…
「しつけぇよ、金もらってるワケじゃねぇのに
オメーらの仕事に巻き込むな!!」
が、本人は気付かず再び彼女を突き飛ばし
しかし 表情を変えぬまま体勢を整え
三度じりじりと近寄る
「そこをなんとか」
「オィィ!この子ぜんっぜん
話聞いてないんですけどォォ!!
!このゾンビ止めて頼むからぁ!」
「 もうその辺にしておけ」
肩に手を置き、言うと彼女はそこで足を止めた
悔しいが 銀さんの言うことも最もだ
「本当にあんたら関係ないのか?」
「だーからオレはパンパースの続きが気になって
外出ただけだから、じゃ さいなら〜」
銀さんはそう言いながらエンジンをかけて、
さっさとその場を去っていった
男は、しばらく唖然としていたが
「くくく、中々懸命な男のようだな…さあ
大人しくディスクと写真を渡せ」
落ち着きを取り戻したらしく、
合図を送り 残っていた兵達で俺達を包囲した
さっきのゴダゴタで数は少なくなったものの
疲労してきた俺と満身創痍のじゃ
CQCでも全て蹴散らすのは難しいだろう
…ここはディスクをちらつかせて攻撃を制限し
包囲網を突破するしかない
「お前らが欲しいのはこのディスクの
…あ、あれ?」
ディスクをしまっていたはずの場所を探るが
品物は影も形もなくなってしまっていた
「ない…ディスクがない!」
そこで俺は、ある可能性に気付いて彼女を見やる
ぶつかった時に感じた違和感
そして、銀さんの手荷物の袋に入れたあの動き―
「まさか !」
首を縦に振り、彼女はスクーターが
走っていった方向を指差す
「残念だったな、ディスクと写真は
先程の男に持たせたぞ」
「な…この期に及んで白々しい嘘を!」
「そ、そういえばコイツ 男の荷物に
写真らしきものを入れてました!」
「なんだと…!?くそっ、あの男を追え!!」
男を先頭に、残っていた追っ手どもが
次々と銀さんを追いかけていった
「一体何考えてるんだ!とにかく奴らより
先に銀さんに会わなきゃ!!」
勢い込んで走った途端、後ろから
思い切り腕を引っ張られ 少しよろけた
「殿、そっちではない こっちだ」
「手を離してくれ!あのディスクがないと」
「いいから 今は少しでも奴らから
離れる方が先決だ」
言われるまま、奴らとは反対方向へと引きずられる
少し遠くまで来た所で 俺は彼女の口から
あの動きがハッタリだったと聞かされた
「すまなかったな殿、ディスクはここにある」
言って 懐から取り出したのは
俺が盗み出したディスクそのものだった
「本当だ…しかし ならあの写真は」
「あれは、別の写真を忍ばせたのだ」
「別の写真?」
「…兄上から賜った兄上のブロマイドだ
むろん後ほど返してもらうつもりだが」
どんだけブラコンなんだアンタはぁぁ!
てゆうか、あの時銀さんに寄ってたのは
この展開を作り出すためだったのか…!?
「本当は品を預けるつもりだったが
断られた以上、致し方ない
少し心苦しいが、銀時には囮として
時間を稼いでもらうとしよう」
眉一つ動かさず淡々と言い切ったその姿は
何故か沖田君より黒く見えた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:退助様リクの銀魂短編 ここにお披露目
銀時:勝手に囮にすんなぁぁ!(轢き)
狐狗狸:ぎゃあぁ!こんなトコまでスクーターで
乱入しないで下さいよ!!
銀時:うるせぇよ お披露目だかおっぴろげだか
知らねぇけど、何この有り得ねぇ展開!
狐狗狸:いやだって二人が仕事中のとこ
通りかかったのは銀さんじゃ…
そういやあの後 大丈夫でした?
銀時:あん?あーあの後か…何でかアイツら
俺のジャンプやたら狙ってきててよぉ
なんやかんやあって全員ボコった
狐狗狸:…うーわ、さすが銀さん
銀時:で、ジャンプ読んでたら 袋から
の兄ちゃんの写真が出てきてよぉ
狐狗狸:あー…気付いちゃったんだ(苦笑)
銀時:次の日に速効で問い詰めたら
あっさり吐いたんで、やってきたに
正座させてそっから小一時間説教コース
狐狗狸:どこのチンピラヒーローですか
銀時:つーかあの時にもの奴
ちゃっかりいやがったのな
狐狗狸:ああ、その設定と共闘が
今回のリクでしたから
銀時:身もフタもねぇなオィ!
時間的には餓鬼椿篇が終わって紅桜篇が
始まるまでの間頃だと思います
展開が尻切れトンボでスイマセンでした
様 様
読んでいただきありがとうございました!