道すがら、黒い猫が側を横切る





うぉっ!?…ビックリした、猫か」


「こっちのが驚いたわ 高々猫一匹に
ビビッてんじゃねーよ」


「いやまぁ、オレら仮にも追われてる身だし
…ちっと過敏反応しちまっただけだよ」





バツが悪そうに言い訳めいた事を呟く子分へ





「何だよ?ズイブンと肝が小せぇなぁ?」


からかうように笑えば、すかさず拳が飛んできた





小さいっつーなグリリン!」


うぉっと、ったく短気だなお前
あとオレ様はグリードだっつの」





ヘラリと笑えば ヤブ睨みしていた金目が

やがて諦めたように逸らされた








〜Gare love〜








それにしてもよ、とオレは先程立ち去った
猫のシルエットを思い浮かべながら呟く





"黒猫は不吉の象徴"っつーがありゃ一体
誰が言い出した事なんだろうな?」


「知るかよ…それにんなもん、唯の迷信だろ」


「どうかな?ありえない、なんてことは」


ありえない…か?だとしても猫一匹で
傾く程度の運なんざ持ち合わせちゃいねぇ」





月と星明りだけの、薄暗い路地でさえ


隣に並ぶ相手のツラが 不敵に笑ってるの
割合はっきりと見て取れ


釣られてオレもクククと笑った





「だろうな、追われてる身にも関わらず
夜な夜な鍛錬に出るっつー無茶を
やらかすぐれぇには肝が太いからなお前」


「…ワザワザそれに付き合ってくれる
神経図太いボスがいて助かるよオレは」


「ガッハッハ、違ぇねぇ!」


『実際付き合ったのハ オレだけどナ』


まーそう言うなっつの同居人よ







リゼンブールとかいう田舎村は本気で
何もなく、隠れるにはやや不便だったが





中央では奴らの目がどこに光ってるか
分からない上に


これからに備えて、こいつの機械鎧の
手入れなども万全に行う必要がある


…何よりこいつの弟とやらも

こいつとの合流を目指しているらしい





ってワケでオレと、手下その一のエドワード

それと合成獣人間のダリウスとハインケルで


奴の馴染みの機械鎧技師宅とやらの
地下に匿ってもらう事にしたわけだが





いざと言う時の鍛錬はやっとくに
越したことがない…とか何とか言い出すから


人気の無い郊外までご同行して相手を
務めてやって 現在その帰りってわけだ







『にしてもエド、手加減なくて参るヨ』


「仕方ねぇだろ コイツそういう
器用な真似は出来ねぇみてぇだからな」


中で嘆息するリンへ同意しつつも指差せば





何だよ?アレでも手合わせとしちゃ
軽く流してる方なんだよ」





何となく言葉の意図は察したらしい相手が

片眉を跳ね上げつつ返してくる





「そういう割にゃ、遠慮なくツラだの
腹に狙って一発入れてるよな」


「きっちり炭素でガードしておいてリンと
連携で蹴りくれてるお前に今更いるか?ソレ」


まったく、口の減らねぇガキンチョだ







もはや見慣れた家の勝手口へと進み





石垣の上に乗っていた猫が 不意に起きだし
こちらへ激しく威嚇してきた







『お前、本気で嫌われてるナ』





分かりきった事を溜息交じりで呟くリンを
敢えて無視して、隣のツレに問いかける





「この辺りは猫が多いのか?」


「特別多いって程でもねぇけど…アルが
ちょくちょく餌付けしてたからなー」


『そういやオレ、行き倒れてた所を
アルフォンスに拾われたんだっタ』


……そりゃまた面倒見のいい弟君





一歩だけ、猫に向かって踏み出せば


毛を激しく逆立てていたソイツは

跳ねるようにそこから逃げていった







「…なぁグリード、お前ら人造人間って
動物からエラく嫌われてんのな」


「ああ、お陰でここん家の犬にさんざっぱら
吠えられていい迷惑だぜ」





動物は特有の勘とやらが鋭いらしく


人造人間のオレらが近づけば、相手は

牙をむき出すか或いは尻尾を巻いて逃げる





決して懐きはしないと分かっているから


無理に、去るモンは追わねぇ事にしているが


とはいえ…時として不可抗力ってモンはある





『それはオレのことを指してるのカ?』


よくわかってんじゃねーか 皇子サマ





「デンいじめたら承知しねーからな?」


急にジロリ、と金色の目が見上げてくるのは


あの発言以降オレ様が黙っていたからだろう





そういう趣味もねぇよ どっちかっつーと
動物は好きな方だ…特に猫とかな?」





ヘラリと笑ってもあちらさんは仏頂面のまま





「何だよ?お前ひょっとして猫嫌いか?」


「嫌い、とまでは…ただ正直そんなにはな
アルは大好きなんだけどよ」





妙に引っかかる言い方に、先を促すが





「別に可愛くないとかそういうアレじゃねぇが

何ていうかこう、盲目的には好きになれない
っつーか…言葉にしにくいなぁ」





どうにも歯に物が挟まったような
言葉しか出てこねぇ…





『エドらしくもない態度だナ』


お前さんもそう思うかリン、オレもだ





「猫のどこが気に入らない?
自由気ままで、ワガママな所か?」


「まあ そうかな…」


『なんダ、同族嫌悪って奴カ』


それ聞こえてたら、多分怒るぞ?この豆





「…今二人して失礼な事考えたろ?」


「気のせいだろ、でそこが気に入らない
理由は?あんなら聞いてやるよ」


誤魔化しついでに問いを重ねれば

こいつは 少し寂しげに目を眇めた





「その自由な気質は憧れるけど、勝手に
いなくなる部分は正直好きになれない」


「猫には猫の都合があんだろ?
飼い猫なら 腹が減りゃ戻ってくるぜ」


「…戻ってくればいいけど 死ぬ場所を
探しに消えられたままだと寂しいだろ?」





ぽつりと呟いた一言は、どこか心に
引っかかる重みを持っていた







なるほど…好きな相手が知らないうちに
いなくなるのが怖い
ってワケか





デタラメ人間ながらその気持ち
分からないわけじゃねぇけどよ…





「ったくお子ちゃまな子分だな」





少し息をつき、オレは金色の頭に手を乗せ
力を込めて撫ぜてやる


な、何すんだよグリード!
縮んだらどーすんだよ止めろっての!」





抗議も抵抗も無視して 笑いながら

言葉の続きを聞かせてやった





「そこが可愛いんじゃねぇか」





そのワガママ気ままで テメェを表すのが
下手くそなトコまで含めて、な








面白いくらい動きがピタリと止まり


きょとんとこっちを見つめたエドワードが





ああそうかよ そいつぁよかったな」


やや上目遣いに、呆れ気味に軽く睨んで

そのまま勝手口を潜って消える







その背を見送りつつクツクツと笑ってやれば


同居人が憮然としたツラで抗議してくる





『おいグリード…あんまりオレの身体
勝手なことしてんじゃなイ』





何だよ、構われなくて拗ねてんのか?


心配すんな、オレはテメェの事も
案外気に入ってんだぜ?」


『何の話ダ…それより腹が減っタ』


「そんなに食ってばかりいると、今に
グラトニーみたくなるぜ?」





束の間の愉快さを噛み締めながら

オレも勝手口の扉を開いた







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:「ネコ」でシリアスを書いて欲しいと
烏喰 鴉呪(ウジキ アズ)様からリク承りました


エド:で、何だって21巻の辺りで書いた


狐狗狸:CPの指定が特に無いんで
ついでにグリエドに挑戦しようかと


グリード:別に手合わせならハインケルでも
構わなかったんじゃねぇの?付き添い


狐狗狸:人造人間レーダーの性能の高さと
目立ち難さと、当人の気まぐれで選ばれまし


リン:オレ探知機扱イ?ちょっとヒドイヨ


狐狗狸:あ…ゴメンねリン




何だかんだいって動物割と好き&人の話を
しっかり聞くグリードさんが好き


リクに添って…ないかもスイマセン!
駄文ながら烏喰 鴉呪様へ捧げます!